2018年01月12日 (金)"フリーランス減税"と言われても


※2017年12月21日にNHK News Up に掲載されました。

特定の会社に雇われないで働く「フリーランス」。「カメラマン」や「プログラマー」など専門性の高い仕事が浮かびますが最近は働き方の多様化にともなって「営業」や「企画」、さらには「家事の代行」など、すそ野は広がっています。その数は国内で推計1100万人余り。今月、決定された来年度の税制改正では「フリーランス」の人たちの税金を減らすための見直しが行われました。しかし、フリーランスの人たちの話を聞いてみると手放しで減税を喜べない“ビミョー”な声が聞こえてきました。

ネットワーク報道部記者 佐藤滋

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<税制の“格差是正”を>
来年度の税制改正で決まったのは所得税の見直し。その内容をざくっと表現すれば「サラリーマンや公務員の高額所得者は『増税』、自営業者は『減税』」というものです。
(※詳しい仕組みは「税制改正大綱 暮らし どう変わる?」サイト=下部の関連リンク参照)

自営業者の減税が行われる背景には「働き方の多様化」があります。自営業者の中でも企業から仕事を請け負って、会社員と同じような仕事をする、いわゆるフリーランスの人たちが増加していて、人材の仲介サイトを運営する東京の企業は、国内で1100万人余りと推計しています。こうした人たちは、サラリーマンに認められる「給与所得控除」の対象にはならないので、サラリーマンと同じような仕事で収入を得ても課税の対象となる所得が大きくなり、税制上、不公平ではないかという指摘が出ていました。

このため、今回の税制改正ではこうした“格差”を是正しようと、フリーランスの人たちにも適用される「基礎控除」を増やしたのです。これによってサラリーマンと同様の仕事をしているフリーランスの人たちも税の負担が軽くなることになります。


<見直し歓迎のフリーランス>
今回の“フリーランス減税”。当事者たちはどのように受け止めているのでしょうか。

hur171221.2.jpg東京都内の会社でシステムエンジニアとして働く相内純さん(36)。以前はサラリーマンでしたが、去年からフリーランスになりました。青森県の実家でリンゴ農家を手伝うためです。フリーランスになることで自由な時間を多く取れるようになることが魅力でした。月曜日から木曜日までの週4日は、より高い収入が見込める東京の会社で働き、木曜の夜になると新幹線で青森の実家へ帰ります。そして3日間、農作業をして、また東京に戻るという生活です。

相内さんはこうした働き方について「メリハリがきいていてすごく働きやすいと思っています」と話します。相内さんは、これまでサラリーマンに認められる控除が受けられず、不満もあったといいますが、今回の税制改正で減税となることを歓迎しています。

相内さんは「以前より軽減される部分がすごくあるので、メリットがあると思います。これがきっかけで、フリーランスという働き方を社員と同じように選択したり、安心感がある仕事になったりする動きが徐々に広がるのではないか」と話していました。


<期待薄の声も>
しかし、取材を進めると“ビミョー”な声も聞こえてきました。

hur171221.3.jpg神奈川県内で働く40代のフリーライターの女性。匿名を条件に確定申告の書類を見せながら生活の実態を話してくれました。年収は多い年でも400万円余り。年によって収入が変わる、不安定な生活を送っています。女性は「今でもめいっぱい働いている状況なので、これ以上、年収が増えることはないと思っています。今が限界です」と話しています。確定申告の書類によるとその年は、交通費や通信費などの経費を差し引くと、課税の対象となる所得はありませんでした。つまり、所得税が減る仕組みに変わってもメリットはありません。

hur171221.4.jpg一方で、女性が強調していたのは、社会保険料の負担。特に国民健康保険料は重荷になっているといいます。サラリーマンは会社が保険料の半分を支払ってくれます。この女性は、フリーランスはサラリーマンに比べて社会保障制度の仕組みが不十分だと感じています。

女性は「サラリーマンと同じ保障を求めるのはぜいたくかもしれないが、税金よりむしろ社会保険料の方が負担は重いという実感があります。社会保障面での改善をしてもらえるほうがありがたいなと思います」と話していました。

この女性のほかにもプログラマーやライターなど、フリーランスの人たちの話を聞くことができましたが、口をそろえていたのは「国民健康保険料」や「国民年金」の負担の重さでした。中には、収入が不安定なため国民健康保険料を支払えず、「カードローン」で一時的に借金をしたという男性もいました。フリーランスの人たちはサラリーマンなら加入できる「雇用保険」に入れないため失業や休業した時の補償がありません。

経済産業省の調査によると、企業と雇用関係がない働き方をする人たち(主たる生計者)の年収は、300万円から399万円の層の割合が最も多いということです。取材した女性のような事情を抱えるフリーランスの人たちは少なくないとみられます。専門家は税制だけではなく、社会保障制度も含めた見直しが必要だと指摘します。


<弱いセーフティーネット>

hur171221.5.jpg労働政策研究・研修機構の山崎憲主任調査員は「フリーで働く人は、高額な所得を得る人と低い所得で働く人の両極端になっている。今回の見直しは、高所得者にとっては有利な形になるかもしれないが、低所得者にとってみれば、状況はあまり変わらないのではないか。社会保障の仕組みは雇われて働くことをベースに作られていて、自営業の人のセーフティーネットは弱い」と話しています。


<国の対応は>
働き方改革を進める政府はどのように考えているのでしょうか。

厚生労働省は「今は実態や課題を把握している状況」としていて、政府として中長期的課題と位置づけ対応を検討していく方針です。政府も問題意識は持っているようですが、さまざまな働き方が広がる中で実態把握に追われている様子がうかがえます。


<不断の見直しを>

hur171221.6.jpg働き方改革の一環でフリーランスなど多様な働き方が急激に広がっている一方で、税に限らず「支える仕組み」が追いついていないという印象を取材を通して感じました。一方で源泉徴収によって所得の透明性が高いサラリーマンに対してフリーランスなど自営業者は、透明性が低く所得を正確に把握するための制度を整えるべきだという指摘もあります。とかく複雑な税や社会保障の仕組みですが、より公平・公正で、より納得でき、そして、より早く、環境を整えるよう今後も見直しを続けることを期待したいと思います。

投稿者:佐藤滋 | 投稿時間:15時39分

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