2020年08月03日 (月)世界はマスクを求めてる
※2020年1月29日にNHK News Up に掲載されました。
新型肺炎の感染拡大で一気に需要が高まったのがマスクです。
SNSを見ると、不足を見込んで高値で売ろうとする動きから日中の友好関係に関するコメント、さらには賛否両論があったマナーの見直しまでさまざまなことが起きていました。
ネットワーク報道部記者 橋本知之・野田綾・ 國仲真一郎
転売ヤー現る
「マスクひと箱60枚入り9万8000円」
新型肺炎でマスクの需要が一気に高まる中、やはり現れました。
ふつうに買えば、ひと箱660円ほどの商品を大手通販サイトで高く転売しようとする動きです。
これは極端なケースにしても、ひと箱6000円なども見られます。
もちろんメーカーは関わっていませんが、10万円近い値段がつけられていたマスクを製造している会社に感想を聞きました。
マスク製造会社
「感染エリアが日々、拡大していくなか、マスクの高額転売や大量購入も起きており、メーカーとして不本意です」
Made in China
マスク需要の高まりを受けてこの会社では今月19日からの1週間の出荷量が前の週の3倍に急増したそうです。
ただ、その工場は中国にあります。
春節の10日間の休みを3日に短縮する増産体制を組んだそうです。
新型肺炎が広がる中国でも出荷しつつ、日本の需要にも応えるべく「しっかり供給していく」としています。
ちなみに、ほかのメーカーのマスクを見渡してみても多くが中国製。
厚生労働省が平成20年にまとめた「新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方」では、冒頭に「不織布製のマスクのほとんどは諸外国で生産され、輸入されているため、流行前に準備しておくことが推奨される。ある程度の備蓄を推奨する(一部抜粋)」と明記されています。
私たちの感染症対策も外国製のマスク抜きでは語れなくなっているようです。
“大愛不分国界”
上記の6文字は「大きな愛情に国境は関係ない」という意味。
こんなことばが今、中国版ツイッターのウェイボーに並んでいます。
きっかけとなったのは中国の通信社が今月26日に配信した「日本の友人が100万枚のマスクを支援した」という内容の記事です。
ニュースは中国で反響を呼びウェイボーには書き込みが相次ぎました。
「四川大地震では日本がいち早く支援をしてくれ、新型肺炎では100万枚のマスクを寄贈してくれた。大きな愛情に国境は関係ない」
「危機の時の行動は人を感動させるのだ」
日本の友人とは?
「日本の友人」とはいったい誰なのか?
ほかの記事も読み進めると「伊藤洋華堂」とありました。
「確かに、今月24日にマスク100万枚を送りました。成都市から要請を受けたもので、会社としては寄付という扱いをしています」
大手のスーパーの「イトーヨーカ堂」でした。
広報担当者に取材をすると、100万枚の中には現地の従業員が使う分も一部含まれているということですが、いずれも販売目的ではないと話していました。
「成都市にお店を出しているというつながりもあります。大変なときなので、そういった感謝の声をもらえるのはありがたいです」
大変な状況だからこそ
自治体レベルでも支援の動きが広がっています。
その一つが武漢市と友好都市の提携を結んでいる大分市。
市が備蓄していた5万枚のマスクのうち3万枚を今月27日、武漢市の紅十字会(日本の赤十字社に相当)に送りました。
「春節とウイルス拡大の影響でいつ届くか分からない」と伝えられ、これまでのところ到着の確認はとれていないということですが、「大変な状況だからこそ力になれたらと思いますし、感謝されることもうれしく思います」と話していました。
大分市には、同じように中国の都市と友好関係のある全国の自治体から、現地との連絡の取り方や支援物資の送り方などの問い合わせが相次いでいるということです。
ふだんは厳しいことばが並ぶけれど
ウェイボーには、日本を訪れた中国人がマスクなどを買うために訪れたドラッグストアの光景が、次のようなメッセージとともにたくさんアップされています。
「中国語で『頑張れ』と書いてある。この災難の時に国境はなくなった」
「中国人観光客が撮影した日本各地のマスクの棚には応援のことばが多く書かれ、見た中国のネットユーザーの目を潤ませた」
「日本ありがとう」
マスクマナーに見直しの声も
ネット上ではいわゆる「マスクマナー」の見直しの声も相次いでいます。
「うちの嫁ホテルで受付しているんだけどマスク着用は禁止されているって。受け付けがマスクして誰が文句言う?」
「旦那が仕事で行くホテル、フロントはマスク禁止なんだって。いいかげんマスク=マナー違反はやめたほうがいいよほんと」
「うちの百貨店、8割中国人客なのにマスク禁止。絶対マスクしてやる!」
マスクマナーとは、ビジネスや接客の場でマスクをつけるのはマナー違反だというもので、その是非を巡ってはネット上でもたびたび議論になってきたのです。
フロントもマスク姿
今月27日、全国で35店舗運営している「ホテルウィングインターナショナルチェーン」は、お知らせを掲示しました。
フロントのスタッフを含めすべての従業員のマスク着用について、客に理解を求めるための掲示です。
広報担当者
「感染症対策でこのような対応を取ったのは初めてですが、従業員を守るためにも必要な措置だと考えています」
こうした動きは今、外食チェーンや鉄道会社でも相次いでいます。
使ったマスクは触らない
「感染拡大を予防するため、マスクを着用するというのも接客のうえで必要だと思います」
池袋大谷クリニックの大谷義夫院長
そう話してくれたのは、呼吸器専門の池袋大谷クリニックの大谷義夫院長。
さらに「マスクの正しい使い方を徹底してほしい」と訴えます。
池袋大谷クリニック 大谷義夫院長
「鼻口あごを覆うように隙間無くマスクを付けるのが基本です。多くの人はマスクを1日1枚使うと思いますが、できたら外出のたびに取り替えることを勧めます。マスクには飛散したウイルスがたくさん付いているからです。このためマスクを外す際は、マスク本体を触らずゴム部分のみ持ってそのまま捨ててください。外したマスクをポケットやかばんに入れて、再利用してしまったら全く効果はありません。」
最後に大谷院長は、正しく恐れて正しく予防してほしいと話してくれました。
池袋大谷クリニック 大谷義夫院長
「新型肺炎を引き起こすコロナウイルスがどれほど危険なのか分からない段階で、過度に恐れる必要は無いと思います。かぜでもインフルエンザでも手洗いやアルコール消毒を徹底し、正しくマスクを着用することが必要です」
世界はマスクを求めてる。その衝動は、先が見通せない新型肺炎への不安によるものです。マスクを正しく求めて正しく使う世界に。そうありたいと願います。
投稿者:野田 綾 | 投稿時間:15時43分