2019年05月20日 (月)偶然か?不正か?


※2019年2月15日にNHK News Up に掲載されました。

もし相手の手の内が分かったら…。カードゲームでそういう思いに駆られた方は多いはず。その願いがかなうことはほとんどないのですが、日本の海を守る海上保安庁では、普通に「手の内」がバレていたかもしれないのです。相手は燃料の入札に参加する業者。非公開のはずの予定価格と全く同じ価格で業者が落札する「100%落札」が相次いでいたことがNHKの取材で分かりました。単なる偶然なのか。それとも不正があったのか。2人の専門家に聞いてみました。

ネットワーク報道部記者 郡義之

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<100%落札が半数以上>

190215guu.2.jpg今回、問題になったのは、海上保安庁の巡視船などの燃料に使われる重油や軽油の納入業者を選定する一般競争入札。

入札は全国各地の港ごとに行われていて、NHKが平成28年から29年にかけて行われた606件の入札を調べたところ、全体の51%に当たる307件で、非公開の予定価格と全く同じ金額で落札される「100%落札」が起きていたことが分かりました。

さらに一部の入札では、業者が落札する業者を均等にするなど調整していた疑いがあることも分かりました。

海上保安庁は、「過去の入札などを参考に、業者が予定価格を推測することはできると思うが100%落札が多いことは事実なので、何らかの分析をしたい」として調査を進めています。

この問題をどう見るか。
2人の専門家に話を伺いました。

1人は公正取引委員会の元首席審判官だった、鈴木満弁護士。もう1人は政府調達などに詳しい上智大学大学院の楠茂樹教授です。


<価格が漏れたのか?>
なぜ、非公開の予定価格、要するに、それ以上の価格で入札すると、失格となる上限価格と業者の落札価格がぴったり合うケースが続出したのか。

190215guu.3.jpg鈴木弁護士は「今回のケースはどちらかと言えば、(予定価格を)推測できるのではないかと思う。燃料は相場商品で、値段も地域差はあるし、一品生産ではないから、業者による推測が易しいかもしれない」と話します。

鈴木弁護士は、海上保安庁が予定価格を決める際に業者から参考に見積もりの価格を聞き取りしていたことも関係したのではないかという見方を示したうえで「海上保安庁と業者は利害が対立する。それなのに参考見積もりと称して、予定価格を決めるデータを相手方から取ること自体が間違い」と指摘しました。

190215guu.4.jpgまた、楠教授は「入札される燃料が何リットルだろうが、同じ単価のはずなので、発注者の積算の根拠が明らかになっているはず。業界で上限(予定価格)がいくらか分かっていると思う」と話しています。2人とも業者が予定価格を推測できる状況だったのではないかと見ています。


<談合の可能性も?>

190215guu.5.jpg海上保安庁から予定価格が漏れていないのであれば問題はないのか。鈴木弁護士は“不正”が行われた可能性を指摘します。「(予定価格を)推測できるという話と、実際の落札率が100%となるというのは全くの別の問題。入札の前に予定価格を公表している自治体でも落札率は100%にならない。100%になるのは、談合とかいろいろな問題がある」と指摘しています。

また、楠教授も「1社応札のケースなのか、複数応札なのかということで(見方は)変わってくる。1社応札のケースというのは、自分だけが受注できると思っている可能性が高いので、(予定価格に)ぴったりと合わせてくるのは当たり前。複数が入札に参加するケースでは、競争によって、自分がとりたいと思ったら、(予定価格よりも)下げてくるはず。複数が応札する場合で、100%落札が起きるのは、業者がその価格じゃないと割が合わないと思っているか、談合をしているかのどちらかだ」と話していて、2人とも“談合”の可能性を否定できないという見方です。


<ローテは違法の可能性も>
今回、NHKが入札結果を調べたところ「100%落札」だった入札が行われたおよそ90か所のうち60か所余りでは、入札に参加する業者の顔ぶれが毎回全く同じで、半期または四半期ごとなどに順番に業者が落札している、もしくは、1社だけで落札しているケースがあることが分かりました。

中には入札に参加している4社が毎年、四半期ごとに順番に落札しているケースもありました。実際、ある地域の業者は、複数の同業者と連携して落札業者を順番に決め、均等に落札できるように調整を行っていたと証言しました。

これについて鈴木弁護士は「一般競争入札は、競争を通じて発注者が取り引きの相手方と価格を決める仕組み。だからローテーションで落札業者を決めているとすれば、業者側が決めているということだから、競争入札の原理にもとる行為。違法だ」と厳しく指摘します。

190215guu.6.jpgそのうえで鈴木弁護士は「100%の落札が半分以上あって、一部ではローテーションで落札業者を決めていたということを総合的に考えると、いわゆる談合があったから、そういう結果をもたらしているのではないか」と話しています。

190215guu.7.jpg一方、楠教授は「海上保安庁も知っているのではないか。業者が変に競争して安くなるよりは、ぴったり合った状態で、燃料を安定的に供給してくれた方がいい。業者側とすれば、みんな順番に100%落札なのでリスクもない。お互いにウィンウィンの関係なのではないか」と、入札が形骸化している可能性を指摘しました。


<過去にも100%落札の問題が…>

190215guu.8.jpg入札価格と落札価格が全く同じ「100%落札」は、かつて新潟県庁でも問題になりました。

平成17年度までの3年間には発注した工事や物品の購入などに関わる入札のうち、予定価格と同じ金額で落札されたケースが合わせて687件に上っていることが分かりました。

調査した県は、予定価格を独自に決める能力が足りなかったために入札が競争になっていなかったと結論づけました。

そして公共工事については入札価格のもとになる情報が書かれた内訳書のチェックを厳しくするほか、公共工事以外では新たな第三者による機関を設置して、独自の情報による予定価格の設定などの改善策を実施することになりました。

その結果、「100%落札」が全体に占める割合は、減少しました。


<海保の責任は…>
海上保安庁が入札を改善すべき点はあるのか。鈴木弁護士は「100%落札が多いということは、業者が価格維持に成功している証でもあり、納税者が損しているということ。競争する社が1社でも多くいれば、今の態勢は崩れやすくなる。」と入札参加業者を増やして、競争性を高めるべきだと指摘します。

一方、楠教授は予定価格の引き上げを提案しています。「予定価格を上げれば、少なくとも利益の出る範囲の中で競争になる。さらに、地元の業者と契約するのではなくて、元売り業者と契約を結ぶことも一案。元売りなら、どこにでも提供できるし、これまでの業者には、手数料を支払って、納入してもらう仕組みにすれば、リスクを減らして、コストも安くできる」と話しています。

海上保安庁の岩並長官は、NHKの報道を受けて、先月16日の記者会見で「入札手続きの適正を確保し、国民にいささかでも疑念を抱かれないようにすることが極めて重要だ」と述べました。

190215guu.9.jpg2人の専門家の話を聞くかぎり、企業間の競争によって、適正価格で納入する仕組みが形骸化していたのではないかという思いが強くなりました。

厳しく監視すべきなのは、燃料調達の原資が国民の税金だからにほかなりません。

単なる偶然なのか。それとも不正があったのか。

「100%落札」が続く不自然な状況を、海上保安庁がただ見過ごしていたとしたら、その責任も大きいと言わざるをえません。

投稿者:郡義之 | 投稿時間:14時36分

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