2018年10月29日 (月)"ずっと揺れてる" これって地震酔い?


※2018年9月18日にNHK News Up に掲載されました。

北海道で震度7の激しい揺れを観測した地震から間もなく2週間。これまでに余震と見られる地震は260回近くに達しています。こうした中、北海道では、地震ではないのに、揺れたように感じる、いわゆる「地震酔い」の症状を訴える人が相次いでいます。

ネットワーク報道部記者 高橋大地・目見田健・大窪奈緒子

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<「今、揺れた?」>

zut180918.2.jpg北海道の厚真町で避難している人たちの心のケアなどにあたっている40代の保健師の女性。「あれ?今、揺れた?」。 地震の翌日からこんな感じがたびたびあるといいます。ほとんどの場合は、地震は起きていませんでした。

こうした感覚はこの女性だけではありません。同僚や被災した人からも「ねぇ、揺れてない?」「今、揺れてますよね?」などと尋ねられることが多いのです。

厚真町では地震後、この女性を含む5人の保健師と道外の保健師の合わせて15人ほどで避難している人たちの対応にあたっていますが、多くの保健師が同様の感覚を訴える人たちからの相談も受けています。

この女性は「ふとしたときに揺れていないのに揺れたと感じます。自分だけでなく多くの被災者もそうなんだと思いました。私たちに相談に来ない人も含めると、同じような感覚を持つ人は結構いるんだと思います」と話していました。


<相次ぐ「地震酔い」の訴え>

zut180918.3.jpg札幌市北区にある「しのろ耳鼻咽喉科クリニック」では、地震のあと、今月10日から診察を再開しました。その直後から、「揺れていないときに揺れているように感じる」などという症状を訴える患者が1日で5人から10人ほど訪れるようになったといいます。いわゆる「地震酔い」の症状です。

武市紀人院長は「地震のあと、『ぐるぐる回るというより、横に揺れる』とか『じっとしていると揺れている感じがする』と訴える人が増えています。地震の前から、起き上がったり、寝返りをうったりした時にめまいを訴えていた人が、地震後に悪化したケースもあります」と話していました。

ここ数日、ネットでも「地震きてからずっと揺れてる感覚がある。あ、揺れてる?と思ったら全然揺れてなくて」とか「朝から準備できないくらいめまいがして、吐いて休んで病院行ったら地震酔いじゃないかと」「地震酔いで具合悪い。最近まともに寝れてないし」などというツイートが多数見られました。


<東日本大震災や熊本地震でも>

zut180918.4.jpgこうした症状を訴える人は、今回の地震だけではなく、東日本大震災や、2年前の熊本地震などでも見られました。

東日本大震災の時、日本大学医学部耳鼻咽喉科の野村泰之医師らの研究グループが「地震酔い」に関する大規模なアンケート調査を行いました。

震災のあと、東京や千葉県などに住む3000人余りを対象に「地震酔い」の症状があったかどうか聞きました。それによると、成人男性の76%、成人女性の92%が、揺れの症状を自覚していて、女性に多い傾向が見られました。

症状のほとんどは「体が揺れる感じがする」というもので、座っているときや立っていて止まっている時に1分間ほど感じることが多く、歩いているときなどは感じにくいといいます。
一方、熊本県宇城市にある松橋耳鼻咽喉科・内科クリニックの松吉秀武院長によりますと、熊本地震の発生から1か月の間にめまいの症状を訴えて受診した人210人余りを調べたところ、34人は地震が起きた後に、初めてめまいの症状を訴えていたということです。

さらにこうした患者のうち、およそ8割が避難所で生活している人や車中で宿泊をしている人で、強いストレスを感じていたとみられるといいます。松吉院長は「避難所生活などからできるだけ早く解放する対策が必要だと思います」と話していました。


<不安も原因か>
なぜ、「地震酔い」が起きるのでしょうか。日本大学医学部耳鼻咽喉科の野村医師は「相次ぐ地震、そのものの揺れによる刺激に加えて、精神的な不安や恐怖などが要因となってめまいが起きると考えられます。また、めまいを感じるのは、ほとんどが屋内なので、天井や壁、床など視覚的な情報も影響していると考えられます。余震が起きているのを感じているだけではないかという指摘もありますが、地震のあと、別の土地や海外に行ったあとでも揺れを感じるという例もあり、揺れていなくても揺れを感じているのだと思います」と話しています。

通常は、1~2か月もすれば自然に治ることが多いですが、中には1年くらい続いたケースもあり、乗り物酔いをしやすい人、運動習慣がない人、不安になりやすい人の場合、長期化しやすい傾向にあるといいます。


<軽く体を動かすことも大切>

zut180918.5.jpg「地震酔い」の症状があった場合はどうしたらよいのでしょうか。

野村医師は「屋外に出て軽く体を動かしたり、広い景色を眺めることが大切です。症状がひどくてつらい場合は、病院にかかって、酔い止めの薬などを処方してもらってもよいでしょう。また、不安が症状を長引かせる原因になりうるので、地震の被害に関する映像を繰り返し見ることも避けた方がよいと思います」と話しています。

投稿者:高橋大地 | 投稿時間:16時19分

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