デジタル時代のラジオの未来

―BBCラジオ戦略に見るオールドメディアからの脱却―

公開:2016年1月30日

2015年,日本でラジオ放送が始まって90年を迎えた。ラジオは「オールドメディア」と言われ,リスナーの減少をどう食い止められるのかが大きな課題になっている。世界を見ると,多くの国では依然ラジオが主流メディアの一つとして日常的によく聴かれているが,ラジオの聴取時間の減少傾向は共通して見られる。多様なメディアがあふれる時代に,人々がラジオに割ける時間が少なくなる中で,ヨーロッパではラジオの将来像をどう描けるのか模索中だ。主な対策としてEBU(ヨーロッパ放送連合)では,ラジオ放送のデジタル化を全面的に推進している。しかし,デジタル化がリスナーの増加につながった成功例がほとんどない中で,設備投資に莫大な費用をかけることに消極的な国も多い。こうした中で,ヨーロッパのラジオを牽引するリーダーとして期待されているのが,イギリスの公共放送BBCである。BBCラジオは2013年度,過去最高のリスナーの数を記録した。BBCがリスナーを増やせている背景には,デジタル化を生かした「多チャンネル」「多メディア」戦略がある。BBCでは10の全国放送チャンネルを持ち,それぞれにターゲットを絞って,特色ある幅広い内容の番組をリスナーに提供している。またラジオを聴く習慣の少ない若い人をターゲットに,放送の一部をビデオ撮影してネット上でラジオ番組を“見られる”ようにしている。さらにラジオ番組をモバイルにダウンロードしていつでもどこでも聴けるサービスも始めた。BBCでは,リスナーを開拓し,ラジオ文化を育むための試行錯誤を繰り返している。日本の多くの放送局はラジオの長期戦略が描けずにいる。ネットと多面的に融合する新しい魅力を備えた「ニューラジオ」へと生まれ変わるためのヒントは,BBCなど海外のラジオの取り組みの中に見ることができるだろう。

メディア研究部 田中 孝宜

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