2019年03月28日 (木)僕、迷惑ですか?


※2019年1月4日にNHK News Up に掲載されました。

東日本大震災のあと、「僕」は売れっ子になりました。売り上げは何倍にも跳ね上がり、カジュアルだけでなく、ビジネスの場面でもすっかり市民権を得ました。だけど、ある空間では、嫌われ度数も急上昇。今年度、ついに迷惑ランキング、1位になってしまいました。いったい「僕」、どうしたらいいのでしょう。

ネットワーク報道部記者 大石理恵

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<売れっ子の僕>

190104bok.2.jpg「僕」の売り場、都内のデパートです。ヒット商品なんですよ。特に人気が高いのが男性向けのビジネスタイプで、この店での売り上げはこの3年で2倍に。ということで、品揃えも1年で1.4倍に増えました。

190104bok.3.jpgそう、「僕」の正体はリュックサック。
売れ筋はビジネスシーンにも、フィットする黒色や紺色で、スーツに合う四角く無駄のないデザインです。
なぜ、そんなに売れたかって?

1スマートフォンの普及で、両手を使うニーズが高まった
2パソコンを持ち歩く人が増えた
3さまざまな働き方や服装が定着してきた、と言われています

さらに…。
売り場やメーカーの担当者が、人気急増のきっかけとして口をそろえるのが、あの災害です。

「東日本大震災後、いつまた大きな地震が起こるかわからないということで、両手が空くビジネスバッグとしてリュックの需要が高まりました」(吉田カバン 広報担当)

「帰宅困難を経験した人たちが、職場から歩いて帰宅できるよう備えるようになりました。スニーカーを職場に置くようになった人もいますし片手がふさがるブリーフケースを手放してリュックに買い替えた人もいます」(西武池袋本店・柳幸史郎さん)

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<売れっ子ゆえの悩み>

190104bok.5.jpg震災の発生からまもなく8年。リュックはどの程度、普及しているのでしょうか。

記者が自分の職場で数えてみると同僚22人のうち半数以上の12人が仕事にリュックを使っていました。
昔はリュックNGな雰囲気だったけど便利だし、最近リュックに変えた…

なんて声がいくつも。
でも、便利な反面…という部分もあるようです。
ネット上では、“混雑した電車内でリュックは迷惑”という声も。

めちゃくちゃ混んでる電車でリュックしょってる人マジ迷惑

大きなリュックを背負った方にぶつかった衝撃で電車から押し出された、すごく危険

実際、記者が小学生の子どもを連れて電車に乗った際、背の高い男性のリュックの角が子どもの顔に当たり、ヒヤっとしたこともあります。
みんなはどう思っているのだろうか?探してみるとデータがありました。

190104bok.6.jpg全国の民間鉄道会社73社が加盟する日本民営鉄道協会がネット上で行った、駅や電車内の迷惑行為についてのアンケートです。

「荷物の持ち方・置き方」は9年前の平成21年度に12位。
ところが一昨年度は4位に、昨年度は3位に、そして、とうとう、ついに…、今年度は1位でした。

190104bok.7.jpgこうした声を踏まえ、鉄道会社もマナーを呼びかけ始めています。

去年、関西の鉄道事業者20社は共同でリュックのマナーについてのポスターを駅や車内に掲示。首都圏の鉄道会社ではリュックは前にかかえるか、網棚を使うよう、車内や駅構内でアナウンスしているそうです。

こうした声もあって、メーカーでは、邪魔にならないリュックの開発に力を入れているのです。


<邪魔しません>

190104bok.8.jpg老舗メーカー「エース」では、平成29年のビジネスリュックの販売数が東日本の震災前の平成22年に比べて7.5倍に増加したそうです。

ヒットを飛ばしているのが、まさに「電車内で邪魔にならないリュック」。

190104bok.9.jpg厚さを10センチ以下に抑えてスリムに。狭い車内でも周りに迷惑をかけないよう縦でも横でも中身を取り出せるスタイルです。

メーカーも鉄道会社同様、リュックは網棚に置くか前に抱えることを推奨していますが、広報担当者はそれがいつもいつも正解とは限らないと言います。
「僕は体が大きいので前に抱えているとかえって邪魔だと言われたこともあります。また、痴漢防止のためあえてリュックを後ろに背負ったままという女性もいますし、小柄な女性の場合、網棚の荷物を乗せ下ろしするのが大変だというケースもあり、一概に正解はないんです」(エース マーケティング部次長 難波敏史さん)


<リュックを使う人も使わない人も大切なのは…>
電車内でのリュックの持ち方。どうすればトラブルが防げるのか公共心理学が専門で、公共交通のマナーを研究している筑波大学大学院の谷口綾子准教授に聞いてみました。

190104bok.10.jpg谷口さんによると「電車内のリュックによるトラブル」は典型的な「社会的ジレンマ」の1つだそうです。

社会的ジレンマとは、個人個人が合理的な選択を行った結果、社会にとって非合理的な悪い結果になってしまう状況を示すものです。
「それぞれが、楽だからと大きなリュックを背負ったまま乗っていると、混雑した電車内では迷惑になってしまいがちです。持ち方もさることながら、意味も無く大きな荷物を持たない、人に当たりそうな時にはよける・かわすといった少しの気遣いをするだけでトラブルは減らせます。またリュックを邪魔だと感じた人が『後ろ失礼します』と感じよく声をかけることも大切です。あくまで“感じよく”がポイントです」(谷口准教授)

リュックを使って、これからも快適に、便利に、そして安全に通勤できるようにするには、私たち1人1人が周囲への気遣いを持ち続けることが欠かせないようです。そしてそれは、リュックだけに限らず、混雑した都市で気持ちよく暮らすヒントなのかもしれません。

投稿者:大石理恵 | 投稿時間:16時37分

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