2017年02月06日 (月)もし妻ががんになったら... 夫たちの苦悩


※2017年2月3日にNHK WEB特集に掲載されました。

去年、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんが妻の小林麻央さんが乳がんで闘病中であることを公表しました。

実は30代、40代では男性より女性のほうが、がんの罹(り)患率が高く、働き盛りで妻の闘病を支える市川海老蔵さんのようなケースは少なくありません。
仕事、家事、育児の負担を抱えて追い込まれがちな夫をサポートしようという動きが始まっています。

(報道局 清有美子記者、おはよう日本 村山かおるディレクター)

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<“いい状態で舞台に立っていない”>
妻のがん闘病を公表した市川海老蔵さんは去年末、NHKの取材に応じました。
海老蔵さんは「妻ががんだということを受け止めるのに時間がかかった。精神衛生上、完全にいい状態で舞台に立っているということはここ数年は基本的にないです」と打ち明けました。

170203.2.jpg海老蔵さんのように、妻ががんになった男性を取材すると、働き盛りならではの悩みが見えてきました。


<妻を支え“家事の担い手”に>
取材した40歳の男性は、2年前に妻に肺がんが見つかりました。妻は入退院をこれまで8回繰り返していて、体調には波があります。

今、男性が朝起きるのは午前6時すぎ。家族の誰よりも早く起きて、朝食の支度を始めます。小学2年生を筆頭に6歳、2歳と3人の娘がいて妻に代わって学校や幼稚園に持って行くものを準備したり、身支度を手伝ったり。さらに出勤前に5人分の洗濯も済ませます。

家や子どものこと全般を専業主婦の妻に任せていた男性は、妻ががんとなり生活が一変したのです。

170203.3.jpg男性は「家事をするにも子どもの世話をするにも家の中のどこに何があるのか、何が必要なのかもわからず最初はしっちゃかめっちゃかでした。また妻の病状が悪くなってくると自分のつらさも増えていきます」と話していました。


<仕事と家庭との間で>
働き盛りの時に見つかった妻のがん。
仕事をどうこなしていくかも課題になりました。

男性は大手メーカーでエンジニアとして働いていて、妻ががんと診断されたのは大きなプロジェクトのリーダーの1人に抜てきされた直後でした。部下を取りまとめ、他部署との調整を行い、成果も求められるなど、責任ある仕事を任されています。一方、家では妻を気遣い、家事と育児を担う日々。

家庭と仕事を両立させるため男性はシフト表を作り、夫婦それぞれの実家にも子どもの送り迎えや夕食の準備などを分担してもらうことでしのいでいます。

170203.4.jpgしかし、仕事にも家庭にも専念しきれないもどかしさがあると話します。「仕事をセーブしたいと思っても普通に海外出張もあります。日々は極力、仕事を早めに切り上げて帰ることを常に頭に置いていますが、遅くまで残って働いている同僚がいる中で引け目は感じます」


<“つらい” でも誰にも言えない>
今後の仕事と妻のサポート、どちらにも不安はありますが、こうした思いを周囲の人に打ち明けることはありません。

170203.5.jpg「大変だしつらいです。でも人に打ち明ける必要もないと考えてしまう。また同年代で配偶者ががんという経験がない人に打ち明けてもしょうがないという思いもあります。自分で壁を作っているのかもしれませんが…」


<妻を支える夫にもサポートを>
心の不安を打ち明けられない男性について埼玉医科大学国際医療センターの精神科医の大西秀樹医師に話を聞きました。

大西医師は
がん患者の家族の心のケアにあたる「家族外来」を開いています。
大西医師によると家族外来を訪れるのはほとんどが女性で、男性は全体の2割にとどまっているそうです。
そして精神的に追い込まれ、深刻な状況になってようやく受診する人が多いということです。

大西医師は
「“男性はしっかり力強くなければいけない”といった考えが背景にあり自分の弱みを出せないのだと思います。そしてつらくても会社に行かなければならない現実があります。妻の闘病を支える夫へのサポート体制はどこかで作らなければいけない」と話していました。

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<男性どうしで悩み共有>
こうした中、
がん患者の夫を支えようという取り組みも始まっています。
先月15日、東京・中央区の国立がん研究センターでがんの専門医の北野敦子医師が妻ががんで闘病中の夫の交流会を初めて開きました。集まったのは妻のがんが判明したばかりの人や、10年近く闘病を支えている人などさまざまです。

170203.7.jpg北野医師が「ざっくばらんな会なので難しい話は抜きにして・・」などと声をかけると集まった人たちが少しずつ不安やつらかった思いを話し始めました。
「結婚式の2週間くらい前に妻のがんがわかりました。結婚して子どもできて…と描いていた人生プランを全部、設計し直さなければならなくなりました」と語る40代の男性。

また去年秋、妻が乳がんと診断された大友一也さん(43歳)は
「夜中ぱっと目が覚め、そのときすごく怖くなった。これからどうなるのだろうか思うと不安だった」と話しました。
そしてこれから始まる抗がん剤治療についても「脱毛や吐き気といった副作用で妻が苦しんだ時どうすればいいのかわからない」と悩みも打ち明けました。

170203.8.jpgすると妻が抗がん剤治療を経験した男性が
自分の経験を語り始めました。
「髪が抜けて外見は変わるけれど何も言わず普通の生活を心がけました。妻は悩んでいたようですが、カツラを一緒にスタイリングしたり、きょうはどのカツラにしようか一緒に選んだり笑顔でできるだけ普通に接しました」。
男性の話を聞いた大友さん。
「少し難しく考えすぎたのかもしれないです。肩の力を抜いて接していいんですね」と話し、心が少し軽くなったような表情を見せていました。


<夫どうしで交流 その経験が糧に>
妻が初めて抗がん剤治療を受ける日の朝、大友さんはいつもどおりに振る舞いました。
“妻に変化があっても、気負いすぎずそのまま受け止める”ことを交流会の参加者から学んだといいます。

「行ってきます。頑張ってね」
妻に一言だけ声をかけふだんどおり仕事に出かけました。
家を出た直後に大友さんに話を聞くと「座談会でいろいろな話を聞く中で、最初から悩まないで、自然体でいくほうがいいのかなと思うようになりました。同じ境遇の男性と直接話せた時間が、自分の心の支えにもなっています」と話していました。

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<がん患者のパートナー向けSNSも>
妻が闘病中の夫への支援はまだ始まったばかり。しかし不安な気持ちや弱音を口にすることを苦手に感じたり、仕事や家事、育児で時間を取れないという男性もいるかもしれません。

そうした男性たちも利用できるよう、がん患者のパートナーに向けたインターネット上の交流サイト「キャンサーパートナーズ」も2月中旬から始まる予定です。このサイトは妻の闘病を経験した男性が、がん患者を支えるパートナーどうしが情報交換をしたり支え合ったりする場が欠かせないと感じて開設を進めているのです。

また、専門家のアドバイスを受けたいという人にはそれぞれの地域のがん拠点病院にある「がん相談支援センター」も家族の相談を受け付けています。

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<患者のために家族がケアを>

不安を抱え込むがん患者の家族は”第2の患者”とも言われています。夫はもちろん、家族全員が精神的に落ち着いていて初めて、患者にいいサポートができます。
取材した医師たちはみな「患者のためにも家族はつらい思いや不安を抱えこまないでほしい」と話していました。
がんにかかる人が増える中、患者だけでなく患者を支える家族へのサポートが今後、ますます大切になりそうです。



投稿者:清有美子 | 投稿時間:11時43分

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