2019年11月07日 (木)帰省先であがる悲鳴 子どもが飲み込んだのは...


※2019年8月9日にNHK News Up に掲載されました。

「帰省した実家で希ヨードチンキ(消毒液)が幼児の手が届く位置にあり、私がトイレに行った隙に2歳児が一気飲みしました…」
「うちはお酒で誤飲がありました。祖父母宅では調味料や洗剤も床置きなのですごくこわいです」
8月の帰省シーズンを迎える中、ネット上には、こうした投稿が相次いでいます。

気をつけてほしいと専門家が指摘するのが“誤飲”。楽しみにしていた帰省が一転するような事故につながらないために。私たちは何に気をつけたらいいのでしょうか?

ネットワーク報道部記者 玉木香代子・ 國仲真一郎

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忘れられない“事件”
冒頭で紹介したのは、横浜市に住む主婦の白木さん(43)の投稿です。つぶやいたのは、長女がまもなく2歳になるという時期に起きた、忘れられない“事件”でした。

kisei.190809.2.jpg仲のよいきょうだい
実家に帰省した直後、トイレに直行した白木さん。子どもからわずかに目を離していたその時、「あ!何やってるの!」という7歳の長男の大声が聞こえてきました。リビングにかけつけた白木さんの目の前には火がついたように泣き叫ぶ娘の姿がありました。

「からいーっ!からいーっ!」
長男が差し出したのは空っぽになった消毒液の小瓶。消毒液はダイニングテーブルに置いてありましたが、長女はいすにのぼって消毒液を手に取り開けたようでした。おろおろする実家の母親に、泣き叫ぶ長女。
(白木さん)「小瓶のなかぶたまで開けていたので、ついにやったな…と。娘は周りにあるものをつかんでは開けて何でも口に入れてしまうような好奇心旺盛な子だったので心配していたことが現実になった」

実家のリスクは高い!?
子育て中の保護者に向けた医療情報などを提供している啓発プロジェクト「教えて!ドクター」の責任者で、佐久医療センター(長野県佐久市)の小児科医、坂本昌彦さんに話を聞きました。

kisei.190809.3.jpg小児科医 坂本昌彦さん
「お盆など帰省の時期には子どもの事故が増える傾向にあります。実家はふだん小さな子どものいない場所。子ども向けの対策ができていないケースが多く、リスクが高くなるのです」
中でも目立つ事故が「誤飲」。かつては灰皿などに放置されたたばこを飲み込んでしまう事例が多かったものの、最近ではリモコンやおもちゃなどに使われるボタン電池を飲んでしまうケースが増えているそうです。そしてそこには“大人が想像できない子どもの行動”が関わっていると指摘します。
(坂本医師)「『電池をリモコンなどから取り出してそのまま置いてないから大丈夫』と思われるかもしれませんが、誤飲の半数は電池を子どもが自分で取り出して飲んだケースです」

kisei.190809.4.jpg(坂本医師)「子ども向けのおもちゃでは電池のふたをネジで留めている場合もあります。ただ、帰省の際におじいちゃんおばあちゃんが手軽に買うことも多い安価なものではそこまでの対応がされていない場合も多いです。そのため子どもが電池を取り出せない対策を取る必要があります。今の電池は電圧も大きく、飲み込んでしまうと胃や食道の表面を溶かす危険性があります」
このほか、磁石(胃の中で磁石どうしがくっつき、粘膜を挟み込んでえ死してしまう危険)、縫い物針(腸など内臓で刺さるおそれ)、大人用の薬などが、誤飲の例として多いということです。

その時、私は…
こうして話を聞くと、思わぬところに危険が潜んでいることがわかりますが、いざ誤飲が起きたとき私たちはどうすればいいのか。先ほどの白木さんのケースからヒントを探ります。

kisei.190809.5.jpg白木さんが書きとめていたノート
「なんとかしなければ」
消毒液を飲んだ娘を見つけた白木さん、すぐさま行動に出ます。

実家の母親にボトルの中に消毒液がどのくらい残っていたか尋ねると、開封しておよそ1か月とわかり、70ミリリットルほど飲んでいた可能性があること、それに飲み干した消毒液は、希釈された薄い液でエタノールが含まれていることなどを確認しました。

そのうえで白木さんは、非常事態に備えて携帯カバーに控えていた緊急連絡先を確認。誤飲の相談窓口になっている“中毒110番”に連絡を入れました。

消毒液を飲んだとみられる量や飲んでから数分たったことを報告。担当者からは消毒液を吐かなかった場合はすぐ救急車を呼ぶよう告げられます。長女を見ると、目の前で何度もおう吐していました。量から見て「ほぼすべて出ています」と電話口で相談。

「それなら救急車を呼ばなくて大丈夫です。エタノールで後々のどに炎症が起きるかもしれないので、痛がった場合は小児科に連れていってください」担当者は、冷静な口調で指示を出してくれたと言います。

その後、泣き疲れたのか穏やかな表情で眠る娘の顔を見てようやく安心できたそうです。
(白木さん)「緊急性がどれだけ高いのかわからなかった分、目の前の子どもの危機に対して冷静に対応してもらえて本当に助かった」

原則は“無理に吐かせない”
坂本医師によると、誤飲の際の原則は「無理に吐かせない」ことだそうです。

かつては「吐かせる」という処置が勧められていたこともありましたが、無理やり口から外に出そうとすることで、最悪の場合、異物が食道にひっかかって穴を開けたり、吐いたものが気管に入って窒息したりと、命に関わる危険性があるため、現在では「吐かせない」ことが家庭での基本的な対処法だということです。
ただ、異物が気道に入って窒息で苦しがっている場合は、小さな子どもの背中をたたくなどして吐き出させることが必要だということです。

そして、どんな時に救急車を呼ぶのか、病院に連れて行くかについては次の表を参考にしてほしいと話していました。

kisei.190809.6.jpg救急車を呼ぶ、あるいは病院に行く際には、飲み込んだものと同じものを持参して医師にみせてほしいそうです。

対応が分からない… そんなときは
また、すぐに対応が必要でない場合、あるいはどのような対応をすればいいか分からない場合に電話で相談できる先としては、次のような連絡先があります。
▽公益財団法人日本中毒情報センターが運営する「中毒110番」
「大阪中毒110番」072-727-2499(365日24時間対応)
「つくば中毒110番」029-852ー9999(365日午前9時~午後9時対応)
全国どこからでも、どちらの電話番号にもかけることができます。特に医薬品など化学物質を飲んでしまった際の相談ダイヤルで、いずれも一般からの相談には無料で応じてくれます。

判断に迷う場合、「#7119」で医師や看護師などに相談することもできます。サービスは都市部が中心で、まだ全国をカバーしたものではありませんが、救急車を呼ぶべきか、いつ医療機関を受診するべきかといったことのほか、どのような応急手当てができるかといった相談に、原則24時間、応じてくれます。
(24時間でないものの別の番号で同じサービスを実施している県もあります)

世代間でリスク共有を
帰省先でのこうした“ヒヤリハット”を減らすため、坂本医師は、どのような事故の危険性があるかを認識し、その危険性を世代間で共有することが必要だと指摘します。
(坂本医師)「まずはお父さんお母さんから実家のおじいちゃんおばあちゃんに対して『こういう事故が多いから対策を取ってほしい』と具体的に話をすることが大事です。現在進行形で子育てに向き合っている中で感じた危機感、リスクを共有すること。そしておじいちゃんおばあちゃんの側も協力すること。子どもを守るためにも、ぜひ帰省の前にリスクの共有を図ってほしいと思います」
娘が消毒液を誤飲した白木さんも”ヒヤリハット”の“事件”から気付かされることが多かったと話します。

kisei.190809.7.jpg遊んでいたかごが抜けなくなった!
(白木さん)「なんでこんなところに危険なものを置いておくのかとのちのち実家の母親に怒ったものの振り返れば、そのとき実家は母親や祖父母だけで住む、完全に“お年寄り中心”の家でした。お年寄りにとっては薬も近くにあるのが当たり前で、リスクを承知していると思っていた自分のほうが過信していたと思うし、日頃から気をつけていることを電話で事前に相談しておけばよかったですね」
ヒヤリハットから見える帰省のリスク。重大な事態につながらないようみんなで“万が一”に備えたいと思います。

投稿者:玉木香代子 | 投稿時間:10時47分

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