#273 菅新内閣の支持率は高いのだが ~今後の無党派層の動向は?~
放送文化研究所 島田敏男
安倍晋三総理大臣が8月28日に職を辞する考えを国民に向けて表明して以降、テレビ各局は久しぶりの政局報道に多くの時間を割きました。
7年8か月ぶりに現実になった総理大臣の交代という出来事。「若手の政治記者にとっては、初めての体験だった」と取材現場の歳の近い後輩たちから聞くにつけ、「時代は変わった」と呟かざるをえませんでした。
私は中曽根内閣(1982年~1987年)以後の政治の動きを政治記者、政治担当解説委員などとして見つめてきました。つまり55年体制が崩壊して、与野党の入れ替わりによる政権交代を含むドタバタ総理交代劇、短命内閣の浮き沈みを何回も間近で目撃してきた1人です。
そんな経験からか、今回の総理交代が国民の政治意識を鋭いものにしていくのか、それとも単に政治不信を増幅させるだけのものになるのかが、大きな関心事になりました。 退陣表明の19日後の9月16日に安倍内閣が総辞職し、衆参両院で菅義偉氏が第99代総理大臣に指名され、その日のうちに菅内閣発足となりました。2度目の安倍内閣の発足以来、官房長官として一貫して支え続けてきた菅氏が後を引き継ぐことに対し、自民党内には当然だとする見方が早くから生まれていました。「安定第一」の最近の自民党らしい政局観と言えるでしょう。
その一方で、自民党の浮き沈みに大きく影響してきた無党派層。世論調査で支持政党を訊かれると「特に支持する政党はない」と答える人たちです。
こうした無党派層の中には、菅内閣に対して「閣僚の顔ぶれを見ると安倍氏に対する忖度内閣ではないか?」という素朴な感想を抱く人も少なくありません。 NHKが新内閣発足から5日後、6日後の4連休後半に行った世論調査で、菅内閣を支持すると答えた人は62%、支持しないは13%でした。
これはNHKが電話による世論調査を始めた橋本内閣以降で見てみますと、新内閣発足直後の数字としては、小泉内閣の81%、民主党・鳩山内閣の72%に次ぐ高い水準です。
電話世論調査も少しずつ手法が変わってきているので単純には比較できません。それでも2度の安倍内閣、民主党・菅(かん)内閣、野田内閣とほぼ同じ60%台に載っているのは比較的高い水準と言えます。
報道各社の調査結果を見ると、NHKと同じ60%台の支持率のところから74%というところまで幅があります。世論調査の研究者の間には「内閣を支持するか、しないかと訊ねて答えがない時に『あえて言えばどちらか』と重ねて聞くだけで数字は変わってくる」という指摘が以前からあります。各社の調査手法に対する考え方の違いの表れかもしれません。
さて内閣支持率だけでなく、今回の調査結果には「なるほど」と感じさせるものがありました。「菅内閣は安倍内閣の政策や路線を引き継ぐ方がよいか、引き継がない方がよいか?」という設問に対する回答の傾向です。
全体では、引き継ぐ方がよい53%>引き継がない方がよい38%でした。これを詳しく見ると、与党支持層では70%>26%、野党支持層では26%<71%で正反対になっています。
そして無党派層を見ると44%と45%で横並びです。つまり全体の4割を占める無党派層の中では、安倍路線の継承を是とする人たちと、継承を否とする人たちが拮抗していることが分かります。
菅総理は「規制緩和で改革を推進する」と強調しています。ただ、これはデジタル庁の設置構想など、安倍内閣でやり残したことを引き継ぐという姿勢が先に立っています。
今、コロナ禍にさいなまれている日本、世界。その先で日本は超高齢社会の下での少子化に向き合わなくてはなりません。結局、安倍内閣は将来を見据えた税と社会保障の新たな改革に踏み出すには至りませんでした。
菅総理が繰り返す「改革」の言葉が、どこまで先々に責任を持つものかを質すのは野党の仕事です。とりわけ合流で大きくなった立憲民主党の枝野幸男代表、政策面で支える泉健太政調会長の力量が試されます。 与野党が国会で緊張感と実りのある政策論争を展開してこそ、多くの国民が「これならば衆議院の解散・総選挙で方向性を選ぶべきだ」という気持ちになるでしょう。
それがないままの選挙日程の押しつけは危うさを否定できない。こう感じる人は決して少なくないということも各種世論調査は示しているようです。