2016年05月30日 (月)「待機しているのに・・・」待機児童数"ゼロ"なぜ?


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「保育園落ちた、日本死ね」という匿名ブログをきっかけに
国会を巻き込んでの議論となったいわゆる「待機児童」問題。
この「待機児童」問題に関連したあるツイートが
先週から拡散され話題になっています。

「無認可保育所」に子どもを預けている女性に対し
自治体の担当者から連絡があり、
「待機児童ゼロで発表しますのでよろしくお願いします」と
告げられたというものでした。

希望する保育所に入れていないのに、
自治体が発表する待機児童数は“ゼロ”。
「ありえない!」
「今から自治体に電話して、
やり取りを録音し、公開した方がいいのでは?」
疑問や怒りの声がネット上にあふれました。
一体、なぜこういうことになるのか?
その仕組みについて調べてみました。

・話題のツイート
話題となったツイッターは先週、1歳の子どもを育てる女性が自治体の担当者から受けた電話を基につづったものです。

担当者は、国の基準にのっとって市町村ごとに待機児童数を発表する旨を述べたうえで
「無認可で待っていただいてる状況で申し訳ないですが
 ▽▽市は待機児童ゼロ!!で
 発表いたしますのでよろしくお願いします!!」と
説明したということです。

女性は「は?これってどうなの?!」と
憤りをツイッターに投稿したのです。
このツイートは25日の時点でリツイートの数が1万3000余りに上っています。

・市の対応にも不信感
NHKはこの女性にメールを通じて取材を申し込みました。
ツイートについて女性は「困惑してしまい、反発することができませんでした」と述べていました。

さらに、この女性は子どもの保育の状況などを記した書類をすでに自治体に提出しているにもかかわらず、担当者から子どもの保育の状況や希望する保育所について改めて聞かれたとしていて、
「電話してきた自治体の方は、どう待機してるのかも、
どこの園にいるのかも把握していないのです。
そこにもあぜんとしました。
待たせているにもかかわらず、
毎月どれだけ高い保育料を必死で納めているのかすら、
この人たちには分からないのだなと感じた」と
不信感を募らせていました。

一方、この自治体の担当者にも取材してみると、
「待機児童」の数え方を巡る誤解されやすい、
複雑な事情が見えてきました。

・「無認可」が2種類?言葉の複雑さが誤解を招く
投稿した女性の子どもは、第一希望の「認可保育所」への入所がかなわず、いわゆる「無認可保育所」に通っていて、一般的には「待機児童」扱いになります。実は、この「無認可保育所」の定義が、さまざまな誤解の原因になっているのです。

この自治体には、2種類のいわゆる「無認可保育所」があります。
▽1つは自治体が乳幼児1人当たりの面積や開所時間など、
独自の基準を定めて、財政的な補助をしている「認証保育所」。
▽もう1つは、自治体への届け出のみで、企業などが独自に運営する「認可外保育所」で、この自治体の定義では、ともに通っている子どもは「待機児童」となります。

一方、全国的な集計を行っている国の定義では、
第一希望の「認可保育所」に入所できなくても
自治体の補助を受けた保育所に入所できている場合は
「待機児童」の数に含めなくてもいいと定めています。
実は、この女性の子どもが通っているのは
自治体の補助を受けた「認証保育所」。
このため、女性の子どもは国の定義では
「待機児童」の数には「含まれない」ことになってしまいます。
ここに、誤解が生じていたのです。

自治体の担当者から
「『無認可保育所』に預けていれば希望する『認可保育所』に入りやすくなる」と言われていた女性にとって、自分の子どもが「待機児童」として扱われないことは大きな衝撃でした。そのショックと憤りがネット上で共感を呼び、拡散したのです。

・国と自治体の”ダブルスタンダード”が問題
この自治体では、今回国の集計に際して、
ツイートした女性のように、希望している「認可保育所」に入れず自治体が補助している「認証保育所」に子どもを預けて“待機”している家庭すべてに電話をかけたそうです。

自治体の担当者は
「“待機”している家庭について希望する『認可保育所』に入所できるよう引き続き調整を続けることを伝え、安心してもらうのがねらいだったのです。
女性が不信感を抱くようなやり取りがあったことについては、説明のしかたが不十分で反省しています」としています。

そのうえで、
「自治体として独自に『待機児童』の数を発表できるのでれば、
『待機児童○○人』とします。
しかし、国が取りまとめる『待機児童』の数字は
国の基準に合わせなければならず、
現時点の『待機児童』は“ゼロ”と回答せざるをえないのです」と
苦しい胸のうちも語っていました。

・“潜在”待機児童の問題なぜこのようなことが起こるのか?
この分かりにくい国の「待機児童」の定義が
自治体に通知されたのは去年。

例えば、ツイッターの女性のケースのように
▽希望する「認可保育所」には入れなかったものの、自治体の補助を受けた「無認可保育所」に通っている子どもや
▽「遠すぎる」「兄弟で同じ保育所に入れたい」など
私的な理由で自治体が勧める保育所への入所を辞退した場合、
また、▽希望する「認可保育所」に入れず、育児休業を延長する場合などは「待機児童」としてカウントしなくてもいいとしています。

厚生労働省によりますと、
こうした国の「待機児童」の定義から漏れた
“潜在的”な「待機児童」の数は、
去年4月の時点で全国で5万9383人に上るとしています。

“潜在的”な需要を認める一方で、
誤解されやすい基準を使い続けている理由について、
厚生労働省雇用均等・児童家庭局・保育課の担当者は
「公表する『待機児童』と、実際の需要の算出方法にミスマッチがあるという指摘があることは承知している。今後、自治体からヒヤリングし『待機児童』の算出方法や公表のしかたを改めることも検討している」と話しています。

・本当の意味で“待機児童ゼロ”社会を
今月、政府は「1億総活躍社会」の実現に向けたプランをまとめ、
来年度末までに待機児童を“ゼロ”にすることを改めて明記しました。
しかし、この“ゼロ”は現在、国で使われている「待機児童」の定義によるもので、“潜在的”「待機児童」の数は含まれていません。

こうした現状について、
保育園を巡る問題に詳しい
「保育園を考える親の会」の代表、普光院亜紀さんは
「希望する『認可保育所』には入れていないが、
いわゆる『無認可保育所』に通っている子どもの数を、
国が『待機児童』の数から除外したことがそもそも大きな間違いだ。
今回の問題の発端となった自治体担当者の電話も、
本来『待機児童』とされるべき子どもがカウントできない矛盾が生んだ結果で、自治体の現場では混乱が生じている。国には、現場の保育ニーズの実情を踏まえた対応をしてほしい」と話しています。

投稿者:清有美子 | 投稿時間:14時05分

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