2018年01月10日 (水)堰を切った、日本の#MeToo


※2017年12月19日にNHK News Up に掲載されました。

“堰(せき)を切った”とはこうしたことを言うのかも知れません。海外で広がった#MeTooというハッシュタグをつけ、ツイッターなどでセクハラ被害を訴える動き。日本では静かだったその動きが、著名なブロガーの投稿をきっかけに、急速に広まっています。
『酔わされ服を脱がされ強制的に被害にあった』
『社長も誰も守ってくれなかった』
投稿を読むと、日本の社会の現実が透けて見えました。

ネットワーク報道部記者 野町かずみ・宮脇麻樹・伊賀亮人

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<理不尽さと戦いたい>
口火を切ったのではないかと言われているのが著名なブロガーで作家のはあちゅうさん。以前つとめていた大手広告代理店で上司から受けたという、セクハラやパワハラの被害についてネットメディアの記事で伝えたのです。深夜、上司の家にすぐ来るように言われたことや、連絡を断つと仕事ができなくなるように言われたこと。そして、自分が受けてきたような理不尽さとみんなで戦いたいという思いを載せたのです。それが17日の昼前です。


<問題の重要さを知らせたい>

sek171219.2.jpg#MeToo
もともと、ハリウッドで活躍する女優が「セクハラや性暴力にあったすべての女性が#MeTooと書けば、問題の重大さを知らせることができる」と自身のツイッターに投稿したことが始まりです。歌手のレディー・ガガさん、女子体操のオリンピックの金メダリストなどが次々と呼びかけに応じ国を超えた動きとなりました。

しかしこれまで日本ではあまり広がりがないという指摘がありました。今月7日に取材した専門家も「日本は女性の社会進出が欧米より20年から30年ほど遅い。声をあげても理解されないどころか過剰反応だなどという批判を受けてしまう」と話していました。


<恋愛を断れば契約白紙>
ところが、はあちゅうさんの訴えが出たころから、日本でも投稿やそれに対する反応がネット上に急速に広がりはじめます。記事の公開から2日たった19日も、次々に投稿が寄せられています。

タレントや女性の企業経営者が実名で経験を投稿するものもあります。アイドルとして活動している女性は『女を武器にしている』などと就職活動中に受けたハラスメントを投稿。

会社経営者の女性も、『取引先の社長との恋愛関係を断って契約を白紙にされた』とツイートして、悩んでカウンセリングを受けたことも明かしました。

sek171219.3.jpgせき止めていたものがあふれ出すように、一般の人の間にも過去のつらい体験を投稿する動きが広がりはじめます。
『クライアントに腰だの尻だの触られた。社長も誰も守ってくれなかった』といった嘆きのような声。『仕事に関係のないデートのような会食を組まされた、断ると“今後のこと考えるよ”と脅された』という取引先での経験もありました。


<私と同じ人、たくさんいる>
そうした#MeTooの投稿をした1人と話をすることができました。20代で「駆け出しの役者」というみなみさん(仮名)です。みなみさんが投稿したのは、仕事の関係者によるレイプ被害でした。まだ仕事が少ないみなみさん。新しい仕事につながるかもしれないと知人に誘われて、仕事関係者の男性との飲み会に参加、そこで大量に酒を飲まされてしまいます。動けなくなるほどの状態でホテルに連れて行かれ被害にあったと投稿したのです。

『服を脱がされ強制的にされました』

胸に閉じ込め、誰にも言えなかったことを、ツイッターで明かした理由をこう話していました。

「#MeTooのついたたくさんのツイートを読むうちに思いました。『私と同じような思いをした人がこんなに、たくさんいるんだ。私も言ってもいいんだ』」

みなみさんは被害を受けた後の事態も投稿しています。

『警察に被害届を出しても、証拠が十分でないと言われ受け付けてもらえない』
『自分の体が汚いと思うようになった』
『何度か死にたくなった』

ただツイートしたことで、気持ちにも変化があったとも話してくれました。

「思い出して涙が出たり、眠れなくなったりすることもありますが、私の話に関心を寄せてくれる反応も多く、少しは気持ちが軽くなりました。私の経験を知ってもらうことで、被害が起きたらちゃんと言える世の中になってほしい、対策を取るきっかけになってほしい、そう思います」

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<我慢しなくていいんだ>
なぜ投稿が相次ぐのか、身近な人や会社に対応してもらえないことが、背景にあると指摘する人もいます。
セクハラを重点的に扱う労働組合「パープル・ユニオン」で執行委員長を務める佐藤香さんです。寄せられる相談は“食事に執拗に誘われる”“飲み会の帰りにマンションに呼ばれる”、そして“レイプされた”、といったものも。そのほとんどが、はじめて人に被害を打ち明けたわけではなく上司や会社の窓口に相談しても対応してもらえなかったケースが多いそうです。

「対応してもらえないとどうなるのか。訴えた人が孤立してしまい、さらにセクハラ被害が悪化します。つらさから心の病となり、仕事ができなくなったり退職したりする人が私が相談を受けた中には多いんです」
「職場でセクハラが小さく扱われる中、『がまんしなければいけないのか』とモヤモヤしていた人たちが、著名な人の投稿が日本でも出てきたことを知り『あれは我慢しなくていいことだったんだ』と気付き、声を上げているのではないか」

訴えが広がる背景をそう話していました。


<言ってもいいんだ>

sek171219.5.jpg性暴力や職場でのセクハラに詳しいお茶の水女子大学の戒能民江名誉教授も、弱い立場に置かれた人たちに“声をあげてもいい”というメッセージが届いたと見ています。

「日本は職場は非常に支配的です。被害に遭うのは多くが非正規で、加害者の立場が圧倒的に強いことをみてもわかります。被害を訴えると逆に職場にも居づらくなってしまう、だから口に出せない。そうした状況が続いてきました」
「ところが今回、社会でよく知られている人が被害を公表したことが、『言ってもいいんだ』という強いメッセージになった。この動きを踏まえ、被害者が非難されない状況を作ることはもちろん、職場でのポジションも含めて女性が尊重されるようにしていく必要があります」


<#MeTooをきっかけに>

sek171219.6.jpg#MeTooという動きが広がっていますが、それはまだ被害を受けた中のごくわずか。そして、声をあげられない人たちは、弱いわけでも、間違っているわけでもないとも思います。

私も声をあげられなかったことがあり、日本の社会ではまだその行動は勇気のいることなんだと思うのです。
「騒ぎ立てずに、うまくとりなすのが社会人」、そんな無言の圧力がまだあるのです。声をあげた人たちを批判する投稿も多く、話を聞かせてくれたみなみさんもバッシングを受けていると話していました。

「私も」と言ったことで、誰からも非難されず、つらかった気持ちを受け止めてもらい、必要な助けを得られる、そうした社会に変化するきっかけに#MeTooがなってほしい、ようやく堰を切った動きを見て、そう思います。

NHKでは#MeTooの動きについて下記の「ニュースポスト」で情報を求めています。1通のメールが社会を取り巻く問題の発掘や解決につながるかもしれません。

投稿者:野町かずみ | 投稿時間:17時26分

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