文研ブログ

おススメの1本

おススメの1本 2016年03月25日 (金)

#18 『NHKデータブック 世界の放送2016』発刊!

メディア研究部(海外メディア研究) 松本裕美

今回のブログで紹介するのは、文研
毎年刊行している『NHKデータブック 世界の放送』です。
0325-1.png
この本は、世界の国々にどんなテレビ局やラジオ局があって、どういう放送がされているのか知りたいときに便利な一冊です。

実は、この本の歴史は古くて、日本でテレビ放送が始まった1953年に遡ります。当時は「世界のラジオとテレビジョン」という書名で、毎年刊行ではありませんでした。そして対象は「アメリカ州」「ヨーロッパ」「オセアニア」「アジア及中東」「アフリカ」の5つのグループ、55の国や自治領、地域などでした。

今は「アジア・オセアニア」「ヨーロッパ」「中東・アフリカ」「北中米・南米」の4つの大きな地域グループに分けて世界の66の国と地域を取り上げています。
0325-2.JPG「文研の図書室」

創刊時から重点的に掲載されているアメリカ、イギリス、フランス、カナダを見てみると、概況、最近の動向、放送制度…という構成で、“ちょっと知りたい”方から“放送の専門家”まで、分かりやすく知りたい情報がぎゅっとつまった感じになっています。
少しマニアックな項目もあって、本の後ろ、資料編です。「世界のデジタル放送の実施状況」や「世界の衛星デジタル放送」などで、海外のチャンネルが使っている衛星から、主要な放送関係の組織のウェブサイトも掲載されているので、自画自賛ですが、便利かなと思っています。
ちなみに創刊時には付録として「世界テレビ正式放送国一覧表」というのが掲載されていましたが、いまこれを見ると驚きます。この1953年当時にテレビ放送を始めていた国は、アメリカ、カナダ、メキシコ、キューバ、ブラジル、アルゼンチン、イギリス、フランス、ソヴィエト、西ドイツ、オランダ、そして日本のわずか12か国しかありません!
時代の流れを感じてしまいますね。

世界の放送メディアの最新事情や歴史に興味をお持ちの方は、ぜひこのデータブッ
クを一度読んでみてください。
NHKデータブック 世界の放送2016』

 

おススメの1本 2016年03月18日 (金)

#17 『文研年報2016』紹介 ラジオの歴史と未来を大特集!

メディア研究部 中尾益巳

文研の研究員が調査研究の成果を発表するのは、主に月刊誌の
『放送研究と調査』です。私たちはこれを「月報」と呼んでいますが、「年報」もあります。こちらは正式タイトルもNHK放送文化研究所年報』。もちろん年に1回の発行で、月報に載せきれない長期間の研究成果や、月報で発表したものの拡大版など、長編の論文を掲載しています。

さて、今年1月に発行した『文研年報2016』は、ラジオ大特集号です。去年2015年はラジオ第一声が放送された1925年から数えて90年にあたるため、「放送90年=ラジオ90年」としてラジオの歴史、そして未来への可能性を重点的に研究しました。その論文をまとめたのがこの年報なのです。前置きが長くなりましたが、今回はその内容をちょっとご紹介します。

0318-4.jpg 
ラジオを取り囲む家族

1)   ニュースリードが消えた?~ラジオニュース草創期におけるリード文の成立と戦時下におけるその変貌過程~
「ニュースリード(リード文)」とは、ニュースの冒頭で要点を述べる文のことです。第二次大戦時のニュース原稿や録音音声を分析した結果、日華事変や太平洋戦争開戦時など日本軍が進撃している時期のニュースにはリード文がありますが、後半で敗色が強くなってくるとリード文がなくなってきた、ということがきたということが新たにわかりました。放送の開始と同時に始まったラジオニュースでは、どのようにリード文が作成され、それが戦時下にどのように変わっていったのか、放送90年、そして戦後70年にして掘り起こされた知られざる歴史を伝えます。
なお、この研究成果の一部は、放送記念日の特番でも取り上げられることになりました。3月22日(火)夜10時放送の放送記念日特集 激動の時代を越えて ~戦前から戦後へ 放送の歩み~」です。番組の中で、論文を執筆した井上裕之研究員が、当時のニュース原稿についてインタビューに答えます。

0318-1.JPG 
1943年のニュース原稿(NHK放送博物館所蔵)


2)   「録音構成」の発生 ~NHKドキュメンタリーの源流として~
終戦後、占領下にあった日本ではCIE(民間情報教育局)指導の下「民衆へのマイクの開放」として『街頭録音』という番組が作られました。ドキュメンタリーの歴史を研究している宮田章研究員は、このラジオ番組の中で「録音構成」という制作形式が生まれ、それが後のテレビドキュメンタリーにつながる源流であると論じています。
0318-2.jpg 
渋谷駅頭での『街頭録音』収録風景(1947年)

3)   放送90年シンポジウム「ラジオは未来の夢を見る」~文研フォーラム2015採録~
文研フォーラム2016は先週終わりましたが、こちらは昨年のフォーラムで行われたシンポジウムを採録したもの。ラジオ90年の歴史を振り返ると共に、アメリカやイギリスの現状リポートも聞きながら、ピーター・バラカンさん、メディア・プロデューサーの入江たのしさん、東海大学教授の谷岡理香さんらが今後の展望を語り合いました。最も盛り上がったのは「もしラジオを聴いていない人に1週間ラジオを聴いてもらったら」という調査(通称“もしラジ”)の報告。ラジオにはまだまだ可能性があるのです。

0318-3.jpg 
NHK文研フォーラム2015
0318-123.jpg

4) デジタル時代のラジオの未来 ~BBCラジオ戦略に見るオールドメディアからの脱却~
上記のシンポジウムの中でも報告したイギリスの現状を詳しく論じたのがこちら。日本では37%というラジオの週間接触率が90%に達しているイギリス。公共放送BBCのラジオは多チャンネル化、完全デジタル化、全世界で聴ける「iPlayerラジオ」サービスなどで新しいメディアとして確立しているのです。
0318-5.JPG 0318-6-2.png

BBC放送センター(左) / BBC iPlayerラジオの画面(右)

テレビ以前に全盛期を築いていたラジオと、ネット時代に可能性を広げているラジオ。
この『文研年報2016は、そんな古くて新しいメディア、ラジオの奥深さを味わえます。ぜひご一読を。

おススメの1本 2016年02月26日 (金)

#12 放送メディア研究「世論をめぐる困難」編集事務局より

世論調査部(社会調査)原 美和子
         (視聴者調査)中野佐知子
計画管理部 (計画)   西村規子

こんにちは、今回は3人組の文研ブログです。
文研では、放送にまつわるさまざまなテーマについて、専門の研究者たちの最新の論文やインタビューをまとめた「放送メディア研究」を刊行しています。今回は、先日刊行したばかりの第13号「世論をめぐる困難」のご案内です。

0226-1.JPG

   
編集事務局その1の原です。今回のテーマは「世論」。世論調査部に所属している私たちですが、日々の業務について、いろいろ悩みの多いこの頃です。

中野 
その2の中野です。同じく世論調査部です。そうそう、私たちなりに努力はしているけど、調査に協力していただける人の率は年々下がっていますよね。それなのに新聞やテレビでは、最近はやけに「世論調査」の注目度が高いような・・・

  
そもそも、「世論」を「調査」する、という私たちの仕事にどんな意味や役割があるのか、自分たちの「商品」についてきっちり考えることすらあまりないですよね。一度どこかで、今この時点での「世論」それに「世論調査」の課題を整理することが必要なのでしょうが、日々の業務にかまけて手つかずになっていました。

中野 
文研所内のメンバーだけで考えて整理できるような、簡単なテーマでもないですしね。

西村 
その3、計画管理部の「放送メディア研究」窓口の西村です。
そこで今回、「放送メディア研究」のテーマに「世論」を掲げ、主に外部の研究者やメディア関係者の皆さんから、さまざまな視点や切り口で問題提起していただくのはどうだろうか、と話が動き出したんだよね。

  
その結果、今回の「放送メディア研究」は、世論調査部の人が自ら業務で扱う「世論」や「世論調査」に真正面から向き合う、というちょっとユニークなスタイルになりました。

中野 
所内の有志の研究員と何度もブレストを重ね、テーマは「世論をめぐる困難」に決定。
 
“世論測定をめぐる困難”
 “世論形成をめぐる困難”
 “世論が生まれる社会の困難”
 “困難から生まれる世論の未来、社会の可能性”
の4つの柱に整理して、論文を寄稿していただいたほか、インタビューなども行いました。

  
最終的には、大学の研究者から、NHKの番組制作者まで、本当にさまざまな分野から23人の方にご協力を頂くことができました。当初予定より相当ボリュームが増えましたが、その分内容をより充実させることができたのではないかと思います。あなたの読みたいテーマが、きっとひとつはあるはずです。

中野 
だけど、編集することがこんなに大変だとは・・・・。勉強にはなったけどね。

   
この機会にと、「世論」や「世論調査」をテーマにした世論調査までやってしまったりしたし。自らのキャパを完全に逸脱していた、と途中で青くなりました。

西村 
刊行に漕ぎつけたのは、ひとえに執筆などにご協力いただいたみなさんのお蔭です。私たちのつたない説明から巧みに企画意図をくみ取って、先進的な論文、活発な座談会、魅力的なインタビューを実現してくださいました。そして、忘れてならないのは、NHK出版のみなさんのご尽力。K編集長を中心とした強力なバックアップ体制がもしも無かったら…

  
今頃こんなブログを書いている場合ではありませんでしたね。

西村 
ということでいろいろありましたが、「放送メディア研究」第13号、今月22日より発売中です。詳しくは
こちら

中野 
「困難」とはいえ、嘆いてばかりいてよいわけではない。そのためにも厳しい提言や、反対に将来的な可能性などももろもろ取り上げた形になりました。一度お手にとってもらえれば幸いです!