世論調査部(社会調査)村田ひろ子

スマホ操作が苦手な私をよそに、中学生の娘は、学校の提出物の確認、遊びの日程調整、“盛れる”プリクラ機の情報収集など、実にスマートにSNSを使いこなしています。その一方で、「体育の授業で倒立ができない!」「流行の“シースルー前髪”が決まらない!」「TikTokのダンスが踊れなくて友だちの輪に入れない!」など、ないないづくしの自信喪失の毎日・・・。大人からみれば、「なんでそんなことを気にするの?」と疑問に感じることも、彼女にとっては一大事のようです。
こんなイマドキの中高生の生活ぶりや価値観は、文研が昨夏実施した「中学生・高校生の生活と意識調査2022」の結果からかいま見ることができます。調査は、学校生活、SNSの利用、友だちや親との関係、心理状態、世界観などの幅広い領域について、中高生とその父母の双方の視点からみられるユニークな設計になっています。10年ぶりの調査からみえてきたのは、SNSを通じて友だち関係を拡大させ、明るい未来を思い描く一方で、自己肯定感が低かったり、「社会」よりも「自分」を優先させたりする姿です。
文研フォーラム・プログラムA「コロナ禍のネット時代を生きる中高生」(3/1(水)10:40~)では、調査結果をふまえて、いまどきの中高生の生活や価値観、について考えます。
パネリストは、
・公立中学校の校長として校則や定期テストの廃止といった学校改革に取り組まれた工藤勇一さん、
工藤勇一さん
(横浜創英中学・高等学校校長)
・文化社会学、ジェンダー論、家族社会学がご専門の水無田気流さん、
水無田気流さん(國學院大学 経済学部教授)
・情報番組の司会や女性誌のモデルなど幅広く活躍中、2児のママでもあるタレントの優木まおみさんです。
優木まおみさん
(タレント/モデル)
進行は世論調査部のリードオフマン・中山準之助研究員、報告は村田ひろ子です。
令和の時代の中高生たちが何を考え、どのような課題を抱えているのか。コロナ禍のストレスや悩み、ジェンダー意識などにも注目しながら、将来の日本社会を担う彼らの「いま」を知るための手がかりを探ります。多くの皆様のご参加をお待ちしています!
【申し込みはNHK放送文化研究所ホームページから】

メディア研究部(メディア動向)村上圭子
私は放送やメディアを巡る最新動向をウオッチし、俯瞰して分析したり、提言したりすることを主な業務としています。そのため、毎年3月に実施する「文研フォーラム」では、できるだけこの1年の動向を象徴するような、そして簡単には答えが見つからないようなテーマを設定して、建設的な議論の場を作ろうと試みています。ただ、年を追うごとに変化が激しくなり、政策の議論は複雑になり、関係する事業者も増えている気がします。毎年テーマ選びと登壇者選びにはとても苦戦していて、今回も悩みに悩んで、他のプログラムよりも遅れてシンポジウムの登壇者をようやく公表しました。遅くなって申し訳ありません!
文研フォーラム プログラムGの詳細はこちら
テーマは「デジタル情報空間とメディア ~“信頼”のフレームワークをどう構築するか~」。なぜこのテーマを選んだのか、共有しておきたいと思います。
本ブログでも繰り返し取り上げていますが、2021年秋から総務省では、「デジタル時代の放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」が続けられています。 私は地デジ化が終了した頃から、総務省で開催される放送やNHKの未来像に関する様々な検討会を傍聴、取材していますが、在り方検はこれまでの検討会と比べ、議論の組み立て方が大きく異なっていると感じています。
在り方検以前の検討会では、前提とする問題意識は、通信と放送が融合していく時代に、放送がこれまでのような役割を果たしていくにはどのように通信を活用していけばいいのか、そのための制度改正をどのように進めていくか、でした。もちろん今回の在り方検でもそれは踏襲されていますが、議論を傍聴しているとそれにとどまらないものを感じます。議論では常に、ネット上で信頼できる情報を循環させる枠組みをどのように整備していくか、そしてその情報を確実に届けていく方法をどのように提供していけるかが問題意識の前提にあり、未来像の“主語”は放送ではなくデジタル情報空間そのものであるという印象を受けています。つまり、在り方検の議論の組み立て方は、増え続けるデジタル情報空間の課題に対して、放送は今後どのような役割を果たしていくべきか、それを推進していくためにどのような制度改正を行うべきか、であるといえると思います。
ただ難しいのは、取材と編集機能を備えた信頼できる情報を提供する主体は放送だけではないということです。伝統メディアとしては新聞や雑誌、そしてネットメディアの中にも数多く存在し、日々取り組みを進めています。また、ネット上で情報を届けていくには、多くのユーザーが集うプラットフォームの存在を抜きには考えられません。プラットフォームの役割やメディアとの関係性については、グローバルなテーマとなっています。とはいえ、在り方検は国内の放送の未来像や放送制度改革を議論する場、つまり放送を“主語”とする議論にならざるを得ません。そのためしばしば議論は暗礁に乗り上げているようにもみえますが、それは、挑戦的で今日的な問題意識で既存の放送政策議論を超えようとしているが故のことなのだと私は受け止めています。今後も期待して傍聴、取材を続けたいと思います。
さて、肝心の文研フォーラムの内容に戻ります。文研はNHKの組織であり放送文化に寄与することを目的としていますが、総務省の在り方検ほど議論に制約があるわけではありません。ですので、今回はあえて放送を主語には据えず、デジタル情報空間を主語に、放送、新聞、ネットメディア、プラットフォームという“事業者横断”で、“信頼”のフレームワークの構築について考えてみたいと思います。在り方検の問題意識も意識しつつ、それを越える議論もできればと思っています。
そして、登壇者についてですが、今回は全て、現場で格闘し続けている方々にお願いしました。このテーマは研究者や啓発活動等の様々な取り組みを行う実務家も多い領域なのですが、どのような枠組みを検討したとしても、事業者の主体的な意思がなければそれが実装されることはないと思い、あえて“現場縛り”にしています。様々な事情や制約の中で抱いている課題意識や取り組みを、業界を越えて共有し議論していくことで、事業者自身によるリアルな競争や協創のあり方を探っていきたいと思います。
3月3日15時半から120分。真剣勝負の徹底議論を行う予定です。皆様のご意見もどんどん議論に反映させていきたいと思っています。ぜひ奮ってお申し込みください。お待ちしています!
【申し込みはNHK放送文化研究所ホームページから】

世論調査部(視聴者調査)保髙隆之
「ワールドカップ(W杯)の日本戦ですか? テレビ画面で見ていましたよ。…ABEMAの中継で」
大学生が当然のように答えたとき、私は軽いショックを受けました。
もちろん、ABEMAのサッカーW杯中継が多くの方に見られたことは報道で知っていました(実際の規模感については諸説ありますが)。しかしながら勝手にスマホでの視聴だと思い込んでいたのです。かつてのワンセグによる日韓共催のW杯中継のように。
この違いは非常に大きいです。つまり、放送も同時に行われていたのに、あえて「テレビ」という箱の中で動画サービスによる中継が選択されたのです。ときどき、「テレビ離れ」は「コンテンツ離れ」ではないから大丈夫、という放送業界の方がいらっしゃいますが、これは放送局にとっては言い訳ができない、まさに存在意義を問われるような事態です。
この大学生にとっては、「テレビ」という「機器」は既に「放送」を前提にしたものではありません。
では、彼や彼女たちにとっての「テレビ」とは何なのでしょう?

今年のNHK文研フォーラムのプログラムB「Z世代とテレビ」(3月1日(水)午後2時~)では、デジタルネイティブの先駆けであるZ世代の大学生たちと、いまのテレビとのリアルな距離感、そしてこれからのテレビに期待することを語り合います。ゲストはメディア研究の第一人者である渡邊久哲さん(上智大学教授)とZ世代と未来を考えるプロジェクトを進める小々馬敦さん(産業能率大学教授)。文研からは「メディア利用の生活時間調査」など視聴者行動の分析が専門の舟越雅研究員が最新の調査結果を報告、保髙が進行を担当します。
上智大学文学部 渡邊教授
産業能率大学 小々馬教授
現在は本番に向けて大学生たちに鋭意取材中。その繊細な感性や合理的な考え方に驚かされたり、教えられたりする毎日です。ぜひ、当日の議論の行方をお楽しみに!
メディア研究部(メディア動向) 大髙崇
先月のブログでもお伝えしたように、文研の調査によって、地域の博物館や図書館では、過去の放送番組(放送アーカイブ)を利活用したいというニーズが高いことがわかりました。
放送局は、自局のアーカイブを活用して新たなコンテンツ制作は盛んに行っていますが、地域の公共施設などの求めに応じて放送局がアーカイブを提供し、施設などが主体的に利活用するケースは極めて少ないのが現状です。地域の人々から、このような「公共利用」を促すための放送局の取り組みへの期待が示されたのです。
アーカイブを、ただジーッと放送局の倉庫(は、昔の話で今はサーバー)に眠らせているよりは、そりゃあみなさんがいつでも見られるように公開していたり、申し込めばすぐ視聴できたりした方が良いでしょう、とはいうものの・・・
「著作権や肖像権は問題ないのか?」
「どうやって使いたい番組を探せばいいの?」
「料金は幾らくらいが妥当?」
などなど、考えるべき課題はたくさんあります。
現在、他局の番組やCMでの利用に対する有償販売など、主に「商用」を想定したアーカイブ提供のための一定のルールはありますが、営利を目的としない、公共性の高い利用への放送アーカイブ提供のルールはほとんど手つかずの状態です。

そこで、文研フォーラムのプログラムD 放送アーカイブの『公共利用』では、調査結果の報告とともに、放送アーカイブが公共空間で利活用される意義、それを困難にしている課題と、その解決策を討論します。
ゲストパネラーは以下の3名です!
●福井健策さん(弁護士・デジタルアーカイブ学会法制度部会長)

文化審議会の委員を歴任する福井さんは、デジタルネットワーク化が急速に進む中、著作物の利活用促進と権利者保護とのバランスが取れた新たなルール作りと、デジタルアーカイブ社会実現に向けた取り組みを精力的に行っています。
●岡室美奈子さん(早稲田大学教授/早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 館長)

フジテレビの番組審議会副委員長で、NHK・民放の過去番組を保存・活用する放送番組センターの理事でもある岡室さんは、放送アーカイブの公共利用が進むことに、放送の新たな社会的役割が見いだせる、といいます。
●坂下雅子さん(学芸員/石川県小松市立博物館参事)

今回、放送アーカイブの公共利用に関する調査に回答いただいたお一人である坂下さんは、長年キュレーターとして地域の人々に文化を紹介してきた現場担当者の視点から、放送アーカイブの利活用によって、博物館と地域の新たなつながりを感じています。
放送開始100年(2025年)も間近。放送局の新たな社会的使命を探る熱い討論となるはずです。お申し込みとご参加、そしてご意見をお待ちしております!
『放送研究と調査』2022年12月号に「放送アーカイブ×地域」と題して、地域公共文化施設等での放送アーカイブニーズ調査の結果を論文にまとめて掲載しています。併せてご覧ください。
メディア研究部(海外メディア)税所玲子
「日本人は、なぜツイッターでこんなに匿名が多いのか?」
2015年、英オックスフォード大学にあるロイタージャーナリズム研究所のフェローとなった私が、初日のセミナーで投げかけられた質問でした。
「え・・・?ツイッターって匿名が普通じゃなかったの・・・?」
実は日本人の匿名率は75.1%。アメリカの35.7%、韓国の31.5%に比べてかなり高い水準 だったことを私は知らなかったのです。
日本では当たり前のことが、外国ではそうでないという、実に当たり前のことを実感する。
そのことで他者を知り、自分を知る。国際比較のだいご味はまさにそこにあります。
ロイタージャーナリズム研究所は、デジタル化の波にもまれ新たな活路を見出そうと模索するメディアの姿を、世界の国々のデータの中から読み解き「デジタルニュースリポート」にまとめています。2022年はNHK放送文化研究所が日本についてのデータの分析を試みました。
「日本人のエンゲージメントは低い?」
「インフルエンサーは過大評価されている?」
こうした疑問を2022年7月28日の文研フォーラム、『「ニュース」「メディア」はどう変わる?』で、3人の経験豊富なジャーナリストにぶつけてみます。
参加いただくのは、元共同通信の記者で、現在は専修大学でジャーナリズムの講義を担当する澤康臣さん、信濃毎日新聞のメディア局長の井上裕子さん、NHK報道局でSNSを駆使して情報取材を手がける足立義則さんです。
皆さんからの質問にもお答えいただき、議論の中から日本のメディアの現在地と、未来に向けてのヒントを探りたいと思います。
ぜひ、ご参加ください!
総務省 平成26年情報通信白書
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc143120.html
お申込みはこちらから ↓

メディア研究部 (メディア動向) 大髙 崇
7月28日(木)開催の「文研フォーラム2022夏」プログラムBは、テレビ「ぼかし」対策会議です。
「ぼかし」とは、テレビに写った人などに対してモザイク加工をするなどして、特定できないようにする映像処理を指します。
実は2014年に、BPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送と人権等権利に関する委員会」の当時の委員長・三宅弘弁護士が「顔なしインタビュー等についての要望」と題し、ぼかし(顔なし)についての意見を公表しました。特に顔を見せないようにする理由が見当たらないにも関わらず「ぼかし」をしている映像が目立つことに苦言を呈し、テレビでのインタビューなどは顔出しを原則とすべきだとして、次のように指摘しています。
「安易に顔なし映像を用いることは、テレビ媒体への信頼低下をテレビ自らが追認しているかのようで、残念な光景である。」
一方で三宅氏は、プライバシー保護が特に必要な場合などは本人が特定されないように配慮が必要だとして、放送局が議論し、ルール作りを進めるよう求めました。
この、三宅氏の意見公表から月日は流れて早8年。
むしろ「ぼかし」は増えているんじゃないの!? と思いつつ、テレビに写る人の顔や姿に関する権利、すなわち「肖像権」について研究をしています。
(NHK放送文化研究所年報2022に掲載された論文もぜひご参照ください)
テレビの「ぼかし」、みなさんはどうお感じになっていますか?
この「ぼかし」について大いに語り合おうというのが、今回のプログラムの目的です。
テレビに写りたくない人を守るためには「ぼかす」べき? しかし、「ぼかし」てばかりだと真実性が疑われるんじゃないの? ルール作りはできるのか?
ゲストの登壇者、各界で活躍する3名をご紹介します。
鎮目 博道さん
テレビ朝日で「報道ステーション」などを手がけ、ABEMA TVでもご活躍のプロデューサー。さまざまな媒体でテレビの課題を論じています。一方では「顔ハメパネル愛好家」という不思議な肩書も・・・
久保 友香さん
プリクラ、スマホなどで容姿を自在に変える若者の「盛り」の文化と、それを支える技術を研究するメディア環境学者。テクノロジーが進歩し、美意識とライフスタイルが変化する中で、改めて顔とは何か……。久保さんには、テレビ関係者とは違った角度から、「ぼかし」問題にアプローチしていただきます。
数藤 雅彦さん
上記のNHK放送文化研究所年報2022は、弁護士である数藤さんと私の共著です。数藤さんは、所属するデジタルアーカイブ学会が2021年4月に正式版を公表した「肖像権ガイドライン」の策定リーダー。今回のプログラムでも、このガイドラインが議論の軸になります。
そして、NHKの制作陣からは、NHK総合で放送中「チコちゃんに叱られる!」の制作統括・西ヶ谷力哉プロデューサーが登壇します。
どんな議論になるでしょうか。テレビの未来をぼかさず、明るくクリアにする内容を目指します!
たくさんの方のご参加、お待ちしています!
お申込みはこちらから。
