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メディアの動き

メディアの動き 2022年01月20日 (木)

#359 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」これまでの議論を振り返る

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


はじめに

 去年11月、「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(本検討会)」が開始され、かなり広範囲な論点が示され、議論が急ピッチで進められています。1月には論点整理の方向性が、そして3月には1次とりまとめが提出される予定です。私は初回の傍聴記をブログにまとめましたが、本ブログでは改めて、これまで3回の議論がどのような内容だったのか、私なりの理解で 1)まとめておきたいと思います。

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① デジタル情報空間のひずみへの危機意識

  放送の未来像を議論するベースとして多くの構成員から表明されたのが、デジタル情報空間のひずみに対する危機意識でした。
 情報空間の全てがアテンションエコノミー 2)に染まっていくことで、データによるレコメンドが詳細化しフィルターバブル 3)が加速、エコーチェンバー 4)による社会的分断やフェイクニュースの拡散も深刻化していくと警鐘を鳴らしたのは、デジタル社会における民主主義のあり方を研究する憲法学者の慶應義塾大学・山本龍彦構成員でした。また、長年、通信・放送融合の実態を競争法の観点から研究してきた名古屋大学・林秀弥構成員からも、融合の進展が資本の論理と視聴者のニーズ論だけで進んでいることに懸念が示されました。
 こうした課題の多いネット空間に人々が滞在する時間が増えれば増えるほど、これまで以上に地上放送メディアの役割が期待されるのではないか――。この認識も構成員内では共有されているように感じました。先出の山本(龍)氏からは、人々の“インフォメーションヘルス”を害さないよう、多様な情報をバランスよく摂取するのが重要であり、栄養食、免疫食としての公共放送の意義を再定義すべきという発言がなされました。また、情報通信消費者ネットワーク・長田三紀構成員からは、消費者団体の事務局としてテレビ広告の基準について民放連と話しあいを続けた体験を踏まえ、放送局にはネット上にある様々な課題の是正に力を発揮するくらいの思いでデジタル情報空間に乗り込んでいってほしいとの期待が示されました。電波監理審議会委員でもある行政法が専門の東京大学・山本隆司構成員からも、放送における「多元性・多様性・地域性」は重要だが、情報空間全体の中で、意見・文化の多元性・多様性・地域性に注意を促す放送の役割を維持向上させる観点は今後ますます重要になるとのコメントがありました。

② 「多元性・多様性・地域性」再定義の必要性

 地上放送がこれまで以上に公共的な役割を果たしていくためにも、社会状況やビジネス環境の将来を先読みし、そこからバックキャスティングして体制や制度をどう変革するかを考えていく必要がある。金融業界を例に挙げながらそうした趣旨の発言をしたのが、金融サービスと情報技術をつなぐフィンテックという分野で活躍するマネーフォワード・瀧俊雄構成員でした。瀧氏は、金融庁では収益がどれくらい悪化するとどれくらいの地域金融機関が赤字になるのかを試算していると紹介した上で、放送業界ではそういう試算をしているのか、人口動態的に市場が3割減になる世界でどのような収益構造が残される必要があるのか、と問いかけました。そして、議論を後回しにするほど採用できる選択肢が減っていくということが様々な産業で見られている、と警告しました。林氏も、通信業界にはかつては100を超える事業者が存在していたが、再編・統合が進み今は主に4社の寡占市場になったこと、金融庁主導で進められている地銀の再編における議論なども参考にしながら、放送業界においても適正な事業者数や必要な規模の在り方を議論していく余地があるのでは、とコメントしました。

 こうした問題提起を制度として論じていく際、マスメディア集中排除原則(マス排)と、それによって達成すべき政策目標として掲げられてきたいわゆる放送3原則、「多元性・多様性・地域性」の再定義は避けて通れません。このメッセージを最も明確に発したのが、第3回のヒアリングに登場した、「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」構成員の東京大学・宍戸常寿氏でした。ちなみに放送3原則は放送法で明確に定義されていないこともあり、以前から再定義が必要だと多くの有識者が指摘しており、宍戸氏も折に触れて見直しを訴えていました。宍戸氏は、国民の知る権利から考えると一義的に重んじられるのは多様性であり、これまでの情報空間や技術のあり方を前提にした場合、多様性を実現するために放送の多元性と地域性が重要であったと理解すべきだ、とコメントしました。その上で、この枠組みは県単位での広告市場が健全に成り立つことが前提であったとし、それが崩れていく中では、多様性を損なってまで多元性と地域性を維持するのは本末転倒であると述べました。この場合の多元性とは放送局数、地域性とは県域免許制度であると私は理解しました。

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 本検討会の三友仁志座長も、個人的見解であるとした上で、現行制度は多様性維持の制約になっている可能性があると発言。また第2回のヒアリングで登場した憲法学者の京都大学・曽我部真裕氏からも、多元性は必ずしも多様性とイコールでなく、マス排の緩和は必要ではないかとの発言がありました。それぞれ言い方は異なるものの、同様の指摘を行ったものと思われます。また、曽我部氏、林氏からは、マス排という構造規制はどのような成果をもたらしているのかいないのか、それを図る指標を開発し、現状の実態を把握することがまず必要ではないかとの意見もありました。

 こうした放送3原則の見直し、もしくはマス排緩和の議論は、これまでのキー局とローカル局の関係や、ローカル局の経営の姿を大きく変容させることに直結します。具体的な試案を述べたのは、諸課題検座長を務める行政法が専門の千葉大学・多賀谷一照氏でした。多賀谷氏はヒアリングの冒頭、諸課題検は建前論が多すぎたとコメントした上で、以下のように踏み込んだ発言を行いました。今後、無線局(放送波)というボトルネックがなくなってくれば、今のキー局を含めて10社以上の放送事業者が全国・首都圏に向けたサービスを、地上波・衛星・通信回線を活用して展開する体制が望ましいのではないか。そしてキー局からのネット配分金が減少していくローカル局については、キー局の子会社化や、ローカル局同士が合併して延命を図るしかないのではないか――。宍戸氏も以下のような提言を述べました。自治体間の広域連携、“圏域化”が進む中、放送局もその動きに対応していくべきであり、事業者の申し出により放送区域を柔軟化することが必要ではないか。ただその際には、地域情報の取材報道の意義に鑑み、一定の規律(地域情報の割合を公表する等)が必要ではないか――。民放連は、個社の意見を丁寧に汲み取り経営の選択肢の拡大につながる議論が行われることを期待しており、検討に際してはテレビ放送事業全体への影響にも留意して欲しいとコメントしています。今後は個別の事業者のヒアリングが行われる予定です。

③ デジタル情報空間におけるNHKの責任

 NHK改革やネット空間におけるNHKの役割・責任についても、ヒアリングに登場した3人の諸課題検構成員が具体的に言及し、その発言を巡って議論が噴出しました。
 最も踏み込んだ発言をしたのは多賀谷氏でした。多賀谷氏は、テレビを見ない・持たない人々が増える中においても、日本人は公共放送の維持が必要だと考えるだろうとし、こうした中でNHKの将来は、組織もしくは機能で二分割することしか自分は考えつかなかったと述べました。そして、ニュースや天気予報、児童番組などのスリム化した公共放送を義務的受信料で維持するモデルを作り、受信料は自治体等が公的徴収すべきではないかと提案しました。
 これに反応したのが、諸課題検の時から議論に参加している日本総研・大谷和子構成員でした。大谷氏は、世界中の公共放送が、多種多様なコンテンツを誇りを持って生み出し、新たな価値を生み出していくことが創造力の源になっているとし、コンテンツ制作者としての存在価値を損なわない組織と受信料の規模とはどのくらいなのかとの観点で発想することが必要ではないかと述べました。そして、多賀谷氏の提示は現実的なシナリオになり得るのか、と疑問を呈しました。
 この多賀谷氏の主張した義務的受信料、いわゆる全世帯負担金制度に対して、宍戸氏も否定的な見解を示しました。宍戸氏のNHK改革案は、地上総合・衛星2波の計3波を総合受信料とし、3波のネット同時配信を本来業務化することで、デジタル情報空間における基本的情報供給のユニバーサルサービス化の責任をNHKに負わせるべきというものでした。その際、受信料契約はあくまで認証された端末に限って対象にすべきであり、認証の有無に関わらず全世帯に負担させる制度にはすべきでないとしました。健全な民主主義において必要な情報が、解釈の対立や競争も含めて供給される二元体制が今後も維持されることが望ましく、民放が現在、その供給を実効的に担っている状態の日本では、義務的受信料制度は過剰であるという見解でした。
 同時・同報のメディアとしての放送の同時配信を、デジタル情報空間における基本的情報供給の柱と考える宍戸氏に対し、NHKは放送に従属しないネット特有の消費のされ方に対応したコンテンツの提供を通じて公共的な役割を果たしていくべきと述べたのが曽我部氏でした。これは、初回に電通総研・奥律哉構成員が行った、若者の間にはYouTubeで動画を選ぶ際に、コンテンツのジャンルではなく、“本編”、“”名場面・メイキング・まとめ系”といった「フォーマット」志向が多く(“共有型カジュアル動画視聴文化”と呼称)、放送局にはこうしたことを意識した取り組みが必要、という報告を踏まえた発言でもありました。

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 また曽我部氏は、NHK会長の諮問会議である、「NHK受信料制度等検討委員会」の「次世代NHKに関する専門小委員会 5)」の委員長でもあり、そこでもこうした若者のネット動画視聴習慣が示されており、それらの議論も踏まえた発言とも思われます。ちなみにNHKでは、この委員会の報告を踏まえ、来年度、放送の同時配信だけでなく、番組に関わる情報やコンテンツを、テレビを持たない人に対して提供し、それがどのように受容・評価されるか検証する社会実証を行うことになっています。

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④ 放送ネットワークインフラのブロードバンド代替

 総務省では地デジ移行完了後、2013年から「放送サービスの高度化に関する検討会」、2015年から諸課題検が開催され、放送の未来像議論が行われてきました。しかし、通信・放送融合が本格的に進む中においても、放送ネットワークインフラ、つまり伝送路の今後という論点についてだけは踏み込んだ議論が行われてこなかったとの印象をぬぐえませんでした。その理由についての分析は別な論考に譲りますが、ともあれ、本検討会はそこに風穴を開けようという意図が、初回に事務局から示された論点案に明確に示されていました。

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 この論点に積極的に呼応したのが、第2回にプレゼンを行ったNHKでした。前回のブログでも記しましたが、この論点は、山間部などの小さな集落をカバーするミニサテライト局(ミニサテ)の更新時期が迫る中、民放連が“あまねく受信義務”を背負うNHKに対し、更新や維持に関わる費用を“努力義務”を背負う民放より多く負担をすべきではないかと要望したことが発端です。これに対してNHKは、民放から要望のあったミニサテだけでなく、NHK共聴(NHKとNHK共聴組合が共同で設置・運営している設備。約5300施設)や、ミニサテよりも大きな中継局(小規模局)も含めてコスト高となっており、こうしたエリアの人口減少が進む中、今後のサービス維持が課題になると報告しました。

220120-06.png その上でNHKは、今後の放送ネットワークインフラについては、全世帯の94%程度をカバーしている親局と大規模重要局はそのままとし、残りの6%程度をカバーしている小規模局・ミニサテ・NHK共聴について、ブロードバンドを放送の一部として活用する可能性を検討すべきと提起しました。これについて、IoTや無線通信システムなど情報工学が専門の東京大学・森川博之構成員からは、NHKには人口減少時代のあり方に対して重い問題を投げてもらった、非常に重たいボールだが目をそらさずに対応していかなければならないとのコメントがありました。

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 更にNHKは、ブロードバンドで代替する場合の課題について、上記の資料を示しました。この資料から、NHKはブロードバンドで代替する場合の前提として、現行で放送サービスとして行われているIPマルチキャスト方式(特定のアドレスを指定し1対複数で行われるデータ通信)ではなく、NHKプラスやTVerのようなユニキャスト方式(単一のアドレスを指定して、1対1で行われるデータ通信)を想定していることがわかります。その上で、課題として、代替に関わる費用負担のあり方、技術的な品質保証、民放も含む配信基盤とその運用のあり方、権利処理(いわゆる「フタかぶせ」問題など)を挙げました。
 このプレゼンに対し、映像圧縮技術が専門の東京理科大学・伊東晋座長代理からも、ブロードバンド代替の場合には経済合理性の観点からベストエフォートに基づいたユニキャストになる可能性が高いとの発言がありました。その上で、著作権の観点から放送と同等とみなしてもらえるかが課題となり、文化庁に関わる話なので準備をする必要があるとのコメントがありました。
 この著作権の課題については、同時配信サービスの普及という文脈で、奥氏が諸課題検の頃からずっと訴えていたものでした。奥氏は自社制作比率が低いローカル局を念頭に、自社がライツを持っている番組を前提として考えなければならない現行制度ではなく、放送で出すべき情報がネット側に同じだけ出るような制度設計が必要だと改めて訴えました。また宍戸氏からは、放送コンテンツを届けることはデジタル社会における基本的情報の供給だと考えるのであれば、総務省、文化庁とデジタル庁が連携して議論する仕組みをとることが必要ではないかとの提言がありました。

 また、総務省の「ブロードバンド基盤の在り方に関する研究会(BB研) 6)」にも名を連ねている複数の構成員からは、放送の代替を検討したいと考えているエリアと光ファイバー未整備地域(約17万世帯)を重ね合わせて突き合わせる作業がまず必要ではないか、また、BB研の議論と連携をさせて議論していくべき、との意見も出されました。

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 そして言うまでもなく、放送ネットワークインフラのブロードバンド代替という論点は、NHK単独の問題ではありません。民放連は、ブロードバンドによる代替が本当にコスト削減につながるのか、NHKと連携をしながら将来像について検討していくとの姿勢を示しました。
 このNHKと民放の連携については、弁護士として金融・医療・交通のデジタル化に関わり、規制改革推進会議のメンバーでもある落合孝文構成員から、NHKを中心としつつ限定的に一部の費用を民放が負担して共同でインフラを保有するような企業体の設置が考えられないか、という考えが示されました。また、海外のICT事情について調査・研究を行うマルチメディア振興センター・飯塚留美構成員からは、イギリスは免許上、ハード・ソフト分離型、アメリカは免許上、日本と同様にハード・ソフト一致型と整理されるが、アメリカにおいてもハードにおける実際の運用は、テレビ局同士が共同で作った合弁会社や、放送インフラ専業のプロバイダーがサービスを提供しているという事例が紹介されました。

⑤ 公共的な情報やコンテンツの提供・ジャーナリズムの維持

 この他、議論の中で何度か提起されたものとして、曽我部氏の言葉を借りれば、社会全体で共有されるべき基本的情報であるにもかかわらず過小提供の可能性が高い情報やコンテンツ、またマネタイズが難しいジャーナリズムの維持をどうしていくか、という論点もありました。必ずしも放送制度の枠内に収まる論点ではないため、深い議論がなされたとは言えませんが、重要な指摘だと思うので記しておきます。
 曽我部氏からは、地域発コンテンツなどについては、番組単位で何等かの基金を設けて支援して制作を後押しすることも考えられるのではないかとのコメントがありました。また飯塚氏からは、欧州では政府がコンテンツ制作資金を支援したり、コンテンツ制作資金として、大手の放送事業者やネット配信事業者から支援金を徴収したりする仕組みがあることが紹介されました。また宍戸氏は、受信料制度はその一つの解決策であるが、公共放送が大きすぎるとジャーナリズム上の自由競争において圧迫しすぎる可能性があるとし、寄付などの税制などを緩和し、公的な団体としてジャーナリズムを担う組織を支える仕組みを整備することも考えられるのでは、と述べました。

⑥ 放送ジャーナリズムと説明責任

 デジタル情報空間のひずみ、そこで改めて期待される放送メディアの公共的役割、こうした共通認識のもとで本検討会の議論は進んでいます。しかし、放送事業者自身が社会の変化に背を向け、人々に対して説明責任を果たすことを怠れば、こうした期待に応えていくことはできないだろう、宍戸氏がヒアリングで提示した資料の最終ページにはこうした厳しいメッセージもありました。

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おわりに

 今回は、これまでの3回の議論を再構成することで、放送メディアを巡る政策議論の現在地を少しでも体系的に理解することを試みました。これから本検討会は、更に個別の案件の議論に入っていくと思いますが、ここで示した①から⑥の論点は全てつながっており、そのつながりを絶えず俯瞰しながら、放送制度のあるべき姿について私なりに考えていきたいと思っています。




1) 検討会を傍聴した自身のメモ及び公開されている議事録や資料を参照しつつ、論点別に議論を再構成するため、私の解釈で、構成員等の発言をまとめたり補足したりしている。
  議事録及び資料は→https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html
2) 情報が爆発的に増える中で、人々の関心や注目を獲得することそのものが経済的価値となっていくこと
3) ネット上の検索エンジンやSNSの履歴を用いたアルゴリズムにより、ユーザーに最適化された情報ばかりが提供され、その結果、ユーザーは泡に包まれたような空間で自分の見たい情報しか見えなくなってしまうこと
4) SNS上で自分と似通った意見や思想を持ったユーザーとの関係を深める結果、同じ意見ばかりが「反響」するようになり、特定の意見や思想が社会の中で増幅されたりしてしまうこと
5) 報告書は→https://www.nhk.or.jp/info/pr/kento/assets/pdf/sub_committee_report.pdf
6) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html

 

メディアの動き 2022年01月12日 (水)

#358 "岸田総理を襲う"コロナ感染第6波 ~オミクロン株をかわせるか~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男


「とうとう来たか」と実感した2022年の正月松の内でした。

 昨年10月4日の岸田内閣の発足前後から新型コロナウイルスの感染拡大は鳴りを潜め、いわば小康状態が続いてきました。この間隙を突く形で衆議院の解散に打って出たことが功を奏し、岸田氏は総選挙での勝利を足掛かりに危なげない本格的な政権スタートを切っていました。

 しかし年が明け、新型コロナウイルスとの戦いは終わっていない現実が噴き出したわけです。当研究所の月報「放送研究と調査」1月号掲載の拙稿「コロナ禍と政治意識の揺れ」で指摘せざるを得なかったオミクロン株の脅威が、沖縄県などで一気に目に見える形になりました。

 12月に入ってから世界各地で爆発的な感染拡大を引き起こしていたオミクロン株が日本列島の各地に襲来。沖縄県などでは先に感染が広がったアメリカ本土のウイルスが、入国時の検査が緩いと指摘されている在日アメリカ軍関係者によってもたらされたと見られています。


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 そういう中で1月8日(土)~10日(祝)の3日間、NHK月例世論調査が行われました。

☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」という質問に対する答えには少々当惑しました。

「支持する」57%(対前月+7ポイント)
「支持しない」20%(対前月-6ポイント)

岸田内閣の支持率は、昨年10月の49%で始まり、ほぼ横ばいで推移していましたが、ここへ来て上向き傾向を示しました。

“誰の眼にも第6波の襲来が明らかになってきたのに支持率が上がるの?”というのが私の素朴な実感でした。しかし、世論調査結果のいくつかの数字を見ると、安倍内閣、菅内閣の教訓を生かしながら、慎重かつ大胆にコロナ対応を進めている姿勢への一定の評価だということが分かります。

☆「あなたは新型コロナウイルスをめぐる政府の対応を評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」65%、「評価しない」31%で、昨年10月の調査以降、「評価する」が徐々に上がり、「評価しない」が徐々に下がってきています。

 オミクロン株感染者が11月30日に国内で最初に確認されるのと同時に外国人の新規入国停止を打ち出すなど、「やりすぎ批判」を恐れずに対策を打ち出したことへの評価が支えになっていると言えます。ただ、それでもオミクロン株はやってきました。


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 岸田総理は1月4日の伊勢神宮での年頭会見で、感染状況の変化を見ながら水際対策から国内対策に重点を切り替えていく考えを表明。翌日には後藤厚生労働大臣が「感染したら入院」としていた原則を緩和し、感染者が急拡大している地域では、感染していても無症状の場合などには条件付で宿泊施設や自宅での療養を許容する方針を公表しました。

 菅内閣当時の感染第3波、4波、5波の反省を踏まえ、入院病床の不足に陥らないように先手を打ったとも言えます。

☆「オミクロン株に対する医療提供体制を確保するため、政府が行ったこの見直しを評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」68%、「評価しない」28%。これを詳しく見ると、岸田内閣を支持する人では8割、支持しない人でも5割が、この見直しに肯定的な態度を示しています。

 岸田内閣の支持率は、第6波襲来の試練にさらされ始めた1月上旬の段階では、コロナ対策の臨機応変な見直しが功を奏していることに大きく支えられているようです。


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 けれどもこの先はどうでしょう。ワクチン接種は進んでいますが、1月12日、大阪府では前日の613人から一気に増え、1700人超の感染者が確認されました。

 WHO(世界保健機関)は、感染力は強いが重症化しにくいのがオミクロン株の特徴としています。これを国民がどう受け止めるかです。

 「重症化しないなら風邪と同じ」「かかってしまえばワクチン接種と同じ」といった安易な受け止めが広がると大変なことになるでしょう。

 感染症の専門家が口をそろえるように、感染者数が爆発的に増えれば、高齢者や病気を抱える人たちの中から一定割合で重症者は現れてしまいます。

 さらに、感染によって仕事を休まなければならない人が続出すれば、アメリカなどで見られるように公共交通機関など社会インフラが機能しなくなる危険が顕在化します。経済的には大打撃をこうむることになります。

 岸田総理にとって正念場はこれからです。丁度1年前、菅総理が安全安心と経済活動の両立を意識するあまり、Go Toトラベルキャンペーン一時停止のタイミングを誤ったことを思い出します。判断の遅れが結果として感染を全国に広げてしまった苦い経験です。

 日本の医療提供体制と社会機能を十分に維持するために、岸田総理が政府の総合力を発揮して、果断な対処を続けていくことができるかどうかが問われます。


メディアの動き 2021年12月21日 (火)

#355 メディアは社会の多様性を反映しているか~アメリカの動きから

メディア研究部(海外メディア) 青木紀美子


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2021年、アメリカのメディア動向を振り返ると、組織体制や発信内容に社会の多様性を反映させようという動きが目立ちました。

「メディアは社会の多様性を反映しているか?」という問いかけはアメリカだけでなく、世界の潮流にもなりつつあります。では日本のメディアはどうなのか?文研では日本のテレビの多様性を考える材料として、テレビ番組に登場する人物の男女比を調べるトライアル調査を行ってみました。また、テレビの女性や男性、さらに多様な性の取り上げ方をどう見るか、視聴者に聞くアンケート調査をNHK #BeyondGender プロジェクト班とともに実施しました。その内容は別の記事でまとめています 1) 2)ので、今回のブログではアメリカの動きを通して、その意義を考えていきます。

アメリカのメディアの背中を強く押したのは前年5月に黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官に暴行されて死亡した事件です。アメリカ各地から世界に抗議行動が広がり、テレビや新聞など伝統メディアは長く続いてきた黒人に対する差別の問題を報じる中で、自らの報道も差別を助長してきたという反省を迫られました。コロナ禍の中ではアジア系市民に対する差別やヘイトの問題も表面化しました。さかのぼると、性暴力の被害者に沈黙を強いてきた加害者とこれを容認する社会のありようを告発する#MeToo運動もありました。いずれも報道機関に自己点検を促すものでした。

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社会で権力を握り、報道機関では編集判断や人事などの決定権を握ってきた白人の中高年男性の世界観や価値観が中立公平や客観性をはかる「標準」になり、それにあてはまらない人々の視点や価値観を退けたり、偏ったものとして扱ったりしてこなかったか。異なる文化への無関心や無知から差別的な言葉や表現を使ってこなかったか。多様な人材を採用しても「標準」に順ずるよう求めてこなかったか。メディアの内外からこうした問いかけが持ち上がりました。

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メディアが多様性をより強く意識するようになったもう1つの理由は、存続の危機です。情報があふれる時代に、必要とされ、信頼される情報源として役割を果たしていくためには、より多様な人々の現実やニーズを意識した発信が欠かせない。そうしなければ視聴者・読者が先細りし、たとえ質の高いコンテンツを発信しても情報の洪水の中に埋もれ、淘汰されかねないという認識が広がっています。

2021年、アメリカでは3大ネットワークのABCテレビとケーブルテレビMSNBCの報道部門トップに黒人女性が相次いで就任し 3) 4)、Washington Postにも140年以上の歴史で初めて女性の編集長が就任しました 5)。NBC Universal News Groupは報道部門の社員の男女比を半々にし、有色人種の割合も50%にする目標を掲げ 6)、New York Timesは多様な人材が力を発揮できるような組織文化の変革をめざす計画を示し 7)、全米公共ラジオNPRは多様性の実現を戦略目標に定めました 8)

報道内容の見直しとしては、組織体制とともに、取材対象・取材情報源の多様性を検証し、社会の現実に近づけようとするところが増えています。イギリスでは公共放送BBCが2017年から出演者の男女比などを記録する50:50というプロジェクトを始めていますが、アメリカでも公共放送や非営利メディアが中心になって番組や記事でインタビューした人や引用した取材対象の多様性を点検する「Source Audit」を行い、公表するようになりました。

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サンフランシスコの公共放送KQEDは、ラジオ、テレビ、ポッドキャスト、オンライン記事で2019~20年に取材した人たちの△ジェンダー、△人種・民族、△年代、△居住・活動地域、△職業を、△番組・ジャンルや△話題とあわせてクロス集計するサンプル調査を行いました 9)。全体としては放送地域の人口比を反映しているものの、政治・科学番組、行政担当者や識者の取材では白人・男性が多いなど、偏りがあることがわかったとしています。KQEDでは改善をはかるため、現場の負担を大きくしないかたちで継続的に取材対象の多様性を記録・点検する方法を模索しています。また、報道内容・発信内容だけを変えようとしても真の多様性向上にはつながらないとして、管理職を含めた職員・スタッフの多様性、そして視聴者の多様性についても調べて情報を公開しています。

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フィラデルフィアの公共放送WHYYは、少し早く2018年に取材対象・情報源の点検を始めました 10)。調査開始当時は人口の40%を超える黒人が取材対象の7%にとどまっていました。それが2020年には27%に増え、白人は80%からおよそ60%まで減りました。ジェンダーでは女性が50%を超えています。それまで、ともすると時間がないことなどを理由に「いつも頼りになるあの専門家」「短くわかりやすい話をしてくれるあの人」にインタビューするといった傾向があったのを、常日頃から取材対象を広げることを意識し、個別の取材に入る前にもより多様な人の視点や声を取り込むことを話し合う時間をつくり、改善してきたといいます。WHYYはまた、職員・スタッフだけでは多様性を十分に広げることはできないという考えにもとづき、他のメディアや外部のジャーナリストと連携し、そのスキル・アップ研修も行ってきました。地域住民とのエンゲージメントの機会を増やして住民自身の発信力を向上する試みも続けています。

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全米公共ラジオNPRは自らのコンテンツだけではなく、幅広いメディアがアメリカ社会を反映するコンテンツを発信できるようにと、誰でも活用できる多様な取材対象のデータベースを作り、オンラインで公開しています。2013年に『Source of the Week』として立ち上げたもので、2021年に『Diverse Sources Database』として更新しました。多様な背景をもつ専門家や識者およそ400人の名前、肩書、略歴、連絡先、それにどんな話をする人かを知ることができる短いインタビュー音声が掲載されており、専門分野や地域ごとに人を探すことができます。こうしたデータベースは、幅広い分野の女性の専門家リスト『SheSource』12)、政治学の女性研究者を検索できる『WomenAlsoKnowStuff』13)、女性をはじめ多様なジェンダーの科学者をリストアップした『gage』14)など、分野別のものも増えており、放送や記事に登場する取材対象の多様性向上を後押しています。

多様性は性別、ジェンダー、人種、民族というような指標だけで語るものではなく、人の数だけあるものともいえます。ただ、そうした指標でみてもバランスよく社会の実態を反映していることは重要であり、また、より多くの人たちの声や視点を報道に反映していくための意識的なエンゲージメントやデータベースのようなツールと情報の共有が大事、という気づきがアメリカでの試みに繋がっているのだと思います。文研でもテレビの多様性に資する調査を続ける計画で、海外の事例とあわせ、今後もこのブログや「放送調査と研究」、それに文研フォーラムなどで報告していきます。



1) テレビ出演者のジェンダー・バランス~トライアル調査から
    (放送研究と調査2021年10月号)

2) みんなでプラス ジェンダーをこえて考えよう #BeyondGender
    テレビの女性・男性、ジェンダー 視聴者アンケート結果

3) Kimberly Godwin makes network history as next president of ABC News(15 April 2021)
https://abcnews.go.com/Business/kimberly-godwin-makes-network-history-president-abc-news/story?id=77075637

4) Rashida Jones named next president of MSNBC(Dec. 8, 2020)
https://www.nbcnews.com/news/all/rashida-jones-named-next-president-msnbc-n1250296

5) Sally Buzbee of the Associated Press named executive editor of The Washington Post, the first woman to lead the newsroom(2021年5月)
https://www.washingtonpost.com/lifestyle/media/sally-buzbee-washington-post-editor/2021/05/11/63491212-b25d-11eb-ab43-bebddc5a0f65_story.html

6) NBCUniversal Head Explains His 50% Diversity Challenge(2020年7月)
https://www.npr.org/2020/07/10/889842769/nbcuniversal-head-explains-his-50-diversity-challenge

7) Building a Culture That Works for All of Us(2021年2月)
https://www.nytco.com/company/diversity-and-inclusion/a-call-to-action/

8) NPR's Strategic Plan (FY21-23)
https://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=970198813

9) Want to know if your news organization reflects your community? Do a source audit. Here’s how.(2021年3月)
https://www.niemanlab.org/2021/03/want-to-know-if-your-news-organization-reflects-your-community-do-a-source-audit-heres-how/

10) Sourcing Diversity: WHYY and the rocky road to “cultural competency”(2019年9月)
https://www.cjr.org/tow_center_reports/public-radio-cultural-competency.php

11) NPR Diverse Sources Database
https://sources.npr.org/

12) Women’s Media Center - SheSource
https://womensmediacenter.com/shesource

13) WomenAlsoKnowStuff database
https://womenalsoknowstuff.com/

14) gage – by 500 Women Scientists
https://gage.500womenscientists.org/


メディアの動き 2021年12月14日 (火)

#354 まだ見えない大風呂敷の中身 ~政権の浮沈を握る「新しい資本主義」~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男


 岸田文雄自民党総裁が第100代内閣総理大臣に選出されたのが10月4日。そして衆議院選挙で新しい民意の信任を得て、第101代総理として政権を本格的に始動させたのが11月10日。さらに12月に入り、36兆円近い補正予算を成立させる臨時国会の召集。岸田内閣のスタートから2か月余りの慌ただしさは相当のものでした。

 ただ、このスタートダッシュの時間を確保できたのは、新型コロナウイルス感染拡大の第5波が菅内閣を退陣に追い込んだ後、束の間、感染が低い水準に収まっているからでしょう。11月30日には日本で最初のオミクロン株感染者が確認され、従来よりも感染力の強い変異株が第6波をもたらすのかどうかが焦点になってきました。岸田総理にとって試練の局面はこれからです。


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 そういう状況の下で、12月10日から12日にかけてNHK月例電話世論調査が行われました。「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」という問いに対する答えです。

 ☆「支持する」50%、「支持しない」26%という結果でした。

 岸田内閣の支持率は、発足直後の10月調査では49%、衆院選を経た後の11月は53%でしたので、12月調査の50%は“スタートから続く横ばい”の評価になります。

 永田町関係者の間では、「離陸直後の衆院選を乗り切り、巡航速度での安定飛行に入った」といった好意的な見方が一般的です。御祝儀相場の62%で始まり、半減以下の30%で退場した菅内閣と比べると「派手さはないが堅実」という受け止めです。

 就任後、最初の本格的な論戦の場となった臨時国会での岸田総理を見ていると、安全運転で進むために低姿勢で臨み、頭を高くしないように心がけているように感じます。


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 衆議院の代表質問で、立憲民主党の泉健太新代表が「提案型の論戦を目指したい」と切り出したのに対し、早速、岸田総理が提案を受け止める姿勢を示しました。

 泉代表が「18歳以下を対象とする10万円相当の給付を、全て現金で支給することはできないのか」と質したのに対し、岸田総理は「基本は現金とクーポン券の両方だが、運用で全て現金支給も可能にする」と応じました。

 全国の地方自治体から、クーポン券での支給には手間がかかりすぎるといった批判が相次いでいたとはいえ、国会の代表質問で野党の質問と総理の答弁がかみ合ったのを久しぶりに見ました。

 こうした岸田総理の低姿勢、早めの軌道修正は他にも目立っています。野党の質問に対し全否定に近い答弁が多かった安倍総理、原稿棒読みが指摘された菅総理と比べると丁寧さを感じます。

 石原自民党幹事長(衆院選で落選)の事務所が雇用調整助成金を受け取っていた問題に関連し、選挙後に石原氏を内閣官房参与に起用した任命責任を指摘されると、岸田総理は「混乱は否めない」と陳謝しました。

 こうした岸田総理の姿勢は、当選同期の安倍総理が「野党に対して上から目線」と指摘されていたことを多分に意識したものと言えそうです。安倍内閣の外務大臣を4年8か月務めていた間、岸田氏は3歳年上の安倍氏と「実の兄と弟のように息があっている」と評されることもありました。

 しかし、安倍氏が国会審議の場で時に居丈高にもなり、それが「モリカケ問題」の時のように事態をさらに悪化させていく姿を間近で見て、他山の石としたようです。

 いわゆる人柄の良さが滲み出ているという与党内の好意的評価がある反面、野党からは「攻め手をかわす柔軟姿勢は曲者だ」という複雑な警戒感が出ています。ここは政治的心理戦の趣です。


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 そして今回の本題です。12月6日の所信表明演説で、岸田総理は自民党総裁選以来の旗印として掲げてきた「新しい資本主義」について時間を割きました。

 『1980年代以降、世界の主流となった、市場や競争に任せれば、全てがうまくいくという新自由主義的な考えは、世界経済の成長の原動力となった反面、多くの弊害も生みました』と格差拡大などの問題点を指摘。

 そして『成長も、分配も実現する「新しい資本主義」を具体化します。世界、そして時代が直面する挑戦を先導して行きます』と声を強めました。まさに大風呂敷を広げたといったところです。

 では、その具体的な中身はというとどうでしょう。賃金引き上げを行った企業に対する税額控除の引き上げなど何点かは盛り込まれていますが、経済構造を抜本的に見直すような大きな構想は示されていません。所信表明演説では『来春には全体のグランドデザインと、その実行計画を取りまとめます』と締めくくりました。

 「乞うご期待」という所ですが、待てよ、春にはということは、年明けの通常国会での来年度予算案審議の時にも中身は見えず、来年夏の参議院選挙に向けた公約としてご披露しましょうということか?と勘繰ってしまいます。

 現在の日本経済、世界経済の抱える問題点を払拭する構想であれば文句の付けようもありません。しかし、大きな風呂敷だけ用意して中身がスカスカということになると、岸田内閣は失速の憂き目に遭いかねません。

 「新しい資本主義」なるものの道筋が徐々にでも浮かび上がってくるような取り組みを展開できるのか。低姿勢だけではなく、掲げた高邁な政策の中身が説得力のあるものになるかどうかが、政権の浮沈を握ることになります。


メディアの動き 2021年12月01日 (水)

#352 総務省で新たな検討会開始。どこまで踏み込んだ議論が行われるのか?

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 11月8日、総務省で「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(本検討会)」がスタートしました。放送行政を包括的に議論する場としては、2015年11月から行われていた「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」に次ぐ、6年ぶりの検討会の立ち上げとなります。諸課題検で行われていた受信料制度や民放の経営基盤強化等の議論は今後、本検討会に引き継がれていくと思われます。
 私は初回の会合をオンライン傍聴しましたが、放送行政の議論では長年踏み込んでこなかった問題提起が行われたと感じました。また、放送やメディアを巡る議論の場にはこれまであまり登場してこなかった、金融サービスや情報銀行といったデジタル化の幅広い知見を持つ構成員の人選と、彼らの発言にも関心を持ちました。総務省のウェブサイトには初回の議事要旨が公開されていますので、どんな議論だったのか、詳細をお知りになりたい方はそちらをご覧いただければと思います1)。本ブログでは、諸課題検が発足した時から放送政策の取材を重ねてきた私の視点で所感を記しておきます。

●影の主役は“ブロードバンド”?
 この検討会の影の主役は“ブロードバンド”ではないか、初回を傍聴して私が最も強く感じたのはこのことでした。そう感じた理由を、順を追って説明していきたいと思います。

*棚上げとなっていた“ミニサテ”問題
 まず前提として、地上テレビ放送の仕組みについて簡単に触れておきます。放送法上、地上放送局は、制作した番組や取材した情報を全国津々浦々の人々に届ける義務を負っています2)。そのため、現在、NHKと127局の民放はそれぞれ、放送波を送信する東京スカイツリーを始めとした大出力の親局、大規模中継局、そして、ミニサテと呼ばれる小規模中継局を設置し、維持・管理を行っています3)(図1)。


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 地上テレビ放送には、放送波で番組を直接自宅や集合住宅等のアンテナに送信するこの方法の他に、ケーブルテレビやIPTV(IPマルチキャスト方式5))による「再放送サービス」があります。現在、日本の全世帯の50%強は、自宅にアンテナを設置することなく、このサービスで地上放送を視聴しています。それでも世界的に見ると、日本は地上波を直接受信する世帯の割合は極めて高く、言い換えれば地上放送局が多くの親局・中継局を維持・管理している国であるといえます。
 ただ、同じ放送局でも、平地が多いエリアを基盤とする局とそうでない局では、状況に大きな差があります。前者では親局と数局の大規模中継局だけでエリア内の人達に放送を送り届けられますが、後者の山間部や離島を抱えるエリア等では、中継局とミニサテを合わせると100局以上を維持・管理しなければならないところもあります。私は取材や調査でよくローカル局を訪れるのですが、そこでは、雪が降る中、大雨が降る中、山の上にある中継局から放送波が途切れずきちんと送信できるよう地道で弛まぬ取り組みを続けていることや、それが局にとっての使命であり誇りでもあるということを伺うことも少なくありません。ただ、こうしたインフラに関わる負担が、近年の広告収入の減少で苦境に陥るローカル局の経営を圧迫しているということは事実でもあります
 2020年3月に議論がスタートした諸課題検の「公共放送の在り方に関する検討分科会(公共放送分科会)」では、民放連から、全人口の10%に満たない人達が住むエリアをカバーするために維持するミニサテの諸費用については、受信料収入で成り立つNHKがより多くの負担をすべきではないか、という考え方が提起されました6)。ミニサテは2020年代半ばから更新の時期を迎えるため、局によっては大きな出費が想定されています。これを踏まえてまとめられた改正放送法案では、NHKは難視聴解消に関して民放に協力するよう努めるという項目が設けられました。しかし、この改正案は国会に提出されたものの、審議未了のまま廃案となりました。
 こうして棚上げとなっていた“ミニサテ”問題ですが、本検討会では主要な検討項目となっています。会合の冒頭に金子恭之総務大臣からは、「地上テレビ放送については、地方部において従来の放送ネットワークインフラの維持が困難な状況にあり、早急な対応が必要」、中西祐介副大臣からも、「今、全国津々浦々に張り巡らされております放送のネットワークインフラについても、 やはり時代の変化を見据えて、効率的なコスト構造への転換を図っていく、そういう検討を重ねる必要があるのではないか」との発言がありました7)

*新たに出てきた「ブロードバンド代替」というキーワード
 さて、前置きが長くなりました。なぜ私は本検討会の影の主役がブロードバンドであると感じたのか。その理由を示すのが、事務局から提出された図2の資料です。これは、先程から述べているミニサテを含めた放送ネットワークの将来像についての論点を示したものですが、NHKと民放で設備共用を検討するという項目の下に、「ブロードバンド等による代替の可能性」という内容が示されています。
 去年の諸課題検の時は、あくまで放送波で送り届けるための設備としてのミニサテの更新や維持・管理を巡る負担をどうするのか、という議論でした。しかし本検討会では、それに加えて放送波をブロードバンドで代替する可能性と、それをなしうるための条件が議論の柱に据えられており、これまでの議論から一歩踏み込んだ問題提起に変わっていることがわかります。言い換えれば、諸課題検ではローカル局の経営を圧迫するインフラ部分の費用をどう削減していけるかがこのテーマの主眼でしたが、本検討会ではブロードバンドという放送波ではないインフラの整備にも受信料を活用することができるかというテーマへと、主眼が移っているとも言えるでしょう。
 更に事務局の資料には、具体的な代替手段の例として、光ファイバ、4G、5Gが入っているということにも注目しておきたいと思います。これまで地上放送の再放送サービスは先に述べた通りCATVとIPTVでしたが、一般的なオープンインターネットサービスであるユニキャスト方式による伝送も、今後、検討の照準に入ってくる可能性もありえます。この場合の技術的、制度的な位置づけをどうするのか。そして、この位置づけと、既に始まっているNHKを始めとする放送局による同時配信サービスとの関係はどう整理するのか……。ブロードバンド代替という提起をきっかけに、様々な議論が広がっていくことになるのではないかと思います。



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●今後の議論に期待すること

*“融合”議論どこまで?
 「通信放送融合」という言葉が一般的に使われるようになって既に10年以上が経ちました。その間、ユーザーにとっての融合は劇的に進みました。では、政策の議論はどこまで融合してきたでしょうか。
 私はこれまで、放送行政側から政策議論をウオッチしてきましたが、情報通信行政の中において、放送はやや特殊な存在として扱われ続けてきた気がします。これは、放送法による様々な規制の下で行われる免許事業であるということもさることながら、当事者である放送局自身が、今後も放送波という伝送路を活用した「垂直統合モデル」を守ることによってこれまでの公共的役割を果たし続けていくのだという意志と、あくまで放送の高度化によってメディアとしての将来を切り拓いていきたいという願望が強かったことも一因としてあるのではないかと思います。
 2017年に内閣府で規制改革推進会議が開始され、議論の一部には放送の実情が十分に理解されていない発言や、いささか乱暴ともいえるような問題提起が行われたりもしましたが、結果的には通信放送融合を前提に、将来のこの国のメディアの姿を考えていこうという方向性が出てきたように思います。そして今年は、総務省に情報通信行政を横断する若手改革提案チームが発足し、「情報通信行政に対する若手からの提言9)」をまとめるなど、総務省の中でも融合の議論が本格化してきました。こうした中、本検討会は、どこまで踏み込んだ議論を行っていくことになるのでしょうか。本日のブログでは放送ネットワークの将来についてのみ触れましたが、本検討会はこのほかにも、ローカル局の将来や配信サービスの今後、NHKのあり方にも関わる検討課題が提示されています。2回目以降の議論にも注目していきたいと思います

*単なるミニサテの置き換えか?それとも・・・?
 最後に、ミニサテの代替としてブロードバンドを整備・活用していく可能性を議論するにあたり、いくつか私が気になっている点を記しておきます。
 まず、仮にブロードバンド(5G等の無線も含む)が個々の世帯まで整備されたとして、そこで提供されることになる放送サービスを利用するため、日々発生する通信費用は誰が負担するモデルにするのかです。テレビの電源を入れるだけで誰もが安心して安定したクオリティの放送を(受信料を支払えば)見る事ができるという環境の整備に努めてきた放送局としては、視聴者にさらに新たなコストが発生するというモデルはあり得ないと考えます。
 次に、そもそもミニサテの更新・維持・管理にNHKにより多くの負担を、ということで始まったこの検討ですから、それがブロードバンド代替となった場合には、放送波ではない伝送路の整備・維持・管理に果たして受信料をあてられるかどうか、その場合の額はどの位までは許容されうるのか、ということが議論されることになると思います。公共放送から公共メディアに向けて歩みを進めるNHKとして、どれだけ丁寧に国民・視聴者に納得できる説明を行い、理解を求めていけるか、その姿勢が改めて問われるということは言うまでもありません。
 そして、この検討は単にミニサテで提供していた放送サービスのみをブロードバンド上で提供するということにとどめるのか、それともそうでないモデルをめざすのかです。代替という言葉から連想すると放送サービスのみの提供という印象を受けますが、それぞれの地域、それぞれの世帯でブロードバンドが活用できる環境が整備されたにもかかわらず限定的なサービスに限るというのは、やはり経済合理性に欠ける気がします。
 現在、光ファイバや5Gの整備を加速させて、人々の暮らしや地域社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)10)を加速させたいという国の大きな政策の機運があります。この機運はコロナ禍で一気に高まり、岸田新政権では「デジタル田園都市国家構想11)」も示されています。ただ、基盤となるブロードバンドインフラを全国津々浦々に整備し、全ての人々、全ての地域がその恩恵を享受できるようにすることは容易ではありません。条件不利地域の整備・維持を担う事業者には何等かの支援(交付金)が必要であり、その財源を誰がどう負担するのかという課題も解決していません。総務省では、電気通信事業法が全国一律のサービス提供の確保を求めているユニバーサル・サービスに、電話だけでなく光ファイバ等のブロードバンドを加える検討が続けられていますが、ミニサテがカバーするエリアは、ブロードバンド整備における事業者の非採算地域と重なり合うところも多いと思います。だとしたら、放送やメディアの政策を越えて、もっと大きな国の政策と連動させて考えていくことが出来るのではないでしょうか。そうすれば、かかる負担は放送局だけでなく、自治体や国など、多くの主体で背負い合うことができると思いますし、地域や人々にとっては、生活していく上で利便性が高まり、多様なメディアに触れることのできる可能性も高まると思います。そして放送局は、こうした地域DXに参画し、その担い手の一翼を担うことで、これまでの“放送の公共性”の役割に留まらず、新たな公共性の可能性を開拓していくことが出来るのではないでしょうか
 本検討会には、こうした俯瞰的でダイナミックな政策議論を期待しています。そして放送局には、守りではなく攻めの姿勢で検討課題に向き合うことを期待しています。


1) https://www.soumu.go.jp/main_content/000779340.pdf
2) NHKは義務、民放は努力義務
3) 親局や中継局、ミニサテは、局単独ではなく、複数の局による「共建」も多い。また、維持・管理については、青森県や長崎県のように、県内の民放が系列を越えて共同で会社を作り、そこに委託しているケースもある。
4) https://www.soumu.go.jp/main_content/000777188.pdf
5) 閉鎖的なネットワーク上に一斉に番組情報を配信し、そこからユーザーがリクエストした番組のみを受信する方式。1対1のユニキャスト方式に比べ、高画質のコンテンツを効率的に配信できる。契約者はケーブルテレビ同等のサービスを受ける事ができる。著作権法上もケーブルテレビと同様の扱いとなっている。
6) 背景も含めて詳細をまとめた文研ブログはこちら
7) 1)参照
8) https://www.soumu.go.jp/main_content/000777193.pdf
9) https://www.soumu.go.jp/main_content/000777197.pdf
10) ICTの浸透によって、人々の生活や企業や組織の活動をより良い方向に変化させるというもの11) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/index.html


メディアの動き 2021年11月11日 (木)

#349 「『テラスハウス』ショック② ~制作者と出演者の関係を考える~」

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 私はこれまで5回にわたり、文研ブログで『テラスハウス』に関する記事を書いてきました。『テラスハウス』とは、2012年にフジテレビ系列で放送が開始され、NetflixとFODで配信が行われてきたリアリティ番組1)です。2020年5月、番組に出演中だったプロレスラーの木村花さんが、番組の内容をきっかけとしたSNS上の誹謗中傷に苦しみ自ら命を断つという痛ましい出来事があったことは、多くの方の記憶に残っていると思います。

 現在、花さんのお母さんである木村響子さんは、誹謗中傷の被害者と加害者を減らすことを目標に啓蒙活動を行う「Remember HANA 2)」というNPOを設立し、活動を続けています。響子さんの問題提起もあり、この1年でSNSの誹謗中傷対策は大きく進みました。しかし、番組・コンテンツ制作のプロフェッショナルである放送局やメディアが、番組に協力、参加してくれる出演者や取材者に対しどのような姿勢で向き合うべきかという課題については、十分に議論がし尽くされたとは思えません。花さんが亡くなった当時は、こうした切り口の指摘や報道も数多くなされていましたが、1年半経った今では報じられることもほとんどなくなりました。メディア研究に携わる私の役割は、メディアの問題として「花さんをわすれない」ことだと考え、発信し続けています。

 「放送研究と調査」の10月号では、これまでのブログの内容に加筆修正した論考を発表しました。11月1日からは文研のウェブサイトでも全文を公開中です3)。論考では、木村響子さんの申立てをきっかけに審理が行われてきた放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会の決定4)、花さんの死後に進められてきたフジテレビのSNS対策5)、リアリティ番組“先進国”イギリスで進められている独立規制機関Ofcomによる放送局への規制の強化の動き等について取り上げました。

 これらの内容に通底するのは、制作者と出演者の関係はどうあるべきか、というテーマです。このテーマをもう少し広げて取材者と被取材者の関係性までも含めると、古くから存在する問題であるといえます。制作者や取材者は、出演者や被取材者に対して、どこまで演出や取材の意図を細かく説明すべきなのか……。また、制作のプロセスにおいて、出演者や被取材者の要望や不満にどこまで耳を傾けるべきなのか‥‥‥。対立が生じた時や出演者が悩みを抱えこんでしまった場合、どこまでコミュニケーションを深めればいいのか‥‥‥。番組制作に携わったことがある人なら、誰しも悩んだ経験があるはずですし、20年近く報道番組のディレクターをしてきた私自身も、当時は葛藤の連続でした。更にSNS時代を迎え、誹謗中傷への対策やそれによって傷つく出演者へのケアという大きなテーマが加わってきたのです。
 個々の現場の制作者はこれまで、出演者や被取材者との間で作る信頼関係と、番組編集の自主・自律を前提とする緊張関係とのバランスの中で悩みながら作業を進め、その方法が個人の経験として積み上げられ、それが組織内で共有される形で継承されてきました。SNS時代に急速に発展してきた『テラスハウス』をはじめとしたリアリティ番組は、若い一般の出演者と制作者が一蓮托生の状態の中で関係を構築し、台本なきドラマを紡いでいく、その難しさを魅力に昇華させていく力量が問われる新たな現場でした。こうした現場では様々な新たな模索が行われ、その結果、『テラスハウス』は世界的なブームとなるコンテンツとなったと同時に、花さんの死という痛ましい出来事も生んでしまったのです。

 リアリティ番組において出演者が自ら命を断つ事案が多く発生しているイギリスでは、放送局に対し、出演者契約や番組内容・演出、出演によって生じるリスク、提供可能なケア等について、詳細なインフォームドコンセントが義務付けられました。これまでは個々の現場の取り組みに委ねられてきた日本でも、今後、こうした議論は行われなければならないのではないかと私は考えています。プロフェッショナルメディアとして社会から信頼される存在であり続けるためには、出演者や被取材者への姿勢がどうあるべきか、より自律的に社会に示していくことが問われると思います。

 一方で、一部のリアリティ番組が目指してきたであろう、生きづらさを抱えながらも前を向いて生きていこうとする人達の発信や自己表現、そしてそれを通じた成長や挫折、そこからの立ち直りを見守っていくというスタイルの番組制作や取り組みは、今後一層、メディアが担うべき社会的機能になっていくのではないかと私は考えています。特に、プロフェッショナルメディアである放送局は、花さんの死をメディアの問題としてしっかりと受け止めた上で、こうした取り組みに果敢に挑戦していってほしいと考えています。

 

1) 制作者が設けた架空のシチュエーションに、一般人などの“素人”を出演させ、そこに彼らの感情や行動の変化をひき起こす仕掛けを用意し、その様子を観察するような内容
2) https://rememberhana.com/
3) https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/20211001_7.html
4) https://www.bpo.gr.jp/?p=10741&meta_key=2020
5) https://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/brc/determination/2020/76/taiou/76_taiou_cx.pdf


メディアの動き 2021年11月09日 (火)

#348 衆院選・結果の受け止め方は? ~世代で異なる納得と不満の度合い~

放送文化研究所 島田敏男


 11月10日、憲法が衆議院選挙後30日以内に開くことを定めている特別国会が召集され、岸田文雄・自民党総裁を改めて総理大臣に選出し、第2次岸田内閣がスタート。

 岸田総理は辞任した甘利明幹事長の後任に茂木敏充外務大臣をあて、参議院から衆議院に鞍替えした林芳正氏を外務大臣に起用。年内に臨時国会、年明けに通常国会と続きます。

 さて、10月31日に投票が行われた衆議院選挙で、自民党は解散時より議席を15減らしましたが、絶対安定多数の261を獲得。自民党単独で過半数を大きく超えました。


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 これに公明党を加えた与党の議席は293に上り、衆院の議席総数465の63%を占めて岸田総理大臣は引き続き安定した政権基盤を確保しました。

 これに対し野党側では、第1党の立憲民主党が共産党との候補者一本化によって各地の小選挙区で接戦を演じましたが、解散時よりも議席を14減らしました。政権交代を目指した枝野代表は、逆に議席を減らした責任を取って代表辞任を表明せざるを得ませんでした。

 野党の中で議席を増やした日本維新の会と国民民主党は、立憲民主党や共産党とは一線を画し、是々非々の立場で自公政権と向き合うとしています。

 この選挙結果を国民はどう受け止めたのか、11月5日から7日にかけて行ったNHK電話世論調査の結果を読み込んでいきます。

☆岸田総理は就任早々の10月14日に衆議院を解散して、31日には投票という異例の短期決戦に持ち込んで勝利しました。まず岸田内閣の支持率です。

「支持する」53%、「支持しない」25%という数字で、就任直後の10月調査よりも「支持する」4ポイント増、「支持しない」1ポイント増となりました。

 内閣支持率が50%を超えたのは、去年11月の菅内閣支持率56%以来1年ぶりです。菅総理が繰り返し押し寄せる新型コロナウイルス感染拡大に翻弄され、苦闘を続けてきたことを窺わせます。

☆衆院選の結果についてです。調査では「衆議院選挙で、自民党は、単独で過半数の議席を確保しました。今回の結果をどう思いますか」と尋ね、3つの選択肢から1つを選んでもらいました。


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「与党の議席がもっと多い方がよかった」10%、「今回の結果でちょうどよい」41%、「野党の議席がもっと多い方がよかった」40%、と割れました。

 岸田総理のもとで自公政権が継続され現状維持が図られたことに納得する人と、与野党の勢力がもっと接近して緊張感があった方がよいと考える人。双方がほぼ横並びです。

☆同じ設問について、与党支持者、野党支持者、特に支持する政党はない無党派の別に、それぞれ最も多かった答えを見てみます。

与党支持者では「今回の結果でちょうどよい」63%、野党支持者では「野党の議席がもっと多い方がよかった」75%、無党派では「野党の議席がもっと多い方がよかった」53%でした。

 与党支持者は与党支持者らしく、野党支持者は野党支持者らしく受け止めていると言えるでしょう。


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☆今度はこれを世代別に見てみます。


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18歳~39歳は「今回の結果でちょうどよい」54%、「野党の議席がもっと多いほうがよかった」24%。
40歳代は「今回の結果でちょうどよい」49%、「野党の議席がもっと多い方がよかった」37%。

  若い世代では選挙結果に対する納得度が比較的高くなっています。しかし、これが中高年齢層では傾向が異なります。

50歳代は「野党の議席がもっと多いほうがよかった」44%、「今回の結果でちょうどよい」42%。
60歳代は「野党の議席がもっと多いほうがよかった」55%、「今回の結果でちょうどよい」33%。
70歳以上は「野党の議席がもっと多いほうがよかった」42%、「今回の結果でちょうどよい」37%。

 若い世代では政治の安定が重要だと考える人が多いのに対して、中高年では安定よりも与野党の論戦や政策の競い合いに期待する人が多い一面が浮かび上がってきます。

 選挙結果に対する世代間の受け止めの違いは、今後どういう現象を生むことになるのでしょう?私は、日本という国の姿形がどう変わっていくか、どう変えていくかを考える上で、極めて興味深い傾向のように感じます。


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 今後、高齢世代が次第に退場する一方で、若い世代の投票率が高くなっていった時、どういう政策や政治の意思決定が求められて行くことになるのでしょう。

 今の政権与党が時代の変化に即した答えを示し続けることができるのか?政府与党以上に野党がこれからの有権者に望ましい道筋を提示できるのか?

 今回の衆院選では議員の世代交代を印象付ける選挙結果もありました。それと並行して、有権者の側も世代交代が進んでいくことに想像力を巡らせていく必要がありそうです。


メディアの動き 2021年11月01日 (月)

#347 最新の民意は「熟議への期待」 ~政治に小休止無し~

放送文化研究所 島田敏男


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 10月31日に投票が行われた衆議院選挙で、自民党は解散時より議席を15減らしましたが、単独で絶対安定多数の261を獲得しました。自民党単独でも国会を安定的に運営できる数です。

 これに公明党を加えた与党の議席は293に上って衆院の議席総数465の63%を占め、就任から間もない岸田総理大臣は引き続き自公政権の安定した基盤を確保しました。

 これに対し野党側では、第1党の立憲民主党が共産党の候補者絞り込みに助けられて各地の小選挙区で接戦を演じましたが、解散時よりも議席を14減らし党勢拡大に至りませんでした。枝野代表にとっては厳しい結果です。

 このように自民、立民の双方が議席を減らす中で、日本維新の会は解散時の4倍を超える41議席を獲得。全国各地での積極的な候補者擁立が功を奏し、公明党を抜いて第3党に躍り出ました。

 コロナ禍との戦いが続く中、第5波の感染拡大が一旦収まったタイミングに狙いを定めて行われた今回の解散・総選挙。この日程を組んだ岸田総理の判断が与党にとっては功を奏した格好です。

 ただ、自民党は野党候補の一本化によって甘利幹事長が小選挙区で議席を得ることができず幹事長辞任の表明に追い込まれるという痛手を負いました。また自ら派閥を率いる石原伸晃幹事長も野党の一本化候補に敗れ、議席を失う事態となりました。

 それでも全国的に見ると接戦で競り勝った小選挙区が多数あったわけですから、自民党は損害を「小破」にとどめたと言えそうです。


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 今回の衆院選で示された民意を全体としてどう受け止めるべきでしょうか。
立場によって受け止め方は様々で、新聞論調の中には「勝者なし」というものもあれば、「立民・共産の共闘不発」を強調するものもあります。

 私は是々非々を唱える日本維新の会が大きく躍進したことも併せて見ると、有権者は日本が直面する様々な課題に向き合うために「政治の舞台で展開される熟議への期待を示した」と見ることもできると考えます。

 短期的にはコロナウイルス対策の一層の強化。中期的には中国の台頭がもたらす経済・軍事の安全保障分野での不安の解消。さらに長期的には社会保障制度の持続可能性を担保する国家財政の健全化。温暖化対策。

 こういった課題について、国会の場で与野党が論戦を交わし、それを基に政府が必要な政策を立案する。そしてそれを実現するために必要な法律の制定や改正などを、国民によく見える形で積み重ねる。

 これまで2年近く続いてきたコロナ禍との戦いの下で委縮し先送りされてきた感がある、こうした政治本来の役割の再活性化を国民が期待していると見るのは決して的外れではないでしょう。


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 今回の衆議院選挙の投票率は55.93%で、前回(53.68%)前々回(過去最低の52.66%)を上回りました。SNSで投票を呼び掛ける芸能人やアーテイストの行動なども話題を呼びました。若い世代に「選挙に行く」ことの大切さを伝えようという機運が盛り上がってきたのは好ましいことです。

 この背景には、コロナ禍の緊急事態宣言の経験を通じて、国民に我慢を強いることができるのは政治の意思決定だということが実感され、政治参加プロセスへの接近が大切だと気付いた人が増えたという面もありそうです。

 「政治に小休止無し」という言葉があります。現代社会が未来に向かって進んでいくために乗り越えなくてはならない課題は次から次へと現れます。政治はその一つ一つに向き合い続けるのが宿命です。

 来年夏には次の大きな政治参加のプロセスである参議院選挙があります。まずはそれまでの間に国会の場で熟議が展開され、より多くの国民が政治参加に意義を見出してくれるようになることを期待しています。


メディアの動き 2021年10月19日 (火)

#345 あなたの声が選挙報道を変える ~『市民アジェンダ』の報道が持つ可能性

メディア研究部(海外メディア) 青木紀美子


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あなたの「声」で社会が変わる。

これは西日本新聞社「あなたの特命取材班(あな特)」のキャッチフレーズです1)。「あな特」は市民から寄せられた疑問や困りごとを記者が取材する「ジャーナリズム・オン・デマンド(JOD)」のプロジェクトとして2018年に始まり、地方紙を中心に各地のメディアがパートナーとして参加するJODのネットワークを全国に広げてきました。その力を示す連携報道が、2021年度の新聞協会賞を受賞しました。JODのパートナーである中日新聞社と西日本新聞社が、愛知県知事のリコール署名が佐賀県内で組織的に大量偽造されていたことを明らかにしたスクープでした。

取材のきっかけは市民からの「あな特」によせられたメッセージで、これを裏付ける具体的な証言も「あな特」取材班とLINEでつながる「通信員」から得られたといいます2)。新聞協会賞の受賞作品紹介には「民主主義の根幹を揺るがす重大な事実を、発行地域が異なる両紙が見事に連携してあぶり出した調査報道」とあります3)。「あな特」への言及はありませんが、今回の特報は、両社の取材力の賜物であると同時に、西日本新聞社が「あな特」を通して育んできた市民との信頼関係が持つ力、またJODのネットワークを通して、全国のJOD取材班とつながる市民が各地のジャーナリストとともに民主主義を見守るパートナーシップの可能性を示すものでもあります。

「あなたの声が選挙報道を変える」

2020年に行われた大統領選挙や地方選挙で、アメリカでは多くのメディアが、政党の戦略や政治家の主張、専門家が挙げる争点ではなく、市民が関心をよせる課題を出発点にした「市民アジェンダの選挙報道」にチャレンジしました。西日本新聞社が始めた「あな特」のJODとも重なる、市民の声に耳を傾けることから始まるエンゲージド・ジャーナリズムの試みの1つです。

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アメリカ中西部シカゴの公共ラジオWBEZは、この「市民アジェンダの選挙報道」のために声を寄せてほしいと市民に広く呼びかけるとともに、特にコロナ禍で大きな影響を受けた人たちの声を重視し、影響が大きかった人々のもとに足を運び、意見を寄せてほしいと働きかける「アウトリーチ」に力を入れました。健康影響と経済影響を考慮し、データをもとに人口比で△死者が多かった地区、△感染者が多かった地区、△初めて失業した人が多かった地区を特定し、その地域の住民が集まるイベントなどに参加し、聞き取り調査を行いました。


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アウトリーチの中心になったWBEZのエンゲージメント担当のプロデューサーのキャサリン・ナガサワさんは、住民にプロジェクトのねらいを説明し、話をしながら関心事を探り、その中から有権者が地域の政治家に取り上げてほしい、解決に力を入れてほしいと思う課題は何かを汲み取る努力も重ねました。また、地域で活動する市民グループや他の言語のメディアとも連携し、英語だけでなく、スペイン語、ベトナム語、中国語を含め4つの言語で質問や意見を受け付けた結果、オンラインと対面の聞き取りをあわせて2200件以上の声を集めました。


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質問が多かった期日前投票の仕組みや医療格差の問題などについては特集記事を出し、より広いテーマとして、△コロナ対策、△医療へのアクセス、△地域への投資、△治安と刑事司法改革など5つの課題を抽出し、取材の重点に掲げ、選挙戦中、そして選挙後にも地域の政治家に問うことを約束しました4)


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こうした「市民アジェンダ」に沿った発信は、選挙後も続けました。また、コロナ禍の影響が大きかった3つの地区では、住民から集めた質問を地元の政治家にぶつける公聴会型のオンラインイベントも開催しました。地域の住民から信頼されるネットワークや組織の協力を得たほか、多様な背景を持つ住民に配慮し、アラビア語、スペイン語、ロヒンギャ語の通訳もつけ、イベント1回あたり平均で5000人近くが視聴したということです。


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あなたの声が政治報道を変える

WBEZは、有権者の関心が高い課題について、有権者自身が政治家や行政担当者に直接、質問や意見を投げかけることもできるよう、課題ごとに予算や政策決定権限を持つ地元の政治家を一覧にし、その連絡先、政策や実績、それに対する市民グループなどの意見、さらに世論の動向などを説明する記事のリンクを1か所にまとめたページもつくりました5)。自分の住所を入力することで地元の政治家の情報を検索できるようにもなっています。意見や要望を伝えたくてもどうしたらよいか分からないといった有権者の声に耳を傾け、「ニュース記事とはこうあるもの」という定型に縛られない形で、市民が活用できるツールを提供しました。

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211018-88.JPGWBEZのエンゲージメント担当プロデューサーとして「市民アジェンダ」のとりまとめの中心になったキャサリン・ナガサワさんは、このように市民の声を取り込んで発信内容をかたちづくることは、市民とジャーナリストの距離を縮め、また、多様な人々が持つより幅広い経験にもとづく疑問や意見、解決策などのアイディアで、人数も経験も限られるジャーナリストの視野を広げ、発信内容をより豊かにするものだと話しています。



211018-99.JPGWBEZ政治・行政担当デスクのアレックス・キーフさんは、一連の取材を通して「市民は自分たちの声を聴いてほしいと切実に願っていることを実感した」と言います。長年の経験から、政治ニュースがともすると政治インサイダー情報のようになりかねないことを意識し、わかりやすく説明する努力はしてきたものの、コロナ禍を機に、市民の関心に応え、市民が暮らしの中で生かせる発信の必要性に目が開かれる思いをしたと言います。


あなたとともに報道を変える

選挙報道の出発点として市民の声に耳を傾けたWBEZの試みは、市民が選挙報道にとどまらず、政治報道、さらにはより広い報道のアジェンダ設定にも貢献できること、また、民主主義が機能しているかを市民とジャーナリストのパートナーシップで暮らしに身近なところから見守る可能性があることを示唆しています。西日本新聞社の「あな特」とJODにも重なり、情報があふれる中での埋没、多様な視点の欠如、信頼の低下など、メディアが直面する危機に、どう向き合い、どう報道のありようを見直していくか、人々の声に耳を澄ましながら見極めていく実験でもあります。

こうしたエンゲージド・ジャーナリズムの実践や実績について、文研では「放送研究と調査」で報告したほか、早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所とオンライン講座を共催しています。今回ご紹介した内容は、第1回講座6)のゲストスピーカーとしてキャサリン・ナガサワさんが話をした内容とプレゼンテーションにもとづくものです。

講座の第2回は10月23日(土)、ゲストにはWBEZの名物番組『Curious City』の初代プロデューサーで、その成功を機にメディアのエンゲージメントを支援するビジネスHearkenを起業したジェニファー・ブランデルさんを予定しています7)


1) あなたの特命取材班 (西日本新聞社)
https://anatoku.jp/

2) 「リコール署名偽造」あな特投稿が端緒 地域との信頼関係の成果(西日本新聞社)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/812147/

3) 署名大量偽造 連携し特報(新聞協会賞2021年度受賞作)
https://www.pressnet.or.jp/journalism/award/2021/index_2.html

4) You Told Us What You Care About This Election Season. Here’s How We’ll Report On It(WBEZ)
https://www.wbez.org/stories/wbez-ca-2020/23b8de3d-cf5e-4cc0-978b-dbf797ad1991

5) Whose Job Is It Anyway? Your Field Guide To Local Government In Chicago(WBEZ)
https://www.wbez.org/stories/whose-job-is-it-anyway-your-field-guide-to-local-government/18c4d2cd-b8b9-4744-9a2f-fb67cf73f84c

6) 次世代ジャーナリズム・メディア研究所:NHK放送文化研究所共催 オンライン連続講座 「市民とともにつくるエンゲージド・ジャーナリズム」第1回
https://www.waseda.jp/inst/cro/news/2021/06/29/6233/

7) 次世代ジャーナリズム・メディア研究所:NHK放送文化研究所共催 オンライン連続講座 「市民とともにつくるエンゲージド・ジャーナリズム」第2回
https://www.waseda.jp/inst/cro/news/2021/10/15/7271/


メディアの動き 2021年10月12日 (火)

#344 衆院選 最新の民意の行方は?~必要なのは政治の緊張感~

放送文化研究所 島田敏男

 

 10月4日に召集された臨時国会の冒頭、衆参両院で行われた総理大臣指名選挙で自民党新総裁の岸田文雄氏が第100代の内閣総理大臣に選ばれました。明治憲法の下での第1代伊藤博文から数えて第100代。これは記念すべき節目なのですが、第100代総理はそう長くは続かない運命にあります。

 なぜならば、衆議院議員の任期が満了になる10月21日直前の総理大臣選びだったので、憲法の定めに従って、衆院選後30日以内に開かれる特別国会で改めて総理大臣選びをするのです。岸田総理は10月14日の衆議院解散を選択し、19日公示、10月31日投開票の日程を組み立てましたが、選挙後の特別国会で改めて総理大臣選びをするのは同様です。

 そこで選ばれる総理大臣は第101代になります。従って第100代は2か月足らずでおしまい。仮に岸田氏が選挙で与党の多数を維持し、特別国会で再び選ばれれば、最新の民意に基づく第101代総理大臣ということになります。

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 岸田氏は「新しい民意の信任を得て国政にあたりたい」と語り、立憲民主党の枝野代表や共産党の志位委員長は、これを阻止しようと政権交代を訴え、4年ぶりの衆院選が繰り広げられます。

 そこで10月のNHK世論調査です。岸田内閣が発足して最初の調査で、10月8日から10日にかけて行われました。

☆岸田内閣を「支持する」49%で、「支持しない」24%でした。菅内閣最後の9月調査と比べると「支持する」+19ポイント、「支持しない」-26ポイントで、はっきりと上向きました。

 ただ、この内閣発足後最初の支持率を、データのある1998年の小渕内閣以降で比べてみると、岸田内閣の49%は発足の時点で30%台だった小渕内閣、森内閣を上回っていますけれども、48%だった麻生内閣と同じ程度です。小泉内閣の81%、民主党・鳩山内閣の72%には遠く及びません。

 手堅いけれども飛びぬけた勢いは感じられないといったところです。

☆一方、政党支持率はどうか?自民党が9月の37.6%から41.2%に上向き、立憲民主党が5.5%から6.1%にやや上向き。無党派層の全体に占める割合が40.2%から36.1%に下がり、その分が各党への支持に向かっています。

☆では、有権者は衆院選にどう臨もうとしているのでしょう?あなたは与党と野党の議席がどのようになればよいと思いますかと聞いた結果です。

 「与党の議席が増えた方がよい」25%、「野党の議席が増えた方がよい」28%、「どちらともいえない」41%となっています。 

   9月調査と比べると与党の推しは3ポイント増、野党の推しは2ポイント増で、その分「どちらともいえない」が6ポイント減っています。

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 今後、この数字がどう変化してくるかが選挙結果を探るポイントになりそうです。岸田総理の所信表明演説と、それに対する衆参両院での代表質問の中で、野党側は「自民党総裁選で岸田氏が掲げていた改革の具体策が、所信表明ではいくつも消えていた」と批判しました。

 総裁選で岸田氏は国民への成長と分配の好循環を実現するために、金融所得の多い富裕層を対象にした課税の見直しを掲げていましたが、所信表明には盛り込まれませんでした。こうした点を有権者が投票日までの論戦を通じてどう受け止めるか。最新の民意の行方を方向付ける上で、焦点になりそうです。

 短期決戦を前にして予測報道が様々出始めました。しかし選挙結果というものは流動的です。国民にとって一番大切なことは、衆院選の結果がどうあれ、選挙で示された最新の民意を謙虚に受け止め、その後の国会で、どこまで中身の濃い論戦が交わされるかです。

 安倍・菅政権では、ともすれば国会での論戦を軽視する政府・与党の姿勢が垣間見え、「数は力なり」がまかり通っている観がありました。特にコロナウイルスに翻弄されてからは先々を見据えた議論が尽くされたとはいえず、社会保障にしても安全保障にしても踏み込み不足が続きました。

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 来年7月には参議院議員の半数が6年間の任期満了を迎え、3年おきの参議院選挙が行われます。10月31日の衆院選から来年夏の参院選までの「選挙の1年」。国民にとっては、衆参両院であらゆる政策課題について政府・与野党が論戦を深める「熟議の1年」になってくれなければ困ります。

 日本社会の人口減少と高齢化が進み、隣国中国はアメリカをしのぐ超大国をめざし、ひたすら突き進んでいるように見えます。これを日本の政治はどう乗り越えていくのか。国民に対し将来に向けた判断材料を示すことが、国会に議席を持つ人たちの大きな責務に他なりません。

 国会論戦は言葉によって相手を打ち負かすだけでなく、言葉によって共通点を浮かび上がらせ、幅広い国民の理解と納得を形成する作業でもあります。

 そこには政治の緊張感が必要です。私たちは責任ある有権者として、選挙結果を背にした国会論戦の緊張感と、それがもたらす政治的果実にしっかり目を向けて行きましょう。