2017年12月15日 (金)さて、精子は元気かな


※2017年11月30日にNHK News Up に掲載されました。

次の言葉、カップルの男女どちらが言ったと思うでしょうか。

「ブライダルチェックに来ました」
「これで安心して妊活に取り組めます」

女性と思った方、多いのではないでしょうか。“妊娠について心配するのは女性”という考えがまだ根強くあるのです。しかしいま、妊娠に備えて自分の精子の状態をチェックする男性が増えているそうなんです。
「不妊症カップルの半数は男性側に原因がある」(WHO=世界保健機関報告) その現実に向き合った人に話を聞いてみました。

ネットワーク報道部記者 牧本真由美

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<男性のブライダルチェック>

sat171130.2.jpg東京駅近くのビルの10階。ここに、男性専門の妊活外来があります。
不妊ではなく、妊活です。

何かが悪くて治療をするのではなく、妊娠のための情報を得たり、体調を整えたりする活動のことです。調べるのはまず、精液の濃度や精子の数。それに運動率です。正常な形の精子が十分にあるか活発に活動しているのかを確認します。

さらに超音波で精巣の様子を診て、血液のこぶや空洞などの異常がないか調べます。精子を作る精巣に問題があると、精子がうまく作られずDNA損傷などのリスクがあるからです。

sat171130.3.jpg検査結果の一例
そして血液検査などで男性ホルモンの分泌量や感染症のチェックもします。いま何か症状が出ていなくても、将来、不妊になりやすかったり、妊娠を試みる際に障害になったりする可能性もあります。

こうしたチェックで妊娠させる力がどうなっているのか、基本的な情報が分かるそうです。受けに来た人は年々増え、去年は412人。ことしは9月末までで500人を超えました。

近々結婚を考えている20代後半の男性。
「彼女も検査をうけたので自分も受けた。子どもを作ることを考えた時、問題があっても気がつかずにむだな時間を過ごしたくなかった」

40代後半の男性も同じ動機でした。
「彼女が受けたと聞いて自分もと思いました。恥ずかしい気持ちもありますが兄弟や知り合いから不妊治療が大変だったという話も聞いたことがあったので、自分の状態を知る機会になりました」


<早い段階で気付けば治療も早い>
ブライダルチェックを受けた3人に1人に何らかのトラブルがみつかったということです。いま不妊で悩んでいる人ではありません。これから妊活をしようという人たちで、私には驚きでした。

精子が少ない「乏精子症」、精子がいない「無精子症」。血液が逆流することで精巣の温度を上げて精子の質が悪くなる「精索静脈瘤」、さらにクラミジアなどの「感染症」も。トラブルがあっても自覚症状が無い人が多かったそうです。

「自分は大丈夫という思い込みは禁物。早い段階で気がついたら、治療も早くできて、効果も期待できます」

メンズヘルスクリニックの医師で順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科の辻村晃教授は、トラブルに早く気付くことの大切さを強調していました。トラブルが見つかると専門の病院を紹介するほか、サプリなどで症状の改善を目指す指導を受けることができるそうです。

sat171130.4.jpg辻村晃 医師


<スマホでこっそりチェックも>
「不妊症カップルの半数は男性側に原因がある」(WHO=世界保健機関報告)
そうした報告があっても実際には男性は医療機関への足が遠いのが現実です。

そこで心理的なハードルを低くしたいとスマホでこっそり精子をチェックできる検査キットも登場しました。

sat171130.1.jpg使い方は簡単でスマホのカメラにキットのレンズを装着して、容器に出した精液をつけて1秒録画するだけ。画面に鮮明に写っている精子の数を数えます。その数によって、WHOが定める精子の数や濃度の基準値を満たしているかを確認します。

最初の動画が基準値をみたした精液、その下が基準値以下のものです。
濃度4400万/ml 運動率78% (撮影 小堀善友医師)
濃度500万/ml 運動率30% (撮影 小堀善友医師)
開発に関わった獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の小堀善友医師はキットは最初の一歩だといいます。

sat171130.5.jpg小堀善友 医師
「数が多くても質が悪いということもあります。キットの検査ですべて安心とはいきません。気軽に調べてみて、不安を感じたら迷わず医療機関の扉をたたいてほしい」
このキットは、一部の薬局やコンビニでも販売しています。
また、自動的に精子の数を計測してWHOの基準と比較してくれる民間企業が開発したキットも登場しています。企業に尋ねると、売り上げは伸びていて、延べ数千個だそうです。

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<妊活考えた時の7か条>
では検査で異常がなければ大丈夫かというとそうでもありません。
精子は毎日、新しく作られていて、そのときの体の状態が影響します。精子を作る精巣も臓器。大事にしてあげないと劣化してしまうのです。

男性不妊の専門の獨協医科大学埼玉医療センターの岡田弘医師は、妊活を考える時に精子の質を保つための7か条をあげています。

(1)禁煙すべし

血流が悪くなり、精子の数が減り、さらに運動性のよい精子も減る。EDの原因にもなることも。

(2)禁欲は間違い

よく勘違いされる点です。古い精子はためると新しい精子を痛めつけ、精液全体の質を下げます。

(3)ブリーフよりトランクスを

なぜ精巣(睾丸)が外に出ているのか。温度が上がると精子を作る機能が低下するからです。熱がこもらないように風通しのよいトランクスを。

(4)妊活の時期はサウナは控えて

高熱は精子をつくる機能に悪い影響が。長風呂もほどほどに。

(5)膝上のパソコン操作に注意

長い時間パソコンを膝の上に置くと精巣の温度が上がるという調査も。とにかく熱に注意です。

(6)自転車に注意

サドルが精巣などを圧迫すると血流が悪くなり、精子の減少や運動率の低下、EDの原因につながります。長時間のサイクリングは要注意です。

(7)育毛剤の種類に注意

抜け毛を抑える治療薬の中には、男性ホルモンの作用を抑える働きがあるものがあります。きちんと種類を選んだほうがよいそうです。

これらを守れば完璧というわけではありませんし、体の健康のためにサウナや自転車に乗る人もいると思います。ですが、妊娠を考えている時期には、意識しておきたい7か条です。

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<セクハラとも言われたけれど>
今回のテーマについて話をしていたら、知り合いの男性に「セクハラになるぞ」と言われたことがあります。あらら、と場所や相手を考えなくてはいけないと反省しましたが、タブーにしすぎて、自分の体のことなのに知らない男性が多いとも感じました。

男性側の妊活への意識はかつてより高まっているようですが、まだ現実にはカップルの間だと特に話にくいことかもしれません。ここまで書いてきてなんですが、私もその気持ちは少しわかる気がします。

でも命につながる大切なテーマでもあると思うのです。「妻が不妊治療を頑張っていたけれど、実は原因はボクにあった」という何人もの男性の後悔の声を聞いてきました。

もしこの記事が、初めは笑い話のネタでもいいので、精子の現実をまじめに考えるきっかけになってもらえれば、私はうれしいです。

投稿者:牧本 真由美 | 投稿時間:17時08分

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