文研ブログ

調査あれこれ 2022年08月04日 (木)

#410 放送アーカイブをもっと授業で見てほしい!

メディア研究部  (メディア動向)  大髙

  高校時代、美術の授業で絵を描いたりした記憶はほとんどありません。
無精ひげがトレードマークの美術教師は、絵筆を持たせる代わりに、お気に入りのテレビ番組の鑑賞会をよく開催していました。怠け者だったかもしれませんが(笑)
しかし、私たち生徒には刺激的な時間で、好評でした。

 そこで、私はおそらく人生で初めて、NHKのドキュメンタリー番組を真剣に視聴しました。
忘れ難いのは、1987年放送のNHK特集 「命もえつきる時~作家 檀一雄の最期~」 です。
末期がんで病床に伏す作家・檀一雄(1912~1976)は、遺作にして自伝的な色合いも強い小説「火宅の人」を完成させるため、口述筆記を行いました。番組は、その録音テープと、彼が亡くなった病室などの映像で構成されています。

ootaka2.jpg 小説の最終章。壮絶な不倫の末に、孤独となった主人公。檀一雄が、がんの痛みに耐えながら言葉を絞り出す肉声は、いまも耳に残っています。

「ざまを見ろ。これからが私の人生だ。」

 それから約半年後、檀は、63年の生涯を閉じました。視聴後、私はしばらく震えていたと思います。そして、人生と孤独、死について、初めて真面目に考え込みました。
この体験は、私の中に「テレビ・ドキュメンタリーは面白い」という感情を芽生えさせたのです。NHKに就職したのも、あの美術教師のおかげかもしれません。

 個人的な思い出話が長くなり、失礼しました。何が言いたいかと申しますと・・・
「若者のテレビ離れ」が進む昨今ですが、学校の授業で良質な放送番組の視聴がもたらす教育的効果はきっと少なくないはずだと、私は経験上、感じているというわけです。
教科書に沿った学校教育番組に限らず、「大人向け」のドキュメンタリーなどは、10代の若い感性に様々な刺激を与え得る、その時は「よくわからない」と感じたとしても、その後の人生の糧になる可能性に期待しているのです。

 教育のICT活用が進み、Z世代は映像によって知識を得る傾向が強まる中、授業での放送番組利用のニーズも増えていくと予想されています。
NHKや民放などでも授業向けに放送アーカイブを提供するサービスを行ってはいますが、提供する番組数はまだまだ少ない、というのが現状です。その大きな理由として、著作権処理が困難であることが挙げられます。

 せめて教育利用だけでも、できるだけ多くの放送アーカイブを権利処理の心配なく提供する仕組みができないか、とあれこれ考え、著作権法改正の私案を述べた論文を、「放送研究と調査」6月号に掲載しました。

 現状のままでは、過去に放送された番組の大半は、いつまでも保存されているだけの、「死蔵」とやゆされても仕方ありません。
死蔵状態の放送アーカイブが再び視聴され、未来を担う世代の学びのために役立つ機会が増えることを、放送開始から100年の節目が刻々と近づく今、改めて強く願っています。

調査あれこれ 2022年08月02日 (火)

#409 GIGAスクール構想の進展による学校と家庭の学習におけるメディア利用の変化

メディア研究部(番組研究)宇治橋祐之

 「今年の夏休み、小学生や中学生の子どもがいる家庭では、子どもたちが学校からパソコンやタブレット端末を持ち帰ってきているかもしれません。」
 昨年8月に担当した文研ブログ 1)は、こんな書き出しで、子どもたちのメディア利用についてお伝えしました。1年が経った今年はどうでしょうか。

 2021年度に「校内通信ネットワークの整備」と「児童生徒1人1台端末の整備」を柱とするGIGAスクール構想が実施されて1年経ちました。小学生が家庭に1人1台のパソコンやタブレット端末を持ち帰る機会も増えているでしょう。夏休みについては、文部科学省からも全国の教育委員会に向けて、「保護者の理解も得つつ、夏季休業期間中に1人1台端末等を活用して、基礎的・基本的な内容の定着を図るための学習を効果的・効率的に実施したり、より創造的な課題に取り組ませたりすること」などが求められており 2)、家で端末を使って自由研究をしたり、オンライン学習をしたりしている子どもたちの姿をみることがあるかもしれません。


 文研では2013年度から、各クラス(教師)単位でのメディア環境や利用の実態、そして教師のメディア観や教育観を調べるために「教師のメディア利用と意識に関する調査」を継続して行っています。小学校、中学校、高等学校、特別支援学校それぞれの調査結果は、文研のウェブサイトに公開しています。

 2021年度は、小学校の教師個人を対象としました。GIGAスクール構想前の2018年度の結果と比べると、タブレット端末を利用できる環境にある教師が大幅に増加し(63%→96%)、インターネットを利用できる環境にある教師も増えていました(87%→98%)。

 また、1人1台ずつ児童に配付されたパソコンやタブレット端末(GIGAスクール端末)を授業で児童に利用させている教師は、全体で9割を超えました。さらにGIGAスクール端末を児童に利用させている教師でみると、7割以上が週3~4回以上の高い頻度で利用させているとともに、ほぼ半数が家庭に持ち帰らせて学習利用をさせていました。
 そして、NHKの学校放送番組あるいはNHKデジタル教材のいずれかを利用していた「NHK for School教師利用率」が2018年度の67%から88%に大きく増加しました。これまでも利用の多かった理科や社会の番組だけでなく、体育や生活科の番組の利用が増えていました。
 ujihashi3.jpg  このイラストは『放送研究と調査』2014年6月号  3)に掲載したものです。「1人1台の端末で学ぶ」時代になると、教師が映像を利用するだけでなく個人での利用、家庭での利用が増えると考えました。このイラストのようなメディア環境が実現してきたといえます。

 GIGAスクール構想の実現で、教室のメディア環境は大きく変わりました。今後、家庭のメディア環境の差などの課題が解決されると「オンライン学習」も進み、家庭学習も変化していくと考えられます。「学習者用のデジタル教科書」や「学習支援ツール」など新しいメディアの利用も広がっています。学校と家庭の両方を見渡した学習支援のトータルデザインを考える必要がある時代になったと言えます。

 「放送研究と調査」2022年6月号 「GIGAスクール構想の進展による学校と家庭の学習におけるメディア利用の変化~ 2021年度「NHK 小学校教師のメディア利用と意識に関する調査」から~」では、小学校のメディア利用の状況や、オンライン学習の実施状況やその課題についてまとめています。学校でのメディアを利用した学習だけでなく、家庭でのメディアを利用した学習にこれから何が必要なのでしょうか。夏休みを過ごす子どもたちの様子を見ながら読んでいただけるとありがたいです。

1) 文研ブログ#336 (2021.8.4)
  「GIGAスクール構想と「オンライン学習」に向けたメディア利用」
    https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/452771.html

2)「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用に向けた夏季休業期間中の取組について」(文部科学省)
   https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01932.html
   
3) 「メディア変革期にみる教師のメディア利用
    ~2013年度「NHK小学校教師のメディア利用に関する調査」から~」   
    https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/bangumi/080.html

調査あれこれ 2022年08月01日 (月)

#408 女性20代・30代は東京五輪・パラをどう楽しんだのか?③ ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、女性の20代と30代が東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪・パラ)をどのように楽しんだのかご紹介します。

 <前回ブログまでのポイント>
 ①女性20代・30代は、ふだんスポーツを視聴する人は4割ほどしかいないのに、五輪・パラを楽しめた人は7割もいる。ふだんスポーツを視聴しない女性20代・30代でも、6割以上が五輪・パラは楽しめた。
 ②女性20代・30代では「家族や友人などと話題にすること」で五輪を楽しんだ人が36%で、全体(29%)よりも高く、“大会をきっかけにした周囲とのコミュニケーション”も楽しんだ人が多かった。

 今回のブログでは、そもそも五輪のどんな点に関心を持っていたのかという点でも、女性20・30代ならではの特徴が浮かび上がってくるというお話をします。
 まずは改めて、東京五輪に『関心があった』という人の割合を、全体と女性の20代・30代で比べてみます。
 2-6-1a.png 全体では『関心があった(大変+まあ)』という人が64%でしたが、女性20・30代ではそれよりも少ない56%でした。
 この質問で『関心があった』と答えた人に、大会のどんな点に関心を持っていたのかを尋ねた結果がこちらです。
 2-6-2.png 全体よりも女性20・30代で割合が高かったのは、「周囲の人が話題にしていたから」(全体5%<女性20代・30代11%)と、「自分の生活に影響が出そうだったから」(全体3%<女性20代・30代6%)です。「周囲の人が話題にしていたから」というのは、前回のブログで、女性20代・30代の楽しみ方の特徴として挙げた“大会をきっかけにした周囲とのコミュニケーション”と通底するものがあるように思いませんか?

 東京五輪・パラが開催されてからまもなく1年。『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。特に、コロナ禍での開催に対する意識などの分析では、ご紹介した20代や30代の女性の回答が大きな鍵を握っています。たいへん興味深い結果が出ていますので、どうぞご一読ください!

 

調査あれこれ 2022年07月29日 (金)

#407 女性20代・30代は東京五輪・パラをどう楽しんだのか?② ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、女性の20代と30代が東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪・パラ)をどのように楽しんだのかご紹介します。

 <前回ブログのポイント>
 ①五輪・パラを『楽しめた』人は、どの性別・年代でも、7割前後から8割程度と多数を占めた。
 ②女性20代・30代は、ふだんスポーツを視聴する人は4割ほどしかいないのに、五輪・パラを楽しめた人は7割もいる。ふだんスポーツを視聴しない女性20代・30代でも、6割以上が五輪・パラは楽しめた。
 ③『五輪に関心があった』人の割合は、女性20代は52%と全体よりも少なく、女性30代も59%と6割に達していない。

 浮かび上がった謎は・・・
 女性20代・30代は、ふだんスポーツを視聴する人も、五輪に関心があった人も全体より少ないのに、なぜか、五輪・パラを『楽しめた』人は他の年代と同じぐらいに多かった。

 今回は、この謎を明らかにします!
 20代や30代の女性は、大会をいったいどのように楽しんだのでしょうか。
 大会後の第7回調査で、東京五輪でどのようなことを楽しんだのか、複数回答で尋ねた結果を、全体と女性20代・30代で比べてみます。

2-5-1.png 全体でも、女性20代・30代でも、トップは「テレビやインターネットなどで競技や式典を見ること」でした。
 2番目も同じで「家族や友人などと話題にすること」です。ただ、回答の割合をみると、全体が29%なのに対して、女性20代・30代は36%で、全体を上回っています。どうやら、20代や30代の女性は、“大会をきっかけにした周囲とのコミュニケーション”も楽しんだ人が多かったようです。
 さらに、ふだんスポーツを視聴しない人に絞って、女性20代・30代の楽しみ方のランキングをみてみます。
 2-5-2.png ふだんスポーツを視聴しない女性20・30代では、「テレビやインターネットなどで競技や式典を見ること」と「テレビやインターネットで聖火リレーを見ること」、つまり、大会そのものに関する楽しみ方では、楽しめた人の割合が全体を下回りました。
 その一方で、「家族や友人などと話題にすること」や「選手や著名人が発信した大会関連のSNSを見ること」、「お祭り気分を味わうこと」など、“大会をきっかけにした周囲とのコミュニケーション”や“お祭り気分”に関する楽しみ方では、全体と同程度の人が、楽しめたと答えています。
 ふだんスポーツを視聴する人が少ない女性の20代・30代が、どうして五輪・パラは楽しめたのか?という疑問へのひとつの答えとして、この年代の女性たちが、大会をきっかけにしたコミュニケーションやお祭りムードなどを通じて大会を楽しんでいたことが、調査結果からみえてきました。

 次回のブログでは、そもそも五輪のどんな点に関心を持っていたのかという点でも、女性20・30代ならではの特徴が浮かび上がってくるというお話をしようと思います。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。どうぞご一読ください!

 

 


 


 

調査あれこれ 2022年07月28日 (木)

#406 女性20代・30代は東京五輪・パラをどう楽しんだのか?① ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪・パラ)が開催されてから、まもなく1年です。『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、文研が大会招致決定後の2016年から7回にわたって実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しました。
 今回のブログでは、その中から、20代から30代の女性が、大会をどのように楽しんだのかを、ご紹介したいと思います。
 みなさんは、今回の東京五輪・パラを楽しめましたか?
 グラフは、大会後の去年9月から10月にかけて実施した第7回調査で、大会を楽しめたかどうか尋ねた結果です。

4-1waku.png 全体の72%が『楽しめた(とても+まあ)』と答え、男女年層別にみても、ご覧のように、どの年代も『楽しめた』が7割前後から8割程度と多数を占めています。
 今大会は、新型コロナウイルスの感染が収まらない中で開催されました。大会を開催することによって、さらに感染が拡大してしまうのではないかと不安を抱えていた方も多かったと思いますので、「ああ、多くの方が楽しめたようでよかった」というのが、この結果をみた私の最初の感想でした。

 この結果をみて、“どの年代も、楽しめた人は同じぐらいに多かった”と結論づけてしまえばそれまでですが、実は、性別や年代によって『楽しめた』人の割合に差がないこと自体が、「へえ!」と驚かされる結果なのだ!というのが、このブログのテーマなのです。
 どういうことかと言うと、この調査では、別の質問で、ふだん、テレビやラジオ、インターネットなどでスポーツをどのくらい視聴しているか尋ねています。その質問で『見る(聞く)ほう(よく+まあ)』と答えた人の割合と、さきほどの、五輪・パラを『楽しめた』人の割合を、男女年層別に重ねてみたのが次のグラフです。

4-2waku.png ほとんどの年代で、紫色の線で示した『ふだんスポーツを見る(聞く)』人よりも、赤の線で示した五輪・パラを『楽しめた』人のほうが多いことがお分かりいただけると思います。その傾向は、女性のほうが顕著で、特に女性の20代と30代は、ふだんスポーツを視聴する人は4割ほどしかいないのに、五輪・パラを楽しめたという人は7割もいるのです。
 言うまでもなく、五輪・パラはスポーツの国際大会ですが、20代や30代の女性にとっては、ふだんのスポーツとは“別物”ということなのでしょうか?
 ふだんスポーツを視聴する人が4割程度で、五輪・パラを楽しめた人が7割程度いたということは、間違いなく、“ふだんスポーツを視聴しないのに、五輪・パラは楽しめた”という人が女性の20代、30代にはいたはずです。
 そこで、ふだんスポーツを『見る(聞く)』人と『見ない(聞かない)』人に分けて、それぞれで、五輪・パラを『楽しめた』人の割合を集計してみました。

4-3waku.png まず、『見る(聞く)』ほうでは、全体も、女性の20代と30代も、8割以上が五輪・パラを『楽しめた』と答えています。言い換えれば、“ふだんからスポーツを見ている人では、大多数が五輪・パラも楽しめた”ということです。
 一方、『見ない(聞かない)』ほうをみると、全体では57%で、“ふだんスポーツを視聴しない人で、五輪・パラを楽しめた人は、6割弱にとどまる”のです。
 ところが、女性の20代と30代は64%と6割を超えて、全体を上回りました。すなわち、“ふだんスポーツを視聴しない20代や30代の女性でも、6割以上が五輪・パラは楽しめた”のです。
 なるほど、女性の20代、30代にとっては、五輪は、ふだんのスポーツとは“別物”なのだなあ。つまり、女性の20代と30代は“五輪・パラ好きな年代”なのだ”と結論付けたくなります。
 ところが! 次のデータをご覧ください。
 同じ第7回調査で、東京五輪に『関心があった(大変+まあ)』と答えた人の割合を、『楽しめた』の結果と重ねてみます。もしも、さきほどの仮説どおりだとすれば、女性の20代と30代は、“五輪に関心を持っていた人も多いし、楽しめた人も多い”というグラフになるはずですが……

4-4-a.png 実際には、仮説とは逆に、『五輪に関心があった』人の割合は、女性の20代は52%と全体よりも少なく、30代も59%と6割に達していないのです。
 あれ?女性の20代と30代は“五輪・パラ好き”ではなかったの?という疑問が生じます。
 
 ここまでを整理しますと、女性の20代と30代は、ふだんスポーツを視聴する人も、五輪に関心があった人も、全体より少なかったのに、五輪・パラを『楽しめた』人は、他の年代と同じぐらい多かったということになります。
 ではいったい、彼女たちは、なぜ五輪・パラを楽しめたのでしょうか?
 次回のブログで、その謎を明らかにします!

 『放送研究と調査』6月号では、7回にわたる世論調査の結果をもとに、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”を考えます。人々はコロナ禍での開催をどのように感じていたのか。そうした状況で大会をどのように楽しんだのか。今大会は人々にとってどのような意義を持ち、東日本大震災からの“復興五輪”たりえたのか。そして、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察します。どうぞご一読ください!

文研フォーラム 2022年07月22日 (金)

#405 『デジタル化でニュースやメディアはどう変わる?』

メディア研究部(海外メディア)税所玲子

  「日本人は、なぜツイッターでこんなに匿名が多いのか?」
2015年、英オックスフォード大学にあるロイタージャーナリズム研究所のフェローとなった私が、初日のセミナーで投げかけられた質問でした。

「え・・・?ツイッターって匿名が普通じゃなかったの・・・?」
実は日本人の匿名率は75.1%。アメリカの35.7%、韓国の31.5%に比べてかなり高い水準 だったことを私は知らなかったのです。

saisho1.jpg 日本では当たり前のことが、外国ではそうでないという、実に当たり前のことを実感する。
そのことで他者を知り、自分を知る。国際比較のだいご味はまさにそこにあります。

saiso2.jpg ロイタージャーナリズム研究所は、デジタル化の波にもまれ新たな活路を見出そうと模索するメディアの姿を、世界の国々のデータの中から読み解き「デジタルニュースリポート」にまとめています。2022年はNHK放送文化研究所が日本についてのデータの分析を試みました。

「日本人のエンゲージメントは低い?」

「インフルエンサーは過大評価されている?」

 こうした疑問を2022年7月28日の文研フォーラム、『「ニュース」「メディア」はどう変わる?』で、3人の経験豊富なジャーナリストにぶつけてみます。

saisho3.jpg 参加いただくのは、元共同通信の記者で、現在は専修大学でジャーナリズムの講義を担当する澤康臣さん、信濃毎日新聞のメディア局長の井上裕子さん、NHK報道局でSNSを駆使して情報取材を手がける足立義則さんです。

 皆さんからの質問にもお答えいただき、議論の中から日本のメディアの現在地と、未来に向けてのヒントを探りたいと思います。
ぜひ、ご参加ください!

総務省 平成26年情報通信白書
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc143120.html

    お申込みはこちらから ↓
ootaka5.jpg

 

 

 

 

調査あれこれ 2022年07月20日 (水)

#404 "岸田カラー"はどこまで出せるのか? ~安倍元総理追悼の先に~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 安倍総理が凶弾に倒れて命を絶たれたのが7月8日。その2日後の参議院選挙で、自民党は改選議席125の半数を超える63議席を単独で獲得し勝利しました。

 安倍氏の悲報が全国を駆け巡り、最後の1日で自民党の得票が若干伸びたという見方もあります。ただ今回の参議院選挙は勝敗の鍵を握るとされた1人区で野党候補の一本化が限定的だったことから、選挙戦が中盤を過ぎる頃には与党有利の分析が政党関係者の間で大勢になっていました。

 岸田総理大臣は、昨年10月の衆院選に続いて今回も選挙に勝ち、自らの足場を固めました。これによって自民党総裁としての1期目の任期が切れる2024年9月までの「黄金の2年間」を手に入れた格好です。

shimada1.png
 参院選を終えて最初に岸田総理が打ち出したのが、亡くなった安倍総理に最大級の弔意を捧げる「国葬」の実施です。

 戦後、「国葬」に関する法律は無くなり、1967年(昭和42年)の吉田茂総理の「国葬」が例外的に閣議決定で行われました。今回は、平成の中央省庁再編に伴って整備された内閣府設置法で、所掌事務に「国の儀式に関する事務」が加えられたのをよりどころに、9月27日に日本武道館で「国葬」が行われる見通しです。

 7月16日から18日にかけて行われた、参院選後最初のNHK電話世論調査で次のように聞きました。

☆政府は安倍総理の葬儀を、国の儀式の「国葬」として今年秋に行う方針です。あなたはこの方針を評価しますか。しませんか。

 評価する49%>評価しない38%

これを詳しく見ると与野党支持の違いによって傾向が異なります。

 与党支持者・・・評価する68%>評価しない25%
 野党支持者・・・評価する36%<評価しない56%
 無党派・・・・・・・評価する37%<評価しない47%

 野党各党の中からは「在任中の評価が分かれる安倍総理に対し、国葬という形をとるのは問題だ」といった反対の意見も出ています。

 確かに内政・外交ともに評価が分かれる安倍政権でしたが、それでも岸田総理が「国葬」の実施を決めたのは特に2つの理由からだと周辺は言います。

 1つは通算の総理在任期間が8年8か月に及び、憲政史上最長を記録したこと。『長きをもって貴しとする』という価値観は尊重すべきものという、為政者ならではの考えをうかがわせます。

 もう1つは今回の出来事が銃器を用いたテロ行為にほかならず、言論による民主主義を守るという日本の姿勢を世界に強くアピールする機会を設けるべきだという考えからです。
 shimada4.jpg ただ、岸田総理の心の奥底をのぞき込むと、これだけではないでしょう。安倍総理の下で5年近く外務大臣を務めていた時から、岸田氏は必ずしも安倍氏の判断に全て追従していたわけではないと言われています。

 2人をよく知る自民党幹部は、「衆議院議員として当選同期の間柄だけに、権力関係の中に身を置けば、複雑な思いを常に抱えるものだ」と言います。

 岸田総理としては、安倍氏を最大級の手厚い追悼の場で弔うことで、後を受け継ぐ者として一つの区切りをつけたいという思いがあっても不思議ではありません。

 昨年10月の総理就任後、岸田カラーを打ち出すのは手控え、政府・与党内に波風を立てない安全運転が目立ちました。特に経済政策では安倍氏が在任中に掲げたアベノミクスへの配慮が色濃く伺えました。

 安倍氏の死去、そして参院選での勝利を経て、岸田カラーをどこまで出せるかが、当面の政局の焦点になってきます。

 こうした岸田総理に向けられる国民の視線に変化はあったのでしょうか?

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する   59%(対前月±0ポイント)
 支持しない 21%(対前月-2ポイント)

 対前月というのは参院選投票日の4週前にあたる6月10日から12日にかけて行った6月の月例電話世論調査の数字との比較です。

 これを与野党支持の別に見ると、微妙な傾向の違いが浮かび上がってきます。

 与党支持者・・・支持する86%>支持しない  5%
 野党支持者・・・支持する47%>支持しない41%
 無党派・・・・・・・支持する37%>支持しない29%

shimada3.jpg
 与党支持者で86%という高い割合を示しているのは、参院選の結果を見てもうなずけます。考えさせられたのは、野党支持者で「岸田内閣を支持する」と答えた人の割合が「支持しない」よりも多く、なおかつその割合は無党派の「支持する」を上回っている点です。

 かつてはニュースの表現でも「野党側はそろって・・・」というフレーズが頻繁に登場したものです。ところが最近は一口に「野党」と言っても政府・与党との距離の取り方には様々な違いが出ていて、なかなか「そろって」とはなりません。

 従って野党支持者の中に様々な考え方の違いが存在するのが現状ですが、これが参院選での「野党敗北」につながったとすれば、政府・与党は何と楽なことでしょう。

 岸田総理にとって、緊張感を持って臨むべき当面の課題は、自民党内での求心力をどのように高めるかになりそうです。

 派閥会長を失った安倍派では、幹部の話し合いで様々な方針を決めるとしていますが、今後の政策決定に関して「安倍路線の継承」を強く主張すると見られています。

 安倍氏が力説していた防衛力の強化、金融緩和の継続、積極的な財政出動を伴う経済対策などなど。

 これを引き継ぐだけでは岸田カラーは出てきません。「黄金の2年間」を生かして新たな長期安定政権を目指そうとするならば、安倍氏とは違う内政・外交のビジョンを国民に示し理解を得ることが欠かせません。

 そして、いずれかのタイミングで国民に信を問う機会が必要になります。自民党内で強い求心力を手にしようとするならば、やはり幅広く底堅い国民の支持を背負うことができるかどうかが鍵になります。

 

文研フォーラム 2022年07月20日 (水)

#403 テレビに写る人の顔の「ぼかし」問題、語り合います!

メディア研究部 (メディア動向) 大髙 崇

  7月28日(木)開催の「文研フォーラム2022夏」プログラムBは、テレビ「ぼかし」対策会議です。
「ぼかし」とは、テレビに写った人などに対してモザイク加工をするなどして、特定できないようにする映像処理を指します。
 ootaka1a.jpg 実は2014年に、BPO(放送倫理・番組向上機構)の「放送と人権等権利に関する委員会」の当時の委員長・三宅弘弁護士が「顔なしインタビュー等についての要望」と題し、ぼかし(顔なし)についての意見を公表しました。特に顔を見せないようにする理由が見当たらないにも関わらず「ぼかし」をしている映像が目立つことに苦言を呈し、テレビでのインタビューなどは顔出しを原則とすべきだとして、次のように指摘しています。

 「安易に顔なし映像を用いることは、テレビ媒体への信頼低下をテレビ自らが追認しているかのようで、残念な光景である。」

 一方で三宅氏は、プライバシー保護が特に必要な場合などは本人が特定されないように配慮が必要だとして、放送局が議論し、ルール作りを進めるよう求めました。
 
 この、三宅氏の意見公表から月日は流れて早8年。

 むしろ「ぼかし」は増えているんじゃないの!? と思いつつ、テレビに写る人の顔や姿に関する権利、すなわち「肖像権」について研究をしています。
(NHK放送文化研究所年報2022に掲載された論文もぜひご参照ください)

 テレビの「ぼかし」、みなさんはどうお感じになっていますか?

 この「ぼかし」について大いに語り合おうというのが、今回のプログラムの目的です。
テレビに写りたくない人を守るためには「ぼかす」べき? しかし、「ぼかし」てばかりだと真実性が疑われるんじゃないの? ルール作りはできるのか?

 ゲストの登壇者、各界で活躍する3名をご紹介します。

  鎮目 博道さん
  ootaka2.jpg テレビ朝日で「報道ステーション」などを手がけ、ABEMA TVでもご活躍のプロデューサー。さまざまな媒体でテレビの課題を論じています。一方では「顔ハメパネル愛好家」という不思議な肩書も・・・
 
  久保 友香さん
 ootaka3.jpg プリクラ、スマホなどで容姿を自在に変える若者の「盛り」の文化と、それを支える技術を研究するメディア環境学者。テクノロジーが進歩し、美意識とライフスタイルが変化する中で、改めて顔とは何か……。久保さんには、テレビ関係者とは違った角度から、「ぼかし」問題にアプローチしていただきます。
 
  数藤 雅彦さん
 ootaka4.jpg 上記のNHK放送文化研究所年報2022は、弁護士である数藤さんと私の共著です。数藤さんは、所属するデジタルアーカイブ学会が2021年4月に正式版を公表した「肖像権ガイドライン」の策定リーダー。今回のプログラムでも、このガイドラインが議論の軸になります。

 そして、NHKの制作陣からは、NHK総合で放送中「チコちゃんに叱られる!」の制作統括・西ヶ谷力哉プロデューサーが登壇します。

 どんな議論になるでしょうか。テレビの未来をぼかさず、明るくクリアにする内容を目指します!

 たくさんの方のご参加、お待ちしています!
 
 お申込みはこちらから。

ootaka5.jpg










 

文研フォーラム 2022年07月11日 (月)

#402 NHK文研フォーラム2022夏 本日申し込み開始

文研フォーラム事務局

 fo-ramu1.jpg 7月28日(木)に開催する 3.jpgの申し込みを、本日開始しました。
 今年3月に開催し、多くの方に参加して頂いた「文研フォーラム」。文研の調査結果をタイムリーにご紹介するために、今年は夏にも開催します。
 プログラムの詳細や、申し込みはこちらから。
 https://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2022_natu/index.html

申し込みは、7月24日(日)までです。
奮ってご参加ください。



調査あれこれ 2022年07月08日 (金)

#401 「メディア利用の生活時間調査」のウェブサイトをオープンしました

世論調査部 (視聴者調査)

bana-1.png                     https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron-jikan/media/ 

 
NHK放送文化研究所のウェブページに、「メディア利用の生活時間調査」のサイトをオープンしました。
「メディア利用の生活時間調査」とは、「テレビ画面」「スマートフォン・携帯電話」「パソコン・タブレット端末」という3種類の機器(デバイス)について、1日24時間の生活の中のメディア利用行動を、時刻別にたどることができる調査です。2021年10月から11月、全国10歳以上を対象にNHK放送文化研究所が実施しました。
このサイトでご注目いただきたいのは、データ可視化の試みとオープンデータへの取り組みです。順にご紹介します。 

(1)ひと目でわかる! テレビ・スマホ・PCの利用状況

teisei.pngともすると無味乾燥な数字の羅列になりがちな調査データを、パッと見てわかる、生き生きしたものにしたい、とグラフを作りました。
画面に表示されるグラフ(上図)は、上から「テレビ画面」「スマホ・携帯」「PC・タブレット」の3種類の機器(デバイス)を使っている人の割合を表しています。
棒グラフの色は、それぞれの機器で何の行動をしているかを表していて(凡例参照)、該当箇所にマウスオーバーすると、吹き出しが出て、例えば「動画 22.2%」といったように、行動と、その割合(%)を確認できます。 
使用データは、「時刻別行為者率(15分ごと)」。1日のなかで、ある時刻に該当の行動をしている人の割合を15分ごとに示したデータです。
棒グラフは左右に2つあり、2つのデータを見比べることができます。(スマートフォン表示では矢印“>”ボタンで左右のグラフを切り替えます。) 
 例えば、上図では、左側が20代男性の月曜、右側が50代女性の月曜、時刻は22時15分から22時30分です。20代男性はスマホ・携帯を使っている人が多く、また、棒の色に注目すると、黄土色の「動画」、クリーム色の「ゲーム」ほか、さまざまな行動をしているようです。一方50代女性は、テレビ画面を使っている人が多く、棒の色はおもにオレンジ色で、「テレビのリアルタイム視聴」をしている人が多いようです。同じ時刻でも、属性がちがえば、使うデバイスやメディア行動にちがいがあることが見てとれます。

 このグラフは、画面上部のボタンでご自分の見たい年層や曜日にデータを自在に切り替えて見られるのがポイントです! 左右のグラフの組み合わせをいろいろと変えて、年層や性別・曜日によるちがいを発見してください。

purudaun.pngsuraida-.pngまた、画面左下の時計マーク(スライダー)は左右に動かせます。時刻の変化に応じてグラフの棒が伸び縮みし、その行動をしている人の増減が一連の動きでわかります。お試しください。

(2)よりくわしい調査結果をダウンロードできます

de-ta.png調査で得られたデータを、サイトからダウンロードできるようにしています。
データの種類には、前述のグラフの元になっている「時刻別行為者率(15分ごと)」に加え、「全員平均時間量(調査相手全員がその行動に費やした時間量の平均)」などがあります。複数の種類の層(国民全体、男女年層別、職業別、都市規模別)から選んで、「CSVをダウンロード」ボタンを押すと、CSV形式の表がダウンロードされます。データをダウンロードして、さまざまな時刻別データのグラフ化をご自身で試みるなど、ぜひご活用ください。

 このサイトには、さらに「データにまつわる話」として、この調査からわかることを、分析を担当した研究員がコラムでわかりやすく解説するページもあります。調査やデータに関心を持っていただくきっかけや、データを読み解く際のヒントになればと思います。コラムは今後も更新していきますので、どうぞお楽しみに。

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