2016年05月16日 (月)不妊治療"やめられない"
女性の社会進出や晩婚化に伴って
不妊治療を受ける人の年齢が高くなっているいま、
新たな課題が浮かび上がってきました。
全国の医療機関の中には、
予約で1年待ちとなっているところもあります。
一方、
体外受精で子どもを授かることができた人の割合は、
30代半ばを過ぎると大きく下がります。
そして40歳で8.3%、45歳では0.8%。
40歳では12回に1回しか、
子どもを授かっていない計算になります。
治療しても、なかなか
妊娠できないという現実に悩み
「不妊治療をやめたいのにやめられない」という人が増えています。
NPOが主催したグループカウンセリングです。
不妊治療をやめたいと考え始めた人たちが集まりました。
「やめようという話を何度もするんですけど、
あとちょっと1回やればできるんじゃないかとか
言ってきて、男の人はわからないのかな」。
「主人の母や父もあまり知らないから言いにくくて・・・」。
カウンセリングに参加した、43歳の女性です。
3年間続けてきた治療をやめたいと考えていますが
「決心」がつかないでいます。
女性は「43歳で、少ないけど妊娠する人っているじゃないですか。
それになる可能性はないとは言い切れない」と、話しています。
女性は、20代、30代と
出版社で編集者としてのキャリアを積んできました。
39歳で結婚。
自然に妊娠することを望んでいましたが、
子どもは授からず治療を始めました。
夫の子どもを授かりたいと、女性は会社を退職。
治療に専念しました。
夫や親の期待に応えたいという思いから、
これまで取り組んだ体外受精は6回。
あわせて300万円以上の費用がかかりました。
「子どもができたらこうなるんだろうな、という思いだったりとか、
夫の期待というか、一緒に頑張ろうってやってるので、
そこには親だったりとかいろんなものも入って」。
それでも、妊娠しない現実を繰り返し突きつけられた女性。
しだいに医療機関に通うことがつらくなり、
「治療をやめてしまいたい」と考えるようになりました。
しかし、完全にやめてしまえば、
わずかな可能性も捨てることになるという怖さも感じています。
「不妊治療って“底なし沼”みたいなところがあるんですよね。
今回ここまで来たから 次は いけるんじゃないか
どこかにやっぱりまだ子どもが欲しいという気持ちはあるので
治療をやめたという勇気は無いです」。
一方で、不妊治療をやめ、
夫婦2人の生活を選択した人もいます。
辻英美さんです。
子どもが2人いる生活を思い描き、
42歳の直前まで、4年間、不妊治療をしていました。
しかし
妊娠出来ない状況が続くにつれ、
自分はダメな人間だと思い込むようになっていったといいます。
「世の中の女性は、みんな普通に子どもを生んで、
普通に育てていると見えていたから
私だけができないから、
私はちょっと人より劣っているし、
私なんか要らないんじゃないかみたいな感じになってしまって」。
外で子どもを見かけることさえつらく、
家に閉じこもりがちになったという辻さん。
子育て中の友人とも疎遠になりました。
そんな辻さんの様子を見て、
夫の暢仁さんは、思っていた以上に
治療の負担が大きいことに気が付いたといいます。
6回目の治療でも
妊娠できなかったことがわかったクリニックからの帰り道。
辻さんは、夫からの思いがけないことばに、
心の重荷がとれたと言います。
それは、
そのままの自分を受け入れてくれるものでした。
「これからは、子どもがいないからこそ、できる
あるいは、子どもがいないからこそ、やれること、
そういった人生を送っていって、2人幸せになろうじゃないかと
子どもがいないっていうことを
ずっと引きずったままの人生というのは、すごくいやだったので」。
「すごくうれしかったです。
そのあとの私の人生で、
やっぱり、新しい方向に進んでいくための
応援の言葉になっていたと思います」。
「自分を認めてもらえた」と感じた辻さん。
思い描いていた理想とは違いましたが、
ようやく、次の一歩を踏み出すことができました。
辻さんは、
自分の経験を語ることで同じ悩みを抱える人を支える
ピアカウンセラーとして活動しています。
この日は、不妊治療をやめたいと考える人たちが集まる
グループカウンセリングにのぞみました。
ここでは、まず参加者に、
いま抱えている不安や悩みを語ってもらいます。
「主人はもうちょっと頑張ってじゃないけど、
まだできるんじゃないかとか、お守り買って来ちゃったりして」。
辻さんたちは参加者の声に耳を傾けます。
そのうえでみずからの体験を伝えます。
「私たちの子どもを授からなくてごめんと言ったら、
夫が残念だったけど、これからは
子どもがいないからこそできる生活をしようと
言ってくれたのが私にはすごくうれしくて」。
自分たちがどうやってつらい思いを乗り越えてきたのか。
それを参考に自分自身を見つめ直し、答えを出してもらうのです。
参加者は、
「周りの目とか、相談できる場がなかなかなかったりとか、
もともと感じていたのではき出すことを経験できて、
すごく気持ちが整理できた」と話していました。
不妊治療をしている人の心理に詳しい専門家は、
夫や親ばかりではなく周りの人たちの何気ないことばが
治療中の人を追い込んでいる可能性があると指摘します。
「結婚して
お子さんがいらっしゃらない方はおそらく周りにいらっしゃる。
だけれども、
その方がどういう背景でいらっしゃるのかなと
ちょっと思いやれば、もちろん悪意はないのだけれど
子どもはまだ?ということもないかもしれないし
そういうふうに思いやることができれば一番いいんだと
私は思っています」。
国の調査によるといま不妊に悩み、
検査や治療を行ったカップルは、6組に1組となっています。
不妊治療をやめた方の多くが、
“子どもがいなくても、自分自身が大切な存在”と
周囲の人に認めてもらうことが支えになった、と話していました。
投稿者:牧本 真由美 | 投稿時間:16時14分