2020年02月06日 (木)双子用ベビーカーとバス乗車、考えてみた


※2019年11月11日にNHK News Up に掲載されました。

2人の子どもと荷物。そして、10キロ前後はある双子用のベビーカー。これを抱えてバスに乗れなかったという人のツイートに関心が集まっています。実際、乗れるの? 乗れないの?。お母さんたちの声も聞いてきました。

水戸放送局記者 高柳珠希
ネットワーク報道部記者 有吉桃子・ 郡義之

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ツイッターで話題に…

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今月4日、ベビーカーに双子を乗せた母親が名古屋市の市バスの運転手から、乗車を拒否されたとツイッターに投稿しました。投稿には“「ベビーカーは乗車拒否と決まりました。たためばOK」と言われた”と書かれていて、母親は2人の子どもを置いてベビーカーをたたむのは無理だと訴え、たくさんの反響が寄せられました。

折りたたまないと乗れない場合も

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名古屋市交通局に聞いてみました。交通局によると、赤ちゃんを乗せたまま、ベビーカーを折りたたまずに乗ることは基本的には認められていました。ただいくつか条件がありました。双子のベビーカーを折りたたまないで乗れるのは大型のバス。

全長が9メートル以下の中型や小型のバスの場合は、折りたたむよう呼びかけていて、折りたためない場合は、乗車できないことがあるということです。

実際に運転手がツイッターに投稿されたような対応を取ったのかどうか、またとったとしたらどのような大きさのバスだったのかなど、事実確認を進めているそうです。

10+9×2

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双子用のベビーカーは、大きく分けて2種類あります。子どもを横並びに座らせる「並列型」と、前後に座らせる「縦列型」です。

並列型の場合、幅は80センチ前後。例えば車いすでは幅60から70センチですからそれより若干大きめです。そして重さは9キロから重いもので11キロほど。

1歳ほどの子どもでは平均で男女とも9キロ以上の体重がありますから、ベビーカー(10キロ)+赤ちゃん(9キロ×2)=28キロ。これに荷物を持って行動しています。ノンステップのバスでも母親1人で乗り込むのは大変です。

異なるルール
双子用のベビーカーのバスの乗車ルールを取材すると各バス会社で異なっていました。たたむよう求めているのは都営バスを運営する東京都交通局です。

hutago.191111.5.jpg都営バス

「車内の通路をふさぐ、車内で転回できないベビーカーをご利用の際は、ご乗車をご遠慮いただく場合があります」(担当者)

交通局によると、双子用のベビーカーの利用者が乗車する際には、まず運転手が「折りたたんでください」と依頼するそうです。

この時点で、利用者が乗車自体をあきらめるケースもあるということですが、運転手がほかの乗客に協力を呼びかけて、たたんでもらい乗車することもあるそうです。

たたまなければならない理由については、「双子用ベビーカーを実際に使って実験を行いました。広げた状態では、通路をふさいでしまい、ご高齢のお客様などが通れなくなってしまいます」と話しています。

一方、都営バスには座席をあげて確保する「車いすスペース」があります。

「この車いすスペースを使えないのでしょうか」と聞くと、「車いすの方のためのスペースだと乗客の方に理解いただいています。ベビーカーが利用することに関しては、まだ社会的コンセンサスが得られていない」とのことでした。

そして、「バスの通路の幅などの物理的な問題もあり、決定打はありませんが、今後ほかのバス会社などとも協議しながらどのような対応が可能か検討していきたい」と話していました。

条件付きで、折りたたまずにOKも

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京王バス

一定の条件はありますが、折りたたまないで乗れるというバス会社もあります。東京都内を走る京王バスは、「1人用のベビーカーと同じようにたたまないで乗車することは可能です」と話しています。

ただ、ラッシュ時など、車内が混雑するような場合は、ベビーカーを折りたたむようお願いする場合もあるということです。

hutago.191111.7.jpg西武バスのホームページより

また、西武バスも同様で、「たたまないで乗ることができます。常識の範囲内でほかの乗客の方と互いに譲り合いながら乗っていただいてます」と話していました。

同じ子どもなのに

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双子のお母さんはベビーカーでバスに乗ろうとした時、どんな経験をしているのか。

東京練馬区で3歳の男の子の双子を育てているお母さんはバスの乗車を2回断られ、以来、バスに乗ることをあきらめたと話しています。

「『双子?無理だよ』と軽く言われた気がしました。育児で疲れているので抗議する気にもならず、それ以来バスに乗るのはあきらめました」

双子には8歳の姉がいます。姉1人を育てていた時にはベビーカーでの乗車を断られたことはなかったため、今は疎外感を感じてしまうそうです。

「同じ子どもなのに、外出できる範囲が狭まるのがかわいそうなんです」

病院すら、選べない

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秋澤春梨さん親子

1歳7か月の双子女の子の母親、秋澤春梨さんの双子の1人は、持病があり定期的な通院が必要です。

高度な小児医療を行っている病院に行くためにバスに乗ろうとしたら乗車を断られたといいます。

「誰1人乗っていないのに断られてしまったんです」

秋澤さんはその日、最寄りの駅から徒歩でおよそ40分かけて急な勾配の坂道をベビーカーを押して歩き、病院に行きました。

バスが使えないので、通院ができないと考え、ほかの病院に通うことにしました。

『たたんで』と言われても

利用できなかったバス会社のホームページにはベビーカーをたためば乗車できると書いてあります。

秋澤さんのベビーカーはたたんだとしても支えが必要で荷物もたくさん持ちながら、片手で双子を見ることは不可能だといいます。

「ほかの子どもたちと同じなのに、双子用のベビーカーに乗っているというだけで出かけられない。自分が小さい頃、いろいろな所に出かけたように子どもにもしてあげたい。だけどそれができないことが、親として悲しいんです」

考えてみた

双子のベビーカーを取材し、考えてみました。確かに決して広いとは言えないバスの中。利用者の安全を考え、高齢の方の通行を考え、双子用のベビーカーのためのスペースを常に確保するのは難しいのかもしれません。

ただ、今回取材したお母さんたちはいつ何時でも乗せるべきだと主張しているわけではありませんでした。

「病院に行きたい、バスがすいているので、乗せてほしい」

「もしバスに乗れれば、子どもの活動範囲を広げてあげられる。一律にだめだと言わず、考えてほしい」

1人きりで、双子を抱えながらベビーカーを折りたたんで乗ることが実際は難しい中、必死の訴えでした。地域を回る足として、バスを頼りにしているからこその訴えでした。

乗客が互いに譲り合いながらより多くの人たちがバスを使える道、それを探っていかなければならない、そう感じました。

投稿者:有吉桃子 | 投稿時間:11時39分

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