2015年08月06日 (木)難聴の映画監督 自転車で日本縦断


名古屋市に住む聴覚障害者で映画監督の女性が、自転車で日本列島を縦断しながら映画を製作することになり、スタート地点となる沖縄を出発しました。
旅先で出会う人々との触れ合いを描く映画で何を伝えようとしているのでしょうか。
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【映画監督として】
名古屋市緑区に住む映画監督の今村彩子さん(36)は、母親が妊娠中に風疹に感染したため、生まれた時から難聴で補聴器がないと全く聞こえません。
ayako20150806_1.jpg15年間、映画監督としてドキュメンタリー映画を製作してきた今村さん。代表作は、東日本大震災の発生直後から被災地に入り、耳の聞こえない人を取材した映画「架け橋 聞こえなかった3.11」です。
ayako20150806_2.jpg被災した人や、被災者を支援する人など、さまざまな立場の人にインタビューを重ねた作品で、全国各地で上映されています。

【テーマはコミュニケーション】
今村さんがこれまでに製作した映画は約30本。作品に共通するテーマは「コミュニケーション」です。今村さん自身、耳が聞こえる人と接する時には壁を感じてきたといいます。聞こえないことを言い訳にして、コミュニケーションを諦めることもありました。
ayako20150806_3.jpg今村さんは「手話を知らない人だと紙に書いたり、ゆっくり口を大きく開けて話してもらうとかしてもらわないといけないので、初対面の人にお願いしていいのかなと気が引けてしまったり、私のコミュニケーションに対する悩みは一生続くのかなと、すごく悩んでいたこともあった」と話します。

【母を亡くして】
今村さんは、去年夏、一緒に暮らしていた母親の加代子さんを突然、亡くしました。
ayako20150806_4.jpg助けてくれていた母親を失った今村さんは、一時、生きる気力をなくし、映画製作への意欲も途切れかけたと言います。「亡くなって初めてすごく大きな存在だったんだなというのを感じます。私と相手がスムーズに関係を築けるように、時には謝ったり、時にはよろしくねだったり、私に見えないようなところでやってくれていたんだなって」

【自転車で映画を】
そうしたなか、今村さんはクロスバイクという自転車に乗ると元気が出るのを感じました。自転車に乗って日本列島を縦断しながら、出会った人たちとの触れ合いを映画にしようと決意しました。
ayako20150806_5.jpg「自転車に乗ったら、こぐと必ず前に進む、後ろにはさがりませんよね、なので私の気持ちも前向きになったんです。自転車で日本を縦断しながら映画を撮ろうって思ったんですね。縦断で遭った人たちとのコミュニケーションを撮りたいと思った」。
ayako20150806_6.jpg出発の1週間前。今村さんは自転車販売店で自転車を分解したり、組み立てたりする練習を繰り返していました。
撮影を手伝う人が必要なため、今村さんはこの店で働く堀田哲生さんに伴走を依頼しました。しかし、堀田さんに手伝ってもらうのは、あくまでも撮影だけです。道に迷ったとしても、その土地の人に尋ねるのは今村さん自身です。
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【Start Line】
今村さんが決めた映画のタイトルは、「StartLine」。映画製作への意欲を失った今村さんが、もう一度スタートラインに立って映画作りに挑戦すること。
そして、今村さんが、初めて出会う人たちとのコミュニケーションを映画にするように、何かを諦めている人たちがスタートラインに立てるように背中を押したい。そうした思いを映画に込めようとしています。
ayako20150806_9.jpg今村さんは「いろんな失敗とか、忘れたい出来事とか、自分で本当に駄目だなと思うくらいの大きなダメージを受けたときとか、でも時間はかかってもいいからもう一度スタートラインに立ってやってみようかなと、本当に気持ちがあればできるよということを自転車で日本を縦断している私を見て感じてもらえたら嬉しい」と意気込んでいます。
ayako20150806_10.jpg今村さんは7月1日に沖縄を出発し、撮影を始めました。2か月かけて北海道を目指し、映画の完成は来年3月1日の予定です。

投稿者:松岡康子 | 投稿時間:12時02分

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