2019年02月06日 (水)梅毒患者が急増!
※2018年12月6日にNHK News Up に掲載されました。
「梅毒ですね」
医師からこう告げられる人が増えています。ことしの患者数はこの20年で最も多い6000人以上。性風俗産業の関係者で患者が増え、今では一般の人にも広がってきているといいます。医師は性風俗店の「あの」サービスでも感染すると警告しています。
<性風俗で感染した男性>
神奈川県に住む47歳の男性。ことし8月に性器の表面に1センチに満たない小さなしこりを見つけました。痛みやかゆみはありませんでしたが、患部が赤く盛り上がっていたため、何かの病気かもしれないと思い、性感染症の診療で知られる医師を探して診察を受けました。
診察室で性器を見せるとすぐに「梅毒ですね」と医師から告げられました。
男性は「まさか自分がかかるとは」と驚きました。
<梅毒ってどんな病気?>
梅毒の病原菌「梅毒トレポネーマ」
梅毒は細菌による性感染症、つまり性行為による接触で人から人にうつる病気です。感染しても3か月間は症状が現れないケースが多いと言います。
しかし、一部の人は3週間から1か月半の間に性器などの感染した場所に小さく盛り上がったしこりができることがあります。
そして、3か月ほどたつと体や手のひら、それに足の裏に、「バラ疹」と呼ばれる赤い発疹などが出ます。しかし、これも時間がたつとなくなって症状は全く見られなくなります。
その後、多くの人ははっきりとした症状は見られず、3年から10年がたつと重い症状がではじめます。
顔など体の至るところにゴムのように弾力のある小さな腫瘍ができて、その後、崩れるように、潰瘍になるほか、血管の壁に菌が侵入して弱くなり、動脈が破れるなどの深刻な症状を引き起こします。
梅毒は痛みが伴わない症状が出ては消えてゆくので、患者が感染していることに気づきにくい感染症と言われています。
<増加に転じた梅毒>
男性は早く気づいて診療を受けました。抗菌薬を1日3回服用し、1か月で治すことができました。
日本では戦後から梅毒に対する抗菌薬が一般に使えるようになり、薬で治すことができます。
このため、国内で一時、年間20万人を超えていた患者数も平成9年には500人を下回るまで減っていました。
しかし、平成20年を過ぎたころから増加に転じ、11月25日時点では6221人の患者が報告され、現在の方法で統計を取り始めた平成11年以降、初めて6000人を超えました。
<なぜ増えているのか>
どこで感染したのでしょうか。男性には思い当たる節がありました。
夏に、用事の合間に訪れた都内の性風俗店で、性的サービスを受けました。女性から「コンドームなしで特別サービスします」と言われ、コンドームを使用しなかったと言います。さらに口でサービスする、オーラルセックスもしました。
東京 新宿区にある性感染症の専門のクリニックの尾上泰彦医師は、こうした性風俗産業でのサービスの実態が、患者が増える背景にあると指摘します。
尾上医師によると、梅毒の菌は組織のほかに体液にも含まれるため、コンドームを使用しない性交だけでなく、オーラルセックスでも感染するリスクがあると言います。
さらに、挿入しなくても、性器の粘膜が接触する、いわゆる「素股」と呼ばれる行為でも、感染する場合があると指摘します。
尾上医師はこうした性的なサービスで患者が増えてきた可能性があると注意を呼びかけています。
「この3~4年は性風俗の従事者と利用者で感染者が増えているという実感がある。はじめから終わりまで、コンドームをつけていれば感染のリスクを大幅に下げることができる」
<パートナーとの関係にも影響>
男性は幸い発見と治療が早かったため、交際している女性にうつすことはありませんでした。
「梅毒になったことを彼女には言えず、後ろめたい気分になりました。知られていないと思いますが、もし感染させていたらと思うと恐ろしいです。今は治っていますが、万が一を考えると彼女に求められても応じる気になれず、今も彼女との性交渉はしていません。性感染症は彼女との関係にも影響を及ぼすものだと実感している」と話しています。
<一般の家庭でも>
さらに尾上医師は一般の恋人どうしや家庭でも広がり始めている実感があると言います。性風俗の関係者や利用者ではない一般の人が「梅毒」に感染しているケースがこれまでよりも多くなってきたと感じています。
その裏にはスマートフォンのあるアプリが関係していると専門家は見ています。
それは、結婚相手や恋人探しのために作られているマッチングアプリ。専門家が解析すると都道府県別のマッチングアプリの利用者数と梅毒の患者数に関連があるという結果が得られています。
こうしたアプリで性的な接触をする機会が増えていることが、一般の人でも患者が増えていることに関係している可能性が指摘されているのです。
<「節目検診」と「コンドーム」>
尾上医師が指摘する、感染防止の注意点です。
まずは、新しい相手と交際を始める時や結婚する時、妊娠を考える時など、節目ごとに梅毒の検査をする『節目検診』を行うことを推奨しています。
そして、コンドームを正しく使うこと。
さらに何よりも不特定多数の人との性的な接触を避けることが最も重要だと言います。
尾上医師は病院選びも大切だといいます。若い医師の中には梅毒の患者を診察した経験がない人もいて、特徴をよく知らないことがあります。梅毒は見逃されるケースが少なくありません。
梅毒のことを知り、おかしいと思ったら内科などでなく、性感染症が専門の医師に診察を受けるか、近くにいない場合には泌尿器科や産婦人科、それに皮膚科の医療機関を受診してほしいとしています。
特に気をつけてもらいたいこととして、妊娠中の女性が感染すると赤ちゃんの死産や流産のリスクが高くなるほか、生まれた後に体の発育が遅くなったり、知的障害が出たりするおそれがあるとされています。
そのため、妊娠を考えている女性は事前に検査をすることが大切で、妊娠を考えていない場合はコンドームを正しく使うよう呼びかけています。
投稿者:らいふちゃん | 投稿時間:15時41分