文研ブログ

2024年2月

メディアの動き 2024年02月22日 (木)

能登半島地震 地域メディアの状況は?~石川県・七尾市「ラジオななお」~【研究員の視点】#527

メディア研究部(メディア情勢)村上圭子

*はじめに
 2月17日、私は能登半島地震で大きな被害を受けた石川県七尾市を訪ねました。目的は、「ラジオななお1」というコミュニティ放送の取材でした。このブログでは、元日の地震から約1か月半の時点での局と街の状況を、私が見てきた範囲でお伝えします。

*コミュニティ放送とは?
 本題に入る前に、コミュニティ放送(コミュニティFMとも言います)とは何かについて、簡単に説明しておきます。NHKや民放は県域を主な放送エリアとしていますが、コミュニティ放送の放送エリアはおおむね市町村を単位としています。県域局よりもきめ細かく地域情報を伝え、住民の暮らしに寄り添い、コミュニティー活動を共に担う地域メディアであることが大きな特徴といえます2
 局名には、「ラジオななお」のように市町村名がついている局が多いです。しかし、実際に運営を行うのは民間の事業者やNPOなどの非営利法人で、市町村が直接運営することは制度上できません。多くの局では、市町村から行政広報の委託を受けたり、市町村が防災行政無線(同報系)で災害時に緊急情報を流す際、放送中の番組に割り込んで同じ音声を伝えるシステム(緊急割り込み放送)を導入したりするなど、密接な関係を構築してきました。2023年12月現在、全国には341局のコミュニティ放送局があり3、全国の約3割の市町村(一部を含む)をカバーしています。

*「ラジオななお」訪問
 石川県にはコミュニティ放送局が5局あり、そのうちの1局が能登半島にありました。それが、今回訪問した「ラジオななお」です。
 局は、JR七尾駅から歩いて数分、駅から北に海岸まで伸びる県道132号線沿いの、北國新聞七尾支社ビルの5階にありました。ビルの向かいにある七尾郵便局前の駐車場と車道の境目が大きく破損していて、この街を襲った震度6強の地震の大きさを物語っていました。

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北國新聞七尾支社(局は5階) 局の向かいにある七尾郵便局 七尾郵便局前の様子


 事務所兼スタジオはビルの5階。ドアを入ってすぐ右には、ボルトの跡が残る白い壁がありました。地震前、ここには、縦2メートル×横1メートルぐらいの鉄製の棚が4面、同じ大きさのスライド式の棚が2面、計6面にびっしりとCDが収められていたそうです。それらの棚は全て、ボルトごと引っこ抜かれて倒れていました。棚にあったCDは、4階から5階に上る階段の脇などに積み上げられていました。

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局の入口 CDの棚が設置されていた壁 階段に置かれたCD


*放送停止から再開まで

mr.nakagawa_8_W_edited.pngラジオななお放送部社員 中川晋さん

 発災後の状況について、放送部の責任者である中川晋さんにお話を伺いました。
 1月1日、午後4時10分の地震から13分後の午後4時23分、七尾市内には大津波警報発令が発令されました。ラジオななおが入るビルは、海岸から600メートル程しか離れておらず、海抜も高くはありません。中川さんは、元日だったこともあり、その日は局にはいませんでしたが、ひとまず高台に避難して警報解除を待つことにしたそうです。翌2日の午前1時48分、警報は解除されましたが、道路には亀裂や段差が多数生じていたため、段差が分かりにくい夜間の移動は危険と判断し、夜が明けて明るくなるのを待って、スタジオのある事務所に向かいました。
 2日朝に事務所に到着し、放送機材が無事だったことを確認。停電はしていましたが、自家発電装置のバッテリーで稼働していたため、中川さんは七尾市からの緊急情報を確認しつつ、社内の復旧作業を進めていました。しかし、その自家発電装置のバッテリーも切れてしまいました。
 そのため、電波を発射している送信所から直接放送を出すことができるようにするため、車で20分程のところにある送信所に向かいました。幸いにも送信所の電源は生きていました。中川さんは緊急の放送が必要になった場合に備えて準備を終了、テストのアナウンスも行っていたところ、事務所の電源が復旧したことが分かりました。(日頃から、スタジオや送信所に異常があった時、または復旧した時、携帯にメールが来るようにしているそうです。)
 再び事務所に戻った中川さんは、七尾市から届いていた給水情報や開いているガソリンスタンドの情報などを随時放送しながら、社内の復旧作業を進めていきました。

 ちなみに、地域メディアや災害情報を研究テーマとしている私は、発災後から、被災地のテレビやラジオのメディアのウェブサイトや、局が行っているネット配信をチェックしていました。特に、能登半島に局がある「ラジオななお」がどうなっているのかは気がかりでした。コミュニティ放送の多くは放送をネット配信しているため、ラジオななおのサイトにも繰り返しアクセスしてみました。しかし、1日には聞こえてくるのは非常に小さな番組のような音や雑音、アラーム音のみ。そして2日には全く聞こえない状態になっていました。(事務所が停電してバッテリーも切れてしまった時、ネット配信の電源も落ちたため)。3日に局のサイトのお知らせ欄が更新され、復旧作業をしながら放送を継続していることがわかった時には、コミュニティ放送に関心を寄せる人たちとその情報を共有して、ひとまず放送に従事している方が無事であるということにほっとしました。

*七尾市からの割り込み放送
 七尾市は、2007年にも輪島西南西沖を震源とした能登半島地震で被害を受けました。それを機に、合併前の1市3町ごとに異なる伝達方式で緊急情報を運用していたのを見直し、新たに「七尾市緊急防災情報告知システム」を構築しました4。これは、デジタル防災行政無線の代わりに、ケーブルテレビ網やコミュニティ放送の電波を活用して、屋外に設置されたスピーカーや防災ラジオ5を自動起動させるものです。
 中川さんは、このシステムの導入の検討にも関わり、その後は毎月1回、放送波で屋外スピーカーやラジオが自動起動するかどうかの試験放送を七尾市と共に行ってきました。そのため、今回の地震ではすぐに七尾市役所の担当者に連絡し、積極的に緊急割り込み放送システムを活用して、住民向けの情報提供を行ってほしい、と伝えました。その後次第に、市は緊急割り込み放送でライフライン情報などを提供するようになっていったといいます。

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七尾市「緊急防災情報告知システム」 市が販売している防災ラジオ


*現在の放送は?
 ラジオななおの生放送は、毎週木曜日の午前11時から午後2時までの3時間の『七尾もしもし探検隊』で、それ以外は同じ北國新聞系列である「ラジオかなざわ」などの生番組や録音番組を放送しています。震災後初めての生放送は1月4日の木曜日。その日の担当だったフリーのパーソナリティーの車吉章さんは、生放送前に自宅や店舗前で片付けをしている人々に話を聞き、放送に臨んだそうです6。以降、毎週木曜日には震災前と同様、3人のパーソナリティーが交代で生放送を行っています。
 被災した人たちの復旧に向けた多様な生活情報については、「ラジオかなざわ」が制作する番組の中で、七尾市の情報として放送する時間を設けています。この他、「井戸水が出ているのでどうぞ自由にくんでいってください」という商店や企業の情報などについては、ラジオのリスナーから寄せられた情報を元に、公式サイトや公式のXなどで発信されている情報を確認した上で、「ラジオななお」発の生活情報としてコーナーを設けて放送しているそうです。

*七尾一本杉通りにて

11_hanayomenorenkan.png「花嫁のれん館」常設展示(地震後は休館中)
出典: info@hanayomenorenkan.jp

 局での取材を終えた後、中川さんに被災した街を案内してもらいました。局から一本海沿いにある七尾一本杉通りは、多くの観光客が訪れる場所だそうです。特に有名なのが、「花嫁のれん」。通りにある展示館のウェブサイトによれば、花嫁のれんとは「幕末から明治時代にかけて加賀藩の領地内であった能登・加賀・越中で始まった婚礼の風習の一つで、嫁入りの時に嫁ぎ先の仏間に掛けられ、花嫁がくぐるのれん7」のこと。七尾一本杉通りのおかみたちのアイデアで、婚礼後、たんすにしまわれたままだった花嫁のれんを展示する催しを2014年から行っているそうです。
 七尾一本杉通りでは、創業から150年以上の和ろうそく屋さん8をはじめ、古い建物の風情を生かして店を営んでいたところもあり、被害が大きくて、歩いていて胸が詰まりました。そんな中、中川さんに声をかけてきたのが、この商店街でセレクトショップとアトリエを営む道下真奈美さんでした。震災後に会うのは初めてだったそうで、2人は1か月半ぶりにお互いの無事を喜び合い、近況をしばらく語り合っていました。

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一本杉通りで店舗を営む道下真奈美さん(左)

   アトリエ「つばさ」に飾られた子ども達の絵

 道下さんから発せられたのは、建物の公費解体に必要な罹災(りさい)証明の発行が進んでいないため、商店街の店舗の人たちは暮らしの再建に向けた道筋が見えないといういらだちや、被災のストレスを抱え込んだ子どもたちのケアへの思いでした。道下さんのアトリエの小窓には、震災後に子どもたちが描いた絵が飾られていました。大人のように愚痴やおしゃべりで恐怖や不安を解消できない子どもたちは、絵を描くことを通して少しずつ日常を取り戻していってくれているのではないか、そう語る道下さんの横で、中川さんは熱心に子どもたちの絵を見ていました。

*おわりに
 最後に立ち寄ったのは、道の駅・能登食祭市場、通称「七尾フィッシャーマンズワーフ」です。海岸沿いにあるため液状化の被害が大きく、休業が続いていました。私は能登半島に何度かプライベートで行ったことがあり、この市場も訪ねたことがあります。マアジ、さより、タラの白子も本当においしかったことを覚えています。

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道の駅 能登食祭市場(七尾フィッシャーマンズワーフ)


 「負けないぞ!!七尾!!みんなで支えよう能登半島」。今回は七尾市への訪問でしたが、引き続き、能登半島を訪ねながら、地域メディア、災害情報伝達を研究する視点で、被災地の復旧・復興のために何ができるのか、何を教訓として学び取っていけばいいのか考えていきたいと思います。


1  ラジオななお ウェブサイト https://www.radionanao.co.jp/

2  コミュニティ放送の詳しい役割については・・・
北郷裕美「コミュニティFMの可能性 公共性・地域・コミュニケーション」(青弓社)などを参照

3  総務省 電波利用ホームページ「コミュニティ放送の現状」
https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/system/bc/now/

4  総務省「コミュニティ放送等を利用した自動起動ラジオ地域事例集」 P90-93
https://www.soumu.go.jp/main_content/000495078.pdf

5  七尾市役所「七尾市防災ラジオ」
https://www.city.nanao.lg.jp/bosai/kurashi/bosai/joho/documents/bousairazio.pdf

6  詳細は「GALAC」2024年3月号 P73に掲載

7 「花嫁のれん館」ウェブサイトより引用

8 「高澤ろうそく」 被災した店舗の再建のためのクラウドファンディングも開始している
https://takazawacandle.jp/index.html

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村上圭子
報道局でディレクターとして『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』等を担当後、ラジオセンターを経て2010年から現職。 インターネット時代のテレビ・放送の存在意義、地域メディアの今後、自治体の災害情報伝達について取材・研究を進める。民放とNHK、新聞と放送、通信と放送、マスメディアとネットメディア、都市と地方等の架橋となるような問題提起を行っていきたいと考えている。

2024年02月15日 (木)

パーティー券裏金問題 改革論議は進むのか? ~対応遅れの岸田自民党~【研究員の視点】#526

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 通常国会が召集されて2週間余りの2月10日(土)から12日(月・祝)にかけてNHKの月例電話世論調査が行われました。自民党内の安倍派、二階派、岸田派の議員や関係者が政治資金規正法違反の罪で起訴されてから初めての調査でした。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する 25%(対前月-1ポイント)
 支持しない 58%(対前月2ポイント)

昨年後半から下降傾向が続いていた内閣支持率は、年明けに下げ止まった形でしたが、今月も上昇には転じることがなく低水準での横ばいが続いています。逆に不支持率は2か月前の12月と並び、岸田内閣が発足してから最も高くなっています。 

 このNHK世論調査の結果が出た13日に、自民党は党所属の国会議員らを対象にしたアンケート調査の結果を公表しました。過去5年間にパーティー券収入を政治資金収支報告書に記載しなかったり、不正確な記載だったりした現職議員が82人に上るという内容でした。 

0214_1.jpg自民党の調査票

 しかし、不記載のカネを何に使ったかや、本人からの申告に対してどこまで詳しく調査を行ったのかも分かりませんでした。野党側からは「単に調査をやっただけで、問題のあった議員が後になって明らかになるのではないか」といった指摘が相次ぎました。

  今の通常国会では、元日に能登半島地震という大規模な震災が発生し、与野党双方ともに予算審議と裏金問題を切り離していくのが得策だという認識で一致しています。政治とカネの問題を厳しく追及するとしている野党各党も、災害復旧経費などを含む予算の成立を遅らせては国民の理解は得られないと判断しました。このため政治とカネの問題に関しては、岸田自民党が、自ら積極的に対応するかが焦点になっています。

☆あなたは自民党の派閥の政治資金パーティーの問題に対する岸田総理大臣の対応を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 23%
 評価しない 69%

岸田総理は自らが率いていた岸田派の解散を打ち出し、安倍派や二階派などの解散を促すのは早かったのですが、パーティー券裏金問題の事実関係を究明する調査が遅れたことなどに、国民が厳しい視線を向けていることが分かります。 

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 政治とカネを巡る問題の再発防止に向けて与野党で新しいルールを議論するためには、裏金とされるカネを何に使ったのか、どうして報告書に記載しないという扱いが生まれたのかといった点を明らかにする必要があります。

 野党側は予算審議とは切り離し、衆参両院に設置されている政治倫理審査会で、問題が明らかになった議員や旧安倍派などの派閥幹部に詳しい説明を求める方針です。そして、ここで説明ができないならば、予算委員会での参考人招致や証人喚問などを求めていく構えです。

 その上で野党側や与党の公明党はルールの見直しの中身について、政治資金収支報告書に問題があった場合には、従来のように政治団体の会計責任者だけでなく、議員本人の責任も問うべきなのは当然だと主張しています。

☆あなたは政治資金規正法に違反する会計処理があった場合、会計責任者だけでなく、議員も責任を負う「連座制」を導入すべきだと思いますか。導入する必要はないと思いますか。

 導入すべきだ 82%
 導入する必要はない   9%

これを与党支持者、野党支持者、無党派の別に見ても、与党支持者と無党派では8割強、野党支持者では9割強が導入すべきだと答えています。自民党支持者が大部分を占める与党支持者でも、政治とカネを巡る事件の再発を防ぐためには甘い顔はできないという考えが広がっています。

0214_3.jpg首相官邸

 こういう状況の中で、岸田総理と周辺はどういう展望を描いているのかが気になるところです。内閣支持率は低迷していますが、自民党内では「岸田降ろし」の目立った動きはなく、自民党全体が様子見の状態になっています。

 ある政権幹部は、今年9月の自民党総裁選で真正面から挑んでくる対抗軸が一つに定まってこなければ、岸田総理は続投を断念する判断には至らないだろうと見ています。

 岸田総理と周辺は、令和6年度予算の年度内成立を前提にした比較的楽観的な見立てを消し去っていません。先に触れたように、野党側も予算を人質に取る戦術は取りにくいという事情があります。それと並行する春先の労使交渉での大幅賃上げ、6月の定額減税(国民1人当たり4万円)の実施と続けば国民の視線も和らいでくる・・・かなりの期待が込められていますが、岸田総理の心の安定につながる見立てではあります。

 ただ仮にそういう展望が描けたとしても、東京地検が現職議員3人の立件で捜査を終結させたことに不満を持つ国民は多く、一般市民が構成する検察審査会が立件されなかった議員について起訴すべきという起訴相当の議決を行う可能性は十分にあります。そしてその先には、過去にも例がある強制起訴に進むことも否定できません。国民の視線が厳しくなるのは避けられないでしょう。 

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 こう見てきますと、当面の政治状況は視界不良が続きそうです。政治とカネを巡る問題を乗り越えるには新しいルールが必要で、それを自民党だけで作ろうとしても国民は納得しません。与党の公明党や野党側の意見を取り入れた抜本的な議論が必要です。

  リクルート事件などに端を発した平成の政治改革の足らざる部分が今回の事件を生んだ面があります。令和の政治改革で、その足らざる部分を全面的にカバーすることができるのか。国民が求めているのは、情報化時代にふさわしい、可視化を前提とした政治とカネのルール作りに他なりません。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。

メディアの動き 2024年02月15日 (木)

【メディアの動き】イスラエル最高裁,外国メディアのガザ地区での取材を認めず

 イスラエルの最高裁判所は1月9日,現地の外国人記者協会(FPA)が国際メディアによるガザ地区での取材を認めるよう求める申し立てを退ける判断を示した。イスラエル軍の管理下にないジャーナリストによる報道は,イスラエル兵を危険にさらすおそれがあるという理由で,立ち入りの制限は正当だとした。

 2023年10月7日にイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が始まって以降,イスラエル政府は,ガザ地区での取材を厳しく制限しており,事実上,現地からの報道は,地元のパレスチナ人ジャーナリストなどに頼らざるを得ない状況が続いている。

 また,戦闘開始以降,ガザ地区では1月末までに,イスラエル軍の空爆などでメディア関係者78人の死亡が確認されており,こうした状況では,報道が,イスラエル軍や政府が発表する情報に,さらに偏ってしまうという懸念が広がっている。

 約130の国際メディアが加盟するFPAは,加盟社がガザ地区で独自取材をできるようイスラエル政府に申し入れていたが,却下されたため,最高裁に申し立てを行っていた。

 最高裁の判断を受けて,FPAは同日,「失望した」との声明を発表した。また,国際ジャーナリスト連盟(IFJ)は,「公権力の介入なく情報を受け取り,伝える権利を含む表現の自由を人びとから奪うものだ」と非難し,「国際メディアがガザ地区での戦闘を記録することは世界にとっても重要だ」として,イスラエル政府に対し,ガザ地区での自由な取材を許可するよう改めて求める姿勢を示した。

メディアの動き 2024年02月15日 (木)

【メディアの動き】アメリカ大統領選,報道が直面する難題

 11月のアメリカ大統領選挙に向け,与野党の候補者選びが1月に始まった。虚偽を主張し,刑事事件の被告となり,民主主義に反する発言も重ねるトランプ前大統領をどう伝えるか,同氏が野党・共和党の最有力候補となる中,メディアは難しい対応を迫られている。

 共和党の候補者選びの初戦となった1月15日のアイオワ州党員集会後,トランプ氏の勝利演説をMSNBCは生で伝えず,CNNも中継を途中で打ち切った。両チャンネルは同月23日のニューハンプシャー州予備選後の同氏の勝利演説は一部を中継したうえで,同氏が前の大統領選でも勝ったなどと虚偽の主張をしたことを指摘した。同氏の優勢が強まるにつれ,地上テレビを含め演説などの生中継は増えることが予想され,メディアは効果的なファクトチェックを行えるかどうかを試されることになる。Washington Postなどの調査(2023年12月)では,バイデン大統領の選出には不正があったとした人が2年前の調査時より増えており,事実への信頼をどう得るかも課題になっている。

 トランプ氏は,当選すれば大統領権限を拡大し,政府機関の独立性を廃するなどとしているほか,不正な選挙を正すためには憲法を含め,あらゆる法律を廃止できると公言し,「独裁者になるのは就任した初日だけだ」とも述べた。これらの発言を冗談や話題づくりをねらった挑発だとする見方がある一方で,民主主義への脅威であることを明確に伝えるべきだと警鐘を鳴らす専門家もいる。メディアはこうした問題を正面から受け止めて分析し,客観的と受け止められるように報道できるかどうかという点でも,その力量が問われている。

メディアの動き 2024年02月15日 (木)

【メディアの動き】ドイツ 州政府の諮問委員会,公共放送の包括的改革を提言

 ドイツの放送政策を所管する16州政府が2023年3月に設置した「公共放送の将来のあり方に関する諮問委員会」は,1月18日,報告書を提出した。諮問委員会は,「ドイツの公共放送は負のスパイラルに陥っており,創造性が停滞している」との認識を示し,「よりデジタルに,より効率的に,よりよい任務達成のために」として,公共放送の組織,ガバナンス,任務,財源に関する包括的な改革提言を行った。

 第1の提言は,ARD(ドイツ公共放送連盟)の組織改革である。ARDは,各州の公共放送が相互協力のために1950年に結成した法人格のない連合体であるが,近年は,サービスや業務に重複が多く,意思決定にも時間がかかるなどの非効率性が指摘されていた。この点について諮問委員会は,ARDの統括組織を法人として新たに設立することを提言した。統括組織は,加盟局の業務分担や財源分配をトップダウンで決定するとともに,ARDの全国向けサービスを担当し,各加盟局は州域向けサービスに特化する。これにより,迅速な意思決定や,組織とサービスの効率化とスリム化につながることが期待される。一部の政治家からは,ARD加盟局の合併や,公共テレビZDFと公共ラジオのドイチュラントラジオの統合を求める声もあるが,諮問委員会は,地域と報道の多元性を重視し,合併は誤った戦略だとした。

 第2の提言はガバナンス改革である。諮問委員会は,ARD統括組織,ZDF,ドイチュラントラジオのそれぞれに,従来の監督機関に代えて,より権限分担を明確にした「メディア評議会」と「管理評議会」を設置することを提言した。「メディア評議会」は社会の各界・各層の代表者から多元的に構成され,任務の達成状況について監督する。より大きな意味を持つのが「管理評議会」で,メディア評議会が選任した少数の専門家から構成され,経営戦略の最高責任を負い,予算案を決定し,執行部の業務を監督する。執行部については,これまでは会長1人が広範な権限を持っていたが,会長を含めた複数の執行役からなる合議体に転換し,より現代的な意思決定にすることが提言された。

 第3に,公共放送の任務については,公益と民主主義に資するという点を,法律でさらに明確に規定すべきとした。

 第4に,財源制度については,現行の全世帯徴収型の「放送負担金」制度を維持すべきとしながら,その額を改定する手続きについて,新たな方式を提案した。現在は,独立委員会のKEF(公共放送財源審査委員会)が公共放送の必要額を事前に審査し,4年ごとに額を改定している。これに代え,公共放送全体の予算を物価指数に連動させて自動的に決めたうえで,各公共放送機関の任務達成への意欲を高めるため,定期的に任務達成度を評価し,不十分とされた場合には配分額を減らす方法が提案された。

 第5に,諮問委員会は,番組配信の技術プラットフォームの開発を効率よく行うために,ARD,ZDF,ドイチュラントラジオによる共同子会社の設立を提言した。

 諮問委員会の提言には法的拘束力はない。16州政府は1月25・26日の会合で諮問委員会の提言について協議し,「大部分は州政府の方針と重なる」としたが,一部の州からはARD統括組織や新財源方式に反対の声も出た。州政府側は今後も協議を続け,秋までに法改正を実現したいとしている。 

メディアの動き 2024年02月14日 (水)

【メディアの動き】横浜で日韓女性記者交流会,メディアのジェンダー課題を議論

 日本と韓国のメディアで働く女性記者の交流会が1月20日,日本新聞博物館(横浜市)で開かれた。あわせて約50人が参加し,メディアのジェンダー課題について議論が交わされた。

 交流会は,「韓国女性記者協会」が2023年10月,日本の報道機関で働く女性記者をソウルに招いたことがきっかけで実現した。同協会は1961年,女性記者クラブとして発足。現在は韓国メディア33社に在籍する約1,600人の会員から成り,リーダー養成の研修を行うほか,各社の管理職や役員の女性比率を公表し,報道機関で働く女性の地位向上をめざしている。

 交流会ではキム・ギョンヒ会長(韓国SBS)が活動内容を報告すると,日本側の参加者からは運営資金や入会基準について質問が相次いだ。日本では女性記者の公式なネットワークはないため,「作ってみてはどうか」という意見もあがった。また韓国側からは「日本ではジェンダー関連の報道をどのように発信しているのか」と質問が寄せられ,女性がリーダーシップをとることやキャンペーンなどで継続的に報道していくことの意義について現状が報告された。

 同協会の訪日は今回が初。交流会のほか,朝日新聞東京本社を視察し,女性管理職登用に向けた独自のプログラムについて説明を受けた。

 日韓女性記者交流会を主催した神奈川新聞の秋山理砂統合編集局長は,「メディアのジェンダー平等を考えるうえで日韓の課題は似ていて,ともに学び合うことは意味がある。この交流会が,日韓メディアのジェンダー平等の取り組みを前進させていくきっかけになるとうれしい」と話している。 

メディアの動き 2024年02月14日 (水)

【メディアの動き】TBSテレビ『news23』の調査報道,BPOが「放送倫理違反」の意見

 2023年1月,TBSの報道番組『news23』で放送された,内部告発をもとにした調査報道について,BPOの放送倫理検証委員会は,内部告発者の身元が特定できないようにする措置が十分でなかったとして,「放送倫理違反があった」とする意見を2024年1月11日に公表した。

 問題となった番組では,各地の農業協同組合(JA)の共済契約をめぐって,JAの職員がノルマ達成のために身内の名義を使って必要のない契約をしている実態を,複数のJA職員の内部告発をもとに伝えた。証言した職員の顔にはぼかしがかけられ,音声も変えられていたが,職員に会ったことがあるという視聴者から,放送を見て誰であるかをすぐ特定できたという指摘がBPOに寄せられた。

 このため委員会で検証した結果,①内部告発者の保護よりも映像の見た目を優先した取材が行われた,②編集した映像のチェックが不十分であった,③取材経験の少ない番組制作会社の担当者に対し,具体的な撮影のやり方などの指示がなく,現場任せであった,などの問題点が判明した。

 民放連の報道指針には,「情報源を秘匿しなければならない場合,これを貫くことは放送人の基本的倫理である」と明記されている。委員会は「本件放送は,秘匿すべき内部告発者の周辺でその身元特定が強く疑われる状況を招き,取材源の秘匿を貫くことができなかった」として,「放送倫理違反があった」と判断した。

 一方,意見書では最後に調査報道の重要性を説き,「その意志を絶やすことなく,挑戦を続けてほしい」と強調している。

メディアの動き 2024年02月14日 (水)

【メディアの動き】能登半島地震,大津波警報で「命を守る呼びかけ」,SNSで偽情報の拡散も

 1月1日午後4時10分ごろ,石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の大地震が発生した。石川県輪島市と志賀(しか)町で震度7の激しい揺れを観測し,鉄筋コンクリートのビルを含む多くの建物が倒壊したほか,大規模火災も発生。土砂災害も多発し,土砂が道路を塞ぐなどして山間部を中心に孤立する集落が相次いだ。さらに大津波が発生。気象庁が行った現地調査では,▶新潟県上越市で5.8メートル,▶石川県能登町で4.7メートルの高さまで波が陸地を駆け上がったことがわかった。

 石川県によると,この地震により県内で死亡が確認された人は,同月29日午後2時の時点で238人となっている。特に新型コロナウイルス感染症が「5類」に移行した,いわば「コロナ禍明け後」に初めて迎えた元日の地震だったため,久しぶりに帰省し,犠牲になった人もいた。さらに過酷な避難生活などが原因で亡くなる,「災害関連死」の疑いはこのうち15人で,避難生活での被災者の健康管理や広域避難の進め方などが大きな課題となっている。

 この地震では,「石川県能登」に大津波警報が発表された。発表は2011年の東日本大震災以来で,放送メディア各社は緊急報道を展開。このうちNHKはアナウンサーが強い口調で,叫ぶように呼びかけ続ける「命を守る呼びかけ」を行った。これは,東日本大震災の津波で多くの犠牲者が出たことを教訓に作成されたもので,「今すぐ可能な限り高いところへ逃げること」などのさまざまな表現やフレーズを使って危険が切迫していることを伝え,住民の素早い避難を促そうというものだ。これについてX(旧Twitter)では「NHKのアナウンサーが叫んでいたので逃げた」という声があった一方,「怖かった」という意見もみられた。

 また,この地震では多数の偽情報がSNS上で拡散した。このうちXでは,今回の地震が「人工地震」だと主張して不安をあおる投稿が広がり,NHKは気象庁や地震の専門家の見解をもとに,打ち消し報道を行った。

 さらに,Xでは「インプレッション稼ぎ」とみられる偽の投稿も相次いだ。内容は「救助を求めている」というものだったが,石川県珠洲(すず)市内の架空の住所を使っていたり,実在する住所でもそこに住んでいない人の名前を使ったりしていた。また,その場所とは関係のない動画や静止画が貼りつけられていた。Xでは,2023年8月以降,有料サービスに加入しているユーザーが,投稿で獲得した一定の閲覧数=「インプレッション」に応じて収益を得られる仕組みになったことから,閲覧数による収益をねらって意図的に偽の情報を書き込んだ可能性があるとみられている。これを受けて総務省は1月2日,Xなどプラットフォーム事業者4社に対し,明らかに事実と異なり社会的に混乱を招くおそれのある情報について,各事業者が定める利用規約などに沿って適切に対応するよう文書で要請した。

 能登半島地震は,発生直後に津波警報・大津波警報と緊急地震速報が重なり,アナウンサーがとっさの判断を求められるなど,緊急報道の難しさを改めてメディアに突きつけた。また,SNS上で拡散する偽情報を,どう見つけ,打ち消すかなど,新たな課題も浮かび上がった災害といえる。

調査あれこれ 2024年02月02日 (金)

「日本人の意識」調査 データサイトへようこそ!#525

世論調査部(社会調査)原美和子/中山準之助

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 文研の代表的な世論調査、「日本人の意識」調査の、約半世紀にわたる調査結果をまとめたデータサイトが完成しました。

 この調査は1973年(昭和48年)に始まり、その後2018年(平成30年)まで、5年ごとに全部で10回の調査がおこなわれました。
 日本人の基本的なものの見方や考え方を長期的に追跡するため、調査方法や、質問・選択肢はほとんど変えていません。同じ条件で調査することで、結果を比較することが可能になっています。

 データサイトでは、全51問の時系列データを選んでご覧いただけます(上記のバナーからアクセスできます)。また結果はダウンロードできます。

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 調査内容は多岐にわたりますが、ここでは、「仕事と余暇のありかた」(調査での質問名は「仕事と余暇」)を選んでみます。

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 全体結果です。一番下のグラフが1973年の結果です。左から3番目 の選択肢「仕事にも余暇にも、同じくらい力を入れる」という人が、この45年間に21%から38%に増えました。一方、1973年には最も多かった「余暇も時には楽しむが、仕事のほうに力を注ぐ」人は36%から19%に減りました。

性別や年齢、都市規模、学歴別の結果も選べます。
こちらは男性と女性の結果です。

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 意識の変遷でたどる45年間の軌跡。みなさんそれぞれの「なるほど!」「びっくり!」、そしてもしかしたら「どうして?」を楽しみながらご利用いただければと思います。

 最後になりますが、この調査には合わせて30,000人以上の方(36,079人)にご協力いただきました。改めて御礼を申し上げます。

 「日本人の意識 1973‐2018」
https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-isiki/nihonzin/