ニュースリードが消えた?

-ラジオニュース草創期におけるリード文の成立と戦時下におけるその変貌過程-

公開:2016年1月30日

ラジオ放送開始当初,個々のニュースの冒頭にあるリード文をどう書くかは,放送局にとっては大きな課題だった。当時の資料によれば,自主取材をしていなかった日本放送協会は,通信社からの配信原稿を,耳で聞くのにふさわしいかたちに書き換えてニュース原稿を作成していた。しかし,配信原稿の見出しは新聞のような省略文だったため,大幅に書き換えてリード文を作成していた。その際,本文の語句を引用して補っていたため,リード文は本文と語句が反復するようになった。反復は,談話構造の視点から見れば伝達内容の強調であり,理解促進の機能があった。同時に,重複感が高くなる要素でもあった。こうしたリード文が実際に付けられていたのかどうか,現存する中では最も古い,1937年,1941年,1943年の3つの原稿群(一部音声)について量的な調査をした。その結果,1937年のものはすべての原稿にリード文があったが,1943年のものには4分の1強しかなかった。リード文があったのは,主に大本営発表など重要とされたニュース,特に日本軍が戦果を挙げたニュースの原稿であった。日本軍が勝利に沸くニュースや戦争遂行の希望をつなぐような事実を伝える原稿にはリード文が付けられたが,重要とされなかったニュースや,戦争を続ける上で認めたくない事実を伝えるニュースの原稿には付けられない傾向があった。終戦直後の資料には,戦争末期には主なニュースにリード文が付けられなくなっていたという記述があるが,敗戦色が濃くなり,報道発表をする側に強調したいことが無くなったとき,報道をする側にも強調すべきものが無くなり,リード文を付けるスタイルを継続できなくなっていったものと考えられる。また,リード文が減った理由については,配信原稿の冒頭文がすでに原稿の全体像を示す文になっているので,リード文を加えて“屋上屋を重ねる”のを避けていた可能性も考えられた。

メディア研究部 井上裕之

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