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メディアの動き

メディアの動き 2022年09月12日 (月)

#420 この作品をコピーして使いたい ➡ 作者に連絡しても返事がない ➡ どうする!?   ~文化審議会「新しい権利処理の仕組み」議論から考える~

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇

 今日から宣伝部に配属されたあなたの最初の仕事が、販売促進イベントのポスターの制作になりました。素敵なポスターを期待しているよ、と上司に言われたあなたは、プレッシャーを感じたのか、どうもいい案が浮かばず、とりあえずインターネットであれこれ閲覧していると・・・。

 「おお、これは素敵だ! イベントのコンセプトにもぴったりだ!」

という写真画像とご対面。一瞬にしてポスターのイメージが浮かび、さっきまでのプレッシャーはどこへやら。俺って才能あるかもしれない。俺のハイスペ、やべえ。

(10分経過)

  できた!ポスターデザイン案! デキる男は仕事が早いぜ。写真を背景に宣伝文字をゴン攻めでレイアウトしたデザイン。このイベントは行きたくなる!・・・おい上司、見て驚け。

「部長、よろしいでしょうか。デザイン案を作りましたのでご確認お願いします」
「早いね。・・・・・・おお、いいねえ!」

 どうだ。どうだ! ボーナス今から楽しみだ‼

ところでこの写真許可取ってるよね? 著作権、大丈夫だよね?」 

 え?・・・げげ! 萎え~~。。。

 その場は何とか取り繕い、撮影者の写真家さんのホームページから秒で連絡先を見つけ出し、写真使用の許可お願いメール送信。・・・ふう。俺に乙。弱気に勝つ。もう終わっちまうのかい夏。あぁ~~、無事にOKもらえたらいいんだけど・・・。

(2日経過)

「ポスターデザイン、まだ?」
「ぶ、部長、すみません! ちょ、ちょっとお待ちください。もう少しいい感じになりそうなので、デザイン練り直してまして・・・」
「こだわるねえ。立派、立派。まぁでも、今日中にはお願いね」
「いやあ、お待たせしてすみません。は、今日中で。承知しました。どうぞご心配なく」

 ・・・あの写真家! 昨日も今日もメール送ったのに全然返信ねーし。ガチ無礼‼
 どうしよう。・・・いや待て。こっちは誠意を尽くしてお願いしてるし、返事をしないほうが悪いわけだし・・・。写真使っちゃっても許されるんじゃね? 時間切れってことで、いいんじゃね??

 なんだか3月まで放送していた「バラエティ生活笑百科」風になりますが(あ、すみません。この段から筆者本人に戻っています)、このような場合、写真を使用すれば、法律上、写真家(権利者)の著作権の侵害だといわれたら、反論するのは難しいでしょう。写真家が返事を怠っていたとしても、あなたは権利者から使用許諾を得ていない(権利処理をしていない)ことに変わりありません。 

 しかし、「返事がもらえないから使えない」というのも、モヤモヤ感は残りますね。
 著作権法の目的は、権利者を保護しつつ、文化の発展に寄与すること。そのバランスをどう図るかが肝ですが、IT技術の発達によって著作物の流通が飛躍的に伸びている今、もっと権利処理の仕組みをシンプルにしてほしい、という声が高まっています。

   時代のニーズに対応すべく、文化審議会の著作権分科会・法制度小委員会では現在、「新しい権利処理の仕組み」について、活発な議論が行われています。「返事がもらえないから使えない」状態も含め、権利者本人からの許諾がなくても、しかるべき手続きをすることで、暫定的に著作物を利用できるようにする「簡素で一元的な権利処理」の方策を検討しているのです。

 8月30日の第二回小委員会では、文化庁から制度化のイメージが示されました。(図)

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 制度化のイメージでは、運用は以下のような流れを想定しています。
 著作物の利用を希望する人は、新たに創設予定の著作物の分野を横断した窓口組織に相談し、データベースを活用して権利者を探します。
①権利者が不明、②権利者の連絡先がわからない、または③利用に対する権利者の意思表示がないような場合、「新しい権利処理」の手続きへと進みます。利用者は使用料相当額を支払い、窓口組織はWEB上で公告(利用について広く一般に知らせること)をします。公告と並行して、利用者は「暫定的利用」を行うことができる、というものです。

   現行の著作権法では、上記の①②、すなわち、権利者が不明、連絡先がわからない、といった場合、著作物を利用できる道を開くための「著作権者不明等の場合の裁定制度(※2)」というものがあります。文化庁に対して所定の手続きを行い、使用料相当額の補償金を供託する(法務局に預ける)ことで、権利者に代わって文化庁長官が利用を認める「裁定」をする制度です。著作物の利用に国がお墨付きを与えるわけです。
   しかし、冒頭のポスターに写真を使いたいという例のように、権利者の連絡先はわかるけど③意思表示がない(返事がない)、もしかすると送ったメールを権利者がたまたま見ていなかっただけ、といった場合、裁定制度の申請対象にならない、ということが課題視されています。
  そこで、「新しい権利処理」では、③をカバーしようとしているのです。手続きや費用負担などもあわせて考えると、「新しい権利処理」が利用者の利便性を向上させ、利用の促進につながる期待が持てます。

  しかし、「新しい権利処理」は、お墨付きがない暫定的利用を始めてから権利者が意思表示をした場合、利用を停止させられるリスクも残ります。写真付きポスターの例でいえば、ポスターが完成し、あちこちに掲示したあとになって権利者である写真家から使用不可の連絡が来たら・・・、全部回収という最悪の事態も懸念されるのです。

  第二回小委員会では、出席した複数の委員から、
「権利者の意思表示とは何を指すか、もっと具体例を示して検討する必要がある」
「権利者から不許諾の意思表示があれば即、暫定的利用の停止となれば、利用者側が萎縮する恐れがある。一定期間の利用継続を認めるような設計が必要だ」などの声が上がりました。
  これまでにない制度改正案のため、さらに精査が必要になるでしょう。意思表示のほかにも、窓口組織やデータベースをどの程度「一元的」なものにできるか、など検討課題が残されています。小委員会の予定では、来年1月には報告書を取りまとめ、次期通常国会に法改正案の提出を目指しています。
  今回示されたイメージ通りになるのか、時代のニーズに沿った制度となるのか。私たち放送関係者にとっても、また、著作物を利用する誰にとっても大いに関係する議論です。今後も注視して、随時お伝えしていこうと思います。

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※1 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第2回)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元の制度化イメージについて(案)」より
※2  著作権者不明等の場合の裁定制度(文化庁ホームページ参照)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/

 

メディアの動き 2022年03月23日 (水)

#378 人と人との繋がりを生み出す ~徳島局「AWAラウンドテーブル」の取り組み~

メディア研究部(番組研究) 宮下牧恵


 NHKの地域放送局では、「課題解決型」のニュース企画や番組の制作が多数行われるようになってきていることを、2月25日のブログでお伝えしました。今回は、「課題解決」を目指しながら、地域の中で新しい人と人との繋がりを生み出そうというNHK徳島放送局の取り組みを取材しました。
 徳島局では放送だけでなく、ホームページやSNSでニュース記事や動画の配信を行っていますが、「それだけではNHKの存在意義が薄くなるのではないか」という危機感があったそうです。そうした中、ディレクター、編成、記者など職種の違う職員が集まった際に、「放送で取り上げるだけで取材先との関係が終わってしまうのはもったいない」という話が出てきました。
 「放送を出口にするのではなく、放送を入口にして関係性を繋いでいけば、取材先の人たちが抱えている悩みなどにもっと関わっていけるのではないか」と考えた、末永貴哉ディレクター(現・首都圏局)は、放送を入口にして、ニュースの取材先同士をつなげるプロジェクトを立ち上げてはどうかと発案しました。賛同した13人の職員がコアメンバーとなり、立ち上がったのが、「AWAラウンドテーブル」と呼ばれるプロジェクトです。
 「ラウンドテーブル」とは、大学の教職員や学生などの間で20年以上前から続いてきた取り組みです。報告者と聴き手に分かれ、報告者は自分が抱えている課題や悩みを心ゆくまで話します。聴き手はさえぎらずに話を聞き、報告者に寄り添ったアドバイスをすることが求められます。末永ディレクターは、学生時代に「ラウンドテーブル」の取り組みを学び、放送にも取り入れることが出来ないかと考えたそうです。

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 「AWAラウンドテーブル」で目指したのは、以下の3つのステップです。

① 地域の人をつなぐ場となるイベントを開催する
② イベントの様子や参加者の「その後」を放送する
③ 放送を見た人が「応援者」となりつながりの輪がひろがる

 まず行われたのが、NHK徳島放送局で放送されている「とく6徳島」(月~金、18時10分から)の放送の中から、「地域おこし」に関連したテーマのニュース1年間分、300本を調べるという作業でした。そのうち100本のニュースで取材し、出演してもらった地域の人たちに連絡を取りました。そして、改めてその人が放送で伝えきれなかった思いや、いま直面している課題、公共メディアに期待したいことなどを聞き取りました。そして、いくつかの共通した悩みを抱える約20人の人たちに集まってもらい、悩みをとことん話し合ってもらうイベントを2021年3月に開催。その模様を収録し、徳島県内向けの番組「あわとく」(金曜夜7時30分から7時55分まで)で5月14日に放送しました。

 イベントでは、悩みの種類によって参加者を4つのグループに分けました。PRがうまくいかない「情報のしかたを模索」するグループ、後継者がいない「担い手不足について議論」するグループのほか、「異業種との連携を模索」するグループ、「コロナ禍の地域おこしを議論」するグループです。

 例えば、「情報発信のしかたを模索」するグループでは、公務員YouTuberとして徳島県南部の観光PRを担っているものの、チャンネル登録者が伸びないという県職員が報告者になりました。聴き手の一人は7年前から動画投稿サイトで自身の酒造メーカーの商品やレコードを紹介する活動をしてきた男性。「動画はふざけていていい、行ったらすごく楽しかったということが大事」と、行政マンがなかなか思いつかない発想で、アドバイスしていました。
 また、「異業種との連携を模索」するグループでは、障害者団体の代表の女性が報告者となりました。この女性には、重度心身障害者で28歳(取材当時)になる娘さんがいます。女性はかねてから娘さんが障害者という枠を超えて、就労できないかと模索していました。


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「生産力がない障害者は仕事も持てないのか」と悩み、娘にしかできないような役割が何かないかと相談をしました。そこで、4年近く前から福祉施設と連携し、徳島県産の野菜をメニューに取り入れたり、自らも野菜を作ったりしている飲食店の経営者が、収穫したカラフルなジャガイモを味見してもらうなど、女性の娘さんにインフルエンサーの役割を担ってもらえないかとアイデアを出しました。イベントの後、このグループでは、先ほどの飲食店経営者や徳島大学の教授などが自主的にオンラインでやり取りを始め、ジャガイモの収穫祭を行う準備を進めました。その様子も、5月の放送で紹介されました。
 さらに放送後、徳島大学ではこの動きを授業で取り上げ、どうすれば収穫祭を盛り上げることができるのか、学生たちからもアイデアを募るなどして、人のつながりが広がっていきました。そして、7月に収穫祭が行われ、重度心身障害を持つ娘さんは、特製ムースなどメニューの開発補助を行ったほか、カラフルなジャガイモの詳細を伝えるビラの配布や、ジャガイモの魅力を客にPRして回るなどを行うなど広告塔としての役割を担いました。
 末永ディレクターは、収穫祭の準備や当日の模様などを再度取材し、11月に放送された「AWAラウンドテーブル」第2弾の回で短いVTRにまとめて放送しました。
 また、「あわとく」の中で放送しきれなかった他のグループのエピソードや出演した方の活動などについては、「とく6徳島」で放送したそうです。


220322-3.JPG 末永ディレクターによると、参加した人たちに公共メディアに何を期待するかを尋ねたところ、「普段から人とつながる機会が少なかったり、自分と同じような立場の人とばかりつながってしまうため、今回のように違う立場や考え方の人と出会える機会を作ってもらえれば」という声が多く聞かれたそうです。イベント自体の満足度は非常に高いものでした。一方で、悩み相談や座談会のような映像を、どうすれば視聴者に楽しく見てもらえるのか、演出面に課題を感じたということです。
 

 徳島放送局の京戸英之副部長によると、「来年度は『AWAラウンドテーブル』のスキームを一層進化させて、徳島県で必要とされ続ける地域放送局を目指します。テーマを、ツーリズムや地域活性化など、県民の関心の高い分野に絞りこみ、内容をさらに充実し、もっと多くの人に見てもらえるよう努めます。」とのことでした。

次回も、地域放送局の新たな取り組みについてブログでご紹介します。


メディアの動き 2022年03月11日 (金)

#375 政策目的の実現のためにどう政策手段を見直すか? ~「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」第6回から~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


 本ブログでは、総務省で開催中の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(本検討会)」を傍聴している私が、私なりに論点を整理し所感を記しています1)
。今回は、第6回の議論についてです。

①    政策目的と政策手段

 今年に入ってから、本検討会では主要な論点として、「マスメディア集中排除原則(マス排)」と「放送対象地域」を見直すかどうかが集中的に議論されています。これは、情報空間がネットに拡張して人々のメディア接触が大きく変容する中、また人口減少が進み地域経済が衰退しローカル局の経営基盤が揺らぎかねない状況になる中、放送の「多元性・多様性・地域性」の確保という政策目的を実現するための政策手段(上記2つの制度)が時代に合わなくなっている部分があるのではないか、という問題意識からスタートしています。政策手段が政策目的の実現を却って妨げているのではないか、と言い換えてもいいでしょう。なんだか最初から堅苦しくなってしまいましたが、このことは、この論点を見ていく点で常に忘れてはならないポイントだと思っています。

②    固まってきた見直しの方向性(案)

 前回の第5回会合では、総務省側から示された「見直しの方向性(案)」を巡り議論が行われました。それを受け、今回は、より明確な方向性(案)2)が示されました。ポイントをまとめておきます。

    1⃣認定放送持株会社制度の地域制限(現状は12地域)は撤廃

    2⃣隣接・非隣接を問わず、一定の制限の範囲内で異なる地域の兼営・支配を可能に

    3⃣同一地域については現状維持。ただしハード設備連携等で緩和ニーズがあるかを継続注視

    4⃣放送対象地域は変更せず、希望する局は複数地域での放送番組の同一化を可能に

    5⃣放送番組同一化の制度を設ける場合には、地域情報の発信確保の仕組みを措置

③ それぞれのポイントについての議論の整理と若干のコメント

 1⃣についてはこれまでも構成員から反対の声は上がりませんでしたが、今回、資本関係と自社制作番組比率との間に関連性が認められない、つまり、例えばキー局持株会社の関係会社の局とそうでない局との間に比率に差異はない、という事務局側の資料が提示され、案では「撤廃」に踏み込みました。撤廃を巡っても、特段の異論はありませんでした。

 ただし、あくまでこれは現時点での比率の数字であり、ローカル局がキー局持株会社の関係会社や子会社になってからその比率が維持されてきたのか向上してきたのか、それとも減少してきたのか、といった経年での分析ではないことには注意が必要だと思いました。認定放送持株制度導入の政策目的は、「地上放送事業者に関し、多額の資金調達や経営の一層の効率化が大きな経営課題となる中、持株会社を通じた資金調達を可能とし、放送事業者の経営の安定基盤を強化する、人材、資金、設備等について経営資源の効率的運用を可能とする、放送事業者間の連携ニーズに柔軟に対応することを可能とする3)」ということであるため、必ずしも地域に向けた自社制作番組の充実は政策目的ではありません。一方で放送法163条において、認定放送持株会社の関係会社には地域向け番組制作への努力が定められています。仮に今回「撤廃」することになったとしても、経年での評価を、地域性の確保という観点から注意深く見ていく必要があるのではないかと感じました。

 2⃣については、局にとって使い勝手のいい柔軟な制度改正が必要だ、という方向で議論は進んでいきました。また、この考え方は4⃣の放送番組の同一化の対象地域を考える際にも援用できるのではないか、ということも今回、示されました。それを受け、現在、現行法では隣接地域の局において3分の1の出資規制がかからない、つまり、局同士の合併まで可能な制度(「特定隣接地域特例」)では対象外とされている広域局の扱いをどうすべきか、ということが一つの論点となりました。
 一例としてあげられたのが静岡県でした。静岡県の場合、東部は関東エリアに近く、逆に西部は中京エリアに近い生活圏となっています。しかし現行法上は、関東も中京も広域局の地域であるため、もしも静岡県にある局が経営統合もしくは番組同一化を考えたとすれば、静岡県については長野県か山梨県としか一緒になれず、生活圏を同じくする関東や中京とは一緒になれません。それは視聴者目線から考えてどうなのか、という問題提起がありました。今回は静岡県が例にあげられましたが、このほかにも同様の課題を抱える県は存在すると思います。それに対して総務省側からは、三大広域圏の資本関係が結びつくことは放送の多様性が損なわれる恐れが強いとの懸念があるため、現行法では認められてこなかった、また、資本関係の強化であれば認定放送持株会社制度を活用すれば可能であり、これまで要望もなかったという発言がありました。ただ、検討の余地はあるという発言もありましたので、次回更に議論が深められていくものと思います。
 しかし、当然ながらこうした“静岡県問題”のようなことは、放送制度特有の論点ではないということには注意が必要だと思います。今後仮に、行政単位が現在の都道府県から、道州制や広域行政圏などへ見直す議論が進んでいくとしたら、同様の問題が顕在化してくることは間違いありません。それをどう解消していくかについては、大きな政治的判断を伴うものとなってくるでしょう。そうした判断の前に、事業者の事情によって先んじて放送制度の側がこのような議論をし、新たな枠組みを設けようとしていることについては、個人的にはいささか違和感を覚えますが、今回、放送対象地域という原則を変えない、ということで、“後戻りできる”制度設計とみることもできると思います。次回は、広域局において隣接特例を拡張するかどうかが議論されると思いますが、認定放送持株制度がある中、今一度、放送3原則という大きな政策目的に立ち返りながら、幅広い議論が行われることを期待しています。

 3⃣については、ローカル局自身から、系列を超えた1局2波や、局の数を減らすクロスネット局化といった具体的な要望が出ていない以上は現状維持でいいのではないか、という構成員が多かったように思います。今回、テレビ朝日HDはヒアリングの追加資料を提出しましたが、そこにおいても同一放送地域内の緩和については否定的な見解が述べられていました4)。ただ、ローカル局の要望については、三友座長が愛媛県を訪れてヒアリングした結果が次回示されるということなので、潜在的にローカル局にこうしたニーズがあるのかどうか、少しは明らかになってくると思いますので、次回の議論を待ちたいと思います。
 また、こうした論点とは異なり、専らハード設備を前提とした連携を行うため、マス排緩和を行わなければできないような資本関係強化の必要があるのかどうかも議論されていました。今回の議論では、ハード設備といっても、“ソフト寄り”のハードとしてのマスター設備については、系列で仕様が異なるために“タテ”(つまり系列ごと)の連携が、一方で中継局設備のようなものについては“ヨコ”の連携が求められるのではないかといった、放送業界にとってよりリアリティのある議論になっている印象を受けました。その上で、ヨコ連携については、既に中継局についてはNHKも含めた共建が進んでいること、またメンテナンス会社については系列を超えて横で共同の会社を作ったり、共同で別会社に委託したりという取り組みが既に進んでいる実例がある中 5)、更に経済合理性を高めていくためにどのような姿を模索していくのか、これはユニバーサルサービスのブロードバンド代替の取り組みを本格的に進めていくことになる中で、NHKも含めた次のステージの議論として改めて出てくる論点ではないかという印象を持ちました。

 4⃣の複数地域の同一放送の可能化については、5⃣の地域情報確保の措置とワンパッケージで議論されてきました。同一放送を可能にするという政策手段によって実現しようとする政策目的は何なのか、今回の検討の中では最も重要な議論であるように思います。ここについては、まだ議論がしつくされているとは思いませんので、次項で詳細に述べていきます。

④    複数地域での番組の同一化の政策目的は何か?

 改めて確認しておくと、現行制度においても、複数地域での番組の同一化を実現する制度は既にあります。この制度は「経営基盤強化計画認定制度」というものですが、「経済事情の変動により放送系の数の目標の達成が困難になる恐れがある等と認められる」地域に指定され、そこの地域の局が計画を作成して総務大臣の認定を受けて初めて実現するもので、いわば、経営が悪化してからの対応策のような制度です。今回議論されているのは、経営が悪化する前に複数局が番組の同一化という施策を行うことで、ローカル局の経営基盤強化を図ろうという、いわば“転ばぬ先の杖”の性質のもので、既存制度とは別立てで設けていこうということを総務省側は方向性案として示しています。
 これを要望したのはテレ朝HDで、要望の際、その目的は「地域での放送の維持」であるとしていました。では、ここで想定する“地域”とは何を指すのか。これが非常に重要な論点だと思います。4⃣と共に議論されている5⃣の地域情報確保の措置についても同様です。今回の議論では、災害でも県よりも広域の地域のニーズがある、といった意見や、県よりも小さな住民自治の単位としての地域情報の確保が重要だ、と言った意見が出され、かならずしも構成員の間で、地域の範囲や地域情報のイメージが共有されているとは思えませんでした。一方で、共有できないのは当然であり、それぞれの地域によって、またそれぞれの局面によって住民のニーズも異なるため、そこは放送を行う局に委ね、局が自らの判断で行っていくべき、という趣旨の発言もありました。
 5⃣の地域情報確保の措置については、これまでのような事業者の努力義務に委ねていてはだめだ、といった厳しい意見や、地域性確保の取り組みのモニタリングが必要という意見、事業者が視聴者への責任として情報発信の見える化を自らの判断で取り組んで公表すべきといった意見が出されました。また、こうした取り組みについては、放送番組の同一化の制度を活用した局かどうかに関わらず、全ての局が公表していくべきではないか、といった意見も出ました。事業者への過度な介入にならず、しかし制度のお題目として形骸化したものにならないよう、そして何より、こうした取り組みが事業者にとって単なる義務ではなく、取り組みを行う事が地域の信頼の確保やビジネスにつながり、更に局が地域メディアとしての役割を高めていくきっかけとなる、そういう方向に向かう議論になっていくことを期待します。前回のブログで私は、単なる放送による地域情報の提供という視点ではない多面的な地域性の物差しを開発することが必要だと述べましたが、そのことを今回も改めて述べておきたいと思います。その物差しをローカル局自らが開発し、公表していくことを通じて、地域における自局の存在意義とは何かを再認識し、住民や広告主・自治体などとコミュニケーションをしていく一つのツールにしていくことができるといいのではないかと考えます。
 更に今回の議論では2つ重要な視点が提示されました。1つ目は、小さな経済圏の情報発信が減ることが懸念されるので、何らかの手段で、地域情報の総量を定量的に維持できる仕組みが必要ではないか、という視点です。番組の同一化によって局の経営合理化を進め、そのことによって地域情報の確保を図っていくという政策目的そのものは総論では同意しますが、更にもう一歩踏み込んで、“市場原理にゆだねていては減少していくことが想定される地域”における情報の確保にこそ力を入れて取り組む視点が、公共的なメディアとしての放送には重要なのではないかと思います。そのためには、複数地域の同一番組における編成の方針や取材地域の力点の置き方をどうするか、といったことも重要になってきます。こうした、地域に対する考え方についても、放送局が積極的に公表していくことが重要なのではないかと思います。
 2つ目は、放送をリアルタイム視聴する人が減少する中で、アクセシビリティをどのように高めていくか、そこを下支えする方策を考える事ができないか、という視点です。その一つのアイデアとして、ネット上の外部プラットフォームや、公共施設のサイネージに優先的に放送コンテンツを載せていくといったことが制度的に考えられないか、という意見が出ました。“市場原理にゆだねていては減少していくことが想定される地域”における情報の確保のため、欧州では、公的支援や受信料による支援の枠組みがあるといった事例が増えていますが、日本ではどのようなモデルがありうるのかを考えていく上で、アクセシビリティという視点から考えていくことも興味深いと思いました。

1)  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2021/12/01/ 
     
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/01/20/ 
      https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/02/10/
 
     
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/03/07/ 
2)https://www.soumu.go.jp/main_content/000797980.pdf
3)https://www.soumu.go.jp/main_content/000404701.pdf
4)https://www.soumu.go.jp/main_content/000797976.pdf 
5)長崎県や青森県等では系列を超えてメンテナンスの会社を設立・運営、関東広域圏では同一会社に委託しているなどの事例がある

 

 

メディアの動き 2022年03月07日 (月)

#374 マス排&放送対象地域の見直しは何のため? ~総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」第5回から~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


はじめに
 総務省では現在、放送メディアの今後について議論する「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が開催されています。会議を傍聴し、取材を続けている私は、これまで3回、本ブログで傍聴記を書いてきました 1)。3月も2回の会合が行われることになっており、地上放送におけるマスメディア集中排除原則(マス排)と放送対象地域の見直しが集中的に議論されることになっています。その議論に先立ち、2月16日の第5回会合では、総務省から見直しの具体的な方向性の案が示され、構成員達が議論しました。今回のブログでは、この案の内容と主な意見を整理 2)すると共に、私が抱いている議論への違和感と今後への期待について述べたいと思います。

1.年度末までに議論を急ぐ背景
 本検討会では放送メディアの今後を考える上で必要な多岐にわたる論点が議論されていますが、総務省は、特に上記の論点については、年度末までに一定の方向性を出さなければならないとしています。
 なぜ議論を急がなければならないのでしょうか。その理由は去年6月に公表された最新の「規制改革実施計画(実施計画) 3)」にあります。実施計画を取りまとめる規制改革推進会議は、「デジタル時代に向けた規制・制度の見直しを進め、経済成長、国民の生産性・効率性の向上、個のエンパワーの実現」を目的に議論を行う内閣総理大臣の諮問機関です。1年間の議論を経て毎年6-7月に実施計画をまとめ、各省庁に対し、所管する業界の規制や制度の見直し、時代の変化に対応した新たな施策の検討・導入を期限付きで求めています。
 現在、総務省が実施を求められている放送関連の施策の中で、期限が迫っている1つが「ローカル局の経営基盤強化」です(図1)。このうち「b」のNHKとローカル局、もしくはローカル局同士で放送設備やネット配信設備の共用化を進めていくことについては、放送法改正案として今年2月に閣議決定されています 4)。本検討会で議論の対象となっているのは「a」の方です。実施計画によると、総務省は令和3年度中、つまり今月中に、「ローカル局の経営自由度を向上させるための議論を進め(中略)中長期的な放送政策の全体像を踏まえた施策を検討」し、結論を出さなければならないとされているのです。

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2.総務省の「見直しの方向性」⑴マスメディア集中排除原則
 第5回会合では、総務省からマス排と放送対象地域に関する「見直しの方向性(案)」が示されました。この内容は、前回(第4回会合)のヒアリングで、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)とテレビ朝日ホールディングス(テレ朝HD)が要望した内容 5)を下敷きにする形でまとめられていました。
 まず、マス排の見直しの方向性の内容(図2)と、主な議論を3つの論点にわけてみておきます。

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認定放送持株会社が傘下に入れる局の地域制限(12地域)の緩和を認めるべきか?
 FMHが要望したこの論点については、概ね緩和に賛成の意見が述べられ、異を唱える構成員はいませんでした。その上で、子会社化の事例が極めて少ない(※全てのキー局持株会社の中で、ローカル局を子会社化しているのはFMHの仙台放送のみ)ことから、より使いやすい制度の検討が必要ではないかという発言や、緩和するとしてもその上限の数を根拠と共に示すことができないなら撤廃となるのではないか、との発言がありました。
 また、大谷和子構成員からは、緩和には賛成するとした上で、ローカル局が地域の情報空間の形成を確保するのに必要な役割を担い続けるためにも、ローカル局を単なる出先機関にしてはいけない、取材や番組編集の能力を維持することが重要、との発言がありました。

(持株制度以外で)隣接の有無に関わらず複数地域の兼営・支配を認めるべきか?
 前回のブログでも触れましたが、現行制度においても、持株制度を活用しなくても一事業者が複数の放送対象地域にある放送局を兼営したり、また複数局が経営統合したりすることが可能な経営の選択肢が用意されています。現行制度で何ができて何ができないのか、議論を整理する前提として改めて確認しておきます。
 まず、隣接している県同士の局であれば合併まで可能な「特定隣接地域特例」という制度があります(広域局は対象外)。また、隣接していない県であっても、“地域的関連性が密接であるもの”として、東北全県、九州全県、九州全県+沖縄県については同様の制度の活用が認められています(図3)。つまり、現時点においても、放送局がいわゆる“広域ブロック”で一体的に経営を行うということは制度上認められているのです。

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 逆に、隣接していない地域の局同士(除:東北、九州)の合併等の資本関係の強化(持株制度活用においては可)は認められていません。また、同一放送対象地域における複数の局の支配(兼営)もできません。ただしラジオについては、地域が隣接していなくても、また同じ地域であっても、4局まで兼営・支配が可能な「ラジオ4局特例」という制度が存在しています。
 構成員からは、隣接という条件はつけなくていいのではないかという発言や、「ラジオ4局特例」をテレビも参考にしたらどうかといった、緩和に向けた前向きな発言が続きました。林秀弥構成員は、異なる地域でのマス排緩和は事業者の経営の選択肢を増やす効果がある、緩和によって放送の地域性が一直線に損なわれるという議論があるが腑に落ちない、地域性の確保(それぞれの県の情報をそれなりに放送する配慮)は必要だが資本規制とは別に考えるべきだ、と主張しました。

同一放送対象地域に関する支配関係の基準は現状維持とすべきか?
 この論点については、構成員の意見は2つに割れました。
 先に述べたように、ラジオについては同一放送対象地域で一つの事業者が複数の局を兼営することが可能となっています。実際、関西広域を放送エリアとする株式会社FM802がFM COCOROの免許を継承し、1局2波の形で運営を行っています。しかし、この特例をテレビに拡大することについては、具体的なニーズが限定的なことから慎重であるべきという発言が複数の構成員からありました。
 一方で、3人の構成員からは、ニーズの有無に関わらず同一地域における横の連携を促進させるべき、という発言がありました。1人は視聴者目線の観点から、2人は設備投資の経済合理性の観点からです。伊東晋構成員は、系列を超えて資本関係を強化することでインフラ設備などの効率化を図るという戦略を選択肢に加える事が可能になるため、同一地域内でもマス排の一定の緩和を実施してもいいのでは、と主張しました。また飯塚留美構成員からは、ハード面では伊東構成員同様に横の連携が必要としたうえで、ソフト面では番組の独自性や視聴者利益という観点から規制の枠組みの維持がどうあるべきか考える必要がある、との意見が出されました。

3.総務省の見直しの方向性②放送対象地域
 次に、放送対象地域の見直し(図4)についてもみておきます。

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放送対象地域の拡大を認めるべきか?
 先に触れたように、現行制度においても「特定隣接地域特例」を活用すれば、一事業者が異なる複数地域の局を兼営したり、経営統合したりすることは可能です。しかし、事業者の一存で、複数地域のそれぞれの免許を統合して放送対象地域を広域化することはできません。もしも放送対象地域そのものを拡大する場合には、地域ごとに放送局数の目標を定めている「基幹放送普及計画」を変更する等の制度改正が必要になってきます。
 今回の議論を聞く限り、この放送対象地域の拡大については、県域放送が実施されている地域の視聴者やローカルスポンサーの意向や影響を懸念する観点等から、消極的な発言が大勢と感じました。奥律哉構成員からは、費用圧縮を全面に出した政策だと思うが、マーケティング収入がどうなるのかはわからず、うまくいかなかった場合も立ち戻ることができるような柔軟な制度であるべき、との意見が出されました。

放送対象地域は変更せず、複数地域における放送番組の同一化を認めるべきか?
 放送対象地域はそのままにした上で、複数地域の局において番組を同一化できるような制度を設けることについては、複数の構成員から前向きな発言がみられました。ただし、その発言には、取材拠点は維持すべきとか、各地域における地域情報を確保する仕組みが必要、といった条件が付け加えられていました。

同一放送番組の放送対象となる地域で地域情報確保のための仕組みを作るべきか?
 今回の議論では、確保のための具体的な仕組みに関する意見は出ませんでしたが、瀧俊雄構成員からは、持株制度においては子会社に対して地域向け自社制作番組の確保に関する努力義務があるが、こういったものを参照すべきでは、との発言がありました。また、森川博之構成員からは、自社番組制作比率という数字のみで判断することは慎重にすべきであり、かつて行っていた「通信・放送産業動態調査」のような調査をミクロに行うことで、地域住民にどうローカル局の番組が消費されているのかを把握すべきだ、といった発言がありました。

4.現時点で感じている違和感と今後の議論への期待
 以上の論点については、3月末までの2回の会合において集中的に議論するということですので、その議論を注視していきたいと思いますが、現時点で私が感じている違和感について述べておきたいと思います。

*どのような放送メディアの未来を描くのか?
 まず、総務省から提示された見直しの方向性を見て感じたのは、規制改革実施計画に応えるために、制度改正ありきで進めようとしているのではないか、ということです。もちろん、閣議決定された実施計画をおざなりにできないことも、その期限が迫っていることも十分に理解できます。しかし、論点が制度の細部に入り込み過ぎるあまり、そもそも何のために制度改正するのか、そして、その改正によってどのような放送メディアの未来を描こうとしているのか、そうしたことが見えなくなってしまうことを懸念しています。
 例えば、「特定隣接地域特例」は2004年の改正放送法施行で導入されましたが、当時は道州制の議論が盛んにおこなわれていた時期でした。その議論は下火となって久しく、それが理由かどうかはともかくとして、この特例はこれまで使われてきませんでした。しかし、加速する人口減少によって、都道府県という行政単位のあり方や、圏域化、広域化といった地方自治を巡る議論は今後、再燃することになるでしょう。また、地方自治のこうした流れと、実際に地域社会に暮らす住民の情報やコンテンツに対するニーズは、一致する部分も異なる部分もあると思います。これらの状況を想定しつつ、放送メディアを、少なくとも今しばらくは地域の民主主義や文化の基盤を支える存在として機能させ続けるとするならば、現在の基幹放送普及計画をどのような姿に見直していくことが望ましいのでしょうか。
 また、ハード部分については地域の横連携により経済合理性があるという状況があります。本検討会ではユニバーサルサービスのブロードバンド代替の議論が今後本格化する予定です。ではその先に、ハード・ソフト分離のようなモデルを想定するのでしょうか、しないのでしょうか。この議論は、周波数問題など非常に難しい問題を惹起する可能性があることは想像できますが、だからといっていつまでも避け続けることはできないと思います。なぜなら、この判断によって、ローカル局の将来のシナリオは大きく変わってくると思うからです。
 こうした未来を想定した“バックキャスティング思考”の議論は、本検討会単独で出来るとは思っていません。しかし、本検討会が目先の結論を急ぐあまり、多岐にわたるはずの議論が十分に尽くされずに、事業者からの要望を追認していくような段取りが中心になるとするならば、やはりいささかの違和感を覚えざるをえません。

*制度改正の目的は何か?
 また、規制改革実施計画には、「マスメディア集中排除原則が目指す多様性、多元性、地域性に留意しつつ、ローカル局の経営自由化を向上させる」と書かれていますが、総務省から出された「見直しの方向性」は、キー局持株会社の要望が下敷きとなっており、ローカル局の要望を受けた形ではありません。ローカル局の経営基盤強化のための制度改正が本当にローカル局の経営自由化を向上させることにつながるのか、実質的にキー局持株会社の維持強化のためになってしまわないか、こうした視点をより意識した議論も深めていく必要があると思います。系列ネットワークという強固な枠組みの中で、また地域の新聞社等の複雑な資本関係がある中で、ローカル局個社の経営者が声を上げにくい実情も想像に難くありませんが、顕在化しにくい声をすくい上げ、複雑な実情への想像力を持ちながら、丁寧に制度を設計していく視点も忘れずにいて欲しいと思います。
 更に言えば、規制改革の目的そのものが事業者目線に陥っていないか、ということにも注意を払う必要があると思います。この点については、今回の議論で山本龍彦構成員からも、地域住民の声を議論に反映させないと事業者目線だけの改革になってしまうという発言がありました。今問われるべきは、キー局持株会社の生き残りでもローカル局の生き残りでもなく、地域社会の中において信頼できるメディア機能をいかに生き残らせるか、そのための国の政策はどうあるべきなのか、ということなのではないかと思います。

*地域性確保の議論に向けた期待
 第5回会合では、上記の議論に入る前に、「マルチスクリーン型放送研究会(マル研)」という、地域や系列を超えて64の放送局を含む97社が参加する任意団体の有志が提出した意見が紹介されました。具体的な内容は資料 6)が総務省のWEBサイトに公開されているためここで改めて紹介はしませんが、番組制作だけではない多面的なローカル局の存在意義や、地方再生に向けて住民から寄せられる期待など、ローカル局で働く一人一人の思いが詰まった問題提起だという印象を受けました。前回(第4回)の議論においては、ローカル局の地域性を測る尺度として自社番組制作比率にフォーカスする構成員が多かったのですが、この意見が紹介されたことで、ローカル局が地域で果たしている多様な側面についての理解が深まったのではないかと思います。
 また、今回の会合では構成員の求めに応じ、民放連から放送局の自社番組制作比率が提示されました。その資料は構成員のみに示され、一般に公開されませんでした。このことは少し残念に思いました。改めて言うまでもなく、放送事業は貴重な国の財産である公共の電波を使う免許事業です。ローカル局がキー局等の番組を各放送対象地域に確実に届けていくという役割だけでなく、地域メディアとしての役割を果たしているということを訴えていくには、どれだけ“放送波を通じて”その役割が果たせているのかが問われる、逆に“放送波がなければ”その役割が果たせないのかを証明していかなければならないのは当然のことです。それが、タイムテーブルの中の何パーセントを自社で作っているかという単純な尺度では測れないとするならば、仮に自社制作比率が1割程度であったとしても、放送波というリーチを太い幹として、そのリーチを生かし、どれだけ多くの機能を太い枝として抱え、太い根として這わせているのか、こうしたローカル局のメディア機能の全体像を、社会に納得できるデータで示していくことが求められているのだと思います。
 マス排の緩和や放送対象地域の拡大もしくは複数地域における同一番組化といった議論と平行して進むであろう地域性の確保という論点を、単なる地域情報の確保という観点にとどまらない議論にしていくことは、ローカル局にとってだけでなく、地域社会の今後を考えていく上でも重要なことなのではないかと思います。今後の議論に大いに期待したいと思います。


1) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2021/12/01/
  https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/01/20/ 
  
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/02/10/
2) 執筆時に議事録が公開されていなかったため、筆者のメモを元に整理
3) https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/keikaku/210618/keikaku.pdf
   (放送関連は17-18P)
4) 去年の国会に提出したが審議せず廃案となり、改めて今回、外資規制の見直しを加えた内容を閣議決定した
5) https://www.soumu.go.jp/main_content/000789270.pdf FMH資料
     https://www.soumu.go.jp/main_content/000789271.pdf テレ朝HD資料
6) https://www.soumu.go.jp/main_content/000793873.pdf


メディアの動き 2022年02月25日 (金)

#373 市民の声から地域の課題を解決する ~地域放送局の新たな取り組み~

メディア研究部(番組研究) 宮下牧恵


 人口減少、産業の衰退、長引くコロナ禍による影響など、いま全国の多くの地域が様々な課題を抱えています。地域に根差した情報を発信している放送局や新聞社などの地元メディアにとっても、いかに地域の役に立ち、地域の人たちの信頼を得て、存在価値を認めてもらえるかが、ますます重要になっています。

 全国にあるNHKの地域放送局でも、近年、地域の「課題解決型」のコンテンツ制作が多数行われるようになっています。主に、若いディレクターや記者が中心となり、地域の人々の悩みや困りごとを聞き、専門家や市民と連携して、行政を動かしたり、解決のためのアイデアを出し合ったりしながら、困りごとを解決していく取り組みです。
 NHKの「まとめブログ」 1)によると、現在全国の地域放送局などで、20以上もの「課題解決型」のニュース企画や番組制作の取り組みが行われています。

 こうした動きは既に海外でも盛んになっています。
 アメリカでは、誰もが情報を発信・受信できるデジタル時代、様々な情報があふれる中で、これまでの一方通行的な報道のあり方が問われるなど、メディアに対する人々の信頼や支持が揺らいでいます。こうした中、危機感を持った地方紙やラジオ局などにより、10年ほど前から、市民が必要とするものに応え、身近な情報源になるために、エンゲージメントに重点を置く「エンゲージド・ジャーナリズム」や、問題提起で終わらず、課題解決につながる情報も伝える「課題解決型ジャーナリズム」が行われています。
 日本でも、西日本新聞社が、2018年から始めた「あなたの特命取材班」など、市民から寄せられた疑問や困りごとを出発点に記者が取材を行う「ジャーナリズム・オン・デマンド(JOD)」と呼ばれる取り組みが知られており、今では全国の地方紙などにネットワークが広がっています 2)

 今回は、NHKの地域放送局の取り組みの中から、福岡放送局の「ロクいち!福岡」(月~金、18時10分から)で2021年4月から毎週金曜に放送しているコーナー「追跡!バリサーチ」についてご紹介します。

 「バリサーチ」とは聞きなれない言葉ですが、福岡局のホームページでは、次のように説明されています。

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 「追跡!バリサーチ」は、ホームページ上で生活上の悩みや社会的な課題になっていることについての意見、アイデアを募集しています。これまでに「追跡!バリサーチ」に寄せられた声は約700件に上ります。取材・制作スタッフは、視聴者の疑問に答えるだけではなく、対話の「循環」を通して役立つニュースを目指しているそうです。視聴者や市民が意見を言いたくなるように工夫しながら、制作をおこなっています。

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 最近、多くの反響が寄せられているのが、エスカレーターのマナーについての企画です。きっかけは、2021年12月に「ロクいち!福岡」で放送した記者リポートでした。7年前に脳内出血で倒れ、左半身に麻痺がある女性が、エスカレーターの右側にしか立つことが出来ず、2列乗りにしてほしいと訴える内容です。担当した福原健記者は、入局4年目で、普段は県政取材を担当しています。福原記者自身も福岡県に初めて来た際に、エスカレーターに2列で乗ることを訴えているポスターを見て、他の地域では見たことがなかったことから関心を持っていたそうです。そこで、以前からエスカレーターの右側に立つことしかできず、「邪魔だ」「急いでいるからどいてくれ」などと言われて恐怖を感じている当事者の声を取材しました。

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 デジタル発信にも力を入れている福岡放送局がこのリポートの動画をTwitterに投稿したところ、インフルエンサーや作業療法士など問題意識を持った人々から反響があり、「実は困っていた」「家族が当事者で困っている」「こうした問題があることを知らなかった」という声が寄せられました。一方で、「右側を歩く自由もある」など、2列乗りに反対する声も一定程度あったそうです。
 こうした反響をふまえ、追加の取材を行い、2022年1月21日に「追跡!バリサーチ」として放送しました。Twitterに反応した人たちにインタビューするとともに、どうすればエスカレーターの2列乗りが定着するのかアイデアを募集しました。
 そして2月4日には、第2弾を放送。視聴者からホームページなどで寄せられた30件ほどのアイデアを8つにまとめ、福原記者が福岡市交通局に持ち込み、プレゼンテーションを行いました。中でも、1年半前に脳卒中で倒れ、半身に麻痺を抱えて青森県で生活している人から寄せられた、エスカレーターのステップに「止まれ」というシールを貼るアイデアや、足型のシールを貼るのが良いという意見は好評で、交通局では、実際に取り入れられないか、検討することになったそうです。市民の声と放送との循環が、社会を動かす一歩になるかもしれません。

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こうした取り組みの詳細については、福岡放送局のブログを御覧下さい。

 「追跡!バリサーチ」では、福岡市交通局で実際にアイデアが採用されるのか、今後も経過を取材するとともに、社会実験を行うなど、続編を制作していきたいとのことです。
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 福原記者は、「葉書1枚にびっしりとアイデアを書いて下さった方がいました。交通局の皆さんもお客様の声だということで大事に受け止めてくれ、視聴者の声は強いと思いました。ここからが本番だと思っています。」と語り、取り組みの手ごたえを感じているようでした。



 「追跡!バリサーチ」では、さらに来年度は「ロクいち!福岡」のキャスターが自ら困りごとの現場に出かける「出張バリサーチ」などの企画を検討中で、視聴者とのタッチポイントを増やすようなチャンネルを作っていきたいとのことです。

 地域放送局の新しい動きについて、今後もこのブログで紹介していきたいと思います。

 


1) 各局の取り組みの詳細については、【まとめブログ】で閲覧が可能
2) メディア研究部 青木紀美子「Engaged Journalism ~耳を傾けることから始める「信頼とつながり」を育むジャーナリズム~」『放送研究と調査』(2020年3月号)P2-P21


メディアの動き 2022年02月15日 (火)

#368 チーム岸田は持っているか? ~コロナ禍に向き合う「ペースノート」~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男


 「ペースノート」という一般にはなじみの薄い言葉をあえて使いました。
カーラリーの世界で、原野の難コースを巧みなハンドルさばきで高速疾走するときに欠かせないのが「ペースノート」と呼ばれる指示書です。

 この指示書を作成するのはドライバーではなく、助手席に座るナビゲーター(コ・ドライバーとも呼ぶ)です。レース前の試走の段階で急カーブの曲がり具合、直線部分の距離や路面状況などを確かめ、それを記号で書き記したものが「ペースノート」です。

 反射神経とハンドルさばきに秀でたドライバーは、ナビゲーターが読み上げる「ペースノート」のデータを信頼し、視界が悪くても身体の感覚で車を操るそうです。まさに事前準備の積み重ねとデータの共有が成果をもたらす世界です。

 この話を教えてくれたのは、大学の自動車部に所属していた当時からカーラリーに参戦しているベテランドライバー&ナビゲーターの二刀流の友人です。聞いた瞬間に「まさにチーム岸田が問われているのはこれだな」と感じました。

 「ペースノート」は難しいコース、厳しい気象条件の時ほど効果を発揮します。年明けから感染者数が急拡大し、2年以上続くことになった新型コロナウイルスとの闘い。視界はなかなか晴れず、悪路は連続しています。

220215-1.png これを乗り越えるために、岸田総理が前任者、前々任者のたどった軌跡を見つめ直して「ペースノート」を編み出しているか。そしてそれをチーム岸田が共有して対処しているかが問われている局面です。

 そういう状況の下で、2月11日(金)~13日(日)にNHK月例電話世論調査が行われました。

☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」という質問に対する答えは、やや下り坂の印象です。

「支持する」   54%(対前月-3ポイント)
「支持しない」  27%(対前月+7ポイント)

「支持する」の3ポイント減少は、統計分析上は有意差がないという評価になります。ただ「支持しない」が明らかに増加しています。

 この要因としては、コロナ禍に対する政府対応の評価が低下したことが挙げられます。岸田内閣が発足した去年10月以降、わずかずつ上昇を続けてきた評価の数字がストンと落ちました。

☆「あなたは新型コロナウイルスをめぐる政府の対応を評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」  59%(対前月-6ポイント)
「評価しない」 37%(対前月+6ポイント)

内閣支持、不支持の回答よりも傾向が明確に出ています。

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 岸田内閣は、オミクロン株感染者が11月30日に国内で最初に確認されたタイミングで外国人の新規入国停止を果断に打ち出しました。そして感染が各地で急拡大を見せた年明け以降は、入院病床の確保と3回目のワクチン接種に軸足を移しました。

 ただ、3回目のワクチン接種の加速は全国各地の市区町村ごとに対応が様々で、菅内閣当時に指摘された国と基礎自治体の間の連携のばらつきは、今回も十分に克服されたとは言い難い面があります。

 まさに冒頭に紹介した「ペースノート」の中で、ワクチン接種の加速について、第5波までの教訓を生かした課題がどこまで把握されていたのかがポイントです。

 後藤厚生労働大臣は、重症化リスクの高い高齢者施設の利用者や職員への3回目の接種について「できるだけ早くということで、2月中に終えると申し上げているわけではない。努力をしている。今、自治体と丁寧に相談している」(2月14日・衆院予算委)と苦しい答弁でした。

 岸田総理は第6波の襲来に際して、社会・経済活動に大きな影響を及ぼす緊急事態宣言は避け、まん延防止等重点措置を段階的に発出することで対処してきました。

 これはオミクロン株が従来の新型コロナウイルスより感染力は強いものの、重症化率が低い点に着目した判断です。2月5日に全国の新規感染者数が初めて10万人を超えた後、東京などでは感染拡大の勢いが収まったようにも見えますが、重症者の数などは依然として高い水準です。

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☆政府は東京など13都県の「まん延防止等重点措置」を延長することを決めました。決定をどう思いますか」という質問への答えです。

「適切だ」49%、「延長せず解除すべきだった」15%、「緊急事態宣言にすべきだった」26%

 感染拡大に歯止めがかかり始めたように見えてはいても、社会の安全・安心を確保するために、暫くは「慎重運転」を望んでいる国民が多いことが窺えます。

 「まん延防止等重点措置」は36都道府県で継続(2月15日現在)しています。この先、重症者の増加を抑えて減少に転じさせ、うまく事態の悪化を回避できれば、次は措置の解除・出口の判断になります。

 出口のタイミングを測る際のデータは、チーム岸田の「ペースノート」にどう記されているのか。国民の多くが、この先の第7波の襲来を極力抑えることができるような判断を期待しているのは確かです。


メディアの動き 2022年02月10日 (木)

#366 民放ローカル局の将来と地域情報の確保を巡る議論 ~総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」第4回から~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


はじめに

 本ブログではこれまで2回、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(本検討会)」について報告してきました 1)。前回も書きましたが、本検討会では放送メディアの将来に関する広範囲な論点が急ピッチで議論されています。もちろん、改革はスピードが大事。これまでなかなか改革が進んでこなかったとの指摘も多い放送業界ですから、激変するメディア環境や社会環境に合わせて、将来に向けた議論を急ぐのは当然のことと思います。ただ、放送メディアの姿を決める放送制度改革の議論は、少し大げさな言い方かもしれませんが、日本の民主主義の今後、地域社会の今後を考える議論でもあります。重要な論点が十分に議論されず、また社会に十分に共有されないまま決まっていってしまうことは避けなければなりません。本ブログでは、本検討会の議論を可能な限りフォローしていきたいと思います。

 今回は1月24日に行われた第4回から、民放ローカル局の将来と地域情報の確保を巡る議論について取り上げます。このテーマは、放送業界の今後を考える上ではもちろんのこと、少子高齢化時代において地域社会に資する情報やメディア機能をどう維持していくのかという点において、非常に重要な問題です。過去2回のブログは私なりに論点の整理を試みたものでしたが、今回は、論点整理と共に、地域メディアやローカル局を取材・研究し続けてきた私自身の見解も最後に述べてみようと思います。
(今回も長編になっているので、論点整理は必要ないという方は、⑥をお読みください。)

議論の全体像

 この日の検討会は、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)とテレビ朝日ホールディングス(テレ朝HD)のプレゼンテーション、それを受けた構成員との質疑応答に多くの時間が割かれました。
FMHは「今後の地⽅経済の状況次第では、系列局の地元株主が株式を⼿放すことも想定され、資本政策上の問題となる 2)」、テレ朝HDは「メディア環境の変化や地方における人口減などにより、今後、テレビ広告市場が想定以上に縮小していく懸念もぬぐい切れない 3)」との危機意識から、マスメディア集中排除原則(マス排)の緩和などの制度改正を要望しました。プレゼンの詳細は②③で触れますが、2社の要望は、内容は異なるものの、来たるべき危機に備えて放送局の経営の選択肢を増やしておきたいという点では共通しています。
 構成員からは、もし2社が要望するような制度改正が行われた場合、特に人口が少なかったり経済の規模が小さかったりする地域では地域情報が減少する所が出てこないか、との懸念が出されました。そして、地域情報の発信が維持・強化されるような制度的担保やモニタリングを行うべきではないか、といった意見が相次ぎました。
 2社によるプレゼンは、いかに放送局が生き残っていくかという“放送局主語”、一方、多くの構成員の意見は、いかに全国それぞれの地域で地域情報が確保され続けるようにするかという“地域主語”で語られていたように思います。今後行われるであろう制度改正は、これらをどのようにつないでいくのかが問われることになります。
 では、2社のプレゼンの詳細をみていきます。

フジ・メディア・ホールディングスの要望「傘下に入れる放送対象地域の制限撤廃を」

 FMHの要望を紹介する前に、認定放送持株会社制度について少しだけ触れておきます。
 FMHもテレ朝HDも、持株会社としてメディアやコンテンツ、それ以外の不動産事業等を行う事業者を子会社・関係会社化してグループ経営を行っていますが、放送局がこうした経営を行えるようになったのは2008年施行の改正放送法以降のことです。制度化の背景には、地上デジタル放送への移行に伴い、多額な設備投資がローカル局の経営を圧迫することへの懸念の高まりがありました。この制度を導入することで、グループ全体で資金調達を実施しやすくしたり、経営資源の効率化を図ったりすることが可能になると期待されました。そして持株会社の場合、マス排の特例として12放送対象地域を上限に持株会社の傘下に入れる(議決権3分の1超の保有可)ことが認められました。

 今回のFMHの要望は、この12という上限を撤廃してほしいというものでした。制度上、フジテレビが関東7地域とカウントされる 4)ため、FMHはフジを除くと5地域の局を傘下に入れることができます。プレゼンでは、既に4地域の局で議決権3分の1超を保有していること、それ以外のローカル局でもその数字に迫る局が複数あることを、系列局への出資状況のデータ(図1)で示しました。

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 そして、系列局の株主が業績悪化や世代交代などによって株を手放すケースが出てきており、今後の地方経済の状況次第では、手放された株式の適切な買い手が見つかりづらいことが想定されると、地域の実情を説明しました(図2)。

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 また、FMHとしては主体的に系列局の支配を強める意図はないこと、そして上場企業としての経営判断もあるため、系列局から株式引き受けの要望があっても全てを受け入れられるわけではないということも述べ添えられました。

 ちなみに、この12放送対象地域制限を巡る問題提起は今回初めて行われたものではありません。2013年には民放連が、当時行われていた総務省「放送政策に関する調査研究会」の議論に合わせて緩和の要望を出していたり 5)、またFMH自身もパブリックコメントという形で要望を出したりしていました。

テレビ朝日ホールディングスの要望「複数地域の放送番組同一化と経営統合への道を」

 系列局への資本政策の強化という観点からローカル局の経営基盤強化にアプローチしたのがFMHだとすると、テレ朝HDのプレゼンは、ローカル局が放送を行うのに必要な固定費、つまりハードのコストの合理化というアプローチから行われました。要望したのは、系列内の複数地域の局において放送マスターや制作スタジオ等を一元化し、同一放送の実施や局の経営統合が選択できるようにする制度改正でした(図3)。

220210-3.png ただし、複数地域で同一の番組を放送することになったとしても、地域情報発信の維持は大前提であり、マス排の理念である「多様性」の維持は可能であること、また、全国ニュースネットワークの維持のため既存の取材拠点の機能は堅持すると述べました。そして、これはあくまで経営難が顕在化した場合の対応策であり、経営の選択肢をあらかじめ増やしておくための制度改正の要望だと主張しました。

 ちなみに、現行法においても、放送マスターや制作スタジオを一元化したりクラウド化したりすることは可能です。また、2004年施行の改正放送法で、隣接している県同士であれば最大7放送対象地域まで合併も可能であるという制度も設けられています。更に、複数地域において同一番組を放送することについても、2015年施行の改正放送法で導入され、現状ではラジオのみに適用されている「経営基盤強化認定制度 6)」をテレビにも適用すれば実施可能となっています。この制度は、「放送系の数の目標の達成が困難となるおそれがある等の地域」を指定放送対象地域として総務大臣が指定し、その地域の放送局が「経営基盤強化計画」を作成して総務大臣の認定を受けた場合に実施が可能であるという制度です。ただ上記いずれの対応策についても、これまで放送局がとってきた実績はありません。

議論(1)質疑応答(地域情報減少への懸念)

 ここからは、会議を傍聴したメモ 7)をもとに議論を再構成したいと思います。まず、2社のプレゼンを受けて行われた質疑応答から紹介します。構成員の質問の多くはテレ朝HDに集中したので、下記にQA方式でまとめておきます 8)

【林秀弥 9)
非常に意欲的な提言。論点がクリアになった。
現行の放送対象地域についてどう考えているのか。
東北や四国といったブロック単位で対象地域を設定する方法もあるがその方向か?
対象地域変更ではなく個別例外対応を可能とする要望か?
【テレ朝HD 】
対象地域数の制限を設けず柔軟な制度にしてほしい。
 地域情報の発信機能の担保やローカル営業面などを考慮すると、 実際には地域ブロックや近隣県が対象となるのではないか。

【大谷和子10)
「経営基盤強化計画認定制度」でも番組同一化が可能だが、この制度では不十分なのか?
【テレ朝HD】
複数放送対象地域で同一放送できるという点では我々の要望と一致しているが、事前に計画を申請して認定が必要。
そして認定後も計画の実施状況を報告するなど制度として若干使いづらく、国の過剰な介入を招く懸念もないとは言えないのではないか。
【大谷和子
この制度では3大広域圏(関東・近畿・中京)は対象とされていないが要望では対象に?
【テレ朝HD】
実施できる可能性は広い方がいいと思う。

【奥律哉11)
複数地域同一番組の放送では同じスポットCMが流れるのか、セールスも合同で行うのか?
【テレ朝HD】
基本的にはそういう想定。
同一番組化した場合、視聴率や地元スポンサーの売上に一定の影響が出ることが予想されるが、経費削減の効果も大きいので収支バランスを勘案しながら判断する。


【山本龍彦12)
地域性を維持するために地域性を一定程度緩和する、その目的と手段の関係を十分意識することが重要と感じた。
同一放送になると、各県で流されていた情報の割合がどうしても減るのではないか。
それを各県の住民がどう受け止めるのか、それが見えてこなかった。
【テレ朝HD】
(複数地域でマスターやスタジオの一元化や番組の同一化、経営統合したとしても)
報道取材の拠点はそれぞれにあり、県内情報はこれまで通り把握できることをイメージ。
編成についても特定の県に偏らないようバランスを取ることが必要であり、 報道だけでなく各地域の番組についても集約できる体制の構築が必要だと考えている。

 最後に紹介した山本龍彦氏の質問は、同様の趣旨がFMHにも投げかけられていました。応答も含めて紹介しておきます。

【山本龍彦
(認定持株会社の)地域制限撤廃のリスクは、やはり地域情報発信がともすると過小になってしまうのではないかということ。
そのリスクへの対応、適切なバランスを維持するためのアイデア、地域情報発信確保を担保するためにどういった取り組みが考えられているか?
【FMH】
資本が支配の定義に当てはまることで地域性が低下するリスクがあるかということだが、あくまで資本の関係が強まるだけであり、地域情報が他の地域と比べて劣ることはないし、 そうしたリスクは、今後、「多元性・多様性・地域性」の3原則を守っていくことを意識していけば維持していける。
地域情報を求める声は非常に強い。

議論(2)地域情報確保の為の施策の必要性

 後段の議論では、マス排緩和を行った場合に地域情報が減少してしまうという懸念を踏まえ、どのような形で地域情報を確保していくべきかという方向の発言が相次ぎました。
 林氏は、何等かの手段によってローカル情報の総量なりの部分を維持拡大して小さな県の情報発信が減らない仕掛けが必要であり、例えば再免許の機会をとらえて条件付けを措置すべきでは、と提案しました。また、山本(龍)氏は、地域情報の発信はローカルな公共性や民主主義を支える上で非常に重要であるため、ローカル局の経営的基盤を支えることは非常に重要であるとしつつ、経営を支えただけでローカル局が変わらなければどこかでまたテコ入れをしなければならなくなる、ローカル情報がしっかり確保されているか、その割合を公表してモニタリングしていくことが重要ではないか、と述べました。加えて放送事業者だけでなく地域住民の目線も重要であり、住民意識調査のようなものの必要性も訴えました。飯塚留美氏と落合孝文氏は、以上のような地域情報維持のための仕掛けやモニタリングの必要性を追認した上で、地域情報発信や地域番組制作についての何らかの振興策・支援策の必要性を訴えました。
 最も厳しい発言をしたのは瀧俊雄氏でした。瀧氏は、そもそも現状で制度的に様々な配慮がされている一方で、ローカル局で(キー局等が制作した)同じコンテンツが流されている状況は一般にわかりづらい、法の趣旨に照らしてちぐはぐな印象を受けてしまっていると述べました。そして、ローカル局の再編やマス排緩和後に番組制作力の担保が大きなプライオリティーになるのであれば、地方局では実際に何%がオリジナル番組として存在しているのか、制度改正の目的として、%をKPI 13)として掲げることはハードルが高いにしても、そういうことに基づいた議論が必要ではないか、と訴えました。そして、コンビニ、通信キャリア、メガバンクや牛丼チェーンなどの市場で寡占化が進む中、地方局はそうではなく、独自の番組キュレーター的な立場なのかと思っているので、数字の議論は重要ではないかと述べました。


傍聴を終えた私の見解

*FMHの要望内容について
 FMHのプレゼンは、これまでも色々な形で要望が上がっていたこともあり、放送業界内でも予想通りといった受け止めが多かったと思います。私自身もそうでした。またFMHからは、ローカル局に対して資本の関係が強まっても地域情報が減ることはないとの発言がありましたが、これについてもうなずける体験がありました。
 昨年11月、私はInter BEE 2021でローカル局社長4人が登壇するオンラインシンポジウムを企画し、FMHが議決権の3分の1超を保有するテレビ新広島の箕輪幸人氏に登壇してもらいました。そこで箕輪氏からは、情報番組等の自社制作番組を次々と増やしているとの報告がありました 14)。FMHに限らず、多くのキー局の持株会社では、近年ローカル局に対する資本政策を強めていますが、そのことが直ちにローカル局における地域番組の減少に結び付いているという話は聞きません。かつては自社番組を作らなければ作らないほど経営効率がいいという考え方を持つローカル局の経営者もいましたが、現在は地域の中で存在感を示していかなければ生き残っていけないと考える経営者が増えています。そのため、最近は経営が厳しい中でもあえて自社制作枠を増やし、ネット配信と連動させたり、地域事業と組み合わせたりしながら自局の価値の最大化を図る取り組みが広がっているというのが、ローカル局の取材を続けている私の印象です。Inter BEEのシンポの登壇者は4人ともキー局もしくは全国紙出身で、資本関係のあるローカル局の社長となられた方々でしたが、箕輪氏同様、いずれも自社番組制作に力を注いでいるとの報告がありました。
 とはいえ、それだけでは、検討会でFMHが構成員からの質問に答えた、資本の所有を進めた全ての局で地域性は低下していない、という発言を客観的に裏付けることにはなりません。テレビ新広島はそれに当てはまると思いますが、箕輪氏はフジ時代に報道局長や解説委員長を歴任した経歴を持っており、地域情報の発信に対して強い熱意を持って経営に臨んでいるということも大きいと思います。では他の局ではどうなのか‥‥‥。逆に、積極的な資本政策が行われていない地域の局の地域情報発信力はどうなっているのかも見ていく必要があると感じました。FMHがプレゼンで一言だけ触れていた、系列局から株式引き受けの要望があっても受け入れられないかもしれないという地域の局の将来や、その地域の地域情報は今後どうなっていくのか、その点も気になりました。更に言えば、ローカル局の経営はキー局との関わりだけでなく、地元資本との複雑な関わりもあります。ローカル局における資本と地域性の関係性に関する分析は難しいですが、私自身、取材の積み重ねを印象論ではなく客観的なデータとして示していく努力をする必要があると、傍聴をして改めて感じました。

*テレ朝HDの要望内容について
 テレ朝HDの要望については、検討会で質問が集中したように、その踏み込んだ内容については放送業界内でも驚きを持って受け止められたような気がします。提起された複数エリアにおける同一番組の放送という考え方については、ANN系列の九州・山口エリアで平日(月~木)朝に30分のブロック番組 15)が制作・放送されている実績もあることから少しはイメージがわきましたが、経営統合という選択肢まで提示されたことには私も驚きました。ANN系列には他系列よりも多い11局もの平成新局があることから、持株会社としての危機意識はより強いのかもしれません。林氏への返答からみると、現時点でテレ朝HDとしては広域免許化までは考えていないように見受けられましたが、県域をベースとした対象地域における放送局数の目標を掲げた基幹放送普及計画を前提としてきたこれまでの議論に、一石を投じる提案であったことは間違いないと思います。
 ただ奥氏が指摘したように、同一番組の中で同じスポット広告が流れ、営業も一元化するということになった場合、収入は現状より減少するという懸念は大いにあります。そして山本氏など複数の構成員が指摘した、複数地域で同一番組の放送が行われた場合に地域情報に偏りが生じるのではという懸念も拭い去れません。テレ朝HDは、こうした懸念は、同時に進めるハード部分の合理化や編成の一元化で見込める経済的効果によって解消していけるという計算の下で今回の要望に至ったと考えられますが、具体的にその中身が示されない中においては、やはりその懸念は拭い去れないと思います。

 実は、マス排緩和や放送局の経営合理化施策とローカル局における地域性の担保をどう両立させていくのかという議論は今始まったものではありません。特にマス排緩和の議論が進んできた2000年代に入ってからは、様々な検討会・研究会で繰り返し論じられてきました 16)。隣接する7地域のローカル局同士の合併を認めた2003年の「放送政策研究会」の最終報告17)では、地域性確保の一つの方策として、「各ネットワークで、ローカル局の地域性確保など番組制作向上につながる目標を自ら定め公表し、それを具体化するためキー局がローカル局を支援するという方法」があると書かれています。また、認定放送持株会社制度導入を決めた2006年の「デジタル化の進展と放送政策に関する調査研究会」の最終報告 18)では、持株会社の「子会社であるローカル局の地域番組を十分に確保するため、従来の構造規制に代え、一定割合の地域番組の提供を確保する行為規制を導入することが必要」との記載もあります。
 そして、複数地域における同一番組の放送を実現することを可能とする経営基盤強化計画認定制度の導入を決めた2014年の「放送政策に関する調査研究会」の第二次とりまとめ 19)では、放送番組の同一化によって想定される地域性の低下に対する代替的措置を、放送局による自主自律の取り組みとして認めていくことが望ましいとまとめられています。今回の検討会と同様の議論が行われていたことがよくわかるため、当時の資料を示しておきました(図4)。

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 テレ朝HDは今回、この経営基盤強化計画認定制度の活用については、国の過剰な介入を招く懸念もないとは言えないとして活用に消極的な姿勢を示しましたが、こうした要望を実現していくためには、今後、まさに自主自律の取り組みとして、懸念に対する解消策の案を示していく必要があるのではないかと感じました。

 もう1つ、この要望で疑問を持ったのは、複数地域での連携や経営統合、そして具体的な運営のイニシアチブを握るのは誰なのかということです。テレ朝HDなのか、統合する複数地域のうち最も経営規模が大きな局なのか、それとも複数地域の局同士が対等に協議の上で進めていくのか……。将来のための準備として制度改正を求めているという段階であるため、具体的な枠組みの議論はまだこれからだと思いますが、その運営如何によって、議論の中で懸案事項として挙げられていた、地域情報の取材・発信のバランスや、編成方針や営業の仕方も大きく変わってくるのではないかと思います。
 私は今回のテレ朝HDの要望は、今後も系列ネットワークの存在を前提とするならば、テレ朝HDに限らず、ローカル局の1つの現実的な経営の選択肢となっていくのではないかと思います。その意味で、テレ朝HDの今回の問題提起をきっかけに、ローカル局の側からも主体的な模索が生まれてくるのではないかと思っています。全国ニュースネットワークの維持のための地域情報確保以上に、地域社会の住民生活や民主主義に資するための地域情報確保という観点からの連携の議論を期待したいです。

 また、マスター設備や制作スタジオの一元化についていえば、中継局の整備同様、同一エリアの他系列局が連携する方が、物理的にも効率的な場合も少なくないのではないかという気もします。これについても、ローカル局が主体的に提起しなければ、最も経済合理性の高い連携とは何かが実は見えてこないのではないかと思います。そして、こうした思考を進めていくと、検討会で作業チーム 20)が設置された、放送ネットワークの一部をブロードバンドに代替していく方向性や、ハード・ソフト分離の議論にもつながってきます。
 さらに言えば、地域によっては、キー局よりも地元資本とのつながりの方が濃い局もあり、そうした局が同じ放送対象地域内で1局2波などを検討していく可能性もあると思います。同一対象地域内での再編については、より抜本的に「多様性・多元性・地域性」の放送三原則を見直すことにもつながり、今回の議論では林氏からこの選択については消極的な意見もありました。しかし、第2回、第3回の有識者ヒアリングでも提起されていたように、中長期的には、あらゆる選択肢を排除せずに議論し、三原則を再定義していくことが必要だと思います。
 今回はキー局のプレゼンでしたので、今後、地域情報発信の当事者であるローカル局がどのような要望を持っているのかについて、検討会では丁寧に耳を傾けていく必要があると思います。どのような選択肢を増やせば東京主導ではなく地域主導でこの国の放送メディアの将来像を描いていけるのか、実際に事業者が活用したくなるような制度改革につながるのか、これまで様々な制度が導入されているにもかかわらず活用されていないという反省も踏まえ、議論を深めていってほしいと思います。

*ローカル局の“地域性指標”について
 また今回の議論では、ローカル局の地域性が専ら地域情報発信として論じられ、地域性を図る指標としても自社制作比率ばかりが取り上げられていました。しかし、現在ローカル局は、ネット配信やドキュメンタリー映画などを通じた地域から全国、世界へのコンテンツ展開、自治体や地元企業、地域コミュニティと連携した様々な地域課題解決の事業化などに積極的に取り組んでいます。私はこうしたローカル局による、リーチメディアとしての放送を軸とした多様な地域事業との連携を“広義の地域メディア機能”と捉え、こうした機能こそがローカル局が今後地域で果たしていくべき重要な役割であるということを、全国各地を回りながら体感し、そのことを発信し続けてきました。しかし、事例調査を積み重ねてきただけで、それを客観的に数値化して示せるかと問われれば、そのデータを持ち合わせてはいません。自社制作比率以外でローカル局の価値を図る指標を示すことが出来ない自分には、忸怩たる思いがあります。
 これは、フィールドで地域メディア研究をしてきた私の反省であると同時に、ローカル局自身も、敢えてそれを数値化して示す努力をしてこなかった責任があると言えるのではないかと思います。地域ジャーナリズムや番組制作、地域での様々な事業については、報道の社会的影響力や作品のクオリティー、取り組みの熱量で勝負したいし、その価値は無味乾燥な数値では示せるものではない、そんな思いがどこかにあったのではないかと思います。少なくとも、同じメディアに身を置く私はそう感じてしまっていました。更に、「需給調整に基づく参入規制がなされており、そこから生じる超過利潤をもって、公共的な役割を果たすことが求められて 21)」きた放送業界は、自らの価値を数値化する努力をしなくとも、制度によって存続が担保されてきたという恵まれた歴史があったため、これまではその努力を怠っても許されてきたのもしれません。
 今回の検討会を傍聴し、ローカル局の地域性とは何か、その価値を示す指標とはどういうものなのか、より具体的に示していくことが今ほど求められている時はないと痛感しました。その際の指標には、単なる自社制作比率だけではなく、番組を活用した様々な展開を包含した地域事業の見える化や、視聴者や地域社会からの信頼といった“定性的な評価の定量化”も必要になってくると思います。こうして自らを測るものさしを自ら作り出し、それを公表し、社会との対話の中で、事業者の独善ではなく地域に有用なものとして磨いていく作業を、私も地域メディアの取材者として、そしてメディア研究に身を置くものとして、提案し、そして積極的に関わっていきたいと思っています。



1) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2021/12/01/
    https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/01/20/ 
2) https://www.soumu.go.jp/main_content/000789270.pdf P5
3) https://www.soumu.go.jp/main_content/000789271.pdf P5
4) 県域局の対象地域は1,広域局では、関東は7、関西は6、中京は3となる
5) https://j-ba.or.jp/category/topics/jba101196
6) https://www.soumu.go.jp/main_content/000777188.pdf P22、23
7) 本ブログ執筆時に議事録が公表されていなかったため
8) 発言した構成員の敬称は全て氏としました
9) 名古屋大学大学院法学研究科教授
10) 日本総合研究所執行役員法務部長
11) 電通総研フェロー
12) 慶応義塾大学大学院法務研究科教授
13) 組織や企業が目標を達成するために設定する重要な業績評価の指標のこと
14) シンポの議論の詳細は→https://www.inter-bee.com/ja/magazine/special/detail/?id=46447
15) 『アサデス。7』https://kbc.co.jp/asadesu_7/list.php
16) 村上聖一「戦後日本の放送規制」(日本評論社)には、戦後から今日までの放送政策の規制を巡る議論の詳細がまとめられています
17) https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/235321/www.soumu.go.jp/s-news/2003/pdf/030227_7_01.pdf
18) https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/283520/www.soumu.go.jp/s-news/2006/061006_6.html
19) https://www.soumu.go.jp/main_content/000276075.pdf P8
20) https://www.soumu.go.jp/main_content/000789273.pdf
21) 京都大学・曽我部真裕教授の発言から https://www.soumu.go.jp/main_content/000780863.pdf P5

 

 

メディアの動き 2022年01月20日 (木)

#359 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」これまでの議論を振り返る

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子


はじめに

 去年11月、「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(本検討会)」が開始され、かなり広範囲な論点が示され、議論が急ピッチで進められています。1月には論点整理の方向性が、そして3月には1次とりまとめが提出される予定です。私は初回の傍聴記をブログにまとめましたが、本ブログでは改めて、これまで3回の議論がどのような内容だったのか、私なりの理解で 1)まとめておきたいと思います。

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① デジタル情報空間のひずみへの危機意識

  放送の未来像を議論するベースとして多くの構成員から表明されたのが、デジタル情報空間のひずみに対する危機意識でした。
 情報空間の全てがアテンションエコノミー 2)に染まっていくことで、データによるレコメンドが詳細化しフィルターバブル 3)が加速、エコーチェンバー 4)による社会的分断やフェイクニュースの拡散も深刻化していくと警鐘を鳴らしたのは、デジタル社会における民主主義のあり方を研究する憲法学者の慶應義塾大学・山本龍彦構成員でした。また、長年、通信・放送融合の実態を競争法の観点から研究してきた名古屋大学・林秀弥構成員からも、融合の進展が資本の論理と視聴者のニーズ論だけで進んでいることに懸念が示されました。
 こうした課題の多いネット空間に人々が滞在する時間が増えれば増えるほど、これまで以上に地上放送メディアの役割が期待されるのではないか――。この認識も構成員内では共有されているように感じました。先出の山本(龍)氏からは、人々の“インフォメーションヘルス”を害さないよう、多様な情報をバランスよく摂取するのが重要であり、栄養食、免疫食としての公共放送の意義を再定義すべきという発言がなされました。また、情報通信消費者ネットワーク・長田三紀構成員からは、消費者団体の事務局としてテレビ広告の基準について民放連と話しあいを続けた体験を踏まえ、放送局にはネット上にある様々な課題の是正に力を発揮するくらいの思いでデジタル情報空間に乗り込んでいってほしいとの期待が示されました。電波監理審議会委員でもある行政法が専門の東京大学・山本隆司構成員からも、放送における「多元性・多様性・地域性」は重要だが、情報空間全体の中で、意見・文化の多元性・多様性・地域性に注意を促す放送の役割を維持向上させる観点は今後ますます重要になるとのコメントがありました。

② 「多元性・多様性・地域性」再定義の必要性

 地上放送がこれまで以上に公共的な役割を果たしていくためにも、社会状況やビジネス環境の将来を先読みし、そこからバックキャスティングして体制や制度をどう変革するかを考えていく必要がある。金融業界を例に挙げながらそうした趣旨の発言をしたのが、金融サービスと情報技術をつなぐフィンテックという分野で活躍するマネーフォワード・瀧俊雄構成員でした。瀧氏は、金融庁では収益がどれくらい悪化するとどれくらいの地域金融機関が赤字になるのかを試算していると紹介した上で、放送業界ではそういう試算をしているのか、人口動態的に市場が3割減になる世界でどのような収益構造が残される必要があるのか、と問いかけました。そして、議論を後回しにするほど採用できる選択肢が減っていくということが様々な産業で見られている、と警告しました。林氏も、通信業界にはかつては100を超える事業者が存在していたが、再編・統合が進み今は主に4社の寡占市場になったこと、金融庁主導で進められている地銀の再編における議論なども参考にしながら、放送業界においても適正な事業者数や必要な規模の在り方を議論していく余地があるのでは、とコメントしました。

 こうした問題提起を制度として論じていく際、マスメディア集中排除原則(マス排)と、それによって達成すべき政策目標として掲げられてきたいわゆる放送3原則、「多元性・多様性・地域性」の再定義は避けて通れません。このメッセージを最も明確に発したのが、第3回のヒアリングに登場した、「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」構成員の東京大学・宍戸常寿氏でした。ちなみに放送3原則は放送法で明確に定義されていないこともあり、以前から再定義が必要だと多くの有識者が指摘しており、宍戸氏も折に触れて見直しを訴えていました。宍戸氏は、国民の知る権利から考えると一義的に重んじられるのは多様性であり、これまでの情報空間や技術のあり方を前提にした場合、多様性を実現するために放送の多元性と地域性が重要であったと理解すべきだ、とコメントしました。その上で、この枠組みは県単位での広告市場が健全に成り立つことが前提であったとし、それが崩れていく中では、多様性を損なってまで多元性と地域性を維持するのは本末転倒であると述べました。この場合の多元性とは放送局数、地域性とは県域免許制度であると私は理解しました。

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 本検討会の三友仁志座長も、個人的見解であるとした上で、現行制度は多様性維持の制約になっている可能性があると発言。また第2回のヒアリングで登場した憲法学者の京都大学・曽我部真裕氏からも、多元性は必ずしも多様性とイコールでなく、マス排の緩和は必要ではないかとの発言がありました。それぞれ言い方は異なるものの、同様の指摘を行ったものと思われます。また、曽我部氏、林氏からは、マス排という構造規制はどのような成果をもたらしているのかいないのか、それを図る指標を開発し、現状の実態を把握することがまず必要ではないかとの意見もありました。

 こうした放送3原則の見直し、もしくはマス排緩和の議論は、これまでのキー局とローカル局の関係や、ローカル局の経営の姿を大きく変容させることに直結します。具体的な試案を述べたのは、諸課題検座長を務める行政法が専門の千葉大学・多賀谷一照氏でした。多賀谷氏はヒアリングの冒頭、諸課題検は建前論が多すぎたとコメントした上で、以下のように踏み込んだ発言を行いました。今後、無線局(放送波)というボトルネックがなくなってくれば、今のキー局を含めて10社以上の放送事業者が全国・首都圏に向けたサービスを、地上波・衛星・通信回線を活用して展開する体制が望ましいのではないか。そしてキー局からのネット配分金が減少していくローカル局については、キー局の子会社化や、ローカル局同士が合併して延命を図るしかないのではないか――。宍戸氏も以下のような提言を述べました。自治体間の広域連携、“圏域化”が進む中、放送局もその動きに対応していくべきであり、事業者の申し出により放送区域を柔軟化することが必要ではないか。ただその際には、地域情報の取材報道の意義に鑑み、一定の規律(地域情報の割合を公表する等)が必要ではないか――。民放連は、個社の意見を丁寧に汲み取り経営の選択肢の拡大につながる議論が行われることを期待しており、検討に際してはテレビ放送事業全体への影響にも留意して欲しいとコメントしています。今後は個別の事業者のヒアリングが行われる予定です。

③ デジタル情報空間におけるNHKの責任

 NHK改革やネット空間におけるNHKの役割・責任についても、ヒアリングに登場した3人の諸課題検構成員が具体的に言及し、その発言を巡って議論が噴出しました。
 最も踏み込んだ発言をしたのは多賀谷氏でした。多賀谷氏は、テレビを見ない・持たない人々が増える中においても、日本人は公共放送の維持が必要だと考えるだろうとし、こうした中でNHKの将来は、組織もしくは機能で二分割することしか自分は考えつかなかったと述べました。そして、ニュースや天気予報、児童番組などのスリム化した公共放送を義務的受信料で維持するモデルを作り、受信料は自治体等が公的徴収すべきではないかと提案しました。
 これに反応したのが、諸課題検の時から議論に参加している日本総研・大谷和子構成員でした。大谷氏は、世界中の公共放送が、多種多様なコンテンツを誇りを持って生み出し、新たな価値を生み出していくことが創造力の源になっているとし、コンテンツ制作者としての存在価値を損なわない組織と受信料の規模とはどのくらいなのかとの観点で発想することが必要ではないかと述べました。そして、多賀谷氏の提示は現実的なシナリオになり得るのか、と疑問を呈しました。
 この多賀谷氏の主張した義務的受信料、いわゆる全世帯負担金制度に対して、宍戸氏も否定的な見解を示しました。宍戸氏のNHK改革案は、地上総合・衛星2波の計3波を総合受信料とし、3波のネット同時配信を本来業務化することで、デジタル情報空間における基本的情報供給のユニバーサルサービス化の責任をNHKに負わせるべきというものでした。その際、受信料契約はあくまで認証された端末に限って対象にすべきであり、認証の有無に関わらず全世帯に負担させる制度にはすべきでないとしました。健全な民主主義において必要な情報が、解釈の対立や競争も含めて供給される二元体制が今後も維持されることが望ましく、民放が現在、その供給を実効的に担っている状態の日本では、義務的受信料制度は過剰であるという見解でした。
 同時・同報のメディアとしての放送の同時配信を、デジタル情報空間における基本的情報供給の柱と考える宍戸氏に対し、NHKは放送に従属しないネット特有の消費のされ方に対応したコンテンツの提供を通じて公共的な役割を果たしていくべきと述べたのが曽我部氏でした。これは、初回に電通総研・奥律哉構成員が行った、若者の間にはYouTubeで動画を選ぶ際に、コンテンツのジャンルではなく、“本編”、“”名場面・メイキング・まとめ系”といった「フォーマット」志向が多く(“共有型カジュアル動画視聴文化”と呼称)、放送局にはこうしたことを意識した取り組みが必要、という報告を踏まえた発言でもありました。

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 また曽我部氏は、NHK会長の諮問会議である、「NHK受信料制度等検討委員会」の「次世代NHKに関する専門小委員会 5)」の委員長でもあり、そこでもこうした若者のネット動画視聴習慣が示されており、それらの議論も踏まえた発言とも思われます。ちなみにNHKでは、この委員会の報告を踏まえ、来年度、放送の同時配信だけでなく、番組に関わる情報やコンテンツを、テレビを持たない人に対して提供し、それがどのように受容・評価されるか検証する社会実証を行うことになっています。

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④ 放送ネットワークインフラのブロードバンド代替

 総務省では地デジ移行完了後、2013年から「放送サービスの高度化に関する検討会」、2015年から諸課題検が開催され、放送の未来像議論が行われてきました。しかし、通信・放送融合が本格的に進む中においても、放送ネットワークインフラ、つまり伝送路の今後という論点についてだけは踏み込んだ議論が行われてこなかったとの印象をぬぐえませんでした。その理由についての分析は別な論考に譲りますが、ともあれ、本検討会はそこに風穴を開けようという意図が、初回に事務局から示された論点案に明確に示されていました。

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 この論点に積極的に呼応したのが、第2回にプレゼンを行ったNHKでした。前回のブログでも記しましたが、この論点は、山間部などの小さな集落をカバーするミニサテライト局(ミニサテ)の更新時期が迫る中、民放連が“あまねく受信義務”を背負うNHKに対し、更新や維持に関わる費用を“努力義務”を背負う民放より多く負担をすべきではないかと要望したことが発端です。これに対してNHKは、民放から要望のあったミニサテだけでなく、NHK共聴(NHKとNHK共聴組合が共同で設置・運営している設備。約5300施設)や、ミニサテよりも大きな中継局(小規模局)も含めてコスト高となっており、こうしたエリアの人口減少が進む中、今後のサービス維持が課題になると報告しました。

220120-06.png その上でNHKは、今後の放送ネットワークインフラについては、全世帯の94%程度をカバーしている親局と大規模重要局はそのままとし、残りの6%程度をカバーしている小規模局・ミニサテ・NHK共聴について、ブロードバンドを放送の一部として活用する可能性を検討すべきと提起しました。これについて、IoTや無線通信システムなど情報工学が専門の東京大学・森川博之構成員からは、NHKには人口減少時代のあり方に対して重い問題を投げてもらった、非常に重たいボールだが目をそらさずに対応していかなければならないとのコメントがありました。

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 更にNHKは、ブロードバンドで代替する場合の課題について、上記の資料を示しました。この資料から、NHKはブロードバンドで代替する場合の前提として、現行で放送サービスとして行われているIPマルチキャスト方式(特定のアドレスを指定し1対複数で行われるデータ通信)ではなく、NHKプラスやTVerのようなユニキャスト方式(単一のアドレスを指定して、1対1で行われるデータ通信)を想定していることがわかります。その上で、課題として、代替に関わる費用負担のあり方、技術的な品質保証、民放も含む配信基盤とその運用のあり方、権利処理(いわゆる「フタかぶせ」問題など)を挙げました。
 このプレゼンに対し、映像圧縮技術が専門の東京理科大学・伊東晋座長代理からも、ブロードバンド代替の場合には経済合理性の観点からベストエフォートに基づいたユニキャストになる可能性が高いとの発言がありました。その上で、著作権の観点から放送と同等とみなしてもらえるかが課題となり、文化庁に関わる話なので準備をする必要があるとのコメントがありました。
 この著作権の課題については、同時配信サービスの普及という文脈で、奥氏が諸課題検の頃からずっと訴えていたものでした。奥氏は自社制作比率が低いローカル局を念頭に、自社がライツを持っている番組を前提として考えなければならない現行制度ではなく、放送で出すべき情報がネット側に同じだけ出るような制度設計が必要だと改めて訴えました。また宍戸氏からは、放送コンテンツを届けることはデジタル社会における基本的情報の供給だと考えるのであれば、総務省、文化庁とデジタル庁が連携して議論する仕組みをとることが必要ではないかとの提言がありました。

 また、総務省の「ブロードバンド基盤の在り方に関する研究会(BB研) 6)」にも名を連ねている複数の構成員からは、放送の代替を検討したいと考えているエリアと光ファイバー未整備地域(約17万世帯)を重ね合わせて突き合わせる作業がまず必要ではないか、また、BB研の議論と連携をさせて議論していくべき、との意見も出されました。

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 そして言うまでもなく、放送ネットワークインフラのブロードバンド代替という論点は、NHK単独の問題ではありません。民放連は、ブロードバンドによる代替が本当にコスト削減につながるのか、NHKと連携をしながら将来像について検討していくとの姿勢を示しました。
 このNHKと民放の連携については、弁護士として金融・医療・交通のデジタル化に関わり、規制改革推進会議のメンバーでもある落合孝文構成員から、NHKを中心としつつ限定的に一部の費用を民放が負担して共同でインフラを保有するような企業体の設置が考えられないか、という考えが示されました。また、海外のICT事情について調査・研究を行うマルチメディア振興センター・飯塚留美構成員からは、イギリスは免許上、ハード・ソフト分離型、アメリカは免許上、日本と同様にハード・ソフト一致型と整理されるが、アメリカにおいてもハードにおける実際の運用は、テレビ局同士が共同で作った合弁会社や、放送インフラ専業のプロバイダーがサービスを提供しているという事例が紹介されました。

⑤ 公共的な情報やコンテンツの提供・ジャーナリズムの維持

 この他、議論の中で何度か提起されたものとして、曽我部氏の言葉を借りれば、社会全体で共有されるべき基本的情報であるにもかかわらず過小提供の可能性が高い情報やコンテンツ、またマネタイズが難しいジャーナリズムの維持をどうしていくか、という論点もありました。必ずしも放送制度の枠内に収まる論点ではないため、深い議論がなされたとは言えませんが、重要な指摘だと思うので記しておきます。
 曽我部氏からは、地域発コンテンツなどについては、番組単位で何等かの基金を設けて支援して制作を後押しすることも考えられるのではないかとのコメントがありました。また飯塚氏からは、欧州では政府がコンテンツ制作資金を支援したり、コンテンツ制作資金として、大手の放送事業者やネット配信事業者から支援金を徴収したりする仕組みがあることが紹介されました。また宍戸氏は、受信料制度はその一つの解決策であるが、公共放送が大きすぎるとジャーナリズム上の自由競争において圧迫しすぎる可能性があるとし、寄付などの税制などを緩和し、公的な団体としてジャーナリズムを担う組織を支える仕組みを整備することも考えられるのでは、と述べました。

⑥ 放送ジャーナリズムと説明責任

 デジタル情報空間のひずみ、そこで改めて期待される放送メディアの公共的役割、こうした共通認識のもとで本検討会の議論は進んでいます。しかし、放送事業者自身が社会の変化に背を向け、人々に対して説明責任を果たすことを怠れば、こうした期待に応えていくことはできないだろう、宍戸氏がヒアリングで提示した資料の最終ページにはこうした厳しいメッセージもありました。

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おわりに

 今回は、これまでの3回の議論を再構成することで、放送メディアを巡る政策議論の現在地を少しでも体系的に理解することを試みました。これから本検討会は、更に個別の案件の議論に入っていくと思いますが、ここで示した①から⑥の論点は全てつながっており、そのつながりを絶えず俯瞰しながら、放送制度のあるべき姿について私なりに考えていきたいと思っています。




1) 検討会を傍聴した自身のメモ及び公開されている議事録や資料を参照しつつ、論点別に議論を再構成するため、私の解釈で、構成員等の発言をまとめたり補足したりしている。
  議事録及び資料は→https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html
2) 情報が爆発的に増える中で、人々の関心や注目を獲得することそのものが経済的価値となっていくこと
3) ネット上の検索エンジンやSNSの履歴を用いたアルゴリズムにより、ユーザーに最適化された情報ばかりが提供され、その結果、ユーザーは泡に包まれたような空間で自分の見たい情報しか見えなくなってしまうこと
4) SNS上で自分と似通った意見や思想を持ったユーザーとの関係を深める結果、同じ意見ばかりが「反響」するようになり、特定の意見や思想が社会の中で増幅されたりしてしまうこと
5) 報告書は→https://www.nhk.or.jp/info/pr/kento/assets/pdf/sub_committee_report.pdf
6) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html

 

メディアの動き 2022年01月12日 (水)

#358 "岸田総理を襲う"コロナ感染第6波 ~オミクロン株をかわせるか~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男


「とうとう来たか」と実感した2022年の正月松の内でした。

 昨年10月4日の岸田内閣の発足前後から新型コロナウイルスの感染拡大は鳴りを潜め、いわば小康状態が続いてきました。この間隙を突く形で衆議院の解散に打って出たことが功を奏し、岸田氏は総選挙での勝利を足掛かりに危なげない本格的な政権スタートを切っていました。

 しかし年が明け、新型コロナウイルスとの戦いは終わっていない現実が噴き出したわけです。当研究所の月報「放送研究と調査」1月号掲載の拙稿「コロナ禍と政治意識の揺れ」で指摘せざるを得なかったオミクロン株の脅威が、沖縄県などで一気に目に見える形になりました。

 12月に入ってから世界各地で爆発的な感染拡大を引き起こしていたオミクロン株が日本列島の各地に襲来。沖縄県などでは先に感染が広がったアメリカ本土のウイルスが、入国時の検査が緩いと指摘されている在日アメリカ軍関係者によってもたらされたと見られています。


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 そういう中で1月8日(土)~10日(祝)の3日間、NHK月例世論調査が行われました。

☆「あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか」という質問に対する答えには少々当惑しました。

「支持する」57%(対前月+7ポイント)
「支持しない」20%(対前月-6ポイント)

岸田内閣の支持率は、昨年10月の49%で始まり、ほぼ横ばいで推移していましたが、ここへ来て上向き傾向を示しました。

“誰の眼にも第6波の襲来が明らかになってきたのに支持率が上がるの?”というのが私の素朴な実感でした。しかし、世論調査結果のいくつかの数字を見ると、安倍内閣、菅内閣の教訓を生かしながら、慎重かつ大胆にコロナ対応を進めている姿勢への一定の評価だということが分かります。

☆「あなたは新型コロナウイルスをめぐる政府の対応を評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」65%、「評価しない」31%で、昨年10月の調査以降、「評価する」が徐々に上がり、「評価しない」が徐々に下がってきています。

 オミクロン株感染者が11月30日に国内で最初に確認されるのと同時に外国人の新規入国停止を打ち出すなど、「やりすぎ批判」を恐れずに対策を打ち出したことへの評価が支えになっていると言えます。ただ、それでもオミクロン株はやってきました。


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 岸田総理は1月4日の伊勢神宮での年頭会見で、感染状況の変化を見ながら水際対策から国内対策に重点を切り替えていく考えを表明。翌日には後藤厚生労働大臣が「感染したら入院」としていた原則を緩和し、感染者が急拡大している地域では、感染していても無症状の場合などには条件付で宿泊施設や自宅での療養を許容する方針を公表しました。

 菅内閣当時の感染第3波、4波、5波の反省を踏まえ、入院病床の不足に陥らないように先手を打ったとも言えます。

☆「オミクロン株に対する医療提供体制を確保するため、政府が行ったこの見直しを評価しますか」という質問に対する答えです。

「評価する」68%、「評価しない」28%。これを詳しく見ると、岸田内閣を支持する人では8割、支持しない人でも5割が、この見直しに肯定的な態度を示しています。

 岸田内閣の支持率は、第6波襲来の試練にさらされ始めた1月上旬の段階では、コロナ対策の臨機応変な見直しが功を奏していることに大きく支えられているようです。


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 けれどもこの先はどうでしょう。ワクチン接種は進んでいますが、1月12日、大阪府では前日の613人から一気に増え、1700人超の感染者が確認されました。

 WHO(世界保健機関)は、感染力は強いが重症化しにくいのがオミクロン株の特徴としています。これを国民がどう受け止めるかです。

 「重症化しないなら風邪と同じ」「かかってしまえばワクチン接種と同じ」といった安易な受け止めが広がると大変なことになるでしょう。

 感染症の専門家が口をそろえるように、感染者数が爆発的に増えれば、高齢者や病気を抱える人たちの中から一定割合で重症者は現れてしまいます。

 さらに、感染によって仕事を休まなければならない人が続出すれば、アメリカなどで見られるように公共交通機関など社会インフラが機能しなくなる危険が顕在化します。経済的には大打撃をこうむることになります。

 岸田総理にとって正念場はこれからです。丁度1年前、菅総理が安全安心と経済活動の両立を意識するあまり、Go Toトラベルキャンペーン一時停止のタイミングを誤ったことを思い出します。判断の遅れが結果として感染を全国に広げてしまった苦い経験です。

 日本の医療提供体制と社会機能を十分に維持するために、岸田総理が政府の総合力を発揮して、果断な対処を続けていくことができるかどうかが問われます。


メディアの動き 2021年12月21日 (火)

#355 メディアは社会の多様性を反映しているか~アメリカの動きから

メディア研究部(海外メディア) 青木紀美子


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2021年、アメリカのメディア動向を振り返ると、組織体制や発信内容に社会の多様性を反映させようという動きが目立ちました。

「メディアは社会の多様性を反映しているか?」という問いかけはアメリカだけでなく、世界の潮流にもなりつつあります。では日本のメディアはどうなのか?文研では日本のテレビの多様性を考える材料として、テレビ番組に登場する人物の男女比を調べるトライアル調査を行ってみました。また、テレビの女性や男性、さらに多様な性の取り上げ方をどう見るか、視聴者に聞くアンケート調査をNHK #BeyondGender プロジェクト班とともに実施しました。その内容は別の記事でまとめています 1) 2)ので、今回のブログではアメリカの動きを通して、その意義を考えていきます。

アメリカのメディアの背中を強く押したのは前年5月に黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官に暴行されて死亡した事件です。アメリカ各地から世界に抗議行動が広がり、テレビや新聞など伝統メディアは長く続いてきた黒人に対する差別の問題を報じる中で、自らの報道も差別を助長してきたという反省を迫られました。コロナ禍の中ではアジア系市民に対する差別やヘイトの問題も表面化しました。さかのぼると、性暴力の被害者に沈黙を強いてきた加害者とこれを容認する社会のありようを告発する#MeToo運動もありました。いずれも報道機関に自己点検を促すものでした。

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社会で権力を握り、報道機関では編集判断や人事などの決定権を握ってきた白人の中高年男性の世界観や価値観が中立公平や客観性をはかる「標準」になり、それにあてはまらない人々の視点や価値観を退けたり、偏ったものとして扱ったりしてこなかったか。異なる文化への無関心や無知から差別的な言葉や表現を使ってこなかったか。多様な人材を採用しても「標準」に順ずるよう求めてこなかったか。メディアの内外からこうした問いかけが持ち上がりました。

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メディアが多様性をより強く意識するようになったもう1つの理由は、存続の危機です。情報があふれる時代に、必要とされ、信頼される情報源として役割を果たしていくためには、より多様な人々の現実やニーズを意識した発信が欠かせない。そうしなければ視聴者・読者が先細りし、たとえ質の高いコンテンツを発信しても情報の洪水の中に埋もれ、淘汰されかねないという認識が広がっています。

2021年、アメリカでは3大ネットワークのABCテレビとケーブルテレビMSNBCの報道部門トップに黒人女性が相次いで就任し 3) 4)、Washington Postにも140年以上の歴史で初めて女性の編集長が就任しました 5)。NBC Universal News Groupは報道部門の社員の男女比を半々にし、有色人種の割合も50%にする目標を掲げ 6)、New York Timesは多様な人材が力を発揮できるような組織文化の変革をめざす計画を示し 7)、全米公共ラジオNPRは多様性の実現を戦略目標に定めました 8)

報道内容の見直しとしては、組織体制とともに、取材対象・取材情報源の多様性を検証し、社会の現実に近づけようとするところが増えています。イギリスでは公共放送BBCが2017年から出演者の男女比などを記録する50:50というプロジェクトを始めていますが、アメリカでも公共放送や非営利メディアが中心になって番組や記事でインタビューした人や引用した取材対象の多様性を点検する「Source Audit」を行い、公表するようになりました。

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サンフランシスコの公共放送KQEDは、ラジオ、テレビ、ポッドキャスト、オンライン記事で2019~20年に取材した人たちの△ジェンダー、△人種・民族、△年代、△居住・活動地域、△職業を、△番組・ジャンルや△話題とあわせてクロス集計するサンプル調査を行いました 9)。全体としては放送地域の人口比を反映しているものの、政治・科学番組、行政担当者や識者の取材では白人・男性が多いなど、偏りがあることがわかったとしています。KQEDでは改善をはかるため、現場の負担を大きくしないかたちで継続的に取材対象の多様性を記録・点検する方法を模索しています。また、報道内容・発信内容だけを変えようとしても真の多様性向上にはつながらないとして、管理職を含めた職員・スタッフの多様性、そして視聴者の多様性についても調べて情報を公開しています。

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フィラデルフィアの公共放送WHYYは、少し早く2018年に取材対象・情報源の点検を始めました 10)。調査開始当時は人口の40%を超える黒人が取材対象の7%にとどまっていました。それが2020年には27%に増え、白人は80%からおよそ60%まで減りました。ジェンダーでは女性が50%を超えています。それまで、ともすると時間がないことなどを理由に「いつも頼りになるあの専門家」「短くわかりやすい話をしてくれるあの人」にインタビューするといった傾向があったのを、常日頃から取材対象を広げることを意識し、個別の取材に入る前にもより多様な人の視点や声を取り込むことを話し合う時間をつくり、改善してきたといいます。WHYYはまた、職員・スタッフだけでは多様性を十分に広げることはできないという考えにもとづき、他のメディアや外部のジャーナリストと連携し、そのスキル・アップ研修も行ってきました。地域住民とのエンゲージメントの機会を増やして住民自身の発信力を向上する試みも続けています。

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全米公共ラジオNPRは自らのコンテンツだけではなく、幅広いメディアがアメリカ社会を反映するコンテンツを発信できるようにと、誰でも活用できる多様な取材対象のデータベースを作り、オンラインで公開しています。2013年に『Source of the Week』として立ち上げたもので、2021年に『Diverse Sources Database』として更新しました。多様な背景をもつ専門家や識者およそ400人の名前、肩書、略歴、連絡先、それにどんな話をする人かを知ることができる短いインタビュー音声が掲載されており、専門分野や地域ごとに人を探すことができます。こうしたデータベースは、幅広い分野の女性の専門家リスト『SheSource』12)、政治学の女性研究者を検索できる『WomenAlsoKnowStuff』13)、女性をはじめ多様なジェンダーの科学者をリストアップした『gage』14)など、分野別のものも増えており、放送や記事に登場する取材対象の多様性向上を後押しています。

多様性は性別、ジェンダー、人種、民族というような指標だけで語るものではなく、人の数だけあるものともいえます。ただ、そうした指標でみてもバランスよく社会の実態を反映していることは重要であり、また、より多くの人たちの声や視点を報道に反映していくための意識的なエンゲージメントやデータベースのようなツールと情報の共有が大事、という気づきがアメリカでの試みに繋がっているのだと思います。文研でもテレビの多様性に資する調査を続ける計画で、海外の事例とあわせ、今後もこのブログや「放送調査と研究」、それに文研フォーラムなどで報告していきます。



1) テレビ出演者のジェンダー・バランス~トライアル調査から
    (放送研究と調査2021年10月号)

2) みんなでプラス ジェンダーをこえて考えよう #BeyondGender
    テレビの女性・男性、ジェンダー 視聴者アンケート結果

3) Kimberly Godwin makes network history as next president of ABC News(15 April 2021)
https://abcnews.go.com/Business/kimberly-godwin-makes-network-history-president-abc-news/story?id=77075637

4) Rashida Jones named next president of MSNBC(Dec. 8, 2020)
https://www.nbcnews.com/news/all/rashida-jones-named-next-president-msnbc-n1250296

5) Sally Buzbee of the Associated Press named executive editor of The Washington Post, the first woman to lead the newsroom(2021年5月)
https://www.washingtonpost.com/lifestyle/media/sally-buzbee-washington-post-editor/2021/05/11/63491212-b25d-11eb-ab43-bebddc5a0f65_story.html

6) NBCUniversal Head Explains His 50% Diversity Challenge(2020年7月)
https://www.npr.org/2020/07/10/889842769/nbcuniversal-head-explains-his-50-diversity-challenge

7) Building a Culture That Works for All of Us(2021年2月)
https://www.nytco.com/company/diversity-and-inclusion/a-call-to-action/

8) NPR's Strategic Plan (FY21-23)
https://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=970198813

9) Want to know if your news organization reflects your community? Do a source audit. Here’s how.(2021年3月)
https://www.niemanlab.org/2021/03/want-to-know-if-your-news-organization-reflects-your-community-do-a-source-audit-heres-how/

10) Sourcing Diversity: WHYY and the rocky road to “cultural competency”(2019年9月)
https://www.cjr.org/tow_center_reports/public-radio-cultural-competency.php

11) NPR Diverse Sources Database
https://sources.npr.org/

12) Women’s Media Center - SheSource
https://womensmediacenter.com/shesource

13) WomenAlsoKnowStuff database
https://womenalsoknowstuff.com/

14) gage – by 500 Women Scientists
https://gage.500womenscientists.org/