2017年02月08日 (水)介護食で外食の味を


※2017年2月3日に「おはよう日本」で放送されました。

食べ物をかんだり飲み込んだりする力が弱くなったお年よりなどは口にできるものが限られてしまいます。

しかしそうしたお年よりなども、食べやすいよう工夫された「介護食」の開発に大手外食チェーンが乗り出しました。
介護食でも外食の味を楽しみたいという要望にどうこたえるのか、取材しました。

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<広がる介護食>
食べ物をかんだり飲み込んだりするのが難しいお年寄りなどのために、刻んだりやわらかくしたりして食べやすく工夫した「介護食」。

東京都台東区の日本料理店では、事前に希望があった場合、食材をペースト状にした上で形を再現するなどして見た目も美しい介護食を提供しています。
帆立のソテー、菜の花のテリーヌなど、季節にあわせた和食を楽しむことができます。この店のオーナーでこうした高齢者などの治療に
もあたっている歯科医師の萩野礼子さんは「人と一緒にコミュニケーションをとりながら食べることを楽しんでほしい」と話しています。

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<牛丼チェーンも開発に>

そんな中、庶民の味、牛丼の大手チェーン、吉野家が介護食の開発を始めました。開発責任者の佐々木透さんは高齢の父親の言葉を
きっかけに開発を提案したといいます。
佐々木さんは「父親(88)が牛丼が大好きで、ずっと家のほうに冷凍牛丼を送っていましたが、「食べにくい」と言いだしました。団塊の世代の方が後期高齢者になられるとこの先同じことが起こるんだろうと開発を決意しました」と言います。


17020302.3.jpg年をとってもいつまでも牛丼を楽しんでもらいたいという思いを吉野家ホールディングスの河村泰貴社長に訴え、開発の許可を得ました。
社内の会議で河村社長は「多くの人に喜んでもらえるようにやっていきましょう」と声をかけていました。


<味だけは変えないというこだわり>

開発にあたって佐々木さんがこだわったのは味です。食べやすくするため肉や玉ねぎの形は変えざるをえませんが味だけは変えないことにしました。
佐々木さんは「何を称して吉野家の牛丼というかというと、それは味しかないので、やはり味に対してのこだわりは最後まで今も持っています。ずっと持っています」と話していました。

17020302.13.jpgしかし「塩分」が大きな壁となりました。
並盛りの塩分は通常2.7グラムですが、高齢者向けに半分以下に抑えることにしました。

味は変わらないようにしながら、調味料の配合を微妙に調整し、40回試作を繰り返した結果、塩分を抑えながら本来の味を再現することができました。

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<肉の固さも課題に>

さらに、今度は肉の固さが問題になりました。そこで部位を替え、通常より1ミリ薄くして煮込みました。専門家のアドバイスも受けながらより飲み込みづらい人向けには煮込んだ後とりだして刻むという「手間」を加えた商品も用意しました。

そして試行錯誤の結果ようやく食べやすい牛丼が完成しました。

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<高齢者の反応は?>

販売を前に都内の介護施設で牛丼を試食してもらうことになりました。

17020302.6.jpg中には病気をした後口から食べづらくなり胃につけた管から栄養をとる「胃ろう」をしている人もいましたが、牛丼を口にすると次々と箸が進んでいました。
この女性は「味が薄いのがきらいなのですがこの牛丼はおいしい」と話していました。
また「昔食べた味のままで食べやすいです」「おかわりしたいですね」と話している人もいました。

17020302.10.jpg開発に協力してきた東京医科歯科大学のグループが、それぞれどれぐらい食べたか量を調べたところ、平均で提供された量のほぼ9割を食べたことがわかりました。

戸原玄准教授は「普段は食べた量が3割ほどだったり、食べる時間がかかる人もよく食べている様子でした。食事によって力が出たということがある気がします。高齢者が好きそうな物というと煮物などが浮かぶかもしれませんが、若いうちに食べていたメニューを食べやすくして提供することがもっと必要だと思います」と話していました。

17020302.8.jpg佐々木さんもお年寄りたちの様子に手応えを感じ
「召し上がっていただいてるときに笑顔が見え完食されるのは非常にうれしかったです。まだまだ商品としては子どもみたいなものですからこれからもっともっと磨いていかなくてはいけない」と話していました。

吉野家では今回開発した牛丼を、介護施設などに業務用として販売を始めました。牛丼1杯あたりの価格は通常の並盛りとほぼ同じだということです。


<取材後記>
お年よりの食事というとどうしても薄味で、煮物や刺身などのメニューが浮かぶ方も多いと思いますが実際には好みは様々です。
そうした中、大手外食チェーンが介護食の開発に乗り出したというのは大きな一歩だと思います。それも、味は変えず「昔食べたあの味」と思って食べてもらえるよう工夫したというのは外食ならではの魅力だと思いました。

介護食を提供している飲食店も少しずつですが増えてきていています。東京医科歯科大学の戸原准教授を中心とする厚生労働省の研究班は、摂食嚥下障害を専門的に診察する医療機関の情報とあわせて、こうした介護食に対応するレストランの情報を集めホームページ上で公開しています。
http://www.swallowing.link/
「食べられなくなっても『あの味』を楽しみたい」という思いにこたえるため、さらにこうした動きが広がってほしいと思いました。

 

投稿者:山本未果 | 投稿時間:11時26分

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