メディア研究部(メディア史研究) 広谷鏡子
私の兄が大学受験に失敗した年、母は何を血迷ったか、家族全員にテレビ禁止令を発しました。そのため、我が家は1972年4月からのほぼ1年間、『8時だョ!全員集合』(TBS系列)を見ることなく過ごしたのです。月曜日、その話題で持ちきりの教室で、人気のギャグを知っている振りをして過ごすしかなかった切なさを、私はよく覚えています。家庭用ビデオもYouTubeもない時代、生放送を見ずしてそのギャグにはお目にかかれない。それほどの影響力をテレビが持っていた頃のお話です。
「放送研究と調査」9月号に掲載した論考「『6人目のドリフ』は僕らだった」、その主役は「テレビ美術」です。生放送中に派手に崩れていくセット、ちょっとキモ可愛い動物のキャラクターや着ぐるみ、独創的な小道具…。それらはすべて「美術」です。舞台上で、ドリフターズの次に光を放っていたので、「6人目のドリフ」なのです。その美術計画の中心にいた人が、TBSの山田満郎デザイナー。すでに亡くなっているので、このインタビューは、今はいない山田さんがあたかもそこにいるかのように、当時のスタッフに語ってもらうという形で行いました。スタッフの記憶を呼び覚ましたのは、図面やスケッチ、写真など、山田さんの残した緻密かつ膨大な資料でした。

山田デザイナーによるスケッチ(第242回「ドリフの夢のマイホーム」・山田氏遺族提供)
お話を聞いている間に、幾度か泣きそうになってしまうことがありました。働き方改革などチャンチャラおかしい当時の現場で、スタッフが流した汗や涙(時には血まで!)に、ついついもらい泣きです。しかし一番ツボだったのは、山田さんのご子息の言葉です。家族も影響を受けていたのです。論考本文の後の(注26)に載せました。よかったらこちらもご覧ください。
毎週土曜の夜8時、たった54分間のために、スタッフも、視聴者も「全員集合」していた時代がありました。そこで流れた汗はテレビの未来のために無駄ではなかった、と信じたい気持ちになります。
メディア研究部(メディア動向) 村上圭子
フジテレビ系で放送していたリアリティーショー『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020(以下、『テラスハウス』)に出演していた22歳の女性プロレスラー、木村花さんが亡くなって、まもなく5か月が経とうとしています。花さんの母親の響子さんはBPO(放送倫理・番組向上機構)に対し、「番組で狂暴な女性のように描かれたことによって、番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」と人格権の侵害などを申し立てていましたが、先月(9月)15日、BPOは審理を開始することを決定しました。今後BPOの放送人権委員会では、番組を制作したフジテレビにもヒアリングを行っていくことになります。
10月1日に発行した『放送研究と調査』10月号では、木村花さんの死が社会に提起した様々な問題について考えていくシリーズの第1回を掲載しています。
ここでは、リアリティーショーの誕生から今日に至る歴史を、欧米と日本を比較しながらひも解きました。欧米や日本のこれまでのリアリティーショーの具体的な番組内容や様々な課題について詳細に触れていますので是非お読みいただきたいのですが、かなりの長文になっていますので、そこまではちょっと…と思われる方は、サマリーした内容(10分もあれば読了します!)を先日のブログにまとめていますので、こちらを是非お読みください。
今後、本ブログや「放送研究と調査」では、BPOの審理の進捗なども踏まえながら、SNS時代のリアリティーショーと番組制作における制作者の責任や、出演者・視聴者との関係性について考えていこうと思っています。今回のブログでは、日本よりもはるかに多くのリアリティーショーが放送されており、同様の問題への対策の議論が先行するイギリスの状況について触れておこうと思います。
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イギリスでは2019年7月から2020年7月まで、放送やメディアの独立規制機関であるOfcomが、視聴者参加型の番組で出演者を守るためのルールについて、意見募集を行いました。Ofcomでは以下の項目を放送規則に加えることを提案しています。
*放送局側が番組参加者に対し、参加することでどのような損害を被る可能性があり、
どのような負の影響が出るかなどについて説明し、これに十分な同意を得ること
*“傷つきやすい人々”及び参加することで損害を被るリスクがある人々に対し、十分なケアを提供すること。
なぜこうした提案がOfcomから出てきたのか、意見募集を終えた現在の状況はどうなっているのかについて、ご自身もブログでイギリスのリアリティーショーについて執筆されている1)フリージャーナリストの小林恭子さんに伺いました。小林さんには今回、「放送研究と調査」の論考を書くにあたり、イギリスのリサーチをお願いしています。
村上:
今回Ofcomが提案している規則案は、リアリティーショーの出演者に対する放送局の説明責任や、ケアの必要性について言及したものですが、“リアリティーショー先進国”であるイギリス社会では、いつ頃からこうした問題意識が持たれていたんでしょうか。
小林:
イギリスでいわゆるリアリティショーのブームを生む契機となったの『ビッグ・ブラザー』(2000年、チャンネル4で放送開始)です。郊外の一軒家(「ビッグブラザーハウス」)に若い男女数人を隔離し、共同生活の様子をカメラで監視し、これを放送するという、当時としては前代未聞の形式が取られた番組で、当時からプライバシーの侵害問題、人間を常時監視することの是非、参加者たちのプライベートな会話の中の中傷あるいは差別的表現、暴力的行為などにどう対処するべきかなど、論争のネタは尽きませんでした。
ただ、当初は参加者・出演者の心身への負の影響は(同列に語られていたとしても)それほど大きな問題とは認識されていなかったように記憶しています。テレビに出ると途中で脱落しても有名人になれましたし、「普通の人」がメディアに出ることで私生活を切り売りしたり、最後に優勝すれば多額の賞金がもらえたりするなどの行為について、参加者は「私生活が暴かれるのを承知で出ているのだから」という認識がありました。
この番組が大ヒットとなり類似番組が続々と作られていくようになると、リアリティーショーは「番組形式の1つ」として受けいれられるようになっていきます。日常になってしまったわけですね。それに伴い、番組形式自体に対する批判(監視体制やプライバシー侵害の是非など)は当初よりは目立たなくなり、知識人を含めた著名人が出るスピンオフ番組も数多く放送されるようになってきました。
村上:
出演を決めた側に責任はある、という世間の受け止めですね。ただ、多くの人達が一斉に視聴するテレビに出演し、名前や顔が一気に広まり“有名になる”ことに伴う様々な影響はあまりに大きく、プラスの効果はなんとなく想像できるしそれを期待して出演を望んだ(受け入れた)というのはあると思うのですが、マイナスの効果についてどこまで想像が及んでいたかといえば疑問ですよね。だから、私は自己責任論には拠りたくないです。しかし、イギリスでもその論調が変わってきた、ということなんでしょうか。きっかけはどんなことからですか。
小林:
ソーシャルメディアが急激に広がり、これによる番組参加者への影響も大きくなり、出演者には以前には見られなかったほどの複雑な問題やリスクが生じる可能性が出てきたんです。こうした中、2019年には司会者が課題を抱える家族同士を対決させる『ジェレミー・カイル・ショ―』(ITV)の出演予定者が自ら命を絶ったり、番組が中止になったりする事件(2019年5月)がおきました。また今年2月には、孤島で8週間若い男女が生活する様子を観察する『ラブ・アイランド』(ITV)で、司会者キャロライン・フラックが自ら命を絶つ事件(今年2月)が発生しました。フラックさんは、同番組への出演者(司会者も含むと)の中では3人目の自殺者です。この番組ではその後も1人亡くなり、計4人が自ら命を絶っています。自殺の背景にどこまで番組への出演の影響があるのかは事例によって異なるようですが、社会的に見逃せない状況になってきているのは間違いありません。こうした事件が起きるたびに、Ofcomには数千、場合によっては数万の苦情が寄せられています。
加えてイギリスでは近年、メンタルヘルスに対するイメージアップや、幸福感(ウェルビーイング)についての意識が高まるという文化上の変化も起きています。このことによって、番組への出演も含めて様々な体験から生じる心身への危害をもっとオープンにしていこう、そして懸念を発信していこうという動きが出てきていると思われます。
村上:
なるほど。リアリティーショーという番組そのものが出演者にかける負荷の問題に加えてソーシャルメディアの存在が大きくなってきたということが、今回、Ofcomが動いた大きなきっかけということですね。意見募集は7月に終わったそうですが、現在はどのような状況なのでしょうか。
小林:
現在、Ofcomは取りまとめに入っているところです。放送業界の反応ですが、リアリティーショーだけでなく、ニュースや時事番組の出演者についても放送局側に「ケアの義務」を課されることになると自由な報道ができなくなる、と懸念しているようです。
村上:
たしかに放送局の立場からすると、放送規則で縛られるのではなく、局自身が自主的にルールを決め、その内容を社会に示して対話の中で決めていく、そして出演者に対し、出演を決める前から継続的にコミュニケーションをとり信頼関係を構築しながら番組制作、放送を行っていくというのが理想だと思いますが、それはなかなか難しいということなんでしょうか。
小林:
先の『ラブ・アイランド』など人気が高いリアリティショーを多く放送するITVは、既に「注意義務(Duty of Care)」を文書化しています。最新の注意義務ガイダンスによると、番組制作者は出演者の健康と安全に責任を持ち、番組参加による出演者への衝撃及び放送による衝撃の両方を考慮することが求められています。補則にはリスクの程度に応じて、何をするべきか、リスクをどう判断するかも示されています。
ローリスクの場合は、制作前の段階として「出演者から同意(インフォームドコンセント)を得る」、「番組の性質、目的、出演者は何を求められるかを説明」、「同意を与える能力に影響を与えるような健康問題などを抱えているかどうかを査定」するなど。撮影中は「ストレスやメンタルヘルス問題の兆候があるかどうかをモニターする」、「ITVのコンプライアンスあるいはリスクチームからアドバイスを得る」など。アフターケアとしては、「放送後の制作側の連絡情報を提供する」、「常にサポートを提供できることを出演者に明確にする」、「ソーシャルメディア上での敵意あるコメントについてのアドバイスを与える」などです。
ハイリスクの番組の場合は、制作前に「番組出演による負の面、例えばオンラインでの攻撃、知人らがメディアにその人についての情報を売る可能性があることなどを教える」、「これを記録する」など。撮影中は「専門家による心理学上のアドバイスを24時間提供できるようにする」、「出演者の健康を管理する担当者を置くこと」など。アフターケアとして「フィードバックの時間を持つ」、「それまでの生活に戻るため、あるいはメディア報道への対処などを支援する」、「カウンセリングを提供する」など。撮影が終了し、出演者が帰宅する前に出演者の心理状態、番組内でどのような位置づけとなっているか、メディアやソーシャルメディア関連のアドバイス、お金の面についてのアドバイスも提供するようにと書かれています。最後の項目は、出演によって巨額の出演料が入る可能性も高いことを加味してだと思われます。
村上:
うーん。それを伺うと、細かく決めて配慮を行っている、という印象以上に、そこまでのことをしなくてはならないほどリスクの高い番組って何なんだろう、と感じてしまうのが正直なところです。特にハイリスクの番組については、そもそもこうした番組をあえて制作すべきなのか、とも感じてしまいました。そして、こうした「注意義務」があるにも関わらず、結局は出演者の自殺を食い止められていない、ということなんですね。
小林:
そうなんです。そのことも今回、Ofcomが規則化を提案する背景にあります。提案が今後どうなっていくのかについては注視していきたいと思いますが、ただ、こうしたリスクが指摘され、議論が大きくなってもなお、リアリティショーは継続して制作・放送されるのではないではないでしょうか。それはやはり、視聴率が高いこと、高額の広告収入が入ることなどの要因があるからですが、根本に「テレビの魔力」があるからではないかと思います。「出てみたい」と思わせるのがテレビです。多くの若い人にとって、リアリティショーに出る人は憧れの対象になり得ます。著名人であっても、一つ上の段階に行くためにテレビに出たがる人は無数にいることでしょう。
でも、Ofcomが提案書を出す際の理由にも挙げていますが、その負の面も次第に注目を集めることになってきました。いいことばかりではないことが分かってきたのです。リアリティショーをめぐって、私たちは「テレビ」という、いわば魔物を手なずける道を探すべき時に来ているのではないでしょうか。何万もの人の目にさらされることで、自分の傷つきやすい部分が何倍にも拡大されてしまうこと、ソーシャルメディアが発達したことで、視聴者の反応が双方向に広がること、出演者を攻撃する可能性があること、こうしたことに自分は 本当に耐えられるのかを考えてみること。
もし前向きの要素があるとしたら、リアリティーショー出演による負の面を減少させる動きが出演者の側から出てきたことかもしれません。BBCニュースによりますと、リアリティーショーの出演者たちがいかにソーシャルメディアの反応に苦しめられたかなどを告白し始めています。また、今月から、リアリティーショーの番組の出演者を“オーディションする新番組”が放送されるのですが、そこでは、かつて出演者だった人達がオーディションに来た若者たちへのアドバイスをするそうです。「スポットライトの下に出た瞬間、あなたは(人に)判断される。だから、面の皮が熱くないとダメ」と。その出演者たちは、かつて自分たちが制作側から全く何のケアも支援も行われなかったと吐露しています。
リアリティーショーは多くの若者層にとってすでに日常の一部として受け止められていますし、テレビの魔力が続く限り、出演者側が賢くなって「ともに生きる」しか選択肢はないように思っています。
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木村花さんが亡くなって以降、リアリティーショーのような番組を制作すべきではない、と発言している精神科医や評論家は少なくありません。番組が何らかのきっかけとなって尊い命が失われた以上、こうした論調に大きく傾くのはある意味当然であるとも思います。ただ、放送文化やコンテンツ文化のあり方を考える立場の私としては、リアリティーショーと呼ばれるジャンルを全て一律に括り、制作はやめてしまうべき、という論に安易に与してしまうことは、この問題に対して思考停止してしまうことになると思っており、だからこそ考え続けていかなければならないというスタンスに立っています。そして日本においては、いまもなお数多くのリアリティーショーが、主に現在は配信サービスではありますが、制作されているという状況もあります。
ただ、今回イギリスの状況を小林さんに伺い、より頭を抱えることになってしまったというのが正直な感想です。日本ではイギリスのような放送局や配信事業者自身によるガイドラインも作られていない状態ですし、仮にガイドラインが作成されたとして、ソーシャルメディアがこれだけ広がっている中で果たしてどこまで有効に機能しうるのか……。
今回、小林さんに伺ったOfcomの提案の結果や放送局の反応については、改めて「放送研究と調査」で続報を記していきたいと思います。また、日本でのBPOでの審理についても見守っていきたいと思います。
1) 小林恭子「【テラスハウス・出演者死去】英国のリアリティ番組でも、問題続出 私生活露出でもOK?」
『ヤフー個人ニュース』(2020年6月1日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20200601-00180964/
メディア研究部(メディア動向) 入江さやか
東日本を中心に記録的な豪雨をもたらした昨年10月の台風19号(東日本台風)からまもなく1年を迎えます。台風19号では84人(災害関連死除く)が亡くなり、65歳以上の高齢者がその6割以上を占めていました1)。NHK放送文化研究所が被災地で行った調査から、高齢者の「情報ライフライン」としてのテレビの重要性が改めて浮かび上がってきました。

写真1:国土交通省の河川カメラで阿武隈川の氾濫発生を伝えるテレビ画面
多くの文字・画像が盛り込まれている
(2019年10月13日午前2時半ごろ NHK総合テレビ)
■「テレビの映像が唯一の頼れる手段です」
NHK放送文化研究所は、台風19号で被災した長野県長野市、宮城県丸森町・石巻市、福島県本宮市・いわき市で、浸水したとみられる地域の20歳以上の男女計3,000人を対象に、郵送による世論調査を行いました。地元の自治体が発表した「避難勧告」を知った手段を聞いたところ、いずれの自治体でも、年代層が高くなるほど「テレビ」の割合が高くなる傾向がみられました。
さらに今回の調査では「台風19号のような豪雨災害のおそれがある時、テレビやラジオはどのような放送をすべきだと思いますか」という質問に自由に答えてもらいました。その回答には、高齢者からの切実な訴えが数多く記されていました(すべて原文ママ)。高齢者にとってはテレビが情報の「ライフライン」であることに改めて気づかされる内容でした。
「私達夫婦二人生活 80才近くの者です。テレビとラジオが知るすべてです。あまり難しい
表現でなくとにかくわかりやすい言い方等で知らせてください」(宮城県石巻市・70代女性)
「アプリ・ラインなど使えないのでテレビの映像が唯一の頼れる手段です」
(福島県本宮市・70代以上女性)
「高齢者に情報を届けたいのであれば『スマホを利用して』ということは除外すべき。
持っていたとしても使いこなせていないのが現状」(福島県いわき市・70代以上男性)
■テレビ画面にあふれる情報 高齢者に届いているか?
災害時のテレビ放送について、高齢者からの具体的な要望も多く書かれていました。
「一覧表が流れる帯状のテロップだと他の多くの地名にまぎれて、自分の地区を見落とした」
「画面の文字をもう少し長く残してほしい」
「重要なことは大きな文字で知らせてほしい」
「高齢者は音を聞き取りにくいので、もっとゆっくり・はっきり話してほしい」
「『越水』ではなく『水が堤防越しました』など、普段の使い慣れた言葉で呼びかけてほしい」
今回、改めて台風19号の際の放送を見直してみると、テレビ画面にはL字スーパーやレーダー画像、二次元コードなどのさまざまな文字情報や画像があふれています(写真1)。近年、防災気象情報が高度化・細分化され、放送を出す側も、できる限り地域に密着したきめ細かい情報を届けようと努力しています。それが高齢者にとって見やすい・聞きやすい放送になっているか、今一度立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。
■避難情報の「見逃し」を防ぐ取り組みも
災害時に命を守るために欠かせないのが避難に関する情報です。避難勧告や避難指示(緊急)の「見逃し」を防ぐ取り組みが始まっています。朝日放送テレビ(ABC)が2017年に全国に先駆けて導入した「災害情報エリア限定強制表示」やNHKが2020年6月から全国展開している「エリア限定地域避難情報自動表示」です。これらのシステムでは、避難勧告などが出た時、対象となる地域にだけ、テレビ画面上に文字スーパーが表示され、視聴者がリモコンを操作しなければ一定時間は消えません(写真2)。放送メディアは、インターネットによる情報発信を展開しながらも、テレビをライフラインとしている高齢者の切実な声にも応えていかなければなりません。

写真2:NHKの「エリア限定避難自動表示」画面のイメージ
(画面左側の枠で囲んだ部分が表示される)
詳しくは、今回の調査の結果をご一読ください。
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告①(長野県長野市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告②(宮城県丸森町・石巻市)
令和元年台風19号における住民の防災情報認知と避難行動調査報告③(福島県本宮市・いわき市)
1) 内閣府「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」
第1回資料(2020年6月19日)
メディア研究部(番組研究) 渡辺誓司
いまだ終息の気配がみえない新型コロナウイルスの感染拡大は、教育の分野にも大きな変化をもたらしました。例えば、オンライン授業や動画教材を配信するなど、児童・生徒が登校しなくても、家庭でインターネットを利用して学習できるような対応を進めている学校もみられます。
文研では、家庭における学習でどのようなメディアが利用されているのかを探るウェブ調査を、昨日から開始しました。昨年に続き2度目になります。調査の対象は、中学2年生と3年生、高校1年生です。学年の区切りがちょっと中途半端なのは、この調査には、昨年10月、つまりコロナ禍前に実施した同じ調査に協力してもらった当時の中学生たちに、今回も協力をお願いしているからです。調査対象を同一にすることで、コロナ禍前と今との変化を、正確に把握することを目指しています。
オンライン授業の配信などを考えると、今回の調査は、家庭学習で、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などのデジタル機器が利用される割合が高くなることが予想されます。しかし、そもそもコロナ禍前の家庭学習ではどのような機器が利用されていたのでしょうか。次の図は、昨年10月の調査の結果から抜粋したものです。

ウェブ調査の対象の中学生(1,168名)のうち、家庭で、「英語、国語、数学、理科、社会、総合的な学習の時間」の6教科のうちいずれかの教科の学習を行っている中学生(1,055名)に、家庭学習で利用している機器を尋ねました。結果は、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、電子辞書の利用が多く、ほかの機器の利用は少ないというもので、学年による差はほとんどみられませんでした。
注目されるのは、図に示したいずれかの機器を家庭学習に利用していた割合は57%で、4割を超える中学生がこれらの機器を利用せずに学習していたことです。この中学生たちの家庭のうち、スマートフォンは73%、パソコンは63%、タブレット端末は46%の家庭で、彼らがそれらを自由に利用できる環境にあったことから、機器を利用できるからといっても、必ずしもそれらが家庭学習に利用されていたわけではないことがわかりました。一方で、教科書や参考書、問題集、塾の教材などの紙媒体を家庭学習の教材として使っていた割合は9割と高く、機器を使えても紙媒体だけで学習している中学生の存在もありました。コロナ禍の前に行った調査の結果が、コロナ禍の真っただ中にある今回の調査ではどのように変化するのか、家庭学習における機器の利用は増えるのかどうか、結果がまとまり次第改めて『放送研究と調査』で報告します。
ここでご紹介したデータを含め、昨年実施した調査の結果の詳細は、『放送研究と調査』8月号に掲載しています。また、この調査では、調査対象の中学生の母親にも同時にウェブ調査を行っており、論考では、母親の家庭学習におけるデジタル機器の利用観や、家庭学習からみた親子関係の分析も取り上げています。コロナ禍前の実態を把握したものとして、ぜひご一読ください。
放送文化研究所 島田敏男
安倍晋三総理大臣が8月28日に職を辞する考えを国民に向けて表明して以降、テレビ各局は久しぶりの政局報道に多くの時間を割きました。
7年8か月ぶりに現実になった総理大臣の交代という出来事。「若手の政治記者にとっては、初めての体験だった」と取材現場の歳の近い後輩たちから聞くにつけ、「時代は変わった」と呟かざるをえませんでした。
私は中曽根内閣(1982年~1987年)以後の政治の動きを政治記者、政治担当解説委員などとして見つめてきました。つまり55年体制が崩壊して、与野党の入れ替わりによる政権交代を含むドタバタ総理交代劇、短命内閣の浮き沈みを何回も間近で目撃してきた1人です。
そんな経験からか、今回の総理交代が国民の政治意識を鋭いものにしていくのか、それとも単に政治不信を増幅させるだけのものになるのかが、大きな関心事になりました。
退陣表明の19日後の9月16日に安倍内閣が総辞職し、衆参両院で菅義偉氏が第99代総理大臣に指名され、その日のうちに菅内閣発足となりました。2度目の安倍内閣の発足以来、官房長官として一貫して支え続けてきた菅氏が後を引き継ぐことに対し、自民党内には当然だとする見方が早くから生まれていました。「安定第一」の最近の自民党らしい政局観と言えるでしょう。
その一方で、自民党の浮き沈みに大きく影響してきた無党派層。世論調査で支持政党を訊かれると「特に支持する政党はない」と答える人たちです。
こうした無党派層の中には、菅内閣に対して「閣僚の顔ぶれを見ると安倍氏に対する忖度内閣ではないか?」という素朴な感想を抱く人も少なくありません。
NHKが新内閣発足から5日後、6日後の4連休後半に行った世論調査で、菅内閣を支持すると答えた人は62%、支持しないは13%でした。
これはNHKが電話による世論調査を始めた橋本内閣以降で見てみますと、新内閣発足直後の数字としては、小泉内閣の81%、民主党・鳩山内閣の72%に次ぐ高い水準です。
電話世論調査も少しずつ手法が変わってきているので単純には比較できません。それでも2度の安倍内閣、民主党・菅(かん)内閣、野田内閣とほぼ同じ60%台に載っているのは比較的高い水準と言えます。
報道各社の調査結果を見ると、NHKと同じ60%台の支持率のところから74%というところまで幅があります。世論調査の研究者の間には「内閣を支持するか、しないかと訊ねて答えがない時に『あえて言えばどちらか』と重ねて聞くだけで数字は変わってくる」という指摘が以前からあります。各社の調査手法に対する考え方の違いの表れかもしれません。
さて内閣支持率だけでなく、今回の調査結果には「なるほど」と感じさせるものがありました。「菅内閣は安倍内閣の政策や路線を引き継ぐ方がよいか、引き継がない方がよいか?」という設問に対する回答の傾向です。
全体では、引き継ぐ方がよい53%>引き継がない方がよい38%でした。これを詳しく見ると、与党支持層では70%>26%、野党支持層では26%<71%で正反対になっています。
そして無党派層を見ると44%と45%で横並びです。つまり全体の4割を占める無党派層の中では、安倍路線の継承を是とする人たちと、継承を否とする人たちが拮抗していることが分かります。
菅総理は「規制緩和で改革を推進する」と強調しています。ただ、これはデジタル庁の設置構想など、安倍内閣でやり残したことを引き継ぐという姿勢が先に立っています。
今、コロナ禍にさいなまれている日本、世界。その先で日本は超高齢社会の下での少子化に向き合わなくてはなりません。結局、安倍内閣は将来を見据えた税と社会保障の新たな改革に踏み出すには至りませんでした。
菅総理が繰り返す「改革」の言葉が、どこまで先々に責任を持つものかを質すのは野党の仕事です。とりわけ合流で大きくなった立憲民主党の枝野幸男代表、政策面で支える泉健太政調会長の力量が試されます。
与野党が国会で緊張感と実りのある政策論争を展開してこそ、多くの国民が「これならば衆議院の解散・総選挙で方向性を選ぶべきだ」という気持ちになるでしょう。
それがないままの選挙日程の押しつけは危うさを否定できない。こう感じる人は決して少なくないということも各種世論調査は示しているようです。
メディア研究部(メディア史研究) 大森淳郎
1年ほど前のことです。電車の中で下校途中の高校生の一団が北朝鮮のアナウンサーのものまねをしてふざけていました。中々上手で、思わずニヤッとしてしまいました。でも、高校生たちが笑いながら電車から降りていった後、ちょっと嫌な後味が残りました、彼らの笑いの中に、批判とは別の、なにか人をばかにしたような侮蔑のニュアンスを感じたからです。
しかし、まあ仕方がないのかもしれません。あのアナウンサーの女性(リ・チュニさん)の朗々たるニュースの読み方は、私たちにはどうしても滑稽なものに聞こえてしまいます。
さて、シリーズ「戦争とラジオ」第6回「国策の「宣伝者」として~アナウンサーたちの戦争~」では、戦時ラジオ放送におけるアナウンス理論の問題に焦点を当てています。北朝鮮には「放送員話術」というアナウンサーの理論書があるそうです。リ・チュニさんのアナウンスも、そこに書かれた理論に基づくものです。北朝鮮の体制を維持するためにはどんなアナウンスが相応しいのか、きっと真剣な議論があるのでしょう。日本でも同じでした。日中戦争から太平洋戦争にかけて、日本放送協会のアナウンサーたちは、どうすれば戦争協力に寄与できるのか、侃々諤々の議論を重ねていました。
ニュースの内容ではなく、その読み方によって国民を戦争に動員する。それはどんな挑戦だったのでしょうか。詳しくは拙稿をお読み下さい。
メディア研究部(メディア動向) 村上圭子
5月23日、フジテレビ系で放送していたリアリティーショー『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020(以下、『テラスハウス』)に出演中だった22歳の女性プロレスラー、木村花さんが亡くなりました。花さんはSNS上で番組の内容を発端とする誹謗中傷を受けており、それを苦に自ら命を絶ったとみられています。その花さんの死から3か月が過ぎた8月26日、ABEMAが制作する恋愛リアリティーショー『いきなりマリッジ シーズン4』に出演していた23歳の濱崎麻莉亜さんが自ら命を絶ったことがわかりました。麻莉亜さんはAmazonプライムのリアリティーショー『バチェラー・ジャパン シーズン3』にも出演していました。現時点で、彼女の死が番組と関係があるのかについて詳細はわかっていませんが、2件続いたリアリティーショーの出演者の死という事実について、社会は重く受け止めなければならないと思います。
このような問題が繰り返されないためには、何を考え、どのような取り組みを行っていかなければならないのでしょうか。私は以前から、リアリティーショーの持つ光(発展)と影(課題)に関心を持っていたにもかかわらず、特に“影”の部分についてこれまで考察を行ったり問題提起をしたりしてこなかったことに忸怩たる思いを抱いています。出演者が自ら命を絶つという痛ましい事例は、すでに欧米では繰り返し発生し問題となっていました。にもかかわらず教訓が生かしきれなかったのだとしたら……悔やんでも悔やみきれません。
同時に、こうした痛ましい問題を眼前にすると、議論はどうしても、リアリティーショーは今後一切制作すべきではない、とか、SNS上の言論の規制を強化すべきだ、といった“極論”に流れがちです。しかしこうした時にこそ、複雑に絡み合う問題の背景を冷静かつ丁寧に検証することで、実効性のある対応策を導き出したり、メディアが抱える本質的な問題に粘り強く迫ったりする機会にすべきだと考えています。
このテーマについて、私は今後、腰を据えて考えていきたいと思い、まもなく発行される「放送研究と調査」10月号からシリーズで連載していきます。本ブログでは2回にわたり、その内容の一部をお伝えしたいと思います。
*リアリティーショーの歴史をひも解く
10月号では、リアリティーショーの誕生から今日に至る歴史を、欧米と日本を比較しながらひも解いてみました。
リアリティーショーは「リアリティー番組」「リアリティーテレビ」などとも呼ばれますが、明確な定義はなく捉え方もさまざまです。ただ、そのように呼ばれる番組群の特徴を見てみると、「制作者が設けたシチュエーションに、一般人や売り出し中のタレントなどを出演させ、そこに彼らの感情や行動の変化をひき起こす何らかの仕掛けを用意し、その様子を観察する」というのがおおよその共通項と言えるのではないかと思います。『テラスハウス』でも、番組冒頭で毎回、タレントのYOUさんが「この番組は、男女6人がひとつ屋根の下で生活をします。番組が用意したのは、すてきなおうちと、すてきな車だけです。台本は一切ございません」という定番セリフを言っていますね。フィクションとノンフィクションの境界のあいまいさが、ドラマでもドキュメンタリーでもないこのリアリティーショーの最大の特徴であるといえましょう。
<光と影の20年>
こうした特徴の番組群がポピュラーになったのは、いまから約20年前、2000年前後です。ヨーロッパで生まれ、アメリカに渡ったリアリティーショーは、瞬く間に全世界に広がりました。そして当初から、各国において特に若い層を中心に爆発的な人気を博し、軒並み高視聴率を叩き出す、放送局にとっては“ドル箱コンテンツ”となります。その反面、視聴者が出演者の様子を“のぞき見”るという倫理的な特質や、出演者に葛藤を与える仕掛けをするという“社会実験”的な側面、出演者の心を“虚実皮膜”の状態に長時間置くストレスの課題が絶えず指摘され、批判もされてきました。番組で演じる“リアル”と自分の人格の“リアル”とのギャップを埋められず、放送中、あるいは放送が終わってからも、アイデンティティの崩壊を食い止められない出演者も少なくなく、それは出演者が自ら命を絶つという最も痛ましい形で表出していくことになります。
当時の記事やリポートからは、リアリティーショーに対して各国の視聴者が熱狂し、放送局が興奮し、社会が大きく困惑する様子をうかがうことができます。まさにリアリティーショーの歴史とは、“光と影”が表裏一体となって織りなしてきた歴史といってもいいでしょう。
<日本の系譜>
しかし日本では当初、リアリティーショーを巡る熱狂も困惑も無縁といっていい状況でした。2001年には欧米の番組が購入・放送されたり、その日本版も制作されたりしたのですが、大きなインパクトはなく、むしろ視聴者からは敬遠される方向にありました。他方で、1990~2000年代の日本では、日本テレビ系の『進め!電波少年』やフジテレビ系の『恋愛観察バラエティー あいのり』などのバラエティー番組が人気を博していました。2つの番組とも、リアリティーショーの特徴とも共通する、「制作者が設けたシチュエーションに、一般人や売り出し中のタレントなどを出演させ、そこに彼らの感情や行動の変化をひき起こす何らかの仕掛けを用意し、その様子を観察する」内容だったのですが、何が異なっていたのでしょうか。『電波少年シリーズ』のプロデューサーだった土屋敏男さんは自身のブログで、こうした番組群はバラエティー番組の中から誕生しており、それは「ドキュメントバラエティ」というジャンルであること、「アンチクライマックス性、アンチドラマ性」が日本の特徴であり、ドラマティックに作り上げる欧米のリアリティーショーとは異なる系譜を持つものであると述べています1)。
そんな中、2012年に『テラスハウス』が誕生します。企画を提案したフジテレビの太田大プロデューサーは、雑誌のインタビューにおいて、これまでのドキュメントバラエティに対するアンチテーゼともとれる考えを述べており、同時に、「欧米のリアリティーショーみたいな番組」を常々制作したいと思っていたとも明かしています。ただ、『テラスハウス』は単なる欧米リアリティーショーの輸入ではなく、「もっとリアルな,ドキュメンタリー性を重視」したものにしているとのことでした2)。そうした意味からも、『テラスハウス』は初めての“日本型リアリティーショー”といえるのではないか、というのが私の見立てです。
ドキュメントバラエティにしても日本型リアリティーショーにしても、日本では木村花さんの死以前には、欧米のように出演者が自ら命を絶つという痛ましい問題が起きることはありませんでした。ただ、両プロデューサーがいみじくも強調していたように、日本では欧米に比べてドキュメントにこだわったが故に、やらせ疑惑というような批判は後を絶ちませんでした。これが欧米と異なる日本における“影”の部分ともいえるかもしれません。ただこれについても、制作者・出演者・視聴者の三者のぎりぎりとも絶妙ともいえるバランスのもとで番組が成り立ってきたのではないかと思います。
*制作者・出演者・視聴者の関係性の変容
しかしこの三者の関係性は、SNSが普及してから大きく変容したと言えます。SNS以前は、その良し悪しはともかくとして、制作者が出演者・視聴者をコントロールすることが可能な時代でした。しかしSNSの普及によって、三者の関係性はフラットになっていきます。そのことは、制作者が視聴者との距離を縮めて番組を盛り上げる可能性を広げましたが、同時に、出演者と視聴者が(制作者がコントロールできないところで)直接つながっていくことにもなりました。特にリアリティーショーにおける出演者は、売り出し中のモデルやタレントなどが少なくありません。彼らは番組に関する内容はもちろんですが、それ以上に自身の“リアル”な胸の内や活動内容を発信します。フォロワーは、番組に出演している姿を見てファンになった人もいれば、番組以外の彼らの活動を通じてつながった人達もいます。SNSの世界においては、リアリティーショーの制作者が作った“リアル”と、彼らの活動の“リアル”に境目はなくなり、視聴者は時に番組を視聴する以上に高い熱量で出演者とつながっていくのです。
同時にSNSは広く一般に開かれる匿名が許される空間でもあるため、出演者に対する強いアンチのコメントの書き込みや,視聴者以外の“通りすがり”による悪質な“落書き”,ストレスを発散したり炎上を目的としたりする“誹謗中傷”にも遭いやすい環境です。出演者たちはリアリティーショーに出演して急に有名になってしまい、“たたかれる”ことに対する免疫も十分に用意できない中でその環境にさらされるわけで、かなりのストレスだということは想像に難くありません。
このように、出演者と視聴者という関係性を超えてしまったところで起きてしまうSNS上の様々な問題に対して、制作者はどこまで関われるのか、そして関わるべきなのか……。こうしたことが問われているのが、今のリアリティーショーを巡る状況ではないかと思います。
*花さんの死から3か月の間に起きたこと
花さんの死後、フジテレビは、『テラスハウス』の収録と放送、自社の運営する動画配信サービスFODでの配信を中止し、7月31日には社内横断メンバーによる検証報告3)を公表しました。報告では、制作スタッフにはSNSの炎上は予見できず、炎上を煽ろうとするような意図はなかったこと、SNSで花さんに対して批判的なコメントが増えてからは、スタッフは彼女と電話やLINEで連日連絡を取りあい、自宅にも複数回訪問するなどしてきたこと、しかし、ケアや健康状態への認識には結果的に至らぬ点があり力が及ばなかったことが記されていました。それに対し、花さんの母親の木村響子さんは、「外部の人による調査ではなく、公正かつ真摯に調査が行われたとは感じられない内容4)」だと不信感を募らせています。響子さんは7月15日、放送倫理・番組向上機構(以下、BPO)に番組に人権侵害があったと申し立てる書類を提出しました。BPOが審理するかどうかの判断はこれからです。現時点では両者の言い分は大きく食い違っていますので、10月号の「放送研究と調査」ではこの件についてはあえて触れていません。議論の行方を見守りつつ、取材を深めていきたいと思っています。
3か月の間に最も進んだのが、SNS上の誹謗中傷への対策ではないかと思います。総務省では以前から「プラットフォームサービスに関する研究会」と「発信者情報開示の在り方に関する研究会」という2つの研究会で議論が行われていましたが、花さんの死後、より積極的に議論が進められてきた気がします。まず、8月末に出された研究会の中間取りまとめ5)を受けて、インターネット上の誹謗中傷の被害にあった人が匿名の発信者の特定を行いやすくするための省令改正が行われました。被害者は誹謗中傷の書き込みをした発信者に対して損害賠償などの法的請求を行うことができますが、その前提として発信者を特定しなければなりません。しかしそうした書き込みをするアカウントは匿名のことが多いです。そのため、権利が侵害されたことが明らかであり、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときに、被害者はプロバイダーに対して発信者情報の開示を請求することができ、これを受けたプロバイダーは原則として被害者の意見を聴取した上で、開示をするかどうかを判断することとされています。これがプロバイダー責任制限法における発信者情報開示制度というものですが、今回の改正で、開示対象に発信者の電話番号が追加されることになったのです。今後は、この制度のプロセスが被害者にとって多くの時間・コストがかかり負担になっており、権利回復のための手続を断念せざるを得ないこともあるとの指摘に応え、新たな裁判手続の創設など、更に踏み込んだ議論が行われる予定です。また9月1日には、プロバイダーの自主的取り組みやユーザーのリテラシー向上の啓発活動などをまとめた「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ6)」も公表されています。このテーマはリアリティーショーを超えた議論ではありますが、SNS上の表現の自由の今後を考える上でも重いテーマであり、また制作者・出演者・視聴者の三者の関係性を考える上でも重要な内容となってくるため、今後「放送研究と調査」で執筆すべく、取材を進めていきたいと思っています。
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次回のブログでは、リアリティーショーを巡る海外の最近の動きについて報告します。
海外では30人以上の出演者が自殺したなどと報じられていますが、実際にどういう人たちがどういう背景のもとで亡くなったのか?イギリスでは放送局がリアリティーショーを制作する際に遵守すべきことを放送規則に加えようという動きがありますが、その最新動向はどうなっているのか?などについてです。
1) T_producer「ドキュメントバラエティとリアリティーショー①②」(『note』2020年5月29日、6月9日)
https://note.com/t_shacho/n/naac4a83fd770?magazine_key=mc08264c4a9a0
https://note.com/t_shacho/n/ne2b834ce6b7e?magazine_key=mc08264c4a9a0
2) 「ネットで火が付いた!「テラスハウス」のサクセスストーリー【フジテレビプロデューサー・太田大】」(『ザ・テレビジョン』2018年7月18日)
https://thetv.jp/news/detail/154545/p2/
3) フジテレビ「「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」検証報告」(2020年7月31日)https://www.fujitv.co.jp/company/news/200731_2.pdf
4)「テラスハウス問題の検証結果 木村花さん母「不信感しかない」」(『NHK NEWS WEB』2020年7月31日)
5) 総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ」(2020年8月31日)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/02kiban18_02000104.html
6) 総務省「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」の公表(2020年9月1日)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/02kiban18_02000105.html