文研ブログ

メディアの動き 2022年10月14日 (金)

#426 これからの"放送"はどこに向かうのか? ~始まった「公共放送ワーキンググループ」の議論~

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

◇NHK 経営計画修正案 意見募集中

 10月11日、NHKは、経営計画(2021年―2023年度)の修正案を発表しました 1)。そこでは、来年10月から、地上契約と衛星契約(地上とBSのセット)の受信料を、それぞれ1割値下げする方針が出されました(図1 2))。

図1

 値下げは、NHKがこれまで取り組んできた、スリムで強靭な「新しいNHK」を目指す業務改革によって生み出された繰越金を原資に行われ、総額1500億円が充てられる予定です。繰越金はこの他、情報空間の健全性の担保のための投資や日本のコンテンツ業界の人材育成、それから、民放との連携によるインフラ維持コストの低減等にも充てられることが示されました。こちらは総額700億円が予定されています。インフラ部分における民放との連携は、以前、本ブログ 3)でもとりあげた通り、去年から「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」で議論が進んでいるものです(図2 4))。

図2

 また案では、繰越金の還元策だけでなく、放送サービスをスリム化する案も示されました。具体的には、2024年3月末に、現在3波あるBS(右旋)放送のうち、2Kの1波を停波し、2Kと4Kの1波ずつの体制にするというものです(図3 5))。

図3

 この他、「安全・安心を支える」「あまねく伝える」という重点項目の強化を併せた大きく3点が、今回の修正案のポイントとなります。重点項目の強化については後ほど改めて触れたいと思います。NHK経営委員会による意見募集が11月10日まで行われています 6)

◇「公共放送ワーキンググループ」議論開始

 このNHKによる経営計画修正の取り組みと並行して、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検) 7)」には「公共放送ワーキンググループ(WG)」 8)が設けられ、議論が開始されています。9月21日に第1回会合が行われ、年内にあと3回、来年3~4回の会合を経て、6月に取りまとめが示される予定です。本ブログではこの第1回会合で示された構成員の発言 9)を軸に、論点の全体像を確認しておきたいと思います。

・WGの検討項目

 WGの検討項目として事務局から示されたのは以下の4点でした(図4 10))。項目別にみていきます。

図4

・ネット時代における公共放送の役割

 去年11月から行われている在り方検(親会)の議論では、デジタル情報空間における課題が増大する中、公共放送であるNHKだけでなく民放も含めて、「伝統的かつ例外的に情報空間の環境整備のために国の政策が展開されてきた 11)」放送メディアが果たすべき役割はこれまで以上に大きくなっている、との共通認識が形成されてきました 12)。今回のWGは、放送メディアの中でも、特にNHKが今後担っていくべき役割とは何なのか、この再定義が検討の出発点となります。
 第1回会合だったということもあり、構成員からは、放送メディア全般の今日的役割を再確認する発言が目立ちました。そんな中、落合孝文構成員からは、必ずしも収益につながらないが大事な価値観を持つ情報をしっかり発信していくことがNHKの役割として重要であるとの発言が、そして山本隆司構成員からは、NHKはジャーナリズムに基づく編集メディアとして、ネット空間に欠けているものについてどのような役割を果たしていくのかを明確にする必要があるとの意見が出されました。また、瀧俊雄構成員からは、NHKではセレンディピティ 13)アルゴリズムの研究に取り組んでいることを聞いている、ネットの欠点を克服する方向に期待したいというコメントもありました。

・ネット活用業務の在り方 ①放送法における位置づけ

 事務局が示した論点を見ればわかる通り、WGが議論の主軸に置いているのは、NHKのネット活用業務です。議論の前提となる現在地を確認しておきます。
 NHKは「NHKプラス」「NHKニュース防災アプリ」「NHKオンデマンド」など、ネットを活用した様々な業務を行っていますが、これらのサービスは放送法上、"任意業務"という位置づけになっています(図5 14))。そのため、毎年NHKは、ネット活用業務の内容や種類、費用について「インターネット活用業務実施基準(実施基準) 15)」を策定し、総務大臣の認可を得た上で業務を行うというルールになっています。このうち受信料を財源とする業務については、2020年度まで、受信料収入の2.5%以内で行うということになっていましたが、2021年度からはそれが変更され、自ら上限額を提示し、大臣の認可を得た上で実施しています。2022年度に設定した上限は200億円でした。

図5

 WGでは、任意業務であるこのネット活用業務を、今後、放送法上どのように位置づけていくのかが大きな論点とされています。この論点は、8月に自民党の「放送法の改正に関する小委員会」がまとめた第三次提言にも、「放送の補完ではなく、NHKの本来業務とすべきかどうか、本来業務とする場合にはその範囲をどのように設定するかも含めて検討すること」という形で示されていました 16)

 WGの第1回会合で、明確に本来業務化すべきと主張したのは宍戸常寿構成員でした。宍戸構成員は、ジャーナリズムに裏付けられた公共的な動画配信が日本で遅れたことにより、現在のデジタル情報空間の課題が大きくなったという認識を述べた上で、NHKに先導的役割を果たさせることで、民放も含めて公共的な情報が適切にネットに供給され、健全な世論が形成されることを"デジタル社会の基本政策"として確保すべき、と発言しました。一方で、大谷和子構成員からは、必須業務か任意業務かという大雑把な議論は卒業すべき、林秀弥構成員からは、本来業務化は是か非かという二項対立的な図式での議論は問題を矮小化する、といった発言もありました。大谷構成員からは、NHKはデジタル情報空間でどのような役割を果たすのかをまず検討し、その上で、その役割を果たすための制度をデザインし、受信料の使い道を定義すべきとの趣旨の発言もありました。

 私はこれらの発言を聞いて、今から5年前程前のことを思い出しました。在り方検の前身である「放送を巡る諸課題に関する検討会(諸課題検)」でも、ネット活用業務の本来業務化という論点が議論の俎上に上った時があったのです。
 NHKは当時、放送法では認められていなかった常時同時配信(現在のNHKプラス)を実施できるよう制度改正を要望していました。あわせて負担のあり方については、会長の常設諮問機関「NHK受信料制度等検討委員会(受信料検討委員会)」を設けて議論を進めていました。
 受信料検討委員会は、「条件が揃えば、放送の常時同時配信はNHKが放送の世界で果たしている公共性を、インターネットを通じても発揮するためのサービスと考えられるとし、テレビを持たずにネットだけでモバイル端末でこのサービスを利用する人達にも受信料を負担してもらう受信料型を目指すことに一定の合理性がある」という答申案 17)をまとめ、2017年7月、NHKはこの内容を諸課題検で報告しました 18)。私は総務省の会議室で会合を傍聴していましたが、この日を契機に、放送業界や新聞メディアでは、NHKのネット活用業務を本来業務化するか否かという議論が大きくなっていったと記憶しています 19)。その後、高市早苗総務大臣(当時)が、「常時同時配信を「本来業務」として位置づける考え方については、私は、多岐に渡る課題がある 20)、井上弘民放連会長(当時)が、「独占的な受信料収入で運営されるNHKがインターネット活用業務を拡大することは、民間放送だけでなく新聞などの民間事業と競合する可能性を高める 21)とそれぞれが会見で言及。結果、NHKのネット活用業務の本来業務化は時期尚早とされ、任意業務のまま、受信契約をした方々を対象とする同時配信等を可能とする放送法改正が行われることになり、今に至っているのです。

・ネット活用業務の在り方 ②規制の在り方について

 NHKのネット活用業務の本来業務化の議論と切っても切り離せないのが、民放や新聞社が繰り返し述べてきた、いわゆる"民業圧迫"という懸念です。今年7月に公表された在り方検(親会)の取りまとめ案に対する意見募集においても、日本新聞協会は、「NHKが巨額な放送受信料を財源にネット業務をさらに拡大して取り組めば、民間事業者の公正な競争をゆがめ、言論の多様性を失わせることになりかねない 22)と述べています。
 一方、NHKの前田晃伸会長は今年9月の定例会見で、ネット活用業務に関して民業圧迫や肥大化の懸念が指摘されているのでは、という記者の質問に対し、NHK内に設置している「民業圧迫ホットライン 23)」に触れ、電話はこれまで1件しかなく、その1件も通話ができるかどうかの確認だったと明かしました。その上で「民業圧迫とかそういう事実はない」と発言しています。
 WGでは、この民業圧迫について、山本構成員からは抽象論のレベルではなく具体的な内容を示して議論をしていくべきではないか、林構成員からは、具体的にどのような市場においてどのような競争阻害が生じるか個別具体的に分析するのが議論を前に進める第一歩ではないかとの発言がありました。加えて競争法が専門の林構成員からは、視聴者向けのBtoCは民業圧迫の懸念はあまりなく、事業者向けのBtoB(toC)の分野で競争分析が必要ではないかいった具体的なコメントもありました。
 一方、宍戸構成員からは、NHKのネットサービスは健全なネット空間を作るために必要だと言う話であり、(民放や新聞と)同じレベルの競争に巻き込まれるのではなく、人々が多様な考えにどれほど触れたかで、行動変容や価値観の変容が起きたか、その指標に力点がおかれるべき、との見解が示されました。

・ネット活用業務に関する民放への協力のあり方

 この項目については、第1回会合では多くの発言はありませんでした。ネット利用者からアクセスしやすい共通の番組表などのプラットフォームの作成が必要、とか、NHKは民放が抱える課題の解決に向けて技術面に限らず手段を限定せずに協力することが必要ではないか、といった意見が出されました。

・ネット活用業務の財源と受信料制度

 このWGの開催にあたり、寺田稔総務大臣は会見で、「テレビなどの受信設備を設置した者から受信料を取るという現在の法制のもとでは、現時点ではテレビなどの受信設備を設置していない方に対して、新たに受信料を徴収することは考えていないわけであります。(中略)ただ、今後の受信料のあり方については、まさにこれから始まります公共放送ワーキングでのご議論も十分踏まえて、幅広く国民や視聴者の皆様から十分な理解を得るような姿にしていく必要がある 24)と述べていました。そのため、WG開始前には、いわゆる"ネット受信料"の議論に踏み込むのかどうか、ということが新聞報道などで取り上げられていました。
 これについて第1回会合では、参加した9人 25)のうち8人から、議論は時期尚早、現実的ではない、問題外、といった反応が示されました。ただ、三友仁志座長と林構成員からは、PCやスマホにNHKの配信サービスのアプリをインストールするなど自ら受信できる環境を用意している人達について受信料契約の対象とするかどうかについては議論してもいいのではないか、という発言もありました。
 民放連からは、在り方検(親会)の取りまとめ案に対し、「仮に「放送の補完」との位置付けの見直しを含めて検討するのであれば、テレビ受像機に紐づいて契約義務を定めている現行の受信料制度との関係を整理し、視聴者・国民各層の十分な理解を得ることが欠かせません」という意見が出されています。業務と制度とをつなぐ議論が行われるのかどうか、今後に注目していきたいと思います。

◇おわりに

 冒頭にも触れましたが、NHKは現在の経営計画で掲げている「安全・安心を支える」「社会への貢献」「人事制度改革」「あまねく伝える」「新時代へのチャレンジ」という5つの重点項目のうち、今回の修正案では、「安全・安心を支える」「あまねく伝える」の2つをより強化していくという方針が示されました。特に「安全・安心を支える(図6) 26)」については、環境変化が加速する中、NHKが公共放送として社会にどのような役割を果たしていくのかという考えを、アップデートして社会に示したということだと思います。

図6

 WGでは今後、NHKが"インターネット時代"に"ネット活用業務"を通じてどのような役割を果たしていくのか、という観点からの議論が深められていくことになると思います。その前提として、事務局が示した論点の中には、環境変化の中で使命を終えた役割についても検討するとされていますが、同時に、これまで公共放送として果たすべき役割の中で果たし切れていなかったことを再点検するという視点も必要ではないかと考えます。宍戸構成員からは、9月16日に採択されたEUのメディア自由法案 27)が紹介された上で、経営委員会を含めたNHKのガバナンス改革はどこまで進んでいるのか、という厳しい指摘もありました。
 今回のWGだけでなく在り方検全般に言えることだと思いますが、今行われている議論は、デジタル情報空間の課題にいかに対応していくか、という問題意識に前のめりになりがちで、そのために放送メディアはどのような役割を果たすべきか、といったロジックで議論が進められています。しかし、法制度の議論が、放送波という伝送路が前提であった放送サービスから、ネットも活用したメディアサービスのあり方に拡張していく以上、長期的には、伝送路によらず、公共的なメディアの役割を再定義し、それを誰がどのように担うのかという骨太の議論をしていかなければ、受信料制度も含めて、誰がどのように公共的なメディアを支えていくのかといった議論にはつながっていかないのではないかと思います。そのような長期的な視点も持ちつつ、短期的には、NHKと民放・新聞、そこにネット上のプラットフォームの存在も意識しながら、競争・協調・すみ分けについての建設的な議論がどのように行われていくのか、今後のWGや在り方検の議論に注目していきたいと思います。


1) https://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/iken/pdf/keikaku2022.pdf
2) 同上 P10
3) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/472560.html
4) 1) 参照 P12
5) 1) 参照 P5
6) https://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/iken/221011k/index.html
7) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/index.html
8) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000322.html
9) 執筆段階では総務省から議事録が公開されていなかったので、筆者の傍聴メモを参照した
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000837157.pdf
11) WG第1回で紹介された曽我部真裕構成員のコメントから
12) この議論の詳細は...... https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/08/10/
13) 偶然や予想外の出会いという意味
14) https://www.soumu.go.jp/main_content/000837155.pdf P19から引用 赤囲いは筆者
15) 2022年の「NHKインターネット活用業務実施基準」 https://www.nhk.or.jp/net-info/data/document/standards/220111-01-jissi-kijyun.pdf
16) https://www.nhk.or.jp/bunken/research/focus/f20221001_1.html
17) https://www.nhk.or.jp/pr/keiei/kento/toshin/
18) 諸課題検討2017年7月4日会合 https://www.soumu.go.jp/main_content/000498611.pdf
19) 文研ブログ https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2017/07/28/
20) https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02000602.html
21) https://j-ba.or.jp/category/interview/jba102350
22) https://www.soumu.go.jp/main_content/000837155.pdf から引用
23) 2020年9月開始 https://www.nhk.or.jp/css/goiken/mingyo.html
24) 2022年9月13日閣議後記者会見 https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
25) 座長含む。曽我部真裕構成員は欠席
26) 1) 参照 P9
27) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_5504
調査あれこれ 2022年10月12日 (水)

#425 深まる岸田総理の憂鬱 ~内憂外患の秋から冬へ~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 9月30日、プーチン大統領がウクライナ東部・南部4州のロシアへの併合を一方的に宣言しました。2月24日にウクライナ侵攻を開始して以降、「力による現状変更」の最も露骨な姿を世界中の人たちに見せつけました。

 ウクライナを支援する日本などG7の国々、NATO(北大西洋条約機構)加盟の国々は、ロシアのあくなき領土拡張の行動を国際法違反だと批判し、制裁措置や武器援助を追加したりしています。

 しかしプーチン大統領は「国際秩序を破壊しているのはアメリカとそれに追従する国々で、我々はロシア人が暮らす地域を奪還したに過ぎない」と繰り返し、非難と攻撃の応酬が続くばかりです。

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 先日、ロシアの駐日大使、ミハイル・ガルージン氏の話を聞く機会がありましたが、2014年のクリミア併合はそこで暮らすロシア系住民を守るために行ったことだの一点張り。その後の東部・南部での停戦合意の話し合いを無にしたのは、ウクライナとアメリカなどNATO側だと強調するのみです。

 7月にはウクライナの駐日大使、コルスンスキー・セルギー氏の話も聞きました。セルギー大使は「ウクライナの真の独立は、旧ソビエト連邦から解き放たれた1991年当時の国の姿に戻ることだ」と強調していました。ロシアがクリミア併合に踏み切る以前の姿が本来のウクライナだということです。

 この両者の話を聞くと、大陸国家の抱える歴史的な困難さを突き付けられた思いがします。民族や宗教が異なる人々が、それぞれ背にしている違いを抱えながら平和な暮らしを営むことがいかに難しいか。島国日本の国民にとっては、目をこらして見ないと分かりにくい現実が存在しています。

 そうは言っても、プーチン大統領のやっていることは領土拡張を目指す覇権主義の表われ、専制主義的行動に他なりません。そこには「自由を尊重する」という気配が伺えないからです。黙認するわけにはいきません。

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 さて、こうした厳しい国際情勢が長期化の様相を見せる中で、日本国内では夏以降、岸田内閣の支持率に陰りが見え、政権を取り巻く環境が厳しさを増しています。

 10月8日から10日にかけて行われたNHK月例電話世論調査にも、それが如実に表れています。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  38%(対前月 -2ポイント)
 支持しない  43%(対前月 +3ポイント)
 わからない、無回答  20%(対前月 ±0ポイント)

岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートし、衆議院選挙、参議院選挙での勝利を経て、7月には59%にまで上向きました。

しかし、8月、9月とじりじり下がり始め、10月は上記のように【支持する38%<支持しない43%】で初めて不支持が支持を上回りました。

☆岸田内閣の発足から1年がたちました。あなたは、この1年間の岸田内閣の実績を評価しますか。

評価する 38% < 評価しない 56%

岸田内閣の挙げた成果といえるものがなかなか見えてこない、ふわふわしているという国民の受け止めが少なくないことを物語っている数字に見えます。

 安倍元総理が健在だった7月8日より前までは、総理OBとなった安倍氏が展開する安全保障などでの保守的、あるいはタカ派的な政策提言を浮揚力として利用し、そこに「ちょっと待った」と言いながら国民に慎重さをアピールする面がありました。

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 しかしそれは成果・実績とは別のもので、向かい風を利用して空に舞う凧の姿にも似たものだったでしょう。それが安倍氏の死によって浮揚力を失い、失速の憂き目にあっているようにも見えます。

 改めて8月以降の内閣支持率の低下の理由を考えますと、大きく2つのことが密接に絡まった結果とする指摘は否定できないでしょう。

 1つ目は凶弾に倒れた安倍元総理を国葬で追悼したことです。そこには評価が割れている政治家の追悼を全額国費で行った、実施の根拠が曖昧なまま国会の議論を経ずに決められた、などの不満がまとわりついています。

 2つ目は旧統一教会と自民党の関係について疑問が残り続けている点です。安倍氏の命を奪った容疑者の供述がきっかけになり、霊感商法などが社会問題化してきた旧統一教会との関係が浮かび上がったにも関わらず、自民党が議員本人からの申告に基づく「点検」にとどめたことに対し、中途半端さ、曖昧さを感じる国民が多いということです。

 自らの政権運営の浮揚力となってくれていた安倍元総理との関連などで足元が揺らぐ現状。岸田総理にとって憂鬱な気分が深まる秋になっています。

 そして季節は秋から冬へと向かいます。岸田総理は状況を打開しようと、ウクライナ情勢を背景に冬場に懸念される電気料金などの上昇への備えに急ぎ足で取り組み始めました。

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 目指すのは家計や企業を直接支援する制度の創設で、岸田総理は「電力会社への補助金ではなく、全て国民の負担軽減に充てることを明確に示す仕組みにしなければならない」と強調しています。

 この冬のエネルギー対策は世界規模の問題です。エネルギー危機の発端となったロシアのウクライナ侵攻は2月下旬、北半球が冬から春へと向かう中で始まりました。従って今度の冬に初めて問題の深刻さに真正面から向き合うことになります。

 資源大国ロシアは、石油や天然ガスを戦略物資と位置付けて強気の姿勢を変えないでしょう。その時、エネルギーをロシアに依存してきたドイツなど、ウクライナを支援するヨーロッパの国々に揺らぎが生じはしないか。気になるところです。

 内憂外患。昔から「難しい問題はまとめてやってくる」と言います。一方で世界史的な難問への対処、一方で国民の信頼をつなぎとめるための努力。
秋から冬にかけて、岸田総理の発言や判断に、耳をすまし目をこらして向き合う必要がありそうです。

調査あれこれ 2022年09月27日 (火)

#424 興味のなかったことに関心を持つうえで、もっとも役に立っているメディアは?

世論調査部(視聴者調査) 渡辺洋子

ちょっとしたきっかけで、これまで興味がなかったものに関心を持つというような経験、皆さんもありますよね。

私は、少し前にSNSで流れてきた投稿をきっかけに、これまで特に関心がなかった戦国マンガに夢中になって、大人買いする、なんていうことがありました。
そのあと、しばらく寝不足になり、大変な思いをしました・・・。

 

さて、みなさんは何をきっかけに、新しいことに興味を持ちますか?

文研で、全国16歳以上の方を対象に、興味のなかったことに関心を持つうえで、もっとも役に立っているものを尋ねたところ、下のグラフのような結果になりました(図1)。

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「テレビ(録画再生・インターネット動画サービスを含む)」を挙げた人が29%ともっとも多く、「あてはまるものはない」が17%、そして「YouTube」が13%と、メディアとしては「テレビ」が1番目、「YouTube」が2番目です。

テレビが1番多いのは予想どおりでしたが、テレビに次いでYouTubeが多かったのは、意外な結果でした。

YouTubeは、利用者の視聴履歴をもとに、それぞれの利用者が関心を持ちそうな動画が目につきやすいところに表示されるしくみになっています。
そうした仕組みのサービスでも、「興味のなかったことに関心を持つ」という感覚の人が一定数いるということです。

 

16~29歳に限ると、さらに驚くべき結果となりました。
YouTubeが28%、テレビが17%と、YouTubeがテレビを逆転していたんです(図2)。

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16~29歳では、興味のなかったことに関心を持つうえで、テレビよりもYouTubeの方を評価しているということです。

もしかすると、若い人はテレビを見ないのでテレビの評価が低くなったのかもしれないと、テレビを見ない人を除いて確認してみることにしました。
※ちなみにこの調査では、16~29歳で、録画やインターネットで見る番組も含め、テレビ番組を日常的に(週に1日以上)見ない人は12%でした。

さて、どのような数字になったのでしょうか。

結果は、テレビ番組とYouTube、どちらも週に1日以上利用する16~29歳でも、
YouTubeが31%、テレビが19%と、YouTubeがテレビを上回っていました。

つまり、テレビもYouTubeも両方利用していても、16~29歳では、テレビよりYouTubeの方を、興味のなかったことに関心を持つうえで役に立つと思っているんですね。

 

テレビでは、ニュース、バラエティー、ドラマ、ドキュメンタリーなど、さまざまなジャンルの番組が、誰に対しても同じように流れます。 自分が好きなものが流れてくる確率は低いかもしれませんが、まったく知らなかったものを偶然目にして関心を持つという、新たな出会いが生まれやすいのではないかと考えていました。

ところが今回の結果をみると、若い人にとっては、さまざまなものが流れてくるテレビより、視聴履歴をもとにおすすめを提示してくれるYouTubeの方が、新たな関心を広げる上で役に立つと感じられていることがわかりました。

メディアに対する意識は、年齢や利用状況によって様々です。

『放送研究と調査』2022年8月号では、テレビやYouTubeなどのメディア利用と意識について、「全国メディア意識世論調査・2021」の結果をご紹介しています。
テレビと動画の利用状況の変化,その背景にある人々の意識とは~「全国メディア意識世論調査・2021」の結果から~

どうぞ、ご覧ください。

メディアの動き 2022年09月20日 (火)

#423 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」取りまとめ公表を受けて(3)「攻めの戦略」議論 本格化へ

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 総務省で開催中の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検) 1)」では、今秋、2つのワーキンググループ(WG)が発足する予定です 2)。1つはデジタル情報空間においてフェイクニュースやアテンションエコノミー等の課題が指摘される中、「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス 3)」に、人々がアクセスしやすくするための方策を検討するものです。検討の対象となるサービスとしては、地上放送の同時配信等が想定されています。もう1つは公共放送に関するもので、ネット時代における公共放送の役割や、現在は放送の補完業務であるNHKのネット活用業務の位置付け等について検討されます 4)。こちらは明日21日に第一回が開催されることになっています 5)

 上記はいずれも、放送コンテンツのネット配信を政策的にどのような姿で促進させていくのかを検討するもので、8月に公表された在り方検の取りまとめでは、今後の放送制度議論における「攻めの戦略」と位置づけられています。在り方検は去年11月から議論が行われていますが、これまでは、前回のブログでも紹介したような 6)、ハード機能のコスト負担の軽減という「守りの戦略」が主要な論点でした。いよいよ今秋から、この「攻めの戦略」の議論が本格化することになります。この議論は、ネット空間における“放送局の公共性”とは何かが問い直される本質的なテーマに通じると私は考えています。そのため本ブログでは、議論を前に在り方検の取りまとめやこれまでの議論等から、主要なポイントをまとめ、若干の問題提起をしておきたいと思います。

① 「放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等を後押しする方策」

 上記のカギカッコに入った文言は、在り方検の取りまとめをそのまま転記したものです。これから検討される主要な「攻めの戦略」のうちの柱の1つで、この「放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等」が、先に述べた「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス」にあたります。一読しただけでは意味を読み取りにくいので、文言を分解してみておきたいと思います。

〇「放送に準じた公共的な取組を行う」とは?

 こちらは、これまで放送局が放送制度の下で担ってきた様々な公共的役割を、ネット空間においても放送に“準じた”形で担っていくこと、と言い換えていいでしょう。取りまとめの中では、取り組みの具体的な内容として、災害情報や地域情報等の発信、視聴履歴の適切な取り扱い等があげられていました。
 このうち視聴履歴については、在り方検と並行して「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会(視聴データ検) 7)」で議論が行われてきました。「放送に準じた公共的な取組」としての“適切な取り扱い”として最も重要視されていたのは、視聴者の「安心安全の確保」でした。
 構成員の一人で、デジタル情報空間における課題に警鐘を鳴らし続ける慶應義塾大学教授の山本龍彦氏は、「放送の世界のように、過度なプロファイリングやパーソナライズが行われず、フィルターバブル、エコーチェンバー、フェイクニュース等が起きにくいような情報提供機能はこれからも残していく必要がある 8)」と述べています。確かに、放送波の技術的な特徴は一方向、いわゆる“送りっ放し”で、誰が視聴しているのかというデータを把握できないため、双方向が基本のネットサービスのような、視聴者の属性等に応じてコンテンツや広告を出し分けるようなサービスはできません。しかし、多くの人たちに同じ内容を一斉同報することこそが、放送メディアの最大の価値や役割でした。
 しかし、デジタル化によってテレビがネットに接続できるようになってから、テレビ放送の視聴においてもデータの収集が可能となりました。日本よりも早くテレビのネット接続が進んできたアメリカでは、視聴データを活用したターゲティング広告も行われるようになっています。日本でも、ここ数年はテレビのwi-fi接続の広がりもあり、全世帯の半分近くのテレビはネットに接続した状態、つまり、“コネクテッドTV(CTV)化”しています。現在、在京キー局を中心に各局が様々な形で視聴データを収集しており 9)、今後、そのデータをどのように活用していくかは、各局にとっても放送業界にとっても、重要な経営戦略の1つとなっています。ただし、データの取り扱いについては、これまで放送局が担ってきた公共的役割に鑑み、「放送受信者等の個人情報保護に関するガイドライン 10)(放送分野ガイドライン)」が設けられ、それに則って放送業界や専門家を交えた慎重な議論が進められています 11)
 視聴データ検の議論では、こうしたテレビ放送の視聴データだけでなく、放送局による配信サービスの視聴データも大きな論点となりました。構成員の一人、弁護士の森亮二氏は、「テレビのコンテンツを配信する際は、コンテンツは既に自主的な取組によって安全であるが、データにおいても安全だということは一定程度確保していただきたい 12)と述べました。つまり、放送局は放送法の下、自主自律的な取り組みの中で、視聴者にとって安全なコンテンツを制作してきているが、それと同じように、配信サービスにおける視聴データについても安全な取り扱いをする責務があるのではないか、という主張です。こうした要望は、8月に公表された自民党の「放送法の改正に関する小委員会(放送法小委)」第三次提言にも、「視聴履歴から視聴者の政治信条が察知され、政治的ターゲティング広告に悪用され、社会の分断を加速するようなことがあってはならない」という形で示されています。
 また、先出の山本氏も、放送局がネット上で配信サービスを行う際には、「データ利活用についてある程度の上乗せ規律もやむを得ない 13)という見解を述べています。この「上乗せ規律」とは、ネット上でサービスを行う事業者全てに適用される「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン 14)」に加えて、現在、放送局が“テレビ放送の視聴データの取り扱い”において適用されている「放送分野ガイドライン」を、“配信サービスの視聴データの取り扱い”においても適用する、つまり、“上乗せ”する、ということを意味しています。

〇「後押しする方策」とは?

 ネット上では現在、Google、Meta、Amazonに代表されるグローバルプラットフォームを中心にした事業者が、cookie情報等を使ってユーザーがどのサイトを閲覧したのかを追跡してユーザーの属性や嗜好を把握し、それに基づいたターゲティング広告やレコメンドで存在感を増しています。企業等の広告費は、一度に多くの人に“リーチ”できるメディアである放送から、個人やグループに対して“ターゲティング”できるネットサービスに流れており、その動きを止めることはもはや困難です。放送の広告費が目減りしていく分を、いかにネット上の配信サービスの広告費で補っていくかが、民放ビジネスにとっては大きな課題なのです 15)
 そのため、配信サービスに対しても放送分野ガイドラインの規制が上乗せされるということは、他のネット事業者よりもデータの取り扱いに対する説明責任の厳格化や限定的な活用が求められるため、民放のビジネスにとって足かせとなるおそれがあります。視聴データ検でも、他の事業者との間で公正な競争が確保されないのではないかとの指摘もなされました。民放連及び民放キー局関係者からは、放送分野ガイドラインの適用範囲はあくまでテレビ放送の視聴データを利用する場合のみであり、配信サービスにおいて上乗せすることについては消極的な姿勢が示されました。
 こうした中で視聴データ検が示した方向性は、放送局には一律に上乗せ規律を強制するのではなく、規律を受け入れるかどうか、つまりネット上で「公共的な取組」を担うかどうかは放送局自らの意思に委ねるべき、というものでした。その上で、「公共的な取組」を担う判断をした放送局については、政策的に何等かの“非対称措置”を検討すべきではないか、そして、「誰もが目を通すメディア」(プラットフォーム)に、放送コンテンツが提供されることが重要ではないか、という方向性が示されました。この非対称措置とは、事業者へのインセンティブ(優遇措置)という意味合いもありますが、それ以上に、安全な配信サービスへの視聴者のアクセスを支援し、視聴者保護を図る必要がある、という観点が強調されました。この非対称措置が、文言の最後に書かれている「後押しする方策」にあたります。

〇「放送同時配信等」とは?

 では、ネット上の展開を“後押し”していく放送局のサービスやビジネスとは具体的にどのようなものなのか。それを示しているのが「放送同時配信等」です。余談になりますが、役所の資料の文言には、このように頻繁に“等”が使われますが、時に“等”の方に比重があることも少なくないので注意が必要です。
 「放送同時配信等」という言葉は今回が初出ではなく、去年、著作権法改正の議論の際、同時配信、追っかけ配信(番組途中から視聴した場合、冒頭までさかのぼって視聴できる)、一定期間の見逃し配信を含んだ総称として用いられました。現行の改正著作権法上、これらが放送に準ずる位置づけとなっています 16)。そのため今回の後押しの施策の対象も、「NHKプラス」の同時配信、「TVer」で4月からスタートした民放キー5局系のゴールデン・プライムタイムのリアルタイム配信という狭い範囲に留まることなく、議論は進んでいくのではないかと思われます。

② 「非対称措置」と「プロミネンス・ルール」

〇非対称措置の具体策とは?

 今秋から開始されるWGでは、非対称措置の具体的な内容に関する議論が行われると思われます。視聴データ検が4月に公表した「配信サービスに対するガイドラインの適用に関する基本的考え方 17)」や在り方検の取りまとめを読むと、以下のような内容が検討項目にあがってくると思われます。

  • CTV上における措置として、放送局によるネット配信を簡便に視聴できるようにすること
    (TVerやNHKプラスが上乗せ規律に準じた準則を採用する場合にテレビ上ですぐ起動するようにする等)
  • 動画共有サイトや動画配信プラットフォーム上における措置として、放送コンテンツの充実・強化や、
    その他のコンテンツと区別できる形で提供されるようにすること

 私は先に発行された「放送研究と調査」6月号の「これからの“放送”はどこに向かうのか?Vol.7 18)」で、この非対称措置 19)について、「意欲的な論点であるものの、放送政策として具体的にどのような振興策があるのか、筆者にはイメージがわかない」と述べました。この措置のパートナーとなるテレビメーカーやプラットフォーム事業者のメリットや、施策の持続可能性について見通せないと感じたからです。今もその認識はあまり変わっていませんが、本ブログでは、6月号を記した際に紙面の都合で触れられなかった内容も記した上で、もう少し深く、私の認識を示しておきたいと思います。

〇「プロミネンス・ルール」とは?

 安全な配信サービスへの視聴者のアクセスを支援し、視聴者保護を図るために、放送に準じた公共的な取組を行う放送同時配信等を後押しするという今回の議論には、イギリスの情報通信政策における「プロミネンス・ルール」が参考にされたのではないかと私は推察しています 20)。このルールについては、在り方検の構成員であるマルチメディア振興センターの飯塚留美氏が第3回会合で短く紹介しましたが 21)、初めて聞くという方も少なくないと思います。正直、私も当時、詳細については知りませんでした。
 プロミネンスには、目立たせること、突出させること、という意味があります。イギリスには、BBCだけでなく、ニュースの不偏不党やローカル番組制作、コンテンツ産業発展のための一定の制作外注化等が放送免許の要件となっている、商業放送も含めた6局が「公共サービス放送(PSB) 22)」として存在しています。このPSBを“目立たせる”のが、このルールとなります。では、どこの場で目立たせるのかですが、飯塚氏が在り方検で紹介した、去年のOfcom(イギリスにおける放送通信分野の独立規制機関)の政府への提言には、以下のような内容がありましたので、飯塚氏の資料から転記させてもらいます。

  • CTVにおけるプロミネンスの確保
    ライブでもオンデマンドでも、全ての主要なテレビプラットフォーム上で公共サービスコンテンツのプロミネンスを確保する
  • プラットフォームに、PSM 23)コンテンツにプロミネンスの付与を義務付ける

 この内容を見ると、先に紹介した日本の在り方検で想定されている非対称措置の案と、かなり似通ったものであることがおわかりいただけると思います。これが、私がイギリスのプロミネンス・ルールを参考にしているのではないかと推察した理由です。
 ただ、もう少し詳しくこの提言の中身を見てみると、「プロミネンスに係るルールをアップデートする必要がある」となっており 24)、イギリスにおけるプロミネンス・ルールは去年いきなり登場してきたものではないということがわかります。イギリスは日本と大きく異なり、地上放送が50チャンネル以上あるため、プロミネンスはこれまで、電子番組ガイド(EPG)の中、つまり、“地上放送の場における”ルールでした。それが、去年のOfcomの提言では、YouTubeやNetflix、Amazon等のグローバルな配信サービスがひしめく“プラットフォームという場にも拡張”してこのルールを適用する、という提言となったのです。
 Ofcomの提言を受け、イギリス政府は2022年4月、「放送白書 25)」を公表し、正式にこのルールをプラットフォームにも適用できるよう改正しました。そしてOfcomに対しては、PSBとプラットフォームの交渉に介入する権利を与えています 26)。今後、PSBとプラットフォーム、そしてOfcomの間でどのような議論が進んでいくのか、注目していきたいと思います。また、このルールから少し話はそれますが、同時にこの白書では、これまで放送サービスに適用していた番組コード(番組内容に関する規律)を、Netflix等、ネットでのみコンテンツサービスを展開するOTT事業者に対してもテレビ同様の内容を適用することを提言しました。実効性のある規制になっていくのか、こちらも要注目です。いずれにしてもイギリスでは、存在感を増しているプラットフォームに対して、PSBのプロミネンスとコンテンツ規制という2つの側面から視聴者を保護していこうという強い姿勢がうかがえます。

〇今後の議論への期待

 ここまで、日本の非対称措置とイギリスのプロミネンス・ルールの類似点を指摘してきました。逆に異なっているのは、先に触れたように、日本では非対称措置の対象とする条件として、視聴データの適切な取り扱いという側面が強調されているという点です。確かに、ネット上におけるインフォメーション・ヘルスの確保という、これまで在り方検が掲げてきた最も大きな問題意識と、放送局の視聴データの適切な取り扱いは密接不可分であり、それをベースに議論が進んできた経緯は理解できます。しかし、プラットフォーム上で“目立たせる後押し”をする施策の対象を決める判断として、そのことが強調されすぎることについては正直、違和感があります。視聴者の安心安全だけでなく、社会における民主主義を下支えするという観点も含めて考えていくならば、“どういうルールを守る”事業者を後押しするかだけでなく、“どういう理念を持って社会に向き合い、どういうサービスを提供している”事業者を後押しするのかという視点も必要ではないかと思うからです。また、対象となるのが放送局による配信サービスという前提がある以上、例えば同時配信等のサービスを実施していないローカル局のコンテンツはどうするのかという課題もあります。政策的に後押しすべきコンテンツが、仮に地域情報を発信するローカル局のコンテンツであるとするならば、そうしたコンテンツをいかに配信サービスに載せられるかということを、施策の優先順位として考えてもいいはずです。
 イギリスは、多チャンネル時代におけるPSBとは何か、その後、プラットフォーム時代におけるPSMとは何かという形で、BBCだけでなく商業放送も含めて、メディアにおける「公共」の定義をアップデートし続け、その上でプロミネンス・ルールを位置付けています。日本の場合は、電波の希少性や社会的影響力、あるいは「一定の規律を受ける放送と、自由な活字メディア、インターネットとの組み合わせで全体最適を図る 27)」部分規制論という形で、「放送の公共性」が論じられてきました。ただ、それは常にNHKと民放の二元体制が前提であり、民放だけを切り出してメディアとしての「公共」を論じるということは、あまり活発になされてこなかったように思います。放送制度の議論が、放送という閉じた世界からネットに拡張していく今こそ、この論点に逃げずに向き合っていく必要があるように思います。その際の議論を、視聴データの適切な取り扱いという狭いところに押し込めず、もうすこし幅広に議論していくきっかけにはできないでしょうか。
 また、話は更に大きくなりますが、もう一点指摘しておきたいと思います。“目立たせる後押し”の施策がCTVの場合、そもそもテレビですので、後押しする事業者が放送局に限定されるということは、ある程度は納得感もあると思います。しかし、ネット上のプラットフォームの場合はどうでしょうか。ラジオ、新聞や雑誌等の活字メディア、ネットコンテンツ等、あまた存在するメディアの中で、公共を標榜し、それを実践してユーザーから信頼を得ている事業者は少なくありません。なぜ放送局、それも地上放送局のみが、他のコンテンツと区別されて後押しされることになるのでしょうか。放送法によって規律されているという根拠は、多メディア時代においてどこまでユーザーに通用するのか、地上放送が今後もどこまで信頼に足るメディアとして存在し続けられる保証があるのか、そのために目に見える形で努力が続けられているのか、このあたりは大きく問われてくるのではないかと思います。
 つまり、デジタル情報空間における日本版プロミネンス・ルールをどう考えるかというテーマは、これまでの部分規制論を超えた、新たな公共メディアサービスの姿を考えていくという議論にもつながってくると思うのです 28)。テレビメーカーやプラットフォーム事業者、地上放送以外のメディア、そして何よりユーザーにとって、納得感のある議論をどこまで積み上げていくことができるのか、今後始まる議論に注目しています。

③ 公共放送WGの論点

 在り方検の「攻めの戦略」である、放送コンテンツのネット配信を政策的にどのような姿で促進させていくのか、そのもう1つの柱がネット時代における公共放送の役割に関する検討です。
 NHKは今年4月から5月にかけて、テレビを全く、あるいはほとんど見ない約3000人を中心に、公共メディアとして番組や情報をネットで届ける意義や役割について検証する社会実証(第一期)を行いました。情報を正しく・偏りなく理解することを支援する機能や、 偏ったレコメンドを避ける機能等7項目を用意し、アンケート形式で、その機能が社会にとって、もしくは自分にとって有用かどうかを尋ねました。第一期の結果報告 29)については既に実施済みで、今秋にはUIやUX等の使い勝手について検証する第二期の実証を行うことになっています。先出の自民党の放送法小委の第三次提言では、「NHKによる社会実証の結果も踏まえ、インターネット活用業務を、放送の補完ではなく、NHKの本来業務とすべきかどうか、本来業務とする場合にはその範囲をどのように設定するのかも含めて検討すること」とされています。
 今月13日に行われた寺田総務相の閣議後会見 30)では、公共放送WG発足に際し、記者から次のような質問が出されました。「ユーザーである国民としては、いわゆるネット受信料を導入されるのではないかということが関心事(中略)。本来業務化によってネット受信料を導入することが自然な流れになりうるのか、あくまで別個の議論として慎重に考えるべきか」。この問いかけに対し、総務相は、今後の受信料のあり方についても含めて公共放送WGで議論していくと答えています。明日の初回のWGで論点とスケジュールが提示されると思いますので、改めてブログで議論の内容をまとめていきたいと思います。
また、会長の常設諮問機関である「NHK受信料制度等検討委員会」におかれた「次世代NHKに関する専門小委員会(第2次)」の議論にも注目していきたいと思っています。そこでは、イギリスを始め、欧州各国でPSM(公共サービスメディア)のデジタル戦略についての議論が開始されていることを受け、日本でも国内のPSM像をどのように考えていくべきかを議論すべき、という問題提起が行われています。そして、日本版PSM像を考えていくにあたっては、NHKが公共メディアとしてどうあるべきかだけでなく、民放との関係性や、新聞等の伝統メディアをどう位置付けるのかといった視点も持たなければならないのでは、という議論が始まっています 31)。この議論はまさに、在り方検の「攻めの戦略」の2つのWGをつなぐものだと感じています。

 今回のブログでは、在り方検の取りまとめを受けて、私なりに少し大きな論点を提示してみました。まだ調査や取材が至らない点も多いので、引き続き学びながら、できるだけわかりやすく発信していきたいと思っています。


1) https://www.soumu.go.jp/main_content/000828826.pdf
2) https://www.soumu.go.jp/main_content/000832589.pdf p17
3) このキーワードは、「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」第7回で示された「配信サービスに対するガイドラインの適用関係の検討の方向性」の中で示されている
4) 9月13日の総務相の閣議後会見 https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
5)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_hososeido/02ryutsu07_04000322.html
6) 「守りの戦略」についての整理は、8月25日の文研ブログを参照
7) https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/viewership_data/index.html
8) 視聴データ検 第4回会合議事要旨より
9) データ放送の画面を経由して、視聴したチャンネルや日時、IPアドレス等の個人に関連する情報、「非特定視聴履歴」を収集。ユーザーが同意しない場合には収集をストップすることができる、"オプトアウト形式"で実施中。これとは別に、それぞれの局が、名前(ニックネーム)・年齢・メールアドレス・住所等、個人を特定できる情報、「特定視聴履歴」も収集。こちらは、ユーザーの同意を必要とする"オプトイン形式"で実施され、民放の場合は、TVerのIDとの連携などが行われている
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000797516.pdf
11) データ検では、このガイドライン改訂を巡り、放送局としてデータを活用してどんなサービスを行うべきか、行うべきではないのか、各局のデータを共有するために提案された仕組み「共通NVRAM」にはどんな要件が必要なのかについて、視聴者の安心安全が確保されるのかという観点から厳しい議論が行われていた。こちらについては、後日「放送研究と調査」でしっかり触れていきたい
12) 視聴データ検 第6回議事要旨より
13) 視聴データ検 第4回議事要旨より
14) https://www.soumu.go.jp/main_content/000805614.pdf
15) 放送局におけるネットでの動画広告収入は年率150%を超える伸びを記録しているものの、放送局の広告費全体に占める割合は約5%にすぎない
16) 放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチーム報告書「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する制度改正等について」
17) https://www.soumu.go.jp/main_content/000811235.pdf
18) https://www.nhk.or.jp/bunken/research/domestic/pdf/20220701_7.pdf
19) なお、原稿執筆の際に確認していた視聴データ検の議事要旨では、講じる施策について、「非対称措置」ではなく「インセンティブ」と呼称されていた
20) 非対称措置について議論された視聴データ検では、このプロミネンス・ルールについての議論は行われておらず、在り方検で少し触れられていただけであるため、私の推察とした
21) https://www.soumu.go.jp/main_content/000782843.pdf
また飯塚氏は、『ジュリスト』(2022年9月号)の「通信・放送・メディアの在り方」という座談会の中でも、このルールについて詳細に発言している
22) チャンネル4、ウェールズ語放送(S4C)、民放大手(ITVとチャンネル5)、スコットランドの民放(STV)
23) 公共サービスメディア(PSM)のこと。Ofcomは去年、政府に対し、公共サービス放送(PSB)から公共サービスメディア(PSM)への移行を支援するよう、PSMの目的を定めることを提言している
24) https://minpo.online/article/-ofcom.html
25) Up next - the government's vision for the broadcasting sector - GOV.UK (www.gov.uk)
26) https://minpo.online/article/it.html
27) https://www.soumu.go.jp/main_content/000536353.pdf P13
28) こうした観点で、私が興味深く感じた論考を『ジュリスト』(2022年8月号)から2本紹介しておきたい
  長谷部恭男「デジタル情報空間における放送と放送法制」
  水谷瑛嗣郎「放送法制から見たデジタル情報空間」
29) https://www.nhk.or.jp/net-info/data/document/social_proof/social_proof_1st_results.pdf
30) https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001169.html
31) https://www.nhk.or.jp/info/pr/kento/assets/pdf/sub_committee_2_04.pdf
調査あれこれ 2022年09月15日 (木)

#422 いまの沖縄の人たちの思いとは? ~「復帰50年の沖縄に関する意識調査」結果から~

世論調査部(社会調査) 中山準之助

 あなたは、沖縄と聞いて、どんなことをイメージしますか?青い海にサンゴ礁、マングローブに、さとうきび畑。そうした自然以外にも、アメリカ軍基地を挙げる人もいると思います。
 沖縄は今年、アメリカから日本に返還された「本土復帰」から50年を迎えました。そこで、沖縄の人たちが日本への復帰をどう評価し、今の沖縄をどう見ているのか。今後の沖縄はどこへ向かい、どんな姿になっていくのかを探るため、世論調査部では、全国世論調査を実施し、沖縄と全国の回答を比較して、それぞれの意識の分析を試みました。その結果の一部は、文研ブログ#411 「沖縄局以外のNHK地域放送局が伝えた 沖縄本土復帰50年」(2022年8月5日)でも紹介されている通り、沖縄の人たちの意識と、全国の人たちとで、異なる点がいくつか見えてきたのです。

 ひとつ紹介しますと、沖縄の人たちに「沖縄の誇り」を(図1)、全国の人たちには「沖縄の魅力」を(図2)同じ選択肢で尋ねた結果です。

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 どちらも「豊かな自然」が最も多く挙げられています。沖縄の自然は“誇り”であり、“魅力”でもあるのです。ところが、「観光リゾート地」は、全国の人たちの65%が「沖縄の魅力」に挙げて2番目に多いのに対し、沖縄の人たちの「誇り」では34%にとどまり,選択肢の中でも下位です。全国の人たちが「魅力」と思うほど、沖縄の人たちは「誇り」とは思っていないと言えます。
 一方で、全国の人たちが感じている以上に、沖縄では、「沖縄の音楽や芸能」、「家族や親戚を大切にしていること」、「食文化」、「助け合いの気持ちが強いこと」などが6割前後で上位に並んでいます。沖縄の人たちは、“家族の絆”や“人との関係”を大事にしていることが見てとれます。

 沖縄と全国との違いでさらに注目されるのが、これからの沖縄にとって特に重要な課題は何かを尋ねた質問(図3)です。
 沖縄では、「貧困や格差の解消」が77%で最も多く、次いで「経済の自立・産業の振興」が68%、「子どもの学力向上」が64%、そして「アメリカ軍基地の整理・縮小」と「自然環境の保護」がそれぞれ61%などとなりました。一方、全国では「自然環境の保護」が64%、「アメリカ軍基地の整理・縮小」が61%と並んで多く、次いで「経済の自立・産業の振興」が50%、「沖縄の歴史の継承」が49%となっています。
 沖縄で最も多い「貧困や格差の解消」は、全国では25%と少なく、「子どもの学力向上」も全国では18%と少ないなど、課題の認識に差がみられました。

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 全国の人たちが、環境保護や基地の整理・縮小など、社会全体に及ぶ課題を挙げたのに対し、沖縄の人たちは、貧困や経済の自立、子どもの学力向上など生活に直結した身近な課題をより多く挙げている点は、今後の沖縄を考える際に、非常に大事な視点になってくるでしょう。

 今回の調査では、「本土復帰の評価」や、「米軍基地」についても、詳しく聞いています。その結果の一部をご紹介します。

▽沖縄の本土復帰は『よかった』という人が、沖縄では84%、全国では93%。
▽復帰して『よかった』と思う理由の1番は「沖縄は日本であることが望ましいから」。
 よくなかった』と思う理由は、沖縄では「沖縄の意向が尊重されていないから」が44%。

▽日米安全保障条約は『役立っている』が沖縄では約6割、全国では8割超。
▽復帰後も残るアメリカ軍基地について、沖縄では「やむを得ない」が51%、「必要だ」が11%。
▽在日アメリカ軍専用施設の約7割が沖縄に集中していることについて、沖縄では「おかしいと思う」が56%で、どちらかといえばを含めると8割超。全国でも合計は79%に達するが、このうち「どちらかといえばおかしいと思う」が55%と多い。

 このほかにも、「本土復帰の日」「慰霊の日」の認知、「50年間の印象的な出来事」のほか、「沖縄の経済」、「沖縄戦の継承」などについても尋ねました。
 詳細については、「放送研究と調査2022年8月号」で、1970年代から継続して実施してきた沖縄に関する世論調査結果も交えても紹介しています。是非、ご一読ください。
 復帰50年、沖縄の人々の思いを知る一助になることを心より願っております。

調査あれこれ 2022年09月13日 (火)

#421 足元揺らぐ岸田内閣 ~続く旧統一教会問題・安倍氏国葬批判~

放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 日本時間の8月10日。二刀流の大谷翔平がMLBでベーブルース以来となる2桁勝利・2桁ホームランの快挙を達成しました。この直前に行われたNHK月例電話世論調査で内閣支持率が13ポイントも急落していた岸田総理。胸中にあったのは「あやかりたい」の一言だったでしょう。

 しかしながら1か月後の9月9日から11日にかけて行われた月例調査でも、足元の揺らぎが収まる気配はありません。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する  40%(対前月 -6ポイント)
 支持しない  40%(対前月+12ポイント)
 わからない、無回答  20%(対前月 -6ポイント)

岸田内閣の支持率は、発足直後の去年10月に49%でスタートし、衆議院選挙、参議院選挙に勝利して7月には59%という安定水準に達していました。

 それが2か月続きでジリジリと下がり続けている背景には様々な要因がありそうです。

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 まず、8月の支持率急落を受けて前のめり感を漂わせながら行った内閣改造と自民党役員人事の評判がよろしくない点です。

☆あなたは岸田総理大臣が8月10日に行った内閣改造と自民党の役員人事を全体として評価しますか。評価しませんか。

 評価する 34% < 評価しない 56%

岸田総理が態勢立て直しを目指した人事でしたが、萩生田光一政務調査会長や山際大志郎経済再生担当大臣など、旧統一教会との接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次ぎました。

 9月に入って公表された自民党の集計では、旧統一教会やその関連団体と何らかの接点があった国会議員は、所属する379人のうち179人と半数近くに上りました。

 改造内閣の閣僚や自民党役員の中に接点の存在を認めざるを得なかった議員が相次いだのも、旧統一教会側が政権与党の自民党、とりわけ“これからの有望株”にすり寄っていたことを物語っています。

 もちろん選挙運動に大勢のスタッフを動員してもらっていた議員らと、頼まれて行事に祝電を打っていただけの議員らでは程度が違うのは確かです。

 ただ総じて言えることは、かつての霊感商法や多額の寄付の強要などで社会問題化してきた組織に対する警戒心の不足です。「選挙に勝つためにはわらをもつかむ」と語る議員もいますが、選挙の主役である有権者がNOを突き付ける存在をつかんではいけません。

 この問題と密接不可分となった安倍元総理の国葬に対しても、国民は厳しい視線を向けています。

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☆政府は9月27日に安倍元総理大臣の「国葬」を行うことを決定しました。あなたは、この決定を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 32% < 評価しない 57%

参考に7月、8月調査での国葬に関する質問の答えは以下の通りです。

 7月 ⇒ 評価する 49% > 評価しない 38%
 8月 ⇒ 評価する 36% < 評価しない 50%

 安倍元総理と旧統一教会の関係について、岸田総理は「本人が亡くなっているので確かめようがない」と国会で答弁しています。

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 理屈の上ではそうですが、国民にとっては「すっきりしないグレーのまま」と受け止めざるを得ず、それで国葬か?という疑問符が次第に強調されている感があります。

 そこに英国のエリザベス女王の訃報が重なり、彼我の国葬を比較する素朴な世論が形成されつつあります。9月19日のエリザベス女王の国葬、そして27日の安倍元総理の国葬が近づくにつれ、どういう反応が出てくるのでしょうか。

 安倍氏を国葬という最大級の追悼の場で弔うことを決めた岸田総理にとって、自らの判断が国民に受け入れられるかどうかは今後に向けて大きな節目になります。まだまだ説明が足りないと思います。

 さて、10月に入れば秋の臨時国会が開かれ、来年度予算案の編成という政府の一番の仕事が正念場を迎えます。

 特に今年は2月のロシア軍のウクライナ侵攻に端を発した国際情勢の大変動、それに呼応するかのような中国の台湾に対する威嚇行動が相次ぎました。ロシアとも中国とも海を挟んで間近に接する日本にとって、安全保障政策の再構築が急務なのは確かです。

 岸田総理は国民を守る抑止力を強化するために相当な防衛費の増額を目指すと強調しています。問題はどういう部分に予算の積み増しを図るかです。

 安全保障の専門家の間では、最近「ウサデン」なる言葉が飛び交っています。意味しているのは、ウ=宇宙、サ=サイバー、デン=電磁波です。

 そこに示されているのは、従来型の陸海空自衛隊の装備や人員に予算を積み増す発想だけでは駄目だということです。ロシア、中国、そして北朝鮮の軍事的脅威に備えるためには、宇宙からの監視、サイバー攻撃への備え、電磁波による相手の無力化といった手法こそが有効だという判断を示しています。

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 こうした議論を年末までに具体的に深め、国民に提示していくのは相当の力仕事です。そして国民に示す時には、新たな財源をどう確保するかが明確でなければ納得を得ることはできません。

 最も単純なのは防衛費増額のために国債を発行して財源を得るという手法ですが、「これでは戦前の日本と同じではないか」という反発が出るのは避けられません。

 ロシアのプーチン大統領のように歴史の針を巻き戻すようなことはやってはならないでしょう。岸田総理がこの大仕事を通じて国民に対する説得力を発揮できるかが2022年後半の最大の焦点です。

メディアの動き 2022年09月12日 (月)

#420 この作品をコピーして使いたい ➡ 作者に連絡しても返事がない ➡ どうする!?   ~文化審議会「新しい権利処理の仕組み」議論から考える~

メディア研究部(メディア動向) 大髙 崇

 今日から宣伝部に配属されたあなたの最初の仕事が、販売促進イベントのポスターの制作になりました。素敵なポスターを期待しているよ、と上司に言われたあなたは、プレッシャーを感じたのか、どうもいい案が浮かばず、とりあえずインターネットであれこれ閲覧していると・・・。

 「おお、これは素敵だ! イベントのコンセプトにもぴったりだ!」

という写真画像とご対面。一瞬にしてポスターのイメージが浮かび、さっきまでのプレッシャーはどこへやら。俺って才能あるかもしれない。俺のハイスペ、やべえ。

(10分経過)

  できた!ポスターデザイン案! デキる男は仕事が早いぜ。写真を背景に宣伝文字をゴン攻めでレイアウトしたデザイン。このイベントは行きたくなる!・・・おい上司、見て驚け。

「部長、よろしいでしょうか。デザイン案を作りましたのでご確認お願いします」
「早いね。・・・・・・おお、いいねえ!」

 どうだ。どうだ! ボーナス今から楽しみだ‼

ところでこの写真許可取ってるよね? 著作権、大丈夫だよね?」 

 え?・・・げげ! 萎え~~。。。

 その場は何とか取り繕い、撮影者の写真家さんのホームページから秒で連絡先を見つけ出し、写真使用の許可お願いメール送信。・・・ふう。俺に乙。弱気に勝つ。もう終わっちまうのかい夏。あぁ~~、無事にOKもらえたらいいんだけど・・・。

(2日経過)

「ポスターデザイン、まだ?」
「ぶ、部長、すみません! ちょ、ちょっとお待ちください。もう少しいい感じになりそうなので、デザイン練り直してまして・・・」
「こだわるねえ。立派、立派。まぁでも、今日中にはお願いね」
「いやあ、お待たせしてすみません。は、今日中で。承知しました。どうぞご心配なく」

 ・・・あの写真家! 昨日も今日もメール送ったのに全然返信ねーし。ガチ無礼‼
 どうしよう。・・・いや待て。こっちは誠意を尽くしてお願いしてるし、返事をしないほうが悪いわけだし・・・。写真使っちゃっても許されるんじゃね? 時間切れってことで、いいんじゃね??

 なんだか3月まで放送していた「バラエティ生活笑百科」風になりますが(あ、すみません。この段から筆者本人に戻っています)、このような場合、写真を使用すれば、法律上、写真家(権利者)の著作権の侵害だといわれたら、反論するのは難しいでしょう。写真家が返事を怠っていたとしても、あなたは権利者から使用許諾を得ていない(権利処理をしていない)ことに変わりありません。 

 しかし、「返事がもらえないから使えない」というのも、モヤモヤ感は残りますね。
 著作権法の目的は、権利者を保護しつつ、文化の発展に寄与すること。そのバランスをどう図るかが肝ですが、IT技術の発達によって著作物の流通が飛躍的に伸びている今、もっと権利処理の仕組みをシンプルにしてほしい、という声が高まっています。

   時代のニーズに対応すべく、文化審議会の著作権分科会・法制度小委員会では現在、「新しい権利処理の仕組み」について、活発な議論が行われています。「返事がもらえないから使えない」状態も含め、権利者本人からの許諾がなくても、しかるべき手続きをすることで、暫定的に著作物を利用できるようにする「簡素で一元的な権利処理」の方策を検討しているのです。

 8月30日の第二回小委員会では、文化庁から制度化のイメージが示されました。(図)

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 制度化のイメージでは、運用は以下のような流れを想定しています。
 著作物の利用を希望する人は、新たに創設予定の著作物の分野を横断した窓口組織に相談し、データベースを活用して権利者を探します。
①権利者が不明、②権利者の連絡先がわからない、または③利用に対する権利者の意思表示がないような場合、「新しい権利処理」の手続きへと進みます。利用者は使用料相当額を支払い、窓口組織はWEB上で公告(利用について広く一般に知らせること)をします。公告と並行して、利用者は「暫定的利用」を行うことができる、というものです。

   現行の著作権法では、上記の①②、すなわち、権利者が不明、連絡先がわからない、といった場合、著作物を利用できる道を開くための「著作権者不明等の場合の裁定制度(※2)」というものがあります。文化庁に対して所定の手続きを行い、使用料相当額の補償金を供託する(法務局に預ける)ことで、権利者に代わって文化庁長官が利用を認める「裁定」をする制度です。著作物の利用に国がお墨付きを与えるわけです。
   しかし、冒頭のポスターに写真を使いたいという例のように、権利者の連絡先はわかるけど③意思表示がない(返事がない)、もしかすると送ったメールを権利者がたまたま見ていなかっただけ、といった場合、裁定制度の申請対象にならない、ということが課題視されています。
  そこで、「新しい権利処理」では、③をカバーしようとしているのです。手続きや費用負担などもあわせて考えると、「新しい権利処理」が利用者の利便性を向上させ、利用の促進につながる期待が持てます。

  しかし、「新しい権利処理」は、お墨付きがない暫定的利用を始めてから権利者が意思表示をした場合、利用を停止させられるリスクも残ります。写真付きポスターの例でいえば、ポスターが完成し、あちこちに掲示したあとになって権利者である写真家から使用不可の連絡が来たら・・・、全部回収という最悪の事態も懸念されるのです。

  第二回小委員会では、出席した複数の委員から、
「権利者の意思表示とは何を指すか、もっと具体例を示して検討する必要がある」
「権利者から不許諾の意思表示があれば即、暫定的利用の停止となれば、利用者側が萎縮する恐れがある。一定期間の利用継続を認めるような設計が必要だ」などの声が上がりました。
  これまでにない制度改正案のため、さらに精査が必要になるでしょう。意思表示のほかにも、窓口組織やデータベースをどの程度「一元的」なものにできるか、など検討課題が残されています。小委員会の予定では、来年1月には報告書を取りまとめ、次期通常国会に法改正案の提出を目指しています。
  今回示されたイメージ通りになるのか、時代のニーズに沿った制度となるのか。私たち放送関係者にとっても、また、著作物を利用する誰にとっても大いに関係する議論です。今後も注視して、随時お伝えしていこうと思います。

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※1 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第2回)「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元の制度化イメージについて(案)」より
※2  著作権者不明等の場合の裁定制度(文化庁ホームページ参照)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/

 

調査あれこれ 2022年09月01日 (木)

#419 スマホの利用時間は、年齢によってどう違う?~「メディア利用の生活時間調査 2021」の結果から~

世論調査部(視聴者調査)伊藤 文

 文研では、現在の多様化したメディア利用行動をとらえることを目的に、2021年10月に「メディア利用の生活時間調査2021」を実施しました。
この調査では、「テレビ画面」「スマートフォン・携帯電話」「パソコン・タブレット端末」という3種類の機器(デバイス)について、「動画を見る」「SNSを使う」といった、その具体的な内容を含めて利用実態を調べています。また、他のさまざまな生活行動―食事や仕事、家事など―ともども、“時間”の観点から利用実態を把握できるのが特徴です。調査では、15分刻みの行動をまる2日間、記録してもらいました。

 その結果から、まず、1日にどのくらいの割合の人々が、「テレビ画面」、「スマートフォン・携帯電話」(以下スマホ)、「パソコン・タブレット端末」(以下PC)を利用しているのかを紹介します。これをわたしたちは「行為者率」と呼んでいます。
 itou13.pngのサムネイル画像 全体の結果では、テレビ画面の行為者率がひときわ高く、82%です(図1)。スマホはテレビ画面ほど高くなく、64%です。PCは25%で、利用している人のほうが少数派です。

 続いて、テレビ画面・スマホ・PCが、1日あたりそれぞれ何時間ぐらい利用されているのか、時間量をみてみます。

itou12.pngのサムネイル画像テレビ画面が3時間23分、スマホが1時間18分、PCが34分です(図2)
時間量は、テレビ画面 > スマホ > PCの順となり、これは1日の行為者率の高い順と同じです。
 これをさらにくわしくみてみましょう。
itou11.png 図3のグラフは、テレビ画面・スマホ・PCの1日あたりの時間量を、男女年層別にみたものです。
 オレンジ色のテレビ画面は、年齢が上がるほど利用時間が長くなっています。10代は男性で57分、女性で1時間2分、これに対し、70歳以上は男性で5時間17分、女性で5時間19分と、大きな差があります。
 一方、青色のスマホは、20代が男性で3時間26分、女性で3時間28分と突出しています。30代から上の年代では、男女とも年齢が上がるほどスマホの利用時間が短くなっています。
 このようにスマホやテレビ画面の利用時間は、年齢によって大きな違いがあり、男性30代以下と女性20代以下では、テレビ画面より、スマホを利用している時間のほうが長いことがわかりました。スマホを肌身離さず持ち歩き、外出先であれ自宅であれ、手元に置いて頻繁に利用している様子が想像できます。そのなかには、SNSやニュース、メールのチェック、ゲームや動画視聴などが含まれるかもしれません。テレビ画面を利用する場合も、その内容は、放送のリアルタイム視聴のほか、録画視聴・動画視聴・DVDやブルーレイの視聴、ゲームなど、さまざまでしょう。

「放送研究と調査2022年7月号」では、「メディア利用の生活時間調査 2021」の結果から、1日の生活の流れのなかでのスマホやテレビ画面の利用実態、「動画視聴」「ゲーム」「SNS」など具体的なメディア利用行動と、そうした行動を活発に行っている特徴的な年代、また、スマホとテレビ画面の両方を同時に使う行動などについても分析し、報告しています。
是非ご一読ください。

 

メディアの動き 2022年08月25日 (木)

#418 総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」 取りまとめ公表を受けて⑵

メディア研究部(メディア動向) 村上圭子

 本ブログは、8月5日に総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(在り方検)」が公表した「取りまとめ 1)」について整理する2回目です。取りまとめの5つの項目(図1)のうち、1回目は、⑴と⑵について考えました 2)。今回は、残りの⑶守りの戦略(放送ネットワークインフラの将来像)、⑷攻めの戦略(ネット配信の在り方)、⑸放送制度(経営の選択肢拡大等)のうち、⑶について取り上げます3)

murakami1.png 個別の整理に入る前に、地上放送の仕組みについて確認しておきたいと思います。図2-1は主な業務を私なりにまとめたものです。2010年の放送法改正で、放送サービスはハード・ソフト分離型 4) が原則となりましたが、地上放送 5) については事業者の強い要望もあり、これまで通り一致型を選択できる制度整備が行われました。現在、全ての地上放送事業者が、制作・編成・送出・伝送の業務を一体で行う一致型を選択しています。

murakami2.png 在り方検では、これらの業務のうち、送出・伝送部分に関する施策が中心に議論されました。そして、取りまとめでは、IP化の促進等によって、コスト負担を軽減して“守り”を固め、配信サービスを拡充して“攻め”を進めるという方向性(図2-2)が打ち出されました。今回のブログは守りの戦略について見ていきます。

murakami.png ◆ 守りの戦略―放送ネットワークインフラの将来像 ~踏み込んだ問題提起と残された論点~

1.
検討の背景

 放送局は、優れた番組を制作したり、正しい情報を伝達したりすることと同様に、放送波を確実に届けるための送信・伝送業務に取り組むプロフェッショナル達がいます  6)。放送波を確実に届けるには、「放送局の心臓部」と呼ばれる各局舎内に設置しているマスター設備(番組やCMをタイムテーブルに従って送出するシステム)と、放送波を届けるために設置している多くの中継局を事故なく運用することが不可欠です。これは、放送をユニバーサルサービスとして提供する地上放送事業者の最も大きな責務の一つです。 
 しかし、事業者の経営の先行きが不透明感を増す中、これらの設備の保有や維持に関する経費が個々の事業者の経営を圧迫しつつあるという課題を抱えていました。たとえば、マスター設備は10~15年毎に更新する必要がありますが、その都度、県域局と広域局で機能に差があるものの、数億~20億円程度 7)の投資をしなければなりません。ここ数年、各局で更新作業が続いており、早めに更新を済ませた在京キー局では、次期更新が2028年~30年頃に予定されています。また、中継局の維持経費は、民放連によれば民放127局あわせて年間約290億円、NHKによれば年間約230億円かかっているといいます 8) 。全ての経費のうちの約半分は、山間地等に設置されている、カバーエリアが狭く対象世帯数が少ない小規模中継局等の施設です。このうちミニサテについては2026年~28年頃に更新時期が迫っており、民放からは、更新時に受信料収入で民放分も負担できないかといった要望が出されていました。
 そのため在り方検では今回、守りの戦略(コスト負担の軽減策)として、1)マスター設備の将来像、2)中継局の保守・運用・維持管理のあり方、3)維持・更新費用が割高な小規模中継局等のエリアに対する伝送方法の大きく3点が検討されました。
 検討のもう1つの背景としては、IP化やデジタルテクノロジーの急速な進展がありました。マスター設備については集約化やクラウド化が進んでおり、大きな装置を局舎内に設置する“オンプレミス型”が唯一の選択肢ではなくなりつつあります。仮に外部に委ねることができれば、施設を置くスペースも必要なくなりますし、徹夜で監視作業にあたる等の業務の省力化も見込めます。また、放送局は全国津々浦々に放送波を伝送するために中継局を設置してきましたが、光ファイバの普及によって、通信インフラで代替する物理的環境も整いつつあります。2022年4月、国は「デジタル田園都市国家インフラ整備計画  9)」を公表し、2021年度末に99.3%だった光ファイバ世帯カバー率を2027年度末までに99.9%を目指すと掲げています。7月には電気通信事業法が改正され、有線ブロードバンドが「国民生活に不可欠であるため、あまねく日本全国における提供が確保されるべき電気通信サービス」と位置付けられ、整備のための交付金制度もできました  10)

2. 取りまとめの方向性と今後 1)マスター設備 2)中継局の維持・管理等

これまでも一部の事業者においては、制度上可能な範囲内で、マスター設備の集約化を試みたり、系列を超えて地域の局が共同で中継局の維持・管理にあたったりしてきました 11)。在り方検では、これらの取り組みの情報も共有されましたが、より踏み込んだ議論も行われました。たとえば、制度的にハード・ソフト分離型の欧州では、マスター機能を放送局に提供するマネージド会社、無線設備を保有・運用するハード会社、土地・鉄塔・電源等を所有するタワー会社が送信・伝送部分を担っている事例が紹介され、これらを日本はどう参考にしていくのか等が議論されました。
 これらの議論の結果、取りまとめでは、1)マスター設備については集約化・IP化・クラウド化、2)中継局の維持・管理等については共同利用型モデル、という方向性が示されました。(図3)

murakami30.png 1)については、コスト負担の軽減と、安全・信頼性の確保をどう両立させるかが今後の課題とされました。仮にクラウドを利用する場合には、マスター設備の利用者である事業者自身がリスクを把握、制御できるのかが問われるとの指摘がなされました。今後はこれらの技術要件の議論を進めると共に、民放では系列ネットワークを主とした検討が進んでいくものと思われます。
 2) については、共同利用型モデルの導入で、業務効率化・信頼性向上・コスト低減が期待され、各事業者はコンテンツ制作への注力が可能になるといったメリットが強調されました。一方、留意点としては、ハード事業者の収益性の確保があげられました。収益性の確保と密接に関わるのが対象設備の範囲です。小規模局だけでなく、効率のいい大規模局も束ねて業務を行っていかなければ、ハード事業者を作ったとしても経済合理性は見込めません。ただ、今回の取りまとめでは対象施設の範囲までは明記されませんでした。
 取りまとめに合わせて公表された意見募集の内容には、国からの施策の強制や義務化への反対の声も少なくありませんでした。個社の事情も勘案しつつも、広い視野で業界内連携のあり方を考え、イニシアチブをとって進めていく役割は誰が担うのか……。その際、既に民放と共同で多くの中継局の建設を行っているNHKの立ち位置や受信料の負担のあり方はどうあるべきか……。放送局の役割を、ハードからソフトへ、インフラからコンテンツへ、よりシフトチェンジしていくためには、業界内で系列やNHK・民放の垣根を超えて、主体的に議論を進めていく力が求められています。引き続き議論を注視していきたいと思います。

3. 取りまとめの方向性と今後 3)放送波のブロードバンド等代替

 守りの戦略としてもう1つ示された方向性が、3)の放送波のブロードバンド等代替でした。これについては、放送政策にとって大きな転換点となる内容だと感じたため、少し厚めに触れておきたいと思います。
 先ほど、放送波を伝送する中継局の維持経費のうち、約半分は小規模中継局等の施設であるということに触れました。これらの施設はどの位の世帯をカバーしているのかというと、NHKにおいては約2割、民放においては約1.5割となっています。一世帯あたりで換算すると、大規模局に比べて維持経費はかなり割高であることがわかります。そのため、小規模中継局等の施設では、番組の伝送を、放送波からブロードバンド等に代替した方が放送局のコスト負担の軽減になるのではないか、ということが検討されたのです。
 検討の最大のポイントは、代替の対象として、これまで制度上は放送として扱われてきたケーブルテレビネットワークやIPマルチキャスト方式だけでなく、制度上は通信として扱われ、「NHKプラス」「TVer」等のオープンインターネット上の配信サービスと同じIPユニキャスト方式が俎上にあげられ、検討の主眼となったということでした。ちなみに総務省は2018年にIP放送に関する技術基準を施行しているのですが、その際の前提は、事業者が放送と同一の品質を保証することができるIPマルチキャスト方式でした。一方、放送と比べて30秒近く遅れたり、アクセスが集中した場合には映像の画質が悪くなったり、場合によっては画面が固まってしまったりする、“ベストエフォート型”のサービスであるIPユニキャスト方式は、IP放送とは位置づけられませんでした。
 このIPユニキャスト方式を放送波の代替の検討の主眼に置くという方向性は、在り方検が始まった当初から明確に示されていました。光ファイバがユニバーサルサービスとなる時代において、伝送部分は放送と通信の垣根をなくし経済合理性で判断していこうという総務省の意思は理解できましたが、品質が保証されないIPユニキャスト方式を検討の主眼にするということについては、多くの関係者も当初、違和感を抱いており、私も腑に落ちていませんでした。
 そんな中、今年6月、私は幕張メッセで開催された「Interop Tokyo2022」の基調講演で、在り方検の「小規模中継局等のブロードバンド代替に関する作業チーム(作業チーム)」メンバーのクロサカタツヤ氏と一緒に登壇する機会を得ました。そこでクロサカ氏はIPユニキャスト方式を積極的に検討する理由について次のように語りました。「マルチキャストは一定の設備が必要であり、提供できる事業者も絞られる。(中略)これを放送インフラとして使って良いのかという議論はある。だが、ユニキャストならばどの事業者でも対応可能だ」「ユーザー目線に立てば、IPも放送も『いま使っているスマホの中』という印象だろう。ユーザーにとってシームレスに移行できる道を考えるべきでは無いか」12)。これを聞いて私は、IP化とは基本的にオープンなもので、多くの事業者が参加することで技術もサービスも向上していくこと、そしてサービスのあり方は特定の事業者ではなくユーザーが決めていくものであること、通信融合の垣根をなくしていくという本質はこういうことなのだ、ということに気づかされました。

 作業チームは今年2月から議論を開始し、これまで通り中継局から放送波で伝送する場合とブロードバンドで代替した場合の費用の比較を、NHKの小規模中継局以下の63施設の対象エリアを抽出してシミュレーションしました(図4)。内容の詳細は作業チームの取りまとめ 13)が別途公表されているのでそちらを確認いただければと思いますが、今後の人口減少も勘案すると、2040年にはミニサテの約半数のエリアにおいて、ブロードバンドで代替する経済合理性があるという結果が報告されました。

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 この試算では、放送アプリケーションの費用や、そもそも光ファイバが敷設されていないエリアでの整備に関わる一切の費用が計上されていないという点には留意する必要があります。また、対象エリアにおいてこれまで放送波経由でテレビを視聴していた視聴者は、ネット接続サービスを利用していなければ、回線を自宅に引き込んだりISPとの契約をしてもらったりする負担が伴ってきます。これをどのようなスキームで整備するのかによっても試算は変わってくる可能性があります。ただ、これまで漠然と、放送波より通信の方が、経済合理性が高いのではないかという指摘がなされてきた中で、こうした具体的なシミュレーションの結果が初めて公表されたことは、在り方検の大きな成果ではないかと思います。
 図5は、作業チームの取りまとめに示された制度面・運用面の課題です。先ほど、総務省は、伝送路においては通信と放送の垣根をなくし、経済合理性で判断していこうという意思があるのでは、と書きましたが、そのための放送制度をどのような姿にしていこうとしているのかについてはまだ見えません。通信として位置付けられており品質の厳密な保証も難しいと想定されるIPユニキャスト方式による代替を、放送法や著作権法でどのように位置づけていくのか。この問題は、そもそも放送の定義とは何か、ユニバーサルサービスとは何かという根源的なテーマにつながります。また、放送規律や受信料制度、既に行われている放送事業者による同時配信等の配信サービスやケーブル再放送サービス等との関係も整理していかなければなりません。言うまでもありませんが、対象となるエリアの受信者・視聴者にどのように理解を得、視聴のためのサポートをしていくのかも極めて重要なテーマです。

murakami10.jpg 今後の検討スケジュールとしては、特定の地域を対象に住民や自治体の協力を得ながら配信実験を行い、年度末に何等かの報告をまとめることが決まっているとのこと。制度面や運用の課題はその後、ということのようですが、総務省の検討を待たず、私なりに考えてみたいと思います。
 次回は、⑷攻めの戦略について整理していきます。

1) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000236.html 
2) https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/2022/08/10/ 
3) 8月10日のブログでは2回で書くことを予告していたが、取りまとめの要素が多いことから回数を増やした
4) ソフト事業者は放送法の基幹放送事業者の認定を受けた「基幹放送事業者」、ハード事業者は電波法の基幹放送局の免許を受けた「基幹放送提供事業者」。ソフト事業者はハード事業者から設備の提供を受けて事業を行う。ソフト事業とハード事業の分界点だが、送出設備については、事業者が全部または一部をハードもしくはソフトのいずれかに含むかを選択できることになっている(放送法施行規則第3条)
5) 正式には「特定地上基幹放送局」を指す
6) こうした放送技術に関する人材の育成、確保も近年大きな課題となっている
7) 民放ローカル局の場合、広域局で20億程度、県域局で6億程度という(独自ヒアリングによる。系列により異なると思われるのであくまで参考値として提示)。この他に民放は、送出のために営放(営業放送)システムも必要で、こちらも億単位の投資が必要となる。
8) 中継局の年間の維持費用については、民放連、NHKが在り方検で報告した数字を用いた
9) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban01_02000042.html 
10) https://www.soumu.go.jp/main_content/000821000.pdf P5
11) マスター設備については、JNN系列で、あいテレビ(愛媛県)と中国放送(広島県)ではセントラルキャスティング方式(地域ブロック内で親局を決め、系列局のネット番組やCMの送出を親局が一括管理)が採用されていた時期があった。中継局の維持管理については、在京、在阪、青森県、長崎県等で系列を超えて共同でメンテナンス会社を設立したり業務委託したりするなどの取り組みが行われている。
12) この基調講演の詳細は、Screens「Interop Tokyo 2022基調講演「IP化時代における放送の将来像」レポート」に再掲されている。
前編 https://www.screens-lab.jp/article/28116 
中編 https://www.screens-lab.jp/article/28117 
後編 https://www.screens-lab.jp/article/28118 
13) https://www.soumu.go.jp/main_content/000827791.pdf

調査あれこれ 2022年08月19日 (金)

#417 「東京パラリンピック視聴と障害者スポーツへの理解」③ ~「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」~

世論調査部 (視聴者調査) 斉藤孝信

 前回に続いて、文研が2016年から実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果をもとに、東京パラリンピック(以下、東京パラ)を人々がどのように視聴し、それが障害者スポーツへの理解促進につながったのかどうかのお話です。

 <前回ブログまでのポイント>
 ①多くの人が、東京パラをNHKや民放の放送や、NHKプラスなどのインターネット向けサービスを通じて視聴した。
 ②東京パラをNHKで視聴した人の大多数が、大会をきっかけに、障害者や障害者スポーツへの理解が進んだと回答し、東京パラをスポーツとして楽しめた人が多い。

 今回も、東京パラをNHKで視聴した人の回答に注目しますので、まずは視聴した人の割合を改めてご紹介しておきます。74%と非常に多くの人が視聴してくださいました。

saiitou3-1a.png 今回のブログでは、NHKで東京パラを視聴した人たちが、障害者スポーツに対してどのようなイメージを持ったのか、みていきます。

 調査では、人々が障害者スポーツに対してどのようなイメージを持っているのかを把握するために、「あなたは、『障害者スポーツ』と聞いて、どのような言葉を思い浮かべますか」という質問をしました。その回答結果を、東京パラをNHKで視聴した人と視聴しなかった人別に集計したのが、次の表です。

saitou3-2a.png ご覧のように、視聴した人でも視聴しなかった人でも、トップは「感動する」というイメージですが、その割合には大きな差があります。また、視聴した人では、「すごい技が見られる」「明るい」などポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも軒並み多くなっています。
 前回のブログでは、NHKで視聴した人は、東京パラをスポーツとして楽しめたというお話をしましたが、ここでも、「すごい技が見られる」「迫力のある」「面白い」「エキサイティングな」など、スポーツとしてのポジティブなイメージを持つ人が、視聴しなかった人よりも多いことがわかります。
 一方、「難しい」「痛々しい」「親しみのない」というネガティブなイメージを持つ人の割合は、視聴した人では、視聴しなかった人よりも少なくなっています。そもそも、視聴しなかった人では「感動する」以外はどの項目も20%未満と少ないので、「障害者スポーツ」と聞いても、パッと思い浮かぶイメージがあまりない、ということなのかもしれません。
 パラ競技は、選手の障害の種類や程度などによって、競技のクラス分けやルールが細かく設定されているので、どうしても、ふだん見慣れているオリンピック競技よりも「難しい」という印象を持たれるように思いますが、前述のように、視聴した人では「難しい」というイメージを持った人はわずか8%でした。言い換えれば、ほとんどの人が、“東京パラを視聴しても、難しいとは思わなかった”わけです。
 現実問題として、難しいはずなのに、どうして「難しい」と思わなかったのか。これについては、別の質問で、東京五輪・パラを楽しむためにどのような放送やサービスが役立ったのかを複数回答で尋ねた結果をご紹介します。

saitou3-3a.png 調査相手全体のトップは「競技の見どころをまとめたハイライト番組や映像」(57%)ですが、東京パラをNHKで視聴した人では「競技への関心につながるような選手やルールの紹介や解説」が65%で最も多くなりました。また、「競技中継の内容や注目点を画面上でわかりやすく伝える文字情報」を挙げた人も、全体より多くなっています。
 今回の東京パラで、多くの人が視聴したNHKの競技中継や番組では、画面上のテロップやアナウンサーの実況、解説者のコメントによって、かなり詳しくルールを説明していましたので、そうした工夫が、パラ競技のわかりにくさを減らし、結果的に、スポーツとして楽しめた人を増やしたのかもしれません。

 『放送研究と調査』6月号では、“人々にとって、東京五輪・パラとは何だったのか”と題して、今大会が人々にとってどのような意義を持ち、日本にどんなレガシーを遺したのかなど、さまざまな視点で考察しています。特に、今回のブログでご紹介した障害者への理解促進に関しては、「大会をきっかけにバリアフリー化が進んだかどうか」を尋ねた結果で、日ごろ障害のある人と身近に接している人と、接していない人では、回答に違いが出ていて、深く考えさせられました。ぜひお読みください!