メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇
1970年11月25日。
自衛隊市ヶ谷駐屯地総監室に立てこもり、バルコニーから檄文を撒き、自衛隊員に決起を促す演説をした直後、作家・三島由紀夫は自ら命を絶ちました。
世界中を震撼させたその日から、今日で50年。
三島をこの行動に駆り立てたものは何だったのか、三島文学とは何か、彼が憂いた日本と日本人は今、どこにいるのか。
50年間、三島は、多くの人々を悩ませ、語らせ続けています。
現在、NHKアーカイブスポータルサイト「NHK人物録」では、死の4年前の三島のインタビュー映像を公開しています。彼はこう語っています。
「人間の生命というものは不思議なもので、自分の為だけに生きて、自分の為だけに死ぬというほど人間は強くないんです。すると、死ぬのも何かの為、というのが必ず出てくる。それが、むかし言われた大義というものです」
既に自らの最期を決定しているかのようです。しかし同時に、「そういうことを思い暮らしながら畳の上で死ぬことになるだろう」とも漏らしています。自らが抱く大義に突き動かされながらも果たしてそれを実行できるか、ためらう様子が垣間見えます。
NHKでは、没後50年に合わせて、三島由紀夫とは何者だったのかを考える番組をいくつか放送します。
きょう25日深夜は、NHKスペシャル「三島由紀夫〜50年目の素顔〜」(21日放送の再放送)。
27日(金)、映像ファイルあの人に会いたい「アンコール 三島由紀夫」(2004年10月放送の再放送)。
28日(土)、ETV特集「転生する三島由紀夫」(新作)。
いずれも異なる角度から、小説家、思想家、そして1人の人間としての三島像に迫ろうとしたものです。
番組アーカイブを研究する中で、他にもたくさんの三島由紀夫関連番組と出会います。いくつかご紹介しましょう。
1995年放送、ETV特集「三島由紀夫 二つの仮面」。
作家の猪瀬直樹さんの取材記録を基に、平岡公威(三島の本名)の成長過程にスポットを当て、高級官僚だった祖父の存在と、その時代を背負って、公私ともに厚い「仮面」をまとってゆく男の精神を探る番組です。撮影担当の新沼隆朗カメラマンの荒々しいカメラワークは、まるで仮面を剥ぎ取ろうとするかのようです。
もう一本。2015年放送、日本人は何をめざしてきたのか 知の巨人たち「第7回 昭和の虚無を駆けぬける 三島由紀夫」。
三島と親交が深かったドナルド・キーンさんや、楯の会の会員、死の前年に討論した東大全共闘のメンバーたちの証言を織り交ぜながら、戦後の日本に絶望を深めてゆく三島の心模様を浮き彫りにしています。遺作『豊饒の海』のラストシーンは、当初はなんとも不気味で虚無的だった事実も示されます。
まだまだあるのですが、字数の都合もありこのへんで。
実はこの秋、「テレビ番組の再放送に関する意識調査」を実施しました。現在鋭意分析中ですが、NHKの視聴者のみなさんは過去の優れた番組を再放送することに対して概ね好意的な様子です。
三島由紀夫の数々の番組はもちろん、たくさんある保存番組をみなさんに再び見ていただくためには、権利処理などの課題があります。どうすれば課題を乗り越えられるのか、研究者として、一層励まねばと思うこの頃です。
メディア研究部(海外メディア) 佐々木英基
公共放送に警察が踏み込んだ
2019年6月、オーストラリアで気になる事件が起きました。公共放送ABCが家宅捜索を受けたのです。
なぜ? 理由は、ABCが軍の“機密文書”を基におこなった調査報道にあります。
リポートには、“アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍兵士が、2009~13年にかけて非武装の民間人を殺害した”という衝撃的な内容が含まれていました。
“機密文書”によって初めて明らかにされたものでした。
この報道には「機密情報を公開した疑い」があり、「機密の不正開示」を罰する法律に違反するというのが、家宅捜索をおこなった連邦警察の主張です。
捜索令状には、報道に関わった3人の名前が記されていました。
捜査員は、ABCのコンピューターシステムにアクセスし、一部のデータを持ち帰りました。
日本人である私からみても、ABCが報じた内容は、主権者であるオーストラリアの人々の「知る権利」に応えるものであり、家宅捜索は重大な問題をはらんでいるのではないかと思えました。
「なぜ“民主主義国家”オーストラリアでこんなことが起きたのか?」
「家宅捜索のあと、いったいどうなったのか?」
事件の概要や問題点を『放送研究と調査』の10月号に「"知る権利"と"国家安全保障"の相克~豪公共放送への家宅捜索から浮かび上がった論点~」としてまとめました。
ABC(オーストラリア放送協会)
“知る権利”は“風前の灯”!? 日本は…
今回の調査では、オーストラリアの有識者にも話を伺いました。
ある法学者は「9.11(2001年の同時多発テロ)が転機になった」と証言しました。
彼は、「9.11以降、“国家安全保障”の名のもと、多くの立法がなされ、“報道の自由”は後退し続けている」と指摘しています。
加えて、新型コロナウイルス感染対策の一環として政府が国民の行動を制限するようになったことにも触れ、「政府の強権主義が拡大し、“知る権利”の後退につながる恐れがある」とし、「これは、オーストラリアだけで起きている問題ではない」との懸念を示しました。
彼の懸念は、はたして杞憂だと言えるでしょうか?
また、軍事史やインテリジェンスに詳しい日本の学者からも、興味深い見解を伺いました。
「オーストラリア政府が文書を“非公開”とした背景には、“米国の存在”があるのでは」と言うのです。
オーストラリアと米国は同盟国で、軍事情報を共有しています。
「軍人による民間人殺害を記したこの文書は、非公開にすべき」という決定に際し、米国の意向が働いたのではないか、というのが、彼の見立てです。
つまり、オーストラリア軍の情報にもかかわらず、“公開か非公開か”を決める事実上の決定権は米国が持っているというのが実態ではないか、という見解です。
事態はいまも動いています。
そしてついに、11月19日、オーストラリア軍の制服組トップが会見を開きました。
アフガニスタンに派遣されていた兵士が、民間人など合わせて39人の殺害に関わっていたことを明らかにし、国民に謝罪したのです。
“知る権利”に対する内外のジャーナリストたちのこだわりが、今回は“機密の壁”に風穴を開けたようです。
メディア研究部(海外メディア) 青木紀美子
「選挙の日ではなく、投票の季節です」 1)
「選挙の日...選挙の週...選挙の月?」 2)
「選挙の夜ではなく、選挙の月に備えよう」 3)
これはアメリカのテレビやラジオの特集や記事の見出しです。その意味するところ、わかるでしょうか。「選挙の日」というのは11月3日。アメリカではこの日に大統領、連邦議会や州議会の議員、州の知事、判事、司法長官など、たくさんの選挙が一斉に行われます。一方で、「投票の季節」「選挙の月」というのは、その投票も開票も、選挙の日、1日で終わるものではない、長いプロセスであることを強調するものです。アメリカのメディア各社は、投票が期日前から行えることなど有権者が確実に投票するために必要な情報の提供に力を入れるとともに、選挙の締めのハイライトともいえる開票速報(Election Night Coverage)が「速報」で終わらない場合に備えて態勢をつくり、「選挙の月」へと長引く可能性について読者・視聴者の注意を喚起してきました。
こうした注意喚起が今回の選挙で重視されているのはなぜでしょうか。まずは背景にある大統領選挙の仕組みと、選挙を取り巻く問題をみていきます。
大統領選挙は、全米の有権者が投票する選挙ですが、大統領を選出する選挙人が州ごとに割り当てられているため、全米の得票総数ではなく、州ごとの得票にもとづき、獲得した選挙人の数が勝敗を決めることになります。この投開票の実施規則や日程も州ごとに異なります。早い州では1か月以上前から郵便投票や期日前投票が行えるようになっています。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、投票所の混雑が想定される11月3日を待たずに投票をする人が大幅に増えました。フロリダ大学のU.S.Elections Projectのまとめによると11月1日までに郵便投票をした人は5,900万人を超え、期日前投票所で票を投じた人の数とあわせると、既に投票を済ませた人の数は約9,300万人と4年前の大統領選挙の投票総数の67%に達しました。 4)
郵便投票は11月3日の消印まで有効とする州もあり、その数が多いほど、開票結果の集計には時間がかかることになります。この郵便投票について、トランプ大統領は不正行為が横行していると主張してきました。郵便投票の到着期限などをめぐって、既に複数の州で裁判も起きています。それだけに選挙後、投じられた票が有効か無効かを争って、集計結果に両陣営が異議を唱えることが予想されます。2000年の大統領選挙では、フロリダ州での票の数え直しを認めるか、認めないかが争いになり、連邦最高裁の判断で決着がつくまで1か月以上かかりました。今回も選挙結果の判定が法廷闘争に持ち込まれ、確定するまでに長い時間がかかる可能性があります。しかも、20年前に比べて政治や価値観によるアメリカ社会の分断が進み、トランプ氏とバイデン氏、両候補の支持者の間で感情的な対立や相互不信が深まっています。とりわけ2020年は黒人男性の警察官による暴行死をきかっけに全米に抗議行動が広がり、右派の過激なグループや民兵組織がコロナ禍の中での活動制限などに反発し、武装して集まるなど、社会の緊張を高める動きが続いてきました。このため、大統領選挙の結果が確定するまでに時間がかかった場合、混乱や衝突が起きることも懸念されています。
前回2016年の大統領選挙以上に誤・偽情報が拡散され、さらに根拠のない妄想ともいえる陰謀論が広がっていることも混迷を深める要因になっています。ワシントンのシンクタンクPew Research Centerがアメリカの18歳以上の成人を対象に8月末から9月はじめに行った調査では「トランプ大統領が民主党指導者ら”影の政府”による組織的な児童人身売買などを暴くために闘っている」などとする「QAnon (匿名Q)」の説を耳にしたことがある人の中で、これがアメリカにとって「とても」または「いくらか」良いとした人が共和党支持層で41%に上りました。 5) 社会の分極化に加え、新型コロナを受けた「ロックダウン」などによる隔離が続いた結果、人々が情報操作の影響を受けやすくなったと考えられています。「新型コロナの感染拡大は計画されたもの」「人々にマイクロチップを埋め込むために予防接種を受けさせようという陰謀がある」「郵便投票を使った大規模な選挙不正が行われている」などという陰謀論とも重なり、公的な機関への信頼を損ない、公正な選挙の実施に対する疑念を広げることにもつながってきました。Yahoo News/YouGovが9月に行った調査では今年の大統領選挙が「自由で公正に行われると思う」と回答した人は22%にとどまり 6)、Pew Research Centerによる9月末~10月の調査でも選挙は「あまり」または「まったく」うまく実施されないだろうとした人が回答者の38%に達しました。7)
こうした状況に危機感を抱く識者や研究者は、選挙後の混乱に備え、開票にあたっての報道では慎重を期すよう呼びかけています。
スタンフォード大学Internet Observatoryなどが立ち上げた公正な選挙のためのプロジェクト(Election Integrity Partnership)は、投票を妨害したり、選挙の正当性を脅かしたりする情報操作に備えるために想定すべき事態を報告にまとめました。 8) この中では例えば次のようなシナリオが示されています。
①結果が確定する前に特定の候補の勝利が宣言される
②これに沿わない集計結果を不正行為と決めつける「証拠」が拡散される
③その抑制を試みるソーシャルメディアの対応が検閲行為だと非難される
ジャーナリストにはこうした事態に備え、見通しが不確実な状況が生じても有権者が落ち着いて結果を待つことができるような報道をと促しています。
公共の課題に関わる政策研究や提言を行うAspen Instituteでメディア・デジタル技術を担当する部門の責任者、ビビアン・シラー氏らは選挙の運営担当者やメディア、IT企業の代表などとの話し合いをふまえ、メディアが留意すべき10項目をまとめました。 9) 以下のような項目が含まれています。
▽投票・集計過程でおきる個別の問題は選挙制度全体の欠陥ではない
▽結果が3日夜に判明しないからといって開票作業が「遅れている」わけではない
▽候補者の勝利宣言をそのまま報じるべきではない
▽メディアは結果を報じる際の表現に注意を
いずれも当たり前のことのようですが、誤解を生じさせない表現で、複雑な制度や州ごとに異なる開票と集計のプロセスについて誰でもが理解できるような伝え方ができているか、点検を迫るものといえます。
選挙の開票状況を同時進行で伝える開票速報は、対立が深く、接戦であるほど、早く結果を知りたい視聴者を惹きつけるものがあり、これまでメディアは勝敗を見極めるスピードを競ってきました。こうした開票速報を支える取材は、各地の開票所で集計作業を監視し、有権者の聞き取り調査などを行うことで、公正な選挙が行われているかを見守り、発表される結果が実際の投票行動を反映しているかを検証する役割も果たしています。しかし、アメリカのメディアは、今回の大統領選挙を通し、「速報」を競うことが、速やかに結果を知りたいという有権者の期待を高め、集計に時間がかかる場合に「不正が行われている」といった選挙の正当性を脅かす偽情報を拡散しやすくする危険性をはらむ、ということにも思いをいたす必要に迫られています。冒頭に紹介したような「選挙の月」の可能性を強調する報道も、そうした認識にもとづくものです。
開票速報は、選挙の結果を伝えるばかりでなく、普段は衆目を集めることが難しい選挙の制度や開票のプロセス、選挙を担う人々や有権者の思いを伝え、さらに選挙戦中にも伝えてきた政党・政治家の実績や政策課題などをまとめて整理・分析する絶好の機会ともいえます。さまざまな課題をはらむ今回の大統領選挙で、アメリカのメディアがどのような「開票速報」を行うのか、勝敗を報じる速さに重点を置く報道は変わるのか、変わらないのか、選挙の夜になるのか、選挙の月になるのか、アメリカばかりではなく、世界が目を凝らしています。
1) Plan Your Vote: It's not Election Day. It's voting season (NBC News)
https://www.facebook.com/NBCNews/videos/plan-your-vote-its-not-election-day-its-voting-season/971058506693190/
2) Election Day...Election Week...Election Month? (NPR)
https://www.npr.org/2020/10/01/919157955/election-day-election-week-election-month
3) Prepare for election month, not election night (Washington Post)
https://www.washingtonpost.com/opinions/prepare-for-election-month-not-election-night/2020/09/10/c8ae8c16-f3a1-11ea-bc45-e5d48ab44b9f_story.html
4) 2020 General Election Early Vote Statistics (The United States Elections Project)
https://electproject.github.io/Early-Vote-2020G/index.html
5) About four-in-ten Republicans who have heard of the QAnon conspiracy theories say QAnon is a good thing for the country-knowledge-misinformation
https://www.journalism.org/2020/09/16/political-divides-conspiracy-theories-and-divergent-news-sources-heading-into-2020-election/pj_2020-09-16_election-knowledge-misinformation_0-05/
6) New Yahoo News/YouGov poll: Only 22% of Americans think the 2020 presidential election will be 'free and fair' (Yahoo News)
https://news.yahoo.com/new-yahoo-news-you-gov-poll-less-than-a-quarter-of-americans-think-the-2020-election-will-be-free-and-fair-193758996.html
7) Voters less confident than in 2018 that elections in U.S. will be run well (Pew Research Center)
https://www.pewresearch.org/politics/2020/10/14/deep-divisions-in-views-of-the-election-process-and-whether-it-will-be-clear-who-won/pp_2020-10-14_election-security_0-03/
8) Uncertainty and Misinformation: What to Expect on Election Night and Days After (Election Integrity Partnership)
https://www.eipartnership.net/news/what-to-expect
9) How to cover Election Day and beyond (Columbia Journalism Review)
https://www.cjr.org/politics/2020-election-day-coverage-delays-disinformation.php
メディア研究部(メディア動向) 村上圭子
10月11日、日本マス・コミュニケーション学会秋季大会がオンライン開催されました。
私は、「ローカルメディアの課題~ビジネスと公共的事業の両立は可能か?~」というワークショップに参加して報告を行いました。ローカル民放がおかれた現状と課題、そして今後を展望しました。
報告したのは以下の4項目です。本ブログでは2回に分けて紹介していきたいと思います。
①厳しさ増す経営環境
②ローカル局改革議論の方向性
③ローカル局の公益的機能の今日的状況と課題
④地域報道・ジャーナリズムの持続可能性の担保
①厳しさ増す経営環境
地上波民放(テレビ)の収入で圧倒的な存在感を持っているのがCMによる広告収入です。これは、地上波民放の放送サービスが開始した時から変わっていません。加えて、在京キー局や在阪・名の広域局等では、映画やイベント、不動産、最近では配信サービス等の「放送外事業」にも力を入れてきました。ただ、多くのローカル局は、今も9割近くが広告収入に依存しています。(※キー局のネットワークに属さない独立局についてはもともと自治体や地域の事業も多く、広告比率が7割程度の局もあります。)キー局などの番組を放送することで得られる「ネットワーク配分金」は減少傾向にあり、東京に本社を置くナショナルクライアントと呼ばれる大企業が全国に出稿する広告も、特に非都市部向けが減少する中、ローカル局においても、広告収入依存の体質からの脱却は課題となっていたのです。
広告収入といえば、インターネットがテレビの広告費を抜いたというニュースが大きな話題となりました。民放連研究所では広告費の中期予測をしていますが、それによると、2025年に向けてインターネット広告はテレビだけでなくマス4媒体(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)+衛星メディアをはるかに抜き去る勢いで伸びていくとしています。しかし、この予測はコロナ禍以前のものです。今回のコロナ禍で、テレビの営業収入は前年度比で20%近く落ち込むことが予測されています。かねてからのネットシフトに加えて、コロナ禍で広告収入が激減している状況に対して、ローカル局からは悲鳴にも近い声が聞こえてきています。
しかし、一言で民放ローカル局といっても、経営体力もビジネス環境も大きく異なっています。下記の資料は122局あるローカル局のうち、20局を抜粋し、売上高や従業員数などの事業規模の差異を示した民放連の資料です。在阪局の売上は600億円超、在名局は300億円前後、一方、大都市部を抱えない地域の局は30億~50億円という規模が相場のようです。
次の資料は、民放1局あたりの人口がどのくらいになるのか、県の人口を局数で割り算したものをグラフ化したものです。2007年と2019年の比較も入れています。放送エリアが広域にまたがったり2県のエリアもあったりするため、あくまで参考として見ていただきたいのですが、1局あたりの人数が少ない地域は、それだけ広告収入を得ることも難しいという一つの目安にはなると思います。中でも岩手県や山形県、石川県、愛媛県、長崎県などは、もともと県の人口が少なく、加えて人口減少が著しい地域にもかかわらず1県に4局の民放があるため、経営環境は厳しいです。つまり、ローカル局といっても事情は千差万別であり、もともと経営体力が低く&ビジネス環境が厳しい局は、減収でより厳しくなっているといえるでしょう。
こうした状況下で今年大きく進行しているのが放送の同時配信です。NHKはこの4月から「NHKプラス」をスタート、民放でも日本テレビがこの10月から、トライアルで「日テレ系ライブ配信」と称する同時配信をTVerで開始しました。現時点ではNHKも日本テレビも、東京の番組を中心に全国に一斉配信しています。
同時配信を巡っては、放送エリアと同じエリアに限定して配信する、いわゆる“地域制御”を設けるか設けないかが、ここ数年大きな議論となってきました。東京などから一斉に番組が配信されてしまうと、ローカル局の視聴率や広告ビジネスを棄損してしまうのではないか等の懸念が、ローカル局からあげられていたからです。ラジオについては、当初から地域制御を設ける形で、radiko経由で各局が配信しています。しかしテレビについては、見逃し配信についてはTVerなどを通じて全国配信を実施、またローカル局の一部でも見逃し及び同時配信を全国向けに積極的に実施しているところがあり、部分的に可能なところから五月雨式に配信サービスが開始されてきたというのが実情です。こうした中、テレビ局が足並みをそろえて“radikoスタイル”を選択するという流れはもはや現実的ではない、という声も次第に高まっている気がします。
もう1つ、同時配信については、国の政策としてこれまで以上に積極的に進めていこうという流れもあり、文化庁においては早期の著作権法改正も検討されています。
以上のように、民放でも同時配信加速化の機運が高まるということは、ローカル局のビジネスにとって向かい風になるのでしょうか、それとも追い風になるのでしょうか……。
<小まとめ>
ここ数年、広告収入依存からの脱却という経営の体質改善に取り組んできたローカル局ですが、多くの局では、放送外事業の成果が見える前にコロナ禍が経営を襲いました。こうしたさなかに進む同時配信加速化の機運は、ローカル局が全国に情報・番組を発信する好機ともいえますが、そのためにはノウハウも人材も必要ですし、何より配信する情報・番組が充実していなければビジネスになりません。経営体力的にもメディア環境的にも厳しい局は、今後、より一層厳しい状況に陥っていくことが想定されるでしょう。これまで、局の規模に関わらず、どの局も等しく日本の地域社会を支える公共的なメディアとしてそれぞれが単独の会社という形で存続してきたローカル民放ですが、こうした共通のマインドを持ち、共通の経営の処方箋を考えていくことは、今後は難しくなっていくのでしょうか。
②ローカル局改革議論の方向性
ローカル局はどのような方向に向かっていくのでしょうか。コロナ禍以前、放送政策としては2つの場でローカル局のあり方が検討されていました。少し振り返っておきたいと思います。
1つ目は、自民党の「放送法の改正に関する小委員会」で、2018年12月に第二次提言を出しました。(第一次提言はNHKの同時配信と受信料制度に関する内容)。この提言における最も大きなメッセージは、ローカル局の放送対象地域の拡大など、これまでの県域免許を見直し、局の積極的な再編を促進すべき、というものでした。
この提言も受けた形で議論が始まった、総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」の「放送事業の経営基盤に関する検討分科会」でも、初期の頃は構成員から、県域免許の見直しや県域免許を根拠づける基幹放送普及計画の見直しなどが提起されました。しかし、2020年6月に公表された取りまとめは、再編などの経営判断はあくまで当事者である放送局に委ねるというスタンスでまとめられ、総務省としては再編などに必要な制度改正が放送局から要望されれば環境整備に努めたいとする、政策主導ではなく事業者主導が明確に打ち出されたものとなりました。(※この取りまとめが公表された時にブログを書いていますのでご参照ください。)
この総務省の検討分科会と並行して議論が進められていたのが、民放連に設けられた「ローカルテレビ経営プロジェクト」です。議論の成果は今年7月に報告書としてまとめられ、民放内で共有されています。私は民放連に許可をもらって報告書を拝読しましたが、これまでなかなか踏み込めなかった領域にまで議論が及んでいて少し驚きました。たとえば、メディア環境が厳しい地域については、現行法では認められていない「1社(局)2波」も検討していくべきではないかとか、これまでのハード・ソフト一致の垂直統合モデル型の経営から、ハード(施設の整備や維持の業務)を切り離し、ソフト(取材や番組制作)に特化すべきではないか、などの検討です。放送局の数やチャンネル数を削減するといった再編議論が進められる前に事業者自らが取り得る選択肢はないのか、主体的に考えていかなければ将来に向けて道が拓けないという覚悟が感じられる議論が始まっているように思います。
この報告が出された後、民放連は9月に開催された諸課題検の「公共放送の在り方に関する検討分科会」である提案を行いました。ローカル局の経営が厳しくなる中、民放のハード(インフラ)の維持にNHKの受信料を充てられないか、というものです。具体的には全国に約500か所ある、「ミニサテ」と呼ばれる電波が届きにくい地域に設置している小規模な中継局の設備を維持・更新するコストを、これまでNHKと民放各局で等分負担していたものを、「条件不利地域へのユニバーサルサービスの維持という発想で、受信料財源を持つNHKがより多く負担するという考え方も成り立つのではないか」、というものでした。この提案については構成員から、ネットにおいて協力義務があるのに(放送の)本来業務に協力義務が全くないのはどうなのか、二元体制が維持されることで日本の言論空間が豊かになることは、視聴者国民にとっての利益、視聴者への還元である、という意見も出されました。
<小まとめ>
ローカル局の今後に向けた議論は、設備等のハード機能のコスト軽減・削減の方策と、地域メディアとしてのソフト機能の充実という方策の二本柱がポイントになってきています。こうした文脈の中で、NHKの役割や受信料の用途を考えていくことも問われてくるかもしれません。今後の議論を注視していきたいと思います。
次回のブログは、報告項目の③④について紹介していきます。
メディア研究部(メディア動向) 村上圭子
フジテレビ系で放送していたリアリティーショー『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020(以下、『テラスハウス』)に出演していた22歳の女性プロレスラー、木村花さんが亡くなって、まもなく5か月が経とうとしています。花さんの母親の響子さんはBPO(放送倫理・番組向上機構)に対し、「番組で狂暴な女性のように描かれたことによって、番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」と人格権の侵害などを申し立てていましたが、先月(9月)15日、BPOは審理を開始することを決定しました。今後BPOの放送人権委員会では、番組を制作したフジテレビにもヒアリングを行っていくことになります。
10月1日に発行した『放送研究と調査』10月号では、木村花さんの死が社会に提起した様々な問題について考えていくシリーズの第1回を掲載しています。
ここでは、リアリティーショーの誕生から今日に至る歴史を、欧米と日本を比較しながらひも解きました。欧米や日本のこれまでのリアリティーショーの具体的な番組内容や様々な課題について詳細に触れていますので是非お読みいただきたいのですが、かなりの長文になっていますので、そこまではちょっと…と思われる方は、サマリーした内容(10分もあれば読了します!)を先日のブログにまとめていますので、こちらを是非お読みください。
今後、本ブログや「放送研究と調査」では、BPOの審理の進捗なども踏まえながら、SNS時代のリアリティーショーと番組制作における制作者の責任や、出演者・視聴者との関係性について考えていこうと思っています。今回のブログでは、日本よりもはるかに多くのリアリティーショーが放送されており、同様の問題への対策の議論が先行するイギリスの状況について触れておこうと思います。
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イギリスでは2019年7月から2020年7月まで、放送やメディアの独立規制機関であるOfcomが、視聴者参加型の番組で出演者を守るためのルールについて、意見募集を行いました。Ofcomでは以下の項目を放送規則に加えることを提案しています。
*放送局側が番組参加者に対し、参加することでどのような損害を被る可能性があり、
どのような負の影響が出るかなどについて説明し、これに十分な同意を得ること
*“傷つきやすい人々”及び参加することで損害を被るリスクがある人々に対し、十分なケアを提供すること。
なぜこうした提案がOfcomから出てきたのか、意見募集を終えた現在の状況はどうなっているのかについて、ご自身もブログでイギリスのリアリティーショーについて執筆されている1)フリージャーナリストの小林恭子さんに伺いました。小林さんには今回、「放送研究と調査」の論考を書くにあたり、イギリスのリサーチをお願いしています。
村上:
今回Ofcomが提案している規則案は、リアリティーショーの出演者に対する放送局の説明責任や、ケアの必要性について言及したものですが、“リアリティーショー先進国”であるイギリス社会では、いつ頃からこうした問題意識が持たれていたんでしょうか。
小林:
イギリスでいわゆるリアリティショーのブームを生む契機となったの『ビッグ・ブラザー』(2000年、チャンネル4で放送開始)です。郊外の一軒家(「ビッグブラザーハウス」)に若い男女数人を隔離し、共同生活の様子をカメラで監視し、これを放送するという、当時としては前代未聞の形式が取られた番組で、当時からプライバシーの侵害問題、人間を常時監視することの是非、参加者たちのプライベートな会話の中の中傷あるいは差別的表現、暴力的行為などにどう対処するべきかなど、論争のネタは尽きませんでした。
ただ、当初は参加者・出演者の心身への負の影響は(同列に語られていたとしても)それほど大きな問題とは認識されていなかったように記憶しています。テレビに出ると途中で脱落しても有名人になれましたし、「普通の人」がメディアに出ることで私生活を切り売りしたり、最後に優勝すれば多額の賞金がもらえたりするなどの行為について、参加者は「私生活が暴かれるのを承知で出ているのだから」という認識がありました。
この番組が大ヒットとなり類似番組が続々と作られていくようになると、リアリティーショーは「番組形式の1つ」として受けいれられるようになっていきます。日常になってしまったわけですね。それに伴い、番組形式自体に対する批判(監視体制やプライバシー侵害の是非など)は当初よりは目立たなくなり、知識人を含めた著名人が出るスピンオフ番組も数多く放送されるようになってきました。
村上:
出演を決めた側に責任はある、という世間の受け止めですね。ただ、多くの人達が一斉に視聴するテレビに出演し、名前や顔が一気に広まり“有名になる”ことに伴う様々な影響はあまりに大きく、プラスの効果はなんとなく想像できるしそれを期待して出演を望んだ(受け入れた)というのはあると思うのですが、マイナスの効果についてどこまで想像が及んでいたかといえば疑問ですよね。だから、私は自己責任論には拠りたくないです。しかし、イギリスでもその論調が変わってきた、ということなんでしょうか。きっかけはどんなことからですか。
小林:
ソーシャルメディアが急激に広がり、これによる番組参加者への影響も大きくなり、出演者には以前には見られなかったほどの複雑な問題やリスクが生じる可能性が出てきたんです。こうした中、2019年には司会者が課題を抱える家族同士を対決させる『ジェレミー・カイル・ショ―』(ITV)の出演予定者が自ら命を絶ったり、番組が中止になったりする事件(2019年5月)がおきました。また今年2月には、孤島で8週間若い男女が生活する様子を観察する『ラブ・アイランド』(ITV)で、司会者キャロライン・フラックが自ら命を絶つ事件(今年2月)が発生しました。フラックさんは、同番組への出演者(司会者も含むと)の中では3人目の自殺者です。この番組ではその後も1人亡くなり、計4人が自ら命を絶っています。自殺の背景にどこまで番組への出演の影響があるのかは事例によって異なるようですが、社会的に見逃せない状況になってきているのは間違いありません。こうした事件が起きるたびに、Ofcomには数千、場合によっては数万の苦情が寄せられています。
加えてイギリスでは近年、メンタルヘルスに対するイメージアップや、幸福感(ウェルビーイング)についての意識が高まるという文化上の変化も起きています。このことによって、番組への出演も含めて様々な体験から生じる心身への危害をもっとオープンにしていこう、そして懸念を発信していこうという動きが出てきていると思われます。
村上:
なるほど。リアリティーショーという番組そのものが出演者にかける負荷の問題に加えてソーシャルメディアの存在が大きくなってきたということが、今回、Ofcomが動いた大きなきっかけということですね。意見募集は7月に終わったそうですが、現在はどのような状況なのでしょうか。
小林:
現在、Ofcomは取りまとめに入っているところです。放送業界の反応ですが、リアリティーショーだけでなく、ニュースや時事番組の出演者についても放送局側に「ケアの義務」を課されることになると自由な報道ができなくなる、と懸念しているようです。
村上:
たしかに放送局の立場からすると、放送規則で縛られるのではなく、局自身が自主的にルールを決め、その内容を社会に示して対話の中で決めていく、そして出演者に対し、出演を決める前から継続的にコミュニケーションをとり信頼関係を構築しながら番組制作、放送を行っていくというのが理想だと思いますが、それはなかなか難しいということなんでしょうか。
小林:
先の『ラブ・アイランド』など人気が高いリアリティショーを多く放送するITVは、既に「注意義務(Duty of Care)」を文書化しています。最新の注意義務ガイダンスによると、番組制作者は出演者の健康と安全に責任を持ち、番組参加による出演者への衝撃及び放送による衝撃の両方を考慮することが求められています。補則にはリスクの程度に応じて、何をするべきか、リスクをどう判断するかも示されています。
ローリスクの場合は、制作前の段階として「出演者から同意(インフォームドコンセント)を得る」、「番組の性質、目的、出演者は何を求められるかを説明」、「同意を与える能力に影響を与えるような健康問題などを抱えているかどうかを査定」するなど。撮影中は「ストレスやメンタルヘルス問題の兆候があるかどうかをモニターする」、「ITVのコンプライアンスあるいはリスクチームからアドバイスを得る」など。アフターケアとしては、「放送後の制作側の連絡情報を提供する」、「常にサポートを提供できることを出演者に明確にする」、「ソーシャルメディア上での敵意あるコメントについてのアドバイスを与える」などです。
ハイリスクの番組の場合は、制作前に「番組出演による負の面、例えばオンラインでの攻撃、知人らがメディアにその人についての情報を売る可能性があることなどを教える」、「これを記録する」など。撮影中は「専門家による心理学上のアドバイスを24時間提供できるようにする」、「出演者の健康を管理する担当者を置くこと」など。アフターケアとして「フィードバックの時間を持つ」、「それまでの生活に戻るため、あるいはメディア報道への対処などを支援する」、「カウンセリングを提供する」など。撮影が終了し、出演者が帰宅する前に出演者の心理状態、番組内でどのような位置づけとなっているか、メディアやソーシャルメディア関連のアドバイス、お金の面についてのアドバイスも提供するようにと書かれています。最後の項目は、出演によって巨額の出演料が入る可能性も高いことを加味してだと思われます。
村上:
うーん。それを伺うと、細かく決めて配慮を行っている、という印象以上に、そこまでのことをしなくてはならないほどリスクの高い番組って何なんだろう、と感じてしまうのが正直なところです。特にハイリスクの番組については、そもそもこうした番組をあえて制作すべきなのか、とも感じてしまいました。そして、こうした「注意義務」があるにも関わらず、結局は出演者の自殺を食い止められていない、ということなんですね。
小林:
そうなんです。そのことも今回、Ofcomが規則化を提案する背景にあります。提案が今後どうなっていくのかについては注視していきたいと思いますが、ただ、こうしたリスクが指摘され、議論が大きくなってもなお、リアリティショーは継続して制作・放送されるのではないではないでしょうか。それはやはり、視聴率が高いこと、高額の広告収入が入ることなどの要因があるからですが、根本に「テレビの魔力」があるからではないかと思います。「出てみたい」と思わせるのがテレビです。多くの若い人にとって、リアリティショーに出る人は憧れの対象になり得ます。著名人であっても、一つ上の段階に行くためにテレビに出たがる人は無数にいることでしょう。
でも、Ofcomが提案書を出す際の理由にも挙げていますが、その負の面も次第に注目を集めることになってきました。いいことばかりではないことが分かってきたのです。リアリティショーをめぐって、私たちは「テレビ」という、いわば魔物を手なずける道を探すべき時に来ているのではないでしょうか。何万もの人の目にさらされることで、自分の傷つきやすい部分が何倍にも拡大されてしまうこと、ソーシャルメディアが発達したことで、視聴者の反応が双方向に広がること、出演者を攻撃する可能性があること、こうしたことに自分は 本当に耐えられるのかを考えてみること。
もし前向きの要素があるとしたら、リアリティーショー出演による負の面を減少させる動きが出演者の側から出てきたことかもしれません。BBCニュースによりますと、リアリティーショーの出演者たちがいかにソーシャルメディアの反応に苦しめられたかなどを告白し始めています。また、今月から、リアリティーショーの番組の出演者を“オーディションする新番組”が放送されるのですが、そこでは、かつて出演者だった人達がオーディションに来た若者たちへのアドバイスをするそうです。「スポットライトの下に出た瞬間、あなたは(人に)判断される。だから、面の皮が熱くないとダメ」と。その出演者たちは、かつて自分たちが制作側から全く何のケアも支援も行われなかったと吐露しています。
リアリティーショーは多くの若者層にとってすでに日常の一部として受け止められていますし、テレビの魔力が続く限り、出演者側が賢くなって「ともに生きる」しか選択肢はないように思っています。
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木村花さんが亡くなって以降、リアリティーショーのような番組を制作すべきではない、と発言している精神科医や評論家は少なくありません。番組が何らかのきっかけとなって尊い命が失われた以上、こうした論調に大きく傾くのはある意味当然であるとも思います。ただ、放送文化やコンテンツ文化のあり方を考える立場の私としては、リアリティーショーと呼ばれるジャンルを全て一律に括り、制作はやめてしまうべき、という論に安易に与してしまうことは、この問題に対して思考停止してしまうことになると思っており、だからこそ考え続けていかなければならないというスタンスに立っています。そして日本においては、いまもなお数多くのリアリティーショーが、主に現在は配信サービスではありますが、制作されているという状況もあります。
ただ、今回イギリスの状況を小林さんに伺い、より頭を抱えることになってしまったというのが正直な感想です。日本ではイギリスのような放送局や配信事業者自身によるガイドラインも作られていない状態ですし、仮にガイドラインが作成されたとして、ソーシャルメディアがこれだけ広がっている中で果たしてどこまで有効に機能しうるのか……。
今回、小林さんに伺ったOfcomの提案の結果や放送局の反応については、改めて「放送研究と調査」で続報を記していきたいと思います。また、日本でのBPOでの審理についても見守っていきたいと思います。
1) 小林恭子「【テラスハウス・出演者死去】英国のリアリティ番組でも、問題続出 私生活露出でもOK?」
『ヤフー個人ニュース』(2020年6月1日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20200601-00180964/
放送文化研究所 島田敏男
安倍晋三総理大臣が8月28日に職を辞する考えを国民に向けて表明して以降、テレビ各局は久しぶりの政局報道に多くの時間を割きました。
7年8か月ぶりに現実になった総理大臣の交代という出来事。「若手の政治記者にとっては、初めての体験だった」と取材現場の歳の近い後輩たちから聞くにつけ、「時代は変わった」と呟かざるをえませんでした。
私は中曽根内閣(1982年~1987年)以後の政治の動きを政治記者、政治担当解説委員などとして見つめてきました。つまり55年体制が崩壊して、与野党の入れ替わりによる政権交代を含むドタバタ総理交代劇、短命内閣の浮き沈みを何回も間近で目撃してきた1人です。
そんな経験からか、今回の総理交代が国民の政治意識を鋭いものにしていくのか、それとも単に政治不信を増幅させるだけのものになるのかが、大きな関心事になりました。
退陣表明の19日後の9月16日に安倍内閣が総辞職し、衆参両院で菅義偉氏が第99代総理大臣に指名され、その日のうちに菅内閣発足となりました。2度目の安倍内閣の発足以来、官房長官として一貫して支え続けてきた菅氏が後を引き継ぐことに対し、自民党内には当然だとする見方が早くから生まれていました。「安定第一」の最近の自民党らしい政局観と言えるでしょう。
その一方で、自民党の浮き沈みに大きく影響してきた無党派層。世論調査で支持政党を訊かれると「特に支持する政党はない」と答える人たちです。
こうした無党派層の中には、菅内閣に対して「閣僚の顔ぶれを見ると安倍氏に対する忖度内閣ではないか?」という素朴な感想を抱く人も少なくありません。
NHKが新内閣発足から5日後、6日後の4連休後半に行った世論調査で、菅内閣を支持すると答えた人は62%、支持しないは13%でした。
これはNHKが電話による世論調査を始めた橋本内閣以降で見てみますと、新内閣発足直後の数字としては、小泉内閣の81%、民主党・鳩山内閣の72%に次ぐ高い水準です。
電話世論調査も少しずつ手法が変わってきているので単純には比較できません。それでも2度の安倍内閣、民主党・菅(かん)内閣、野田内閣とほぼ同じ60%台に載っているのは比較的高い水準と言えます。
報道各社の調査結果を見ると、NHKと同じ60%台の支持率のところから74%というところまで幅があります。世論調査の研究者の間には「内閣を支持するか、しないかと訊ねて答えがない時に『あえて言えばどちらか』と重ねて聞くだけで数字は変わってくる」という指摘が以前からあります。各社の調査手法に対する考え方の違いの表れかもしれません。
さて内閣支持率だけでなく、今回の調査結果には「なるほど」と感じさせるものがありました。「菅内閣は安倍内閣の政策や路線を引き継ぐ方がよいか、引き継がない方がよいか?」という設問に対する回答の傾向です。
全体では、引き継ぐ方がよい53%>引き継がない方がよい38%でした。これを詳しく見ると、与党支持層では70%>26%、野党支持層では26%<71%で正反対になっています。
そして無党派層を見ると44%と45%で横並びです。つまり全体の4割を占める無党派層の中では、安倍路線の継承を是とする人たちと、継承を否とする人たちが拮抗していることが分かります。
菅総理は「規制緩和で改革を推進する」と強調しています。ただ、これはデジタル庁の設置構想など、安倍内閣でやり残したことを引き継ぐという姿勢が先に立っています。
今、コロナ禍にさいなまれている日本、世界。その先で日本は超高齢社会の下での少子化に向き合わなくてはなりません。結局、安倍内閣は将来を見据えた税と社会保障の新たな改革に踏み出すには至りませんでした。
菅総理が繰り返す「改革」の言葉が、どこまで先々に責任を持つものかを質すのは野党の仕事です。とりわけ合流で大きくなった立憲民主党の枝野幸男代表、政策面で支える泉健太政調会長の力量が試されます。
与野党が国会で緊張感と実りのある政策論争を展開してこそ、多くの国民が「これならば衆議院の解散・総選挙で方向性を選ぶべきだ」という気持ちになるでしょう。
それがないままの選挙日程の押しつけは危うさを否定できない。こう感じる人は決して少なくないということも各種世論調査は示しているようです。