文研ブログ

調査あれこれ 2022年09月27日 (火)

#424 興味のなかったことに関心を持つうえで、もっとも役に立っているメディアは?

世論調査部(視聴者調査) 渡辺洋子

ちょっとしたきっかけで、これまで興味がなかったものに関心を持つというような経験、皆さんもありますよね。

私は、少し前にSNSで流れてきた投稿をきっかけに、これまで特に関心がなかった戦国マンガに夢中になって、大人買いする、なんていうことがありました。
そのあと、しばらく寝不足になり、大変な思いをしました・・・。

 

さて、みなさんは何をきっかけに、新しいことに興味を持ちますか?

文研で、全国16歳以上の方を対象に、興味のなかったことに関心を持つうえで、もっとも役に立っているものを尋ねたところ、下のグラフのような結果になりました(図1)。

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「テレビ(録画再生・インターネット動画サービスを含む)」を挙げた人が29%ともっとも多く、「あてはまるものはない」が17%、そして「YouTube」が13%と、メディアとしては「テレビ」が1番目、「YouTube」が2番目です。

テレビが1番多いのは予想どおりでしたが、テレビに次いでYouTubeが多かったのは、意外な結果でした。

YouTubeは、利用者の視聴履歴をもとに、それぞれの利用者が関心を持ちそうな動画が目につきやすいところに表示されるしくみになっています。
そうした仕組みのサービスでも、「興味のなかったことに関心を持つ」という感覚の人が一定数いるということです。

 

16~29歳に限ると、さらに驚くべき結果となりました。
YouTubeが28%、テレビが17%と、YouTubeがテレビを逆転していたんです(図2)。

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16~29歳では、興味のなかったことに関心を持つうえで、テレビよりもYouTubeの方を評価しているということです。

もしかすると、若い人はテレビを見ないのでテレビの評価が低くなったのかもしれないと、テレビを見ない人を除いて確認してみることにしました。
※ちなみにこの調査では、16~29歳で、録画やインターネットで見る番組も含め、テレビ番組を日常的に(週に1日以上)見ない人は12%でした。

さて、どのような数字になったのでしょうか。

結果は、テレビ番組とYouTube、どちらも週に1日以上利用する16~29歳でも、
YouTubeが31%、テレビが19%と、YouTubeがテレビを上回っていました。

つまり、テレビもYouTubeも両方利用していても、16~29歳では、テレビよりYouTubeの方を、興味のなかったことに関心を持つうえで役に立つと思っているんですね。

 

テレビでは、ニュース、バラエティー、ドラマ、ドキュメンタリーなど、さまざまなジャンルの番組が、誰に対しても同じように流れます。 自分が好きなものが流れてくる確率は低いかもしれませんが、まったく知らなかったものを偶然目にして関心を持つという、新たな出会いが生まれやすいのではないかと考えていました。

ところが今回の結果をみると、若い人にとっては、さまざまなものが流れてくるテレビより、視聴履歴をもとにおすすめを提示してくれるYouTubeの方が、新たな関心を広げる上で役に立つと感じられていることがわかりました。

メディアに対する意識は、年齢や利用状況によって様々です。

『放送研究と調査』2022年8月号では、テレビやYouTubeなどのメディア利用と意識について、「全国メディア意識世論調査・2021」の結果をご紹介しています。
テレビと動画の利用状況の変化,その背景にある人々の意識とは~「全国メディア意識世論調査・2021」の結果から~

どうぞ、ご覧ください。

調査あれこれ 2022年09月20日 (火)

#423 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」取りまとめ公表を受けて(3)「攻めの戦略」議論 本格化へ

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 総務省で開催中の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検) 1)」では、今秋、2つのワーキンググループ(WG)が発足する予定です 2)。1つはデジタル情報空間においてフェイクニュースやアテンションエコノミー等の課題が指摘される中、「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス 3)」に、人々がアクセスしやすくするための方策を検討するものです。検討の対象となるサービスとしては、地上放送の同時配信等が想定されています。もう1つは公共放送に関するもので、ネット時代における公共放送の役割や、現在は放送の補完業務であるNHKのネット活用業務の位置付け等について検討されます 4)。こちらは明日21日に第一回が開催されることになっています 5)

 上記はいずれも、放送コンテンツのネット配信を政策的にどのような姿で促進させていくのかを検討するもので、8月に公表された在り方検の取りまとめでは、今後の放送制度議論における「攻めの戦略」と位置づけられています。在り方検は去年11月から議論が行われていますが、これまでは、前回のブログでも紹介したような 6)、ハード機能のコスト負担の軽減という「守りの戦略」が主要な論点でした。いよいよ今秋から、この「攻めの戦略」の議論が本格化することになります。この議論は、ネット空間における“放送局の公共性”とは何かが問い直される本質的なテーマに通じると私は考えています。そのため本ブログでは、議論を前に在り方検の取りまとめやこれまでの議論等から、主要なポイントをまとめ、若干の問題提起をしておきたいと思います。

① 「放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等を後押しする方策」

 上記のカギカッコに入った文言は、在り方検の取りまとめをそのまま転記したものです。これから検討される主要な「攻めの戦略」のうちの柱の1つで、この「放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等」が、先に述べた「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス」にあたります。一読しただけでは意味を読み取りにくいので、文言を分解してみておきたいと思います。

〇「放送に準じた公共的な取組を行う」とは?

 こちらは、これまで放送局が放送制度の下で担ってきた様々な公共的役割を、ネット空間においても放送に“準じた”形で担っていくこと、と言い換えていいでしょう。取りまとめの中では、取り組みの具体的な内容として、災害情報や地域情報等の発信、視聴履歴の適切な取り扱い等があげられていました。
 このうち視聴履歴については、在り方検と並行して「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会(視聴データ検) 7)」で議論が行われてきました。「放送に準じた公共的な取組」としての“適切な取り扱い”として最も重要視されていたのは、視聴者の「安心安全の確保」でした。
 構成員の一人で、デジタル情報空間における課題に警鐘を鳴らし続ける慶應義塾大学教授の山本龍彦氏は、「放送の世界のように、過度なプロファイリングやパーソナライズが行われず、フィルターバブル、エコーチェンバー、フェイクニュース等が起きにくいような情報提供機能はこれからも残していく必要がある 8)」と述べています。確かに、放送波の技術的な特徴は一方向、いわゆる“送りっ放し”で、誰が視聴しているのかというデータを把握できないため、双方向が基本のネットサービスのような、視聴者の属性等に応じてコンテンツや広告を出し分けるようなサービスはできません。しかし、多くの人たちに同じ内容を一斉同報することこそが、放送メディアの最大の価値や役割でした。
 しかし、デジタル化によってテレビがネットに接続できるようになってから、テレビ放送の視聴においてもデータの収集が可能となりました。日本よりも早くテレビのネット接続が進んできたアメリカでは、視聴データを活用したターゲティング広告も行われるようになっています。日本でも、ここ数年はテレビのwi-fi接続の広がりもあり、全世帯の半分近くのテレビはネットに接続した状態、つまり、“コネクテッドTV(CTV)化”しています。現在、在京キー局を中心に各局が様々な形で視聴データを収集しており 9)、今後、そのデータをどのように活用していくかは、各局にとっても放送業界にとっても、重要な経営戦略の1つとなっています。ただし、データの取り扱いについては、これまで放送局が担ってきた公共的役割に鑑み、「放送受信者等の個人情報保護に関するガイドライン 10)(放送分野ガイドライン)」が設けられ、それに則って放送業界や専門家を交えた慎重な議論が進められています 11)
 視聴データ検の議論では、こうしたテレビ放送の視聴データだけでなく、放送局による配信サービスの視聴データも大きな論点となりました。構成員の一人、弁護士の森亮二氏は、「テレビのコンテンツを配信する際は、コンテンツは既に自主的な取組によって安全であるが、データにおいても安全だということは一定程度確保していただきたい 12)と述べました。つまり、放送局は放送法の下、自主自律的な取り組みの中で、視聴者にとって安全なコンテンツを制作してきているが、それと同じように、配信サービスにおける視聴データについても安全な取り扱いをする責務があるのではないか、という主張です。こうした要望は、8月に公表された自民党の「放送法の改正に関する小委員会(放送法小委)」第三次提言にも、「視聴履歴から視聴者の政治信条が察知され、政治的ターゲティング広告に悪用され、社会の分断を加速するようなことがあってはならない」という形で示されています。
 また、先出の山本氏も、放送局がネット上で配信サービスを行う際には、「データ利活用についてある程度の上乗せ規律もやむを得ない 13)という見解を述べています。この「上乗せ規律」とは、ネット上でサービスを行う事業者全てに適用される「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン 14)」に加えて、現在、放送局が“テレビ放送の視聴データの取り扱い”において適用されている「放送分野ガイドライン」を、“配信サービスの視聴データの取り扱い”においても適用する、つまり、“上乗せ”する、ということを意味しています。

〇「後押しする方策」とは?

 ネット上では現在、Google、Meta、Amazonに代表されるグローバルプラットフォームを中心にした事業者が、cookie情報等を使ってユーザーがどのサイトを閲覧したのかを追跡してユーザーの属性や嗜好を把握し、それに基づいたターゲティング広告やレコメンドで存在感を増しています。企業等の広告費は、一度に多くの人に“リーチ”できるメディアである放送から、個人やグループに対して“ターゲティング”できるネットサービスに流れており、その動きを止めることはもはや困難です。放送の広告費が目減りしていく分を、いかにネット上の配信サービスの広告費で補っていくかが、民放ビジネスにとっては大きな課題なのです 15)
 そのため、配信サービスに対しても放送分野ガイドラインの規制が上乗せされるということは、他のネット事業者よりもデータの取り扱いに対する説明責任の厳格化や限定的な活用が求められるため、民放のビジネスにとって足かせとなるおそれがあります。視聴データ検でも、他の事業者との間で公正な競争が確保されないのではないかとの指摘もなされました。民放連及び民放キー局関係者からは、放送分野ガイドラインの適用範囲はあくまでテレビ放送の視聴データを利用する場合のみであり、配信サービスにおいて上乗せすることについては消極的な姿勢が示されました。
 こうした中で視聴データ検が示した方向性は、放送局には一律に上乗せ規律を強制するのではなく、規律を受け入れるかどうか、つまりネット上で「公共的な取組」を担うかどうかは放送局自らの意思に委ねるべき、というものでした。その上で、「公共的な取組」を担う判断をした放送局については、政策的に何等かの“非対称措置”を検討すべきではないか、そして、「誰もが目を通すメディア」(プラットフォーム)に、放送コンテンツが提供されることが重要ではないか、という方向性が示されました。この非対称措置とは、事業者へのインセンティブ(優遇措置)という意味合いもありますが、それ以上に、安全な配信サービスへの視聴者のアクセスを支援し、視聴者保護を図る必要がある、という観点が強調されました。この非対称措置が、文言の最後に書かれている「後押しする方策」にあたります。

〇「放送同時配信等」とは?

 では、ネット上の展開を“後押し”していく放送局のサービスやビジネスとは具体的にどのようなものなのか。それを示しているのが「放送同時配信等」です。余談になりますが、役所の資料の文言には、このように頻繁に“等”が使われますが、時に“等”の方に比重があることも少なくないので注意が必要です。
 「放送同時配信等」という言葉は今回が初出ではなく、去年、著作権法改正の議論の際、同時配信、追っかけ配信(番組途中から視聴した場合、冒頭までさかのぼって視聴できる)、一定期間の見逃し配信を含んだ総称として用いられました。現行の改正著作権法上、これらが放送に準ずる位置づけとなっています 16)。そのため今回の後押しの施策の対象も、「NHKプラス」の同時配信、「TVer」で4月からスタートした民放キー5局系のゴールデン・プライムタイムのリアルタイム配信という狭い範囲に留まることなく、議論は進んでいくのではないかと思われます。

② 「非対称措置」と「プロミネンス・ルール」

〇非対称措置の具体策とは?

 今秋から開始されるWGでは、非対称措置の具体的な内容に関する議論が行われると思われます。視聴データ検が4月に公表した「配信サービスに対するガイドラインの適用に関する基本的考え方 17)」や在り方検の取りまとめを読むと、以下のような内容が検討項目にあがってくると思われます。

  • CTV上における措置として、放送局によるネット配信を簡便に視聴できるようにすること
    (TVerやNHKプラスが上乗せ規律に準じた準則を採用する場合にテレビ上ですぐ起動するようにする等)
  • 動画共有サイトや動画配信プラットフォーム上における措置として、放送コンテンツの充実・強化や、
    その他のコンテンツと区別できる形で提供されるようにすること

 私は先に発行された「放送研究と調査」6月号の「これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.7 18)」で、この非対称措置 19)について、「意欲的な論点であるものの、放送政策として具体的にどのような振興策があるのか、筆者にはイメージがわかない」と述べました。この措置のパートナーとなるテレビメーカーやプラットフォーム事業者のメリットや、施策の持続可能性について見通せないと感じたからです。今もその認識はあまり変わっていませんが、本ブログでは、6月号を記した際に紙面の都合で触れられなかった内容も記した上で、もう少し深く、私の認識を示しておきたいと思います。

〇「プロミネンス・ルール」とは?

 安全な配信サービスへの視聴者のアクセスを支援し、視聴者保護を図るために、放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等を後押しするという今回の議論には、イギリスの情報通信政策における「プロミネンス・ルール」が参考にされたのではないかと私は推察しています 20)。このルールについては、在り方検の構成員であるマルチメディア振興センターの飯塚留美氏が第3回会合で短く紹介しましたが 21)、初めて聞くという方も少なくないと思います。正直、私も当時、詳細については知りませんでした。
 プロミネンスには、目立たせること、突出させること、という意味があります。イギリスには、BBCだけでなく、ニュースの不偏不党やローカル番組制作、コンテンツ産業発展のための一定の制作外注化等が放送免許の要件となっている、商業放送も含めた6局が「公共サービス放送(PSB) 22)」として存在しています。このPSBを“目立たせる”のが、このルールとなります。では、どこの場で目立たせるのかですが、飯塚氏が在り方検で紹介した、去年のOfcom(イギリスにおける放送通信分野の独立規制機関)の政府への提言には、以下のような内容がありましたので、飯塚氏の資料から転記させてもらいます。

  • CTVにおけるプロミネンスの確保
    ライブでもオンデマンドでも、全ての主要なテレビプラットフォーム上で公共サービスコンテンツのプロミネンスを確保する
  • プラットフォームに、PSM 23)コンテンツにプロミネンスの付与を義務付ける

 この内容を見ると、先に紹介した日本の在り方検で想定されている非対称措置の案と、かなり似通ったものであることがおわかりいただけると思います。これが、私がイギリスのプロミネンス・ルールを参考にしているのではないかと推察した理由です。
 ただ、もう少し詳しくこの提言の中身を見てみると、「プロミネンスに係るルールをアップデートする必要がある」となっており 24)、イギリスにおけるプロミネンス・ルールは去年いきなり登場してきたものではないということがわかります。イギリスは日本と大きく異なり、地上放送が50チャンネル以上あるため、プロミネンスはこれまで、電子番組ガイド(EPG)の中、つまり、“地上放送の場における”ルールでした。それが、去年のOfcomの提言では、YouTubeやNetflix、Amazon等のグローバルな配信サービスがひしめく“プラットフォームという場にも拡張”してこのルールを適用する、という提言となったのです。
 Ofcomの提言を受け、イギリス政府は2022年4月、「放送白書 25)」を公表し、正式にこのルールをプラットフォームにも適用できるよう改正しました。そしてOfcomに対しては、PSBとプラットフォームの交渉に介入する権利を与えています 26)。今後、PSBとプラットフォーム、そしてOfcomの間でどのような議論が進んでいくのか、注目していきたいと思います。また、このルールから少し話はそれますが、同時にこの白書では、これまで放送サービスに適用していた番組コード(番組内容に関する規律)を、Netflix等、ネットでのみコンテンツサービスを展開するOTT事業者に対してもテレビ同様の内容を適用することを提言しました。実効性のある規制になっていくのか、こちらも要注目です。いずれにしてもイギリスでは、存在感を増しているプラットフォームに対して、PSBのプロミネンスとコンテンツ規制という2つの側面から視聴者を保護していこうという強い姿勢がうかがえます。

〇今後の議論への期待

 ここまで、日本の非対称措置とイギリスのプロミネンス・ルールの類似点を指摘してきました。逆に異なっているのは、先に触れたように、日本では非対称措置の対象とする条件として、視聴データの適切な取り扱いという側面が強調されているという点です。確かに、ネット上におけるインフォメーション・ヘルスの確保という、これまで在り方検が掲げてきた最も大きな問題意識と、放送局の視聴データの適切な取り扱いは密接不可分であり、それをベースに議論が進んできた経緯は理解できます。しかし、プラットフォーム上で“目立たせる後押し”をする施策の対象を決める判断として、そのことが強調されすぎることについては正直、違和感があります。視聴者の安心安全だけでなく、社会における民主主義を下支えするという観点も含めて考えていくならば、“どういうルールを守る”事業者を後押しするかだけでなく、“どういう理念を持って社会に向き合い、どういうサービスを提供している”事業者を後押しするのかという視点も必要ではないかと思うからです。また、対象となるのが放送局による配信サービスという前提がある以上、例えば同時配信等のサービスを実施していないローカル局のコンテンツはどうするのかという課題もあります。政策的に後押しすべきコンテンツが、仮に地域情報を発信するローカル局のコンテンツであるとするならば、そうしたコンテンツをいかに配信サービスに載せられるかということを、施策の優先順位として考えてもいいはずです。
 イギリスは、多チャンネル時代におけるPSBとは何か、その後、プラットフォーム時代におけるPSMとは何かという形で、BBCだけでなく商業放送も含めて、メディアにおける「公共」の定義をアップデートし続け、その上でプロミネンス・ルールを位置付けています。日本の場合は、電波の希少性や社会的影響力、あるいは「一定の規律を受ける放送と、自由な活字メディア、インターネットとの組み合わせで全体最適を図る 27)」部分規制論という形で、「放送の公共性」が論じられてきました。ただ、それは常にNHKと民放の二元体制が前提であり、民放だけを切り出してメディアとしての「公共」を論じるということは、あまり活発になされてこなかったように思います。放送制度の議論が、放送という閉じた世界からネットに拡張していく今こそ、この論点に逃げずに向き合っていく必要があるように思います。その際の議論を、視聴データの適切な取り扱いという狭いところに押し込めず、もうすこし幅広に議論していくきっかけにはできないでしょうか。
 また、話は更に大きくなりますが、もう一点指摘しておきたいと思います。“目立たせる後押し”の施策がCTVの場合、そもそもテレビですので、後押しする事業者が放送局に限定されるということは、ある程度は納得感もあると思います。しかし、ネット上のプラットフォームの場合はどうでしょうか。ラジオ、新聞や雑誌等の活字メディア、ネットコンテンツ等、あまた存在するメディアの中で、公共を標榜し、それを実践してユーザーから信頼を得ている事業者は少なくありません。なぜ放送局、それも地上放送局のみが、他のコンテンツと区別されて後押しされることになるのでしょうか。放送法によって規律されているという根拠は、多メディア時代においてどこまでユーザーに通用するのか、地上放送が今後もどこまで信頼に足るメディアとして存在し続けられる保証があるのか、そのために目に見える形で努力が続けられているのか、このあたりは大きく問われてくるのではないかと思います。
 つまり、デジタル情報空間における日本版プロミネンス・ルールをどう考えるかというテーマは、これまでの部分規制論を超えた、新たな公共メディアサービスの姿を考えていくという議論にもつながってくると思うのです 28)。テレビメーカーやプラットフォーム事業者、地上放送以外のメディア、そして何よりユーザーにとって、納得感のある議論をどこまで積み上げていくことができるのか、今後始まる議論に注目しています。

③ 公共放送WGの論点

 在り方検の「攻めの戦略」である、放送コンテンツのネット配信を政策的にどのような姿で促進させていくのか、そのもう1つの柱がネット時代における公共放送の役割に関する検討です。
 NHKは今年4月から5月にかけて、テレビを全く、あるいはほとんど見ない約3000人を中心に、公共メディアとして番組や情報をネットで届ける意義や役割について検証する社会実証(第一期)を行いました。情報を正しく・偏りなく理解することを支援する機能や、 偏ったレコメンドを避ける機能等7項目を用意し、アンケート形式で、その機能が社会にとって、もしくは自分にとって有用かどうかを尋ねました。第一期の結果報告 29)については既に実施済みで、今秋にはUIやUX等の使い勝手について検証する第二期の実証を行うことになっています。先出の自民党の放送法小委の第三次提言では、「NHKによる社会実証の結果も踏まえ、インターネット活用業務を、放送の補完ではなく、NHKの本来業務とすべきかどうか、本来業務とする場合にはその範囲をどのように設定するのかも含めて検討すること」とされています。
 今月13日に行われた寺田総務相の閣議後会見 30)では、公共放送WG発足に際し、記者から次のような質問が出されました。「ユーザーである国民としては、いわゆるネット受信料を導入されるのではないかということが関心事(中略)。本来業務化によってネット受信料を導入することが自然な流れになりうるのか、あくまで別個の議論として慎重に考えるべきか」。この問いかけに対し、総務相は、今後の受信料のあり方についても含めて公共放送WGで議論していくと答えています。明日の初回のWGで論点とスケジュールが提示されると思いますので、改めてブログで議論の内容をまとめていきたいと思います。
また、会長の常設諮問機関である「NHK受信料制度等検討委員会」におかれた「次世代NHKに関する専門小委員会(第2次)」の議論にも注目していきたいと思っています。そこでは、イギリスを始め、欧州各国でPSM(公共サービスメディア)のデジタル戦略についての議論が開始されていることを受け、日本でも国内のPSM像をどのように考えていくべきかを議論すべき、という問題提起が行われています。そして、日本版PSM像を考えていくにあたっては、NHKが公共メディアとしてどうあるべきかだけでなく、民放との関係性や、新聞等の伝統メディアをどう位置付けるのかといった視点も持たなければならないのでは、という議論が始まっています 31)。この議論はまさに、在り方検の「攻めの戦略」の2つのWGをつなぐものだと感じています。

 今回のブログでは、在り方検の取りまとめを受けて、私なりに少し大きな論点を提示してみました。まだ調査や取材が至らない点も多いので、引き続き学びながら、できるだけわかりやすく発信していきたいと思っています。


1) https://www.soumu.go.jp/main_content/000828826.pdf
2) https://www.soumu.go.jp/main_content/000832589.pdf p17
3) このキーワードは、「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」第7回で示された「配信サービスに対するガイドラインの適用関係の検討の方向性」の中で示されている
4) 9月13日の総務相の閣議後会見 https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
5)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000322.html
6) 「守りの戦略」についての整理は、8月25日の文研ブログを参照
7) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/viewership_data/index.html
8) 視聴データ検 第4回会合議事要旨より
9) データ放送の画面を経由して、視聴したチャンネルや日時、IPアドレス等の個人に関連する情報、「非特定視聴履歴」を収集。ユーザーが同意しない場合には収集をストップすることができる、"オプトアウト形式"で実施中。これとは別に、それぞれの局が、名前(ニックネーム)・年齢・メールアドレス・住所等、個人を特定できる情報、「特定視聴履歴」も収集。こちらは、ユーザーの同意を必要とする"オプトイン形式"で実施され、民放の場合は、TVerのIDとの連携などが行われている
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000797516.pdf
11) データ検では、このガイドライン改訂を巡り、放送局としてデータを活用してどんなサービスを行うべきか、行うべきではないのか、各局のデータを共有するために提案された仕組み「共通NVRAM」にはどんな要件が必要なのかについて、視聴者の安心安全が確保されるのかという観点から厳しい議論が行われていた。こちらについては、後日「放送研究と調査」でしっかり触れていきたい
12) 視聴データ検 第6回議事要旨より
13) 視聴データ検 第4回議事要旨より
14) https://www.soumu.go.jp/main_content/000805614.pdf
15) 放送局におけるネットでの動画広告収入は年率150%を超える伸びを記録しているものの、放送局の広告費全体に占める割合は約5%にすぎない
16) 放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチーム報告書「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する制度改正等について」
17) https://www.soumu.go.jp/main_content/000811235.pdf
18) https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/pdf/20220701_7.pdf
19) なお、原稿執筆の際に確認していた視聴データ検の議事要旨では、講じる施策について、「非対称措置」ではなく「インセンティブ」と呼称されていた
20) 非対称措置について議論された視聴データ検では、このプロミネンス・ルールについての議論は行われておらず、在り方検で少し触れられていただけであるため、私の推察とした
21) https://www.soumu.go.jp/main_content/000782843.pdf
また飯塚氏は、『ジュリスト』(2022年9月号)の「通信・放送・メディアの在り方」という座談会の中でも、このルールについて詳細に発言している
22) チャンネル4、ウェールズ語放送(S4C)、民放大手(ITVとチャンネル5)、スコットランドの民放(STV)
23) 公共サービスメディア(PSM)のこと。Ofcomは去年、政府に対し、公共サービス放送(PSB)から公共サービスメディア(PSM)への移行を支援するよう、PSMの目的を定めることを提言している
24) https://minpo.online/article/-ofcom.html
25) Up next - the government's vision for the broadcasting sector - GOV.UK (www.gov.uk)
26) https://minpo.online/article/it.html
27) https://www.soumu.go.jp/main_content/000536353.pdf P13
28) こうした観点で、私が興味深く感じた論考を『ジュリスト』(2022年8月号)から2本紹介しておきたい
  長谷部恭男「デジタル情報空間における放送と放送法制」
  水谷瑛嗣郎「放送法制から見たデジタル情報空間」
29) https://www.nhk.or.jp/net-info/data/document/social_proof/social_proof_1st_results.pdf
30) https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
31) https://www.nhk.or.jp/info/pr/kento/assets/pdf/sub_committee_2_04.pdf
調査あれこれ 2022年09月15日 (木)

#422 いまの沖縄の人たちの思いとは? ~「復帰50年の沖縄に関する意識調査」結果から~

世論調査部(社会調査) 中山準之助

 あなたは、沖縄と聞いて、どんなことをイメージしますか?青い海にサンゴ礁、マングローブに、さとうきび畑。そうした自然以外にも、アメリカ軍基地を挙げる人もいると思います。
 沖縄は今年、アメリカから日本に返還された「本土復帰」から50年を迎えました。そこで、沖縄の人たちが日本への復帰をどう評価し、今の沖縄をどう見ているのか。今後の沖縄はどこへ向かい、どんな姿になっていくのかを探るため、世論調査部では、全国世論調査を実施し、沖縄と全国の回答を比較して、それぞれの意識の分析を試みました。その結果の一部は、文研ブログ#411 「沖縄局以外のNHK地域放送局が伝えた 沖縄本土復帰50年」(2022年8月5日)でも紹介されている通り、沖縄の人たちの意識と、全国の人たちとで、異なる点がいくつか見えてきたのです。

 ひとつ紹介しますと、沖縄の人たちに「沖縄の誇り」を(図1)、全国の人たちには「沖縄の魅力」を(図2)同じ選択肢で尋ねた結果です。

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 どちらも「豊かな自然」が最も多く挙げられています。沖縄の自然は“誇り”であり、“魅力”でもあるのです。ところが、「観光リゾート地」は、全国の人たちの65%が「沖縄の魅力」に挙げて2番目に多いのに対し、沖縄の人たちの「誇り」では34%にとどまり,選択肢の中でも下位です。全国の人たちが「魅力」と思うほど、沖縄の人たちは「誇り」とは思っていないと言えます。
 一方で、全国の人たちが感じている以上に、沖縄では、「沖縄の音楽や芸能」、「家族や親戚を大切にしていること」、「食文化」、「助け合いの気持ちが強いこと」などが6割前後で上位に並んでいます。沖縄の人たちは、“家族の絆”や“人との関係”を大事にしていることが見てとれます。

 沖縄と全国との違いでさらに注目されるのが、これからの沖縄にとって特に重要な課題は何かを尋ねた質問(図3)です。
 沖縄では、「貧困や格差の解消」が77%で最も多く、次いで「経済の自立・産業の振興」が68%、「子どもの学力向上」が64%、そして「アメリカ軍基地の整理・縮小」と「自然環境の保護」がそれぞれ61%などとなりました。一方、全国では「自然環境の保護」が64%、「アメリカ軍基地の整理・縮小」が61%と並んで多く、次いで「経済の自立・産業の振興」が50%、「沖縄の歴史の継承」が49%となっています。
 沖縄で最も多い「貧困や格差の解消」は、全国では25%と少なく、「子どもの学力向上」も全国では18%と少ないなど、課題の認識に差がみられました。

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 全国の人たちが、環境保護や基地の整理・縮小など、社会全体に及ぶ課題を挙げたのに対し、沖縄の人たちは、貧困や経済の自立、子どもの学力向上など生活に直結した身近な課題をより多く挙げている点は、今後の沖縄を考える際に、非常に大事な視点になってくるでしょう。

 今回の調査では、「本土復帰の評価」や、「米軍基地」についても、詳しく聞いています。その結果の一部をご紹介します。

▽沖縄の本土復帰は『よかった』という人が、沖縄では84%、全国では93%。
▽復帰して『よかった』と思う理由の1番は「沖縄は日本であることが望ましいから」。
 よくなかった』と思う理由は、沖縄では「沖縄の意向が尊重されていないから」が44%。

▽日米安全保障条約は『役立っている』が沖縄では約6割、全国では8割超。
▽復帰後も残るアメリカ軍基地について、沖縄では「やむを得ない」が51%、「必要だ」が11%。
▽在日アメリカ軍専用施設の約7割が沖縄に集中していることについて、沖縄では「おかしいと思う」が56%で、どちらかといえばを含めると8割超。全国でも合計は79%に達するが、このうち「どちらかといえばおかしいと思う」が55%と多い。

 このほかにも、「本土復帰の日」「慰霊の日」の認知、「50年間の印象的な出来事」のほか、「沖縄の経済」、「沖縄戦の継承」などについても尋ねました。
 詳細については、「放送研究と調査2022年8月号」で、1970年代から継続して実施してきた沖縄に関する世論調査結果も交えても紹介しています。是非、ご一読ください。
 復帰50年、沖縄の人々の思いを知る一助になることを心より願っております。

調査あれこれ 2022年09月13日 (火)

#421 足元揺らぐ岸田内閣 ~続く旧統一教会問題・安倍氏国葬批判~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 日本時間の8月10日。二刀流の大谷翔平がMLBでベーブルース以来となる2桁勝利・2桁ホームランの快挙を達成しました。この直前に行われたNHK月例電話世論調査で内閣支持率が13ポイントも急落していた岸田総理。胸中にあったのは「あやかりたい」の一言だったでしょう。

 しかしながら1か月後の9月9日から11日にかけて行われた月例調査でも、足元の揺らぎが収まる気配はありません。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  40%(対前月 -6ポイント)
 支持しない  40%(対前月+12ポイント)
 わからない、無回答  20%(対前月 -6ポイント)

岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートし、衆議院選挙、参議院選挙に勝利して7月には59%という安定水準に達していました。

 それが2か月続きでジリジリと下がり続けている背景には様々な要因がありそうです。

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 まず、8月の支持率急落を受けて前のめり感を漂わせながら行った内閣改造と自民党役員人事の評判がよろしくない点です。

☆あなたは岸田総理大臣が8月10日に行った内閣改造と自民党の役員人事を全体として評価しますか。評価しませんか。

 評価する 34% < 評価しない 56%

岸田総理が態勢立て直しを目指した人事でしたが、萩生田光一政務調査会長や山際大志郎経済再生担当大臣など、旧統一教会との接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次ぎました。

 9月に入って公表された自民党の集計では、旧統一教会やその関連団体と何らかの接点があった国会議員は、所属する379人のうち179人と半数近くに上りました。

 改造内閣の閣僚や自民党役員の中に接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次いだのも、旧統一教会側が政権与党の自民党、とりわけ“これからの有望株”にすり寄っていたことを物語っています。

 もちろん選挙運動に大勢のスタッフを動員してもらっていた議員らと、頼まれて行事に祝電を打っていただけの議員らでは程度が違うのは確かです。

 ただ総じて言えることは、かつての霊感商法や多額の寄付の強要などで社会問題化してきた組織に対する警戒心の不足です。「選挙に勝つためにはわらをもつかむ」と語る議員もいますが、選挙の主役である有権者がNOを突き付ける存在をつかんではいけません。

 この問題と密接不可分となった安倍元総理の国葬に対しても、国民は厳しい視線を向けています。

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☆政府は9月27日に安倍元総理大臣の「国葬」を行うことを決定しました。あなたは、この決定を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 32% < 評価しない 57%

参考に7月、8月調査での国葬に関する質問の答えは以下の通りです。

 7月 ⇒ 評価する 49% > 評価しない 38%
 8月 ⇒ 評価する 36% < 評価しない 50%

 安倍元総理と旧統一教会の関係について、岸田総理は「本人が亡くなっているので確かめようがない」と国会で答弁しています。

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 理屈の上ではそうですが、国民にとっては「すっきりしないグレーのまま」と受け止めざるを得ず、それで国葬か?という疑問符が次第に強調されている感があります。

 そこに英国のエリザベス女王の訃報が重なり、彼我の国葬を比較する素朴な世論が形成されつつあります。9月19日のエリザベス女王の国葬、そして27日の安倍元総理の国葬が近づくにつれ、どういう反応が出てくるのでしょうか。

 安倍氏を国葬という最大級の追悼の場で弔うことを決めた岸田総理にとって、自らの判断が国民に受け入れられるかどうかは今後に向けて大きな節目になります。まだまだ説明が足りないと思います。

 さて、10月に入れば秋の臨時国会が開かれ、来年度予算案の編成という政府の一番の仕事が正念場を迎えます。

 特に今年は2月のロシア軍のウクライナ侵攻に端を発した国際情勢の大変動、それに呼応するかのような中国の台湾に対する威嚇行動が相次ぎました。ロシアとも中国とも海を挟んで間近に接する日本にとって、安全保障政策の再構築が急務なのは確かです。

 岸田総理は国民を守る抑止力を強化するために相当な防衛費の増額を目指すと強調しています。問題はどういう部分に予算の積み増しを図るかです。

 安全保障の専門家の間では、最近「ウサデン」なる言葉が飛び交っています。意味しているのは、ウ=宇宙、サ=サイバー、デン=電磁波です。

 そこに示されているのは、従来型の陸海空自衛隊の装備や人員に予算を積み増す発想だけでは駄目だということです。ロシア、中国、そして北朝鮮の軍事的脅威に備えるためには、宇宙からの監視、サイバー攻撃への備え、電磁波による相手の無力化といった手法こそが有効だという判断を示しています。

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 こうした議論を年末までに具体的に深め、国民に提示していくのは相当の力仕事です。そして国民に示す時には、新たな財源をどう確保するかが明確でなければ納得を得ることはできません。

 最も単純なのは防衛費増額のために国債を発行して財源を得るという手法ですが、「これでは戦前の日本と同じではないか」という反発が出るのは避けられません。

 ロシアのプーチン大統領のように歴史の針を巻き戻すようなことはやってはならないでしょう。岸田総理がこの大仕事を通じて国民に対する説得力を発揮できるかが2022年後半の最大の焦点です。

メディアの動き 2022年09月12日 (月)

#420 この作品をコピーして使いたい ➡ 作者に連絡しても返事がない ➡ どうする!?   ~文化審議会「新しい権利処理の仕組み」議論から考える~

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇

 今日から宣伝部に配属されたあなたの最初の仕事が、販売促進イベントのポスターの制作になりました。素敵なポスターを期待しているよ、と上司に言われたあなたは、プレッシャーを感じたのか、どうもいい案が浮かばず、とりあえずインターネットであれこれ閲覧していると・・・。

 「おお、これは素敵だ! イベントのコンセプトにもぴったりだ!」

という写真画像とご対面。一瞬にしてポスターのイメージが浮かび、さっきまでのプレッシャーはどこへやら。俺って才能あるかもしれない。俺のハイスペ、やべえ。

(10分経過)

  できた!ポスターデザイン案! デキる男は仕事が早いぜ。写真を背景に宣伝文字をゴン攻めでレイアウトしたデザイン。このイベントは行きたくなる!・・・おい上司、見て驚け。

「部長、よろしいでしょうか。デザイン案を作りましたのでご確認お願いします」
「早いね。・・・・・・おお、いいねえ!」

 どうだ。どうだ! ボーナス今から楽しみだ‼

ところでこの写真許可取ってるよね? 著作権、大丈夫だよね?」 

 え?・・・げげ! 萎え~~。。。

 その場は何とか取り繕い、撮影者の写真家さんのホームページから秒で連絡先を見つけ出し、写真使用の許可お願いメール送信。・・・ふう。俺に乙。弱気に勝つ。もう終わっちまうのかい夏。あぁ~~、無事にOKもらえたらいいんだけど・・・。

(2日経過)

「ポスターデザイン、まだ?」
「ぶ、部長、すみません! ちょ、ちょっとお待ちください。もう少しいい感じになりそうなので、デザイン練り直してまして・・・」
「こだわるねえ。立派、立派。まぁでも、今日中にはお願いね」
「いやあ、お待たせしてすみません。は、今日中で。承知しました。どうぞご心配なく」

 ・・・あの写真家! 昨日も今日もメール送ったのに全然返信ねーし。ガチ無礼‼
 どうしよう。・・・いや待て。こっちは誠意を尽くしてお願いしてるし、返事をしないほうが悪いわけだし・・・。写真使っちゃっても許されるんじゃね? 時間切れってことで、いいんじゃね??

 なんだか3月まで放送していた「バラエティ生活笑百科」風になりますが(あ、すみません。この段から筆者本人に戻っています)、このような場合、写真を使用すれば、法律上、写真家(権利者)の著作権の侵害だといわれたら、反論するのは難しいでしょう。写真家が返事を怠っていたとしても、あなたは権利者から使用許諾を得ていない(権利処理をしていない)ことに変わりありません。 

 しかし、「返事がもらえないから使えない」というのも、モヤモヤ感は残りますね。
 著作権法の目的は、権利者を保護しつつ、文化の発展に寄与すること。そのバランスをどう図るかが肝ですが、IT技術の発達によって著作物の流通が飛躍的に伸びている今、もっと権利処理の仕組みをシンプルにしてほしい、という声が高まっています。

   時代のニーズに対応すべく、文化審議会の著作権分科会・法制度小委員会では現在、「新しい権利処理の仕組み」について、活発な議論が行われています。「返事がもらえないから使えない」状態も含め、権利者本人からの許諾がなくても、しかるべき手続きをすることで、暫定的に著作物を利用できるようにする「簡素で一元的な権利処理」の方策を検討しているのです。

 8月30日の第二回小委員会では、文化庁から制度化のイメージが示されました。(図)

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 制度化のイメージでは、運用は以下のような流れを想定しています。
 著作物の利用を希望する人は、新たに創設予定の著作物の分野を横断した窓口組織に相談し、データベースを活用して権利者を探します。
①権利者が不明、②権利者の連絡先がわからない、または③利用に対する権利者の意思表示がないような場合、「新しい権利処理」の手続きへと進みます。利用者は使用料相当額を支払い、窓口組織はWEB上で公告(利用について広く一般に知らせること)をします。公告と並行して、利用者は「暫定的利用」を行うことができる、というものです。

   現行の著作権法では、上記の①②、すなわち、権利者が不明、連絡先がわからない、といった場合、著作物を利用できる道を開くための「著作権者不明等の場合の裁定制度(※2)」というものがあります。文化庁に対して所定の手続きを行い、使用料相当額の補償金を供託する(法務局に預ける)ことで、権利者に代わって文化庁長官が利用を認める「裁定」をする制度です。著作物の利用に国がお墨付きを与えるわけです。
   しかし、冒頭のポスターに写真を使いたいという例のように、権利者の連絡先はわかるけど③意思表示がない(返事がない)、もしかすると送ったメールを権利者がたまたま見ていなかっただけ、といった場合、裁定制度の申請対象にならない、ということが課題視されています。
  そこで、「新しい権利処理」では、③をカバーしようとしているのです。手続きや費用負担などもあわせて考えると、「新しい権利処理」が利用者の利便性を向上させ、利用の促進につながる期待が持てます。

  しかし、「新しい権利処理」は、お墨付きがない暫定的利用を始めてから権利者が意思表示をした場合、利用を停止させられるリスクも残ります。写真付きポスターの例でいえば、ポスターが完成し、あちこちに掲示したあとになって権利者である写真家から使用不可の連絡が来たら・・・、全部回収という最悪の事態も懸念されるのです。

  第二回小委員会では、出席した複数の委員から、
「権利者の意思表示とは何を指すか、もっと具体例を示して検討する必要がある」
「権利者から不許諾の意思表示があれば即、暫定的利用の停止となれば、利用者側が萎縮する恐れがある。一定期間の利用継続を認めるような設計が必要だ」などの声が上がりました。
  これまでにない制度改正案のため、さらに精査が必要になるでしょう。意思表示のほかにも、窓口組織やデータベースをどの程度「一元的」なものにできるか、など検討課題が残されています。小委員会の予定では、来年1月には報告書を取りまとめ、次期通常国会に法改正案の提出を目指しています。
  今回示されたイメージ通りになるのか、時代のニーズに沿った制度となるのか。私たち放送関係者にとっても、また、著作物を利用する誰にとっても大いに関係する議論です。今後も注視して、随時お伝えしていこうと思います。

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※1 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第2回)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元の制度化イメージについて(案)」より
※2  著作権者不明等の場合の裁定制度(文化庁ホームページ参照)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/

 

調査あれこれ 2022年09月01日 (木)

#419 スマホの利用時間は、年齢によってどう違う?~「メディア利用の生活時間調査 2021」の結果から~

世論調査部(視聴者調査)伊藤 文

 文研では、現在の多様化したメディア利用行動をとらえることを目的に、2021年10月に「メディア利用の生活時間調査2021」を実施しました。
この調査では、「テレビ画面」「スマートフォン・携帯電話」「パソコン・タブレット端末」という3種類の機器(デバイス)について、「動画を見る」「SNSを使う」といった、その具体的な内容を含めて利用実態を調べています。また、他のさまざまな生活行動―食事や仕事、家事など―ともども、“時間”の観点から利用実態を把握できるのが特徴です。調査では、15分刻みの行動をまる2日間、記録してもらいました。

 その結果から、まず、1日にどのくらいの割合の人々が、「テレビ画面」、「スマートフォン・携帯電話」(以下スマホ)、「パソコン・タブレット端末」(以下PC)を利用しているのかを紹介します。これをわたしたちは「行為者率」と呼んでいます。
 itou13.pngのサムネイル画像 全体の結果では、テレビ画面の行為者率がひときわ高く、82%です(図1)。スマホはテレビ画面ほど高くなく、64%です。PCは25%で、利用している人のほうが少数派です。

 続いて、テレビ画面・スマホ・PCが、1日あたりそれぞれ何時間ぐらい利用されているのか、時間量をみてみます。

itou12.pngのサムネイル画像テレビ画面が3時間23分、スマホが1時間18分、PCが34分です(図2)
時間量は、テレビ画面 > スマホ > PCの順となり、これは1日の行為者率の高い順と同じです。
 これをさらにくわしくみてみましょう。
itou11.png 図3のグラフは、テレビ画面・スマホ・PCの1日あたりの時間量を、男女年層別にみたものです。
 オレンジ色のテレビ画面は、年齢が上がるほど利用時間が長くなっています。10代は男性で57分、女性で1時間2分、これに対し、70歳以上は男性で5時間17分、女性で5時間19分と、大きな差があります。
 一方、青色のスマホは、20代が男性で3時間26分、女性で3時間28分と突出しています。30代から上の年代では、男女とも年齢が上がるほどスマホの利用時間が短くなっています。
 このようにスマホやテレビ画面の利用時間は、年齢によって大きな違いがあり、男性30代以下と女性20代以下では、テレビ画面より、スマホを利用している時間のほうが長いことがわかりました。スマホを肌身離さず持ち歩き、外出先であれ自宅であれ、手元に置いて頻繁に利用している様子が想像できます。そのなかには、SNSやニュース、メールのチェック、ゲームや動画視聴などが含まれるかもしれません。テレビ画面を利用する場合も、その内容は、放送のリアルタイム視聴のほか、録画視聴・動画視聴・DVDやブルーレイの視聴、ゲームなど、さまざまでしょう。

「放送研究と調査2022年7月号」では、「メディア利用の生活時間調査 2021」の結果から、1日の生活の流れのなかでのスマホやテレビ画面の利用実態、「動画視聴」「ゲーム」「SNS」など具体的なメディア利用行動と、そうした行動を活発に行っている特徴的な年代、また、スマホとテレビ画面の両方を同時に使う行動などについても分析し、報告しています。
是非ご一読ください。

 

調査あれこれ 2022年08月25日 (木)

#418 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」 取りまとめ公表を受けて⑵

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 本ブログは、8月5日に総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」が公表した「取りまとめ 1)」について整理する2回目です。取りまとめの5つの項目(図1)のうち、1回目は、⑴と⑵について考えました 2)。今回は、残りの⑶守りの戦略(放送ネットワークインフラの将来像)、⑷攻めの戦略(ネット配信の在り方)、⑸放送制度(経営の選択肢拡大等)のうち、⑶について取り上げます3)

murakami1.png 個別の整理に入る前に、地上放送の仕組みについて確認しておきたいと思います。図2-1は主な業務を私なりにまとめたものです。2010年の放送法改正で、放送サービスはハード・ソフト分離型 4) が原則となりましたが、地上放送 5) については事業者の強い要望もあり、これまで通り一致型を選択できる制度整備が行われました。現在、全ての地上放送事業者が、制作・編成・送出・伝送の業務を一体で行う一致型を選択しています。

murakami2.png 在り方検では、これらの業務のうち、送出・伝送部分に関する施策が中心に議論されました。そして、取りまとめでは、IP化の促進等によって、コスト負担を軽減して“守り”を固め、配信サービスを拡充して“攻め”を進めるという方向性(図2-2)が打ち出されました。今回のブログは守りの戦略について見ていきます。

murakami.png ◆ 守りの戦略―放送ネットワークインフラの将来像 ~踏み込んだ問題提起と残された論点~

1.
検討の背景

 放送局は、優れた番組を制作したり、正しい情報を伝達したりすることと同様に、放送波を確実に届けるための送信・伝送業務に取り組むプロフェッショナル達がいます  6)。放送波を確実に届けるには、「放送局の心臓部」と呼ばれる各局舎内に設置しているマスター設備(番組やCMをタイムテーブルに従って送出するシステム)と、放送波を届けるために設置している多くの中継局を事故なく運用することが不可欠です。これは、放送をユニバーサルサービスとして提供する地上放送事業者の最も大きな責務の一つです。 
 しかし、事業者の経営の先行きが不透明感を増す中、これらの設備の保有や維持に関する経費が個々の事業者の経営を圧迫しつつあるという課題を抱えていました。たとえば、マスター設備は10~15年毎に更新する必要がありますが、その都度、県域局と広域局で機能に差があるものの、数億~20億円程度 7)の投資をしなければなりません。ここ数年、各局で更新作業が続いており、早めに更新を済ませた在京キー局では、次期更新が2028年~30年頃に予定されています。また、中継局の維持経費は、民放連によれば民放127局あわせて年間約290億円、NHKによれば年間約230億円かかっているといいます 8) 。全ての経費のうちの約半分は、山間地等に設置されている、カバーエリアが狭く対象世帯数が少ない小規模中継局等の施設です。このうちミニサテについては2026年~28年頃に更新時期が迫っており、民放からは、更新時に受信料収入で民放分も負担できないかといった要望が出されていました。
 そのため在り方検では今回、守りの戦略(コスト負担の軽減策)として、1)マスター設備の将来像、2)中継局の保守・運用・維持管理のあり方、3)維持・更新費用が割高な小規模中継局等のエリアに対する伝送方法の大きく3点が検討されました。
 検討のもう1つの背景としては、IP化やデジタルテクノロジーの急速な進展がありました。マスター設備については集約化やクラウド化が進んでおり、大きな装置を局舎内に設置する“オンプレミス型”が唯一の選択肢ではなくなりつつあります。仮に外部に委ねることができれば、施設を置くスペースも必要なくなりますし、徹夜で監視作業にあたる等の業務の省力化も見込めます。また、放送局は全国津々浦々に放送波を伝送するために中継局を設置してきましたが、光ファイバの普及によって、通信インフラで代替する物理的環境も整いつつあります。2022年4月、国は「デジタル田園都市国家インフラ整備計画  9)」を公表し、2021年度末に99.3%だった光ファイバ世帯カバー率を2027年度末までに99.9%を目指すと掲げています。7月には電気通信事業法が改正され、有線ブロードバンドが「国民生活に不可欠であるため、あまねく日本全国における提供が確保されるべき電気通信サービス」と位置付けられ、整備のための交付金制度もできました  10)

2. 取りまとめの方向性と今後 1)マスター設備 2)中継局の維持・管理等

これまでも一部の事業者においては、制度上可能な範囲内で、マスター設備の集約化を試みたり、系列を超えて地域の局が共同で中継局の維持・管理にあたったりしてきました 11)。在り方検では、これらの取り組みの情報も共有されましたが、より踏み込んだ議論も行われました。たとえば、制度的にハード・ソフト分離型の欧州では、マスター機能を放送局に提供するマネージド会社、無線設備を保有・運用するハード会社、土地・鉄塔・電源等を所有するタワー会社が送信・伝送部分を担っている事例が紹介され、これらを日本はどう参考にしていくのか等が議論されました。
 これらの議論の結果、取りまとめでは、1)マスター設備については集約化・IP化・クラウド化、2)中継局の維持・管理等については共同利用型モデル、という方向性が示されました。(図3)

murakami30.png 1)については、コスト負担の軽減と、安全・信頼性の確保をどう両立させるかが今後の課題とされました。仮にクラウドを利用する場合には、マスター設備の利用者である事業者自身がリスクを把握、制御できるのかが問われるとの指摘がなされました。今後はこれらの技術要件の議論を進めると共に、民放では系列ネットワークを主とした検討が進んでいくものと思われます。
 2) については、共同利用型モデルの導入で、業務効率化・信頼性向上・コスト低減が期待され、各事業者はコンテンツ制作への注力が可能になるといったメリットが強調されました。一方、留意点としては、ハード事業者の収益性の確保があげられました。収益性の確保と密接に関わるのが対象設備の範囲です。小規模局だけでなく、効率のいい大規模局も束ねて業務を行っていかなければ、ハード事業者を作ったとしても経済合理性は見込めません。ただ、今回の取りまとめでは対象施設の範囲までは明記されませんでした。
 取りまとめに合わせて公表された意見募集の内容には、国からの施策の強制や義務化への反対の声も少なくありませんでした。個社の事情も勘案しつつも、広い視野で業界内連携のあり方を考え、イニシアチブをとって進めていく役割は誰が担うのか……。その際、既に民放と共同で多くの中継局の建設を行っているNHKの立ち位置や受信料の負担のあり方はどうあるべきか……。放送局の役割を、ハードからソフトへ、インフラからコンテンツへ、よりシフトチェンジしていくためには、業界内で系列やNHK・民放の垣根を超えて、主体的に議論を進めていく力が求められています。引き続き議論を注視していきたいと思います。

3. 取りまとめの方向性と今後 3)放送波のブロードバンド等代替

 守りの戦略としてもう1つ示された方向性が、3)の放送波のブロードバンド等代替でした。これについては、放送政策にとって大きな転換点となる内容だと感じたため、少し厚めに触れておきたいと思います。
 先ほど、放送波を伝送する中継局の維持経費のうち、約半分は小規模中継局等の施設であるということに触れました。これらの施設はどの位の世帯をカバーしているのかというと、NHKにおいては約2割、民放においては約1.5割となっています。一世帯あたりで換算すると、大規模局に比べて維持経費はかなり割高であることがわかります。そのため、小規模中継局等の施設では、番組の伝送を、放送波からブロードバンド等に代替した方が放送局のコスト負担の軽減になるのではないか、ということが検討されたのです。
 検討の最大のポイントは、代替の対象として、これまで制度上は放送として扱われてきたケーブルテレビネットワークやIPマルチキャスト方式だけでなく、制度上は通信として扱われ、「NHKプラス」「TVer」等のオープンインターネット上の配信サービスと同じIPユニキャスト方式が俎上にあげられ、検討の主眼となったということでした。ちなみに総務省は2018年にIP放送に関する技術基準を施行しているのですが、その際の前提は、事業者が放送と同一の品質を保証することができるIPマルチキャスト方式でした。一方、放送と比べて30秒近く遅れたり、アクセスが集中した場合には映像の画質が悪くなったり、場合によっては画面が固まってしまったりする、“ベストエフォート型”のサービスであるIPユニキャスト方式は、IP放送とは位置づけられませんでした。
 このIPユニキャスト方式を放送波の代替の検討の主眼に置くという方向性は、在り方検が始まった当初から明確に示されていました。光ファイバがユニバーサルサービスとなる時代において、伝送部分は放送と通信の垣根をなくし経済合理性で判断していこうという総務省の意思は理解できましたが、品質が保証されないIPユニキャスト方式を検討の主眼にするということについては、多くの関係者も当初、違和感を抱いており、私も腑に落ちていませんでした。
 そんな中、今年6月、私は幕張メッセで開催された「Interop Tokyo2022」の基調講演で、在り方検の「小規模中継局等のブロードバンド代替に関する作業チーム(作業チーム)」メンバーのクロサカタツヤ氏と一緒に登壇する機会を得ました。そこでクロサカ氏はIPユニキャスト方式を積極的に検討する理由について次のように語りました。「マルチキャストは一定の設備が必要であり、提供できる事業者も絞られる。(中略)これを放送インフラとして使って良いのかという議論はある。だが、ユニキャストならばどの事業者でも対応可能だ」「ユーザー目線に立てば、IPも放送も『いま使っているスマホの中』という印象だろう。ユーザーにとってシームレスに移行できる道を考えるべきでは無いか」12)。これを聞いて私は、IP化とは基本的にオープンなもので、多くの事業者が参加することで技術もサービスも向上していくこと、そしてサービスのあり方は特定の事業者ではなくユーザーが決めていくものであること、通信融合の垣根をなくしていくという本質はこういうことなのだ、ということに気づかされました。

 作業チームは今年2月から議論を開始し、これまで通り中継局から放送波で伝送する場合とブロードバンドで代替した場合の費用の比較を、NHKの小規模中継局以下の63施設の対象エリアを抽出してシミュレーションしました(図4)。内容の詳細は作業チームの取りまとめ 13)が別途公表されているのでそちらを確認いただければと思いますが、今後の人口減少も勘案すると、2040年にはミニサテの約半数のエリアにおいて、ブロードバンドで代替する経済合理性があるという結果が報告されました。

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 この試算では、放送アプリケーションの費用や、そもそも光ファイバが敷設されていないエリアでの整備に関わる一切の費用が計上されていないという点には留意する必要があります。また、対象エリアにおいてこれまで放送波経由でテレビを視聴していた視聴者は、ネット接続サービスを利用していなければ、回線を自宅に引き込んだりISPとの契約をしてもらったりする負担が伴ってきます。これをどのようなスキームで整備するのかによっても試算は変わってくる可能性があります。ただ、これまで漠然と、放送波より通信の方が、経済合理性が高いのではないかという指摘がなされてきた中で、こうした具体的なシミュレーションの結果が初めて公表されたことは、在り方検の大きな成果ではないかと思います。
 図5は、作業チームの取りまとめに示された制度面・運用面の課題です。先ほど、総務省は、伝送路においては通信と放送の垣根をなくし、経済合理性で判断していこうという意思があるのでは、と書きましたが、そのための放送制度をどのような姿にしていこうとしているのかについてはまだ見えません。通信として位置付けられており品質の厳密な保証も難しいと想定されるIPユニキャスト方式による代替を、放送法や著作権法でどのように位置づけていくのか。この問題は、そもそも放送の定義とは何か、ユニバーサルサービスとは何かという根源的なテーマにつながります。また、放送規律や受信料制度、既に行われている放送事業者による同時配信等の配信サービスやケーブル再放送サービス等との関係も整理していかなければなりません。言うまでもありませんが、対象となるエリアの受信者・視聴者にどのように理解を得、視聴のためのサポートをしていくのかも極めて重要なテーマです。

murakami10.jpg 今後の検討スケジュールとしては、特定の地域を対象に住民や自治体の協力を得ながら配信実験を行い、年度末に何等かの報告をまとめることが決まっているとのこと。制度面や運用の課題はその後、ということのようですが、総務省の検討を待たず、私なりに考えてみたいと思います。
 次回は、⑷攻めの戦略について整理していきます。

1) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000236.html 
2) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/08/10/ 
3) 8月10日のブログでは2回で書くことを予告していたが、取りまとめの要素が多いことから回数を増やした
4) ソフト事業者は放送法の基幹放送事業者の認定を受けた「基幹放送事業者」、ハード事業者は電波法の基幹放送局の免許を受けた「基幹放送提供事業者」。ソフト事業者はハード事業者から設備の提供を受けて事業を行う。ソフト事業とハード事業の分界点だが、送出設備については、事業者が全部または一部をハードもしくはソフトのいずれかに含むかを選択できることになっている(放送法施行規則第3条)
5) 正式には「特定地上基幹放送局」を指す
6) こうした放送技術に関する人材の育成、確保も近年大きな課題となっている
7) 民放ローカル局の場合、広域局で20億程度、県域局で6億程度という(独自ヒアリングによる。系列により異なると思われるのであくまで参考値として提示)。この他に民放は、送出のために営放(営業放送)システムも必要で、こちらも億単位の投資が必要となる。
8) 中継局の年間の維持費用については、民放連、NHKが在り方検で報告した数字を用いた
9) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban01_02000042.html 
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000821000.pdf P5
11) マスター設備については、JNN系列で、あいテレビ(愛媛県)と中国放送(広島県)ではセントラルキャスティング方式(地域ブロック内で親局を決め、系列局のネット番組やCMの送出を親局が一括管理)が採用されていた時期があった。中継局の維持管理については、在京、在阪、青森県、長崎県等で系列を超えて共同でメンテナンス会社を設立したり業務委託したりするなどの取り組みが行われている。
12) この基調講演の詳細は、Screens「Interop Tokyo 2022基調講演「IP化時代における放送の将来像」レポート」に再掲されている。
前編 https://www.screens-lab.jp/article/28116 
中編 https://www.screens-lab.jp/article/28117 
後編 https://www.screens-lab.jp/article/28118 
13) https://www.soumu.go.jp/main_content/000827791.pdf

調査あれこれ 2022年08月19日 (金)

#417 「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」③ ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうかのお話です。

 <前回ブログまでのポイント>
 ①多くの人が、東京パラをNHKや民放の放送や、NHKプラスなどのインターネット向けサービスを通じて視聴した。
 ②東京パラをNHKで視聴した人の大多数が、大会をきっかけに、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと回答し、東京パラをスポーツとして楽しめた人が多い。

 今回も、東京パラをNHKで視聴した人の回答に注目しますので、まずは視聴した人の割合を改めてご紹介しておきます。74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。

saiitou3-1a.png 今回のブログでは、NHKで東京パラを視聴した人たちが、障害者スポーツに対してどのようなイメージを持ったのか、みていきます。

 調査では、人々が障害者スポーツに対してどのようなイメージを持っているのかを把握するために、「あなたは、『障害者スポーツ』と聞いて、どのような言葉を思い浮かべますか」という質問をしました。その回答結果を、東京パラをNHKで視聴した人と視聴しなかった人別に集計したのが、次の表です。

saitou3-2a.png ご覧のように、視聴した人でも視聴しなかった人でも、トップは「感動する」というイメージですが、その割合には大きな差があります。また、視聴した人では、「すごい技が見られる」「明るい」などポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも軒並み多くなっています。
 前回のブログでは、NHKで視聴した人は、東京パラをスポーツとして楽しめたというお話をしましたが、ここでも、「すごい技が見られる」「迫力のある」「面白い」「エキサイティングな」など、スポーツとしてのポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも多いことがわかります。
 一方、「難しい」「痛々しい」「親しみのない」というネガティブなイメージを持つ人の割合は、視聴した人では、視聴しなかった人よりも少なくなっています。そもそも、視聴しなかった人では「感動する」以外はどの項目も20%未満と少ないので、「障害者スポーツ」と聞いても、パッと思い浮かぶイメージがあまりない、ということなのかもしれません。
 パラ競技は、選手の障害の種類や程度などによって、競技のクラス分けやルールが細かく設定されているので、どうしても、ふだん見慣れているオリンピック競技よりも「難しい」という印象を持たれるように思いますが、前述のように、視聴した人では「難しい」というイメージを持った人はわずか8%でした。言い換えれば、ほとんどの人が、“東京パラを視聴しても、難しいとは思わなかった”わけです。
 現実問題として、難しいはずなのに、どうして「難しい」と思わなかったのか。これについては、別の質問で、東京五輪・パラを楽しむためにどのような放送やサービスが役立ったのかを複数回答で尋ねた結果をご紹介します。

saitou3-3a.png 調査相手全体のトップは「競技の見どころをまとめたハイライト番組や映像」(57%)ですが、東京パラをNHKで視聴した人では「競技への関心につながるような選手やルールの紹介や解説」が65%で最も多くなりました。また、「競技中継の内容や注目点を画面上でわかりやすく伝える文字情報」を挙げた人も、全体より多くなっています。
 今回の東京パラで、多くの人が視聴したNHKの競技中継や番組では、画面上のテロップやアナウンサーの実況、解説者のコメントによって、かなり詳しくルールを説明していましたので、そうした工夫が、パラ競技のわかりにくさを減らし、結果的に、スポーツとして楽しめた人を増やしたのかもしれません。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、今大会が人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。特に、今回のブログでご紹介した障害者への理解促進に関しては、「大会をきっかけにバリアフリー化が進んだかどうか」を尋ねた結果で、日ごろ障害のある人と身近に接している人と、接していない人では、回答に違いが出ていて、深く考えさせられました。ぜひお読みください!



調査あれこれ 2022年08月18日 (木)

#416 「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」② ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

  前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうかのお話です。

 <前回ブログのポイント> 
 ①東京パラでは、オリンピックと同様に、日本がメダルを獲得した競技が多くの人の印象に残った。
 ②多くの人が、東京パラをNHKや民放の放送や、NHKプラスなどのインターネット向けサービスを通じて視聴した。
 ③東京パラをNHKで視聴した人の大多数が、大会をきっかけに、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと回答した。

 このあとの分析をお読みいただく前提として、改めて、東京パラをNHKで視聴した人の割合をご紹介しておきます。74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。

saitou2-1.jpg 今回のブログでは、NHKで東京パラを視聴した人たちが、障害者スポーツに対してどのような感想や意見を持ったのかを、もう少し具体的に掘り下げます。
 
 調査では、東京パラを視聴してどう思ったか、9つの感想を示して、「そう思う」かどうか尋ねました。NHKで東京パラを視聴した人の回答結果はご覧の通りです。

saitou2-2a.png 「そう思う」という人が最も多かったのは、「選手が競技にチャレンジする姿や出場するまでの努力に感動した」(87%)と「想像していた以上の高度なテクニックや迫力あるプレーに驚いた」(86%)で、9割近くにのぼります。
 私が注目したのは、東京パラを、スポーツとして捉えた人の多さです。上記の「想像していた以上の高度なテクニックや迫力あるプレーに驚いた」に加え、緑色でお示しした「記録や競技結果など純粋なスポーツとして楽しめた」は76%、「これからもっと障害者スポーツを見たいと思った」は60%と、いずれも半数を大きく上回っています。
 一方で、「オリンピックの楽しみ方とパラリンピックの楽しみ方はまったく違うと思った」という人は45%と半数以下にとどまりました。すなわち、パラリンピックも、オリンピック同様に、世界のトップアスリートたちがメダルをかけて競い合う姿を観戦し、応援するという楽しみ方をするものだと考える人のほうが多いわけです。
 これに関連して、今回の世論調査を振り返ると、大会前の第6回では、「パラリンピックには、スポーツとしての側面と、福祉として側面がありますが、放送では、どのように伝えるべきだと考えますか」という質問をしました。

saitou2-3a.png 「オリンピックと同様に、純粋なスポーツとして扱うべき」という人が43%と最も多く、「なるべくスポーツとしての魅力を前面に伝えるべき」(23%)と合わせると、『スポーツとして伝えるべき』だという意見が67%にのぼり、「競技性より、障害者福祉の視点を重視して伝えるべき」(4%)という意見を圧倒的に上回りました。
 つまり、大会前から、東京パラをスポーツとして楽しみたいと思っていた人が多く、実際に大会を視聴した人の感想としても、スポーツとして楽しめた人が多かったのです。
 ふだん、オリンピック競技ほどには見慣れていないはずのパラ競技を、オリンピックと同じようにスポーツとして楽しめた人が多かったという結果は、東京でのパラリンピック開催や、それを伝えたメディアが、障害者スポーツの理解促進に寄与したことのひとつの証ではないでしょうか。
 次回のブログではさらに、東京パラの視聴が、人々の障害者スポーツに対するイメージに、どのような変化をもたらしたのかをご紹介します。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。どうぞご一読ください!

調査あれこれ 2022年08月17日 (水)

#415「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」① ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部(視聴者調査)斉藤孝信

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、文研が大会招致決定後の2016年から7回にわたって実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しております。

 今回のブログでは、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうか、お話します。
 皆さんは、東京パラのどんな競技が印象に残りましたか?
 世論調査では、第2回から毎回、「見たい競技・式典」を、大会後の第7回では「印象に残った競技・式典」を尋ねました。
 大会前の第6回と大会後の第7回のトップ10はこちらです。
 saitou1-1.jpg 第7回の「印象に残った競技・式典」のトップは、日本が13個のメダルを獲得した「競泳」。次いで、国枝慎吾選手の金メダルをはじめ日本勢が3つのメダルを手にした「車いすテニス」や、男子が銀メダルに輝いた「車いすバスケットボール」も、4割以上の方が「印象に残った」と答えました。
 ランキングの上位を日本のメダル獲得競技が占めたという結果は、先日のブログでご紹介した東京オリンピックにも共通しています。
 赤の数字で示したのは、第6回で「見たい」と答えた人よりも、第7回で「印象に残った」と答えた人のほうが多かった競技です。
 ご覧のように、軒並み、赤!
 日本のパラアスリートの活躍が、いかに人々の心を動かしたのかが、これを見るだけでも伝わってきます。
 また、第6回では、見たい競技が「特にない」人が29%いましたが、第7回では、印象に残った競技が「特にない」人は19%と大きく減りました。
 第7回では、東京パラを視聴する際にどんなメディアを利用したのか、NHKと民放の放送・サービスを、それぞれテレビの「リアルタイム(放送と同時に)」と「録画」、インターネット向けのサービスであるNHKプラスやTVerなどの「インターネット」に分けた上で、放送局以外のサービスである「YouTube」「YouTube以外の動画」「LINE」「Twitter」「Instagram」「その他のSNS」も加えた12のメディアを示して、複数回答で尋ねました。

saitou1-2.jpg 
 テレビの「リアルタイム」が圧倒的に多く、NHKが73%、民放が63%でした。NHKについては、録画やNHKプラスなどのインターネット向けサービスも含めると、74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。
 この事実だけでも大変嬉しいのですが、欲を言えば、この視聴が、障害のある人や、障害者スポーツへの理解促進につながっていてほしい・・・と思うわけです。

 そこで、東京パラをきっかけに「自身の障害者への理解が進んだと思うか」「自身の障害者スポーツへの理解が進んだと思うか」を尋ねた結果を、それぞれ、NHKの放送・サービスの利用有無別に集計してみました。
 saitou1-3.jpgsaitou1-4.jpg その結果、NHKで東京パラを視聴した人では、障害者への理解、障害者スポーツへの理解ともに、『進んだ(かなり+ある程度)』という回答が8割前後にのぼり、視聴しなかった人を大きく上回りました。今回は、最も多くの人が東京パラを視聴してくださったNHKを取り上げましたが、民放でも同じように、大会を視聴した人のほうが、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと思う人が多いという結果が出ています。
 では、具体的に、どのように理解が進んだのでしょうか。次回のブログで、詳しく掘り下げたいと思います。