2018年01月09日 (火)交通安全の切り札になるか?


※2017年12月15日にNHK News Up に掲載されました。

12月は日が短くなることなどから、交通事故の発生件数が年間で最も多くなります。年末にかけて、夜間の運転は、特に気を使わなければなりません。こうした中、ことし、警察庁は車のヘッドライトを上向きにするハイビームをきちんと使えば夜間の事故を減らせた可能性が高いという調査結果を発表しました。ただ、ドライバーからは、戸惑いの声も聞かれます。

福井放送局記者 丹羽由香
ネットワーク報道部記者 栗原岳史

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<わかりにくい交通ルール>
ツイッターではハイビームについて、「切り替えは面倒だ」、「まぶしいからやめてほしい」という意見が見られます。「ハイビームを使うと相手を煽っているようだ」、「トラブルに巻き込まれたくないから使いたくない」という声もよく聞かれます。

kou171215.2.jpgロービームとハイビームをめぐる交通ルールはどうなっているのか。警察は、「ハイビームが基本で、対向車とすれ違うときや、前に車がいるときは、ロービームに切り替える」ことが正解だと説明しています。

ただ、この説明に違和感を覚える人も少なくないのではないでしょうか。そもそも、法律にはどう書いてあるのか、調べてみました。

道路交通法は、「車両等は、夜間、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない」と定めていますが、私には、「夜、ライトをつけましょう」としか読めません。この法律のどこから「基本はハイビーム」という交通ルールが読み解けるのでしょうか。

警察や、国土交通省に聞いてみたところ、「『道路交通法』と、『道路交通法施行令』や『道路運送車両の保安基準』、それに『道路運送車両の保安基準の細目を定める告示』を組み合わせると、『基本はハイビーム』というルールがわかる」という、なんともわかりにくい答えが返ってきました。

では、ハイビームが基本だということは、それに従わない場合は、罰則があるのか。結論から言うと、ハイビームにしなくても罰則はありません。ただ、対向車とすれ違うときに、ハイビームをロービームに切り換えるなどしなければ、「減光等義務違反」として点数1点、普通車では6000円の反則金が科されます。
ルールがわかりにくい上、免許を取った世代や教習所によってハイビームの使い方の教わり方もまちまちで、一般のドライバーからすると、ハイビームにするメリットはあるのか、という疑問が出てくるのも無理はありません。


<警察は啓発強化>
SNSなどでこうした声が上がる背景には、警察で、ことしに入ってからより積極的にハイビームの利用を呼びかけているということがあります。

kou171215.3.jpg警察庁は、ことし1月から6月にかけて全国で起きた車と歩行者の衝突事故についてまとめた調査結果で、飲酒や過労運転を除いた夜間と日没前後の事故のうち、「ハイビーム」にしていれば「半数以上の56%の事故が防げた可能性が高い」と分析しています。

kou171215.4.jpg教則本
また、免許を取るときなどに使う「教則本」の記述も、ことし変わり、それまでの教則本にはなかった、ハイビームの利用を促す一文が追加されました。


<高齢化が背景>
なぜ警察は、最近になってハイビームの啓発を強めているのか。その背景には、ドライバーの高齢化が関係しています。

kou171215.5.jpg日本大学生産工学部 景山一郎教授
交通事故に詳しい日本大学生産工学部の景山一郎教授は、「一般的に、高齢者は、危険を見つけてから、ブレーキを踏むなどの対応をするまでの時間が若い人と比べると長くかかると言われている。全国的に高齢のドライバーが増える中でハイビームの重要性は、今後、さらに増していくだろう」と指摘しています。

kou171215.6.jpgkou171215.7.jpg例えば、時速50キロで走っている車は、ロービームの光が届く40メートル先までは2秒で到達するのに対し、ハイビームが照らす100メートル先まで行くには、2倍以上の5秒かかります。危険回避をするための、この時間差が、高齢ドライバーにとっては特に重要だということです。


<意外な死角も>
先月、福井県で大学生を対象に、ハイビームの効果を体感してもらう実験が行われました。車の前方に歩行者に見立てたコーンを置き、ロービームとハイビームの切り替えをすると、100メートル先に置いてあるコーンも、はっきり見えることがわかります。

kou171215.8.jpgkou171215.9.jpgしかし、実験ではハイビームにすることで道路脇にいる人の見え方も一目瞭然で違うことがわかりました。歩行者が歩く道路脇も、実はロービームの死角となっていたのです。

前後の視界だけでなく、ドライバーの左右の視野も大きく広げるハイビームを利用することで、歩道を歩く人や、道路を横断しようとする人にいち早く気が付くことができ、事故防止にもつながると言えます。


<「使い分け」が重要>

kou171215.10.jpg日本大学の景山教授は、「ハイビームをためらう気持ちもよくわかるが、ロービームと比べ、見える範囲は格段に広がり、事故も防げるので、積極的にハイビームを利用する機運が広がってほしい」と話しています。

一方で、「基本はハイビーム」とはいえ、切り替えずにずっとハイビームにしていると、対向車のヘッドライトの光で瞳孔が閉じてしまい、人が消えて見えなくなる「蒸発現象」が生じ、逆に、事故にもつながりかねません。

つまり、大切なのは、ロービームとハイビームをこまめに切り替えることだということです。多少面倒でも、手元の操作1つでできる簡単な交通安全対策。きょうから少しだけ意識をして運転してみてはいかがですか。

投稿者:栗原岳史 | 投稿時間:17時11分

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