2019年07月16日 (火)整形渡韓 その背景は?


※2019年3月4日にNHK News Up に掲載されました。

4月を前にしたこの時期、整形手術を受けるために1人で韓国に行く若い女性が少なからずいるそうです。現地で一緒に過ごそうと同じ時期に渡韓する仲間をSNSで募るケースも。その実態は? トラブルはないのか? 取材しました。

ネットワーク報道部記者 木下隆児 ・松井晋太郎 ・高橋大地
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<続々 仲間募集>
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「初海外が整形で不安すぎてアカウント作りました。3/15-23で渡韓します。お茶やご飯行けたら嬉しいです」

「2月下旬韓国滞在します。鼻の手術で顔面オバケの可能性大ですがそれでも平気だよって方はお気軽にお声掛け下さい」

「3月12-21で渡韓します。初渡韓・初1人海外なので心細いです。ご飯行ける方、DTでお散歩できる方ぜひーー!!」
ツイッターには、このような投稿が相次いでいます。ちなみにDTとは手術のあとの腫れがひくまでの期間・ダウンタイムを意味するそうです。整形手術を受けるために韓国に行く若い女性たちが、事前に情報を交換したり現地で一緒に過ごしたりする仲間を探しているのです。

<19歳 初海外で整形手術>

その1人に話を聞きました。ことし4月に大学入学を控える19歳の女性です。3月中旬に韓国に渡り、鼻を高くするほか、顔の輪郭整形や体の脂肪を吸引する手術を予定していると言います。この時期にしたのは、大学入学を前にこれまでと違う自分になりたいという思いから。
「初めての海外で、ことばも分からないので、現地で食事をしたり相談できる仲間がいたら少しは不安もなくなるかと思って」

<なぜ韓国?>
日本で手術を受けることは考えなかったのでしょうか?
「韓国では19歳が成人とみなされ親の同意がいらないのと、値段が安いのが魅力です」
女性は、今回の美容整形の費用におよそ100万円を見込んでいますが、渡航費や滞在費を含めても日本より10万円から20万円は、安いということです。韓国語は話せませんが、現地に拠点のある日本の仲介業者の仲介で通訳をつけてもらう予定です。
「韓国はおろか飛行機にも乗ったことはありませんが大学の入学を前に今は新しい顔になれるという楽しみの方が強いです」

<日本の専門家は>
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日本美容外科学会の広報委員長で医師の青木律さん
こうした現状を日本の専門家はどう見るのか。日本美容外科学会(JSAPS)の広報委員長を務める医師の青木律さんはまず、「手軽さ故に安全性がないがしろにされることもあります」と指摘します。
「海外の医師が最後まで自分の手術の責任を持たず、抜糸は日本国内でとなると、どういう手術が行われたのか情報がないので、抜糸をして傷口が広がってしまうケースのほか、ことばの問題で微妙なニュアンスが伝わらず手術後に『こんなはずではなかった』というそごが出てくる可能性もある」
また、20歳に満たない若い人が手術を受けようとしていることについて次のように話しています。
「そもそも整形手術は医療行為になるので医師と患者、双方の身を守るために成人、未成年にかかわらず基本的には文書で同意を確認します。日本でも韓国でも同意書を交わさずに医療行為をする医師はいないと思います。また、未成年の場合日本では親の同意が必要になります。これはあごの骨を削るなどいわば後戻りできない手術で重要な判断をするには未成年は未熟だと考えているからです。韓国は成人年齢が19歳と考えられているので今回のケースの場合親の同意は要らず自分で判断できるとなっているかもしれません」

<情報収集の手段>
もう1人の女性からも話を聞くことができました。

モデルをしている20歳の女性です。彼女は、2月に一度渡韓して実際にクリニックでカウンセリングを受け帰国。3月に再び現地に行って顔の輪郭を整形する手術を受ける予定です。整形アカウントは、数ある情報収集の手段の一つだと言います。
「整形アカウントを作ったきっかけは、単純に情報を得るためです。いくら手軽に手術を受けられるとはいえリスクはあります。私はツイッターやアプリ、説明会、気になったクリニックで実際に整形手術を受けた方とお会いして慎重に決めています」
また、韓国で手術を受けることに特別な不安はないと言います。
「以前は、勝手に海外の整形は危険という考えを持っていました。ただ、説明会に行ったりSNSを通じて海外で整形手術を受けた方の話を聞いたりして今までの考えがガラッと変わりました。最先端の技術で施術を受けたいと考えたので韓国に決めました」

<無料カウンセリングに美容整形ツアー!>
ネットを検索してみると、韓国で美容整形を行っている病院が、この時期にあわせて日本で無料カウンセリングを開催していたり、韓国の会社が「美容整形ツアー」を企画していたりしていることがわかりました。

取材に応じたのはソウル市内にある会社。美容整形を行う韓国の病院と日本人を仲介する「美容整形ツアー」を企画しています。
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「美容整形ツアー」企画する会社のHPより
一定の代金以上の手術を受ける女性には、航空券やホテルの手配や、ホテルと空港の送迎を行っています。韓国の病院でカウンセリングを受ける場合は通訳も同席するサービスを提供しています。
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「美容整形ツアー」企画する会社のHPより
「正確にはわかりませんが、10数年前から日本人女性が韓国でカウンセリングを受けるようになったと思います。当時は皮膚科がメインでしたが、7、8年前から整形手術を希望する人が増えて、ここ2、3年でさらに増加傾向にあります」
会社によりますと、日本人女性は、新年度が始まる前の12月から3月にかけて手術を受ける傾向にあり、個人で参加する人が多いそうです。

人気は、目と鼻の整形。金額は、内容によりますが日本円で20万円くらいからだそうです。手術費用自体は日本よりも少し安いそうですが、渡航費用を含めると、日本で整形手術を受ける場合と大きく変わらないと話しています。

それでもなぜ、韓国で手術を受けるのか?
「日本ではKポップがトレンドになっていて、そうしたことも影響しているのではないでしょうか。実際にカウンセリングの際に韓国の女性アイドルグループの写真を持ってくる日本人もいます。また最近では中国からも多くの人たちが手術を受けに訪れています。韓国を選ぶのは、整形技術も大きいのではないでしょうか」

<「今すぐ」「割引」に注意>
実際にトラブルになったケースはないのでしょうか? 国民生活センターに問い合わせてみました。

センターによると、整形手術や脂肪吸引などの「美容医療サービス」について、全国の消費生活センターに寄せられる相談はここ数年、合わせて2000件程度で推移しています。

これは国内での事例も含めた数ですが、韓国での整形手術に関するトラブルも複数あるそうです。
「韓国の人気クリニックの説明会が国内で開催されると知り、会場のホテルに行ったら『今支払えば15%割引』『キャンセルしても予約金は全額返す』といわれ5万円を支払った。その後、キャンセルしようとしたが韓国まで取りに来るよう言われ、返してもらえない」
「説明会で『今、契約すれば10%割引』『現地宿泊費用を無料にする』などの強引な勧誘をされ、契約しないと帰れない雰囲気になってしまい、申込金として5万円を支払ってしまった」
手術そのものについてのトラブルも報告されています。
「韓国であごの手術を受けたが骨が左右非対称、ガタガタになってしまい、歩くのに支障が出る可能性が出たため、再手術が必要になった」
「ほおやエラを削り、あごを前に出す手術をしたその結果、ほおが陥没してしまい、人前に出られず仕事に影響が出ている」
国民生活センターでは「美容整形は病気と異なり、緊急性は低いので、『今すぐ』などとせかすクリニックとは契約しないようにしてほしい。ふらっと出かけて、大きな後悔をすることがないように十分検討したほうがよいし、海外では日本語が通じないことによるリスクもあると認識してほしい」と話しています。

<自分の顔をいちばん見るのは自分自身>
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国際美容外科学会が去年、発表した2017年の美容整形施術数の国別ランキングによりますと、日本は、アメリカ、ブラジルに次いで3位。直近では、日本の女性タレントがみずからのブログで整形手術を行ったことを公表しました。韓国に渡って整形する人たちも、こうした流れの中での1つの動きだと思われます。

最後に取材で印象に残ったことばを。
「『きれいになりたい』という願望はどの国にもあります。整形は、人に自分をきれいに見せるという点もありますが、自分自身が満足するためのものでもあると考えています。生きていく中で自分の顔をいちばん見るのは自分自身です」(美容整形ツアー企画会社)
「外見至上主義が進行しています。自分の容姿に不満を抱くのは当然の事なのではないでしょうか」(20歳モデル)

投稿者:木下隆児 | 投稿時間:15時50分

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