2019年03月27日 (水)不吉の前兆か神秘か?竹は60年に一度花を咲かす


※2019年1月11日にNHK News Up に掲載されました。

「60年に一度の周期で花をつける」という言葉とともに、ツイッターに投稿されたのは2枚の花の写真。そこには竹の花だと書かれていました。かつて、竹が花を咲かすことは、不吉なことが起きる前兆とも言われていました。その不思議な花について調べました。

ネットワーク報道部記者 管野彰彦

190111huk.1.jpg

<実家の裏山に咲いていた>

190111huk.2.jpg写真を投稿したのは、山梨県でクライミングの体験ができる施設を運営している山森政之さん(45)。

滋賀県にある実家の裏山で、去年の10月ごろに竹に花が咲いているのを家族が見つけ、送ってきてくれたそうです。

山森さんも家族も実際に見たのは初めてで、意外と知らない人が多いのではないかと思い、今月10日に投稿したといいます。

すると、「初めて見た」といった感想が多く寄せられ、わずか1日でリツイートは5000を超えて話題となりました。


<これは花なの?>
そもそも竹の花を見たことがないという人も多いと思います。この写真は実際のところ竹の花なのでしょうか?

竹の生態などに詳しい京都大学大学院地球環境学堂の柴田昌三教授に画像を見てもらったっところ、「竹の花であることは間違いない」とのことでした。

少しわかりづらいですが、稲のような細長い部分の一つ一つが花で、この部分を「花序」と呼ぶそうです。竹はイネ科の植物なので、こういった形が多いのだそうです。

ただ、画像だけでは種類などまでは判別できないとのことでした。


<60年に一度、120年に一度>
そして、やはり気になるのは60年に一度、咲くという記述。こちらは本当なのでしょうか?

こちらも竹に詳しい東北大学大学院農学研究科の陶山佳久准教授に聞きました。

190111huk.3.jpg「竹は通常、一生に一度花を咲かせ、その後、枯れてしまいます。竹は寿命が長いので、その間隔が60年に一度とか、120年に一度などと言われているんです」

ただし、あまりにも期間が長いため、開花の時期を記録した研究は少なく、モウソウチクという竹で67年という記録が残されているほか、マダケではおよそ120年と言われているものの詳しいことはわかっていないそうです。


<インドでは48年周期で開花>

190111huk.4.jpg一方で、開花までの期間が比較的、はっきりしているものもあります。それが、インド北東部に多く分布する「メロカンナ」と呼ばれる竹です。

陶山さんによると、ミゾラム州という場所で、これまでに1815年、1863年、1911年、1958~1959年と、ほぼ48年の周期で開花しているという記録が残されているそうです。

そして、計算でいくと、この次は2007年。陶山さんたちはこの周期が正確なのかどうか、実際に現地で調査を実施しました。
すると、確かに一斉に花を咲かせていることが確認できたということです。しかも、「メロカンナ」と呼ばれる竹が花を咲かせていた範囲は、ミゾラム州内だけでも愛媛県の面積に匹敵するほどの規模だったということです。

ちなみにこの場所で記録が残っているのには、わけがあります。一斉に花が咲くと、実もたくさんつきます。すると、実を食べるネズミが大量に繁殖。そして、農作物が荒らされて大飢きんが起こっていたのです。つまり、開花の記録は、同時に飢きんの記録でもあったのです。


<一斉に咲くのはなぜ?>

190111huk.5.jpgさて、そういえば、冒頭に紹介した山森さんの投稿にも「一斉に咲いたそう」という記述がありました。

なぜ、竹は一斉に花を咲かせるのか?新たな疑問が出てきました。

陶山さんも「竹は一斉に咲いて、一斉に枯れてしまうことが多い」と教えてくれました。なかには、インドの例のように広範囲にわたるものもあれば、周辺の竹にかぎられる場合など、さまざまだそうです。

ネットで調べてみると、竹は地中に隠れている茎で、それぞれが繋がっていることが多く、そのため一斉に咲いて一斉に枯れるのではないかと書かれているものも多く見かけます。

しかし、陶山さんに聞くと、必ずしもそうではないといいます。
「確かに竹は地下で繋がっている場合が多いのですが、広がっていく過程で、繋がりが切れてしまうものも多くあります。それでも一斉に花を咲かせますし、もともと繋がりがない個体でもほぼ一斉に花を咲かせるんです」


<遺伝子のなせるわざなのか>
では、なぜ一斉に咲くのか。実際のところ、はっきりとしたメカニズムはわかっていないそうです。

ただ、陶山さんたちが調査のなかで今、有力だと考えているのが「時計遺伝子」の存在です。これは体内時計をつかさどる遺伝子で、人間が1日の時間をだいたい把握できるのもこの遺伝子のおかげだと言われています。

つまり、竹に組み込まれた「時計遺伝子」によって、48年や60年といった期間をみずから把握する能力を持っているのではないかというのです。

190111huk.6.jpgそれを裏付けるような記録もあります。48年周期で花を咲かすインドの竹「メロカンナ」。インドから持ち込まれた竹が日本にも植えられています。

そして、陶山さんたちの調査によって、インドから遠く離れ、気候も周辺環境も違う日本においてもインドとほぼ同じ時期に花を咲かせていたことが確認されました。

「竹はまだまだ謎の多い植物なんです」


<見ることできます!>

190111huk.7.jpg
いろいろと調べていくと、実際に花を見てみたくなってきました。どうすれば見られるのかも陶山さんに聞きました。
すると、「花が咲くということ自体はそんなに珍しいものではない」という衝撃のひと言。

「広範囲で一斉に花を咲かせることは珍しいのですが、“部分開花”といって、一部の竹で花を咲かせることはよくあることなんです。その場合、枯れずに復活することもあります。ネットで珍しいと話題になっていること自体が、私は不思議な感じです」
どうやら竹の花は意外と身近なところでも見ることができるようです。

大量の竹に一斉に花が咲き、そして一斉に枯れる。かつて、その珍しい光景は、不吉なことが起きる前兆とも言われていました。

しかし、よく調べてみると、むしろ謎に満ちた神秘的な植物であることがわかりました。竹林の近くを通る時は、少し足を止めて、眺めてみようと思います。

投稿者:管野彰彦 | 投稿時間:16時15分

ページの一番上へ▲