2018年05月16日 (水)セクハラを受けて思った、社長はかっこいい


※2018年4月20日にNHK News Up に掲載されました。

セクハラを受け、会社に失望した人がいます。セクハラを受け、会社への信頼が高まった人がいます。いまネット上をにぎわすセクハラへの意見や体験。会社への思いはどこでこんなに変わるのか、望まれる対応も含めて考えてみました。

ネットワーク報道部記者 高橋大地・郡義之・藤目琴実

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<社内セクハラより、声をあげにくい>
sek180420.2.jpg「若いころを思い出して苦しい」

セクハラに関するソーシャルメディア上の反応です。事務次官が女性記者にセクハラ発言をしたとされる問題。これをめぐって仕事先からのセクハラについてみずからの体験や思いを投稿する人が相次いでいます。

「笑って上手くかわせ、が先輩からの教え。クライアントに呼び出されたら、何時でも行かねばならない」

「相手が上得意様であるほど社内のパワハラよりも声をあげにくく揉み消されがち」

「個人で抱え込んでうつで職を失ってって、結構わたしの業界多い」

残念ながら目立つのは、自分の会社に救いを求めたけれど、失望したという声です。


<セクハラには土壌がある>
実際、相談機関に寄せられるのはどんなものなのか、セクハラ問題を重点的に扱っている労働組合「パープル・ユニオン」に聞いてみました。

社外との間のセクハラ相談で多いのは“自分の会社で対応してくれず不信感を募らせたケース“。体調を崩し、休職や解雇に追い込まれ、やっと相談するケースもあるそうです。

そして執行委員長の佐藤香さんが指摘するのは、セクハラが起こる土壌。それが企業側にあるという点です。

sek180420.3.jpg佐藤香さん
「上司から、接待の場に呼ばれお酌をするよう求められた」

「接待の帰り際に“送ってあげて”と言われ2人きりでタクシーに乗せられた」

そうした相談が示すように、セクハラは突発的に起こるものでなく、企業側の姿勢が温床になっているケースが多いと佐藤さんは見ています。

「まず企業の姿勢が変わらないとセクハラが起きやすい環境は変わりません。営業などへの影響をおそれて会社がきぜんと対応しないこともあり、問題を被害者が抱え込んでしまうんです」(佐藤さん)


<×個人対個人 ○組織対組織>
それでは企業はどう対応していけばいいのか。

「個人の問題にわい小化させてはいけない」ーー企業に向けたハラスメント対策の研修を行っている、三木啓子さんのことばです。

年に全国の80社ほどで研修を行うという三木さん。個人でなく、組織が前面に立たないといけない理由があると言います。

「仕事の中で起きたトラブルだからです。会社の仕事を進めていて、トラブルにあったのですから個人の問題ではありません」

「“社外でセクハラ問題が起きた”その時は、本人でなく組織が相手側にしかるべき対応を求める、研修ではそう話しています」

sek180420.4.jpg三木啓子さん


<実際は…>
企業などからセクハラへの対応について相談を受けることもあるそうですが、アドバイスをしてもきちんと対応しているケースばかりではないようです。

「企業の中に、大ごとにしたくないという雰囲気がまだあります。相手が誰であっても、きちんと対応する姿勢になっているか振り返ってほしい」(三木さん)

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<直ちに抗議よりもまず>
また、相手に強い姿勢を示す前に、大切なこともありそうです。

「セクハラの場合、相手企業や組織に、直ちに抗議することが必ずしも正しいとは言えません」

sek180420.6.jpg南川麻由子さん
セクハラ問題に詳しい、南川麻由子弁護士の指摘です。被害者から会社に申告があっても「周りに知られたら印象が悪くなるかもしれない」、「相手の企業から報復があるかもしれない」そうした悩みを抱えながら、訴えていることも多いからです。

大切なのは事実をしっかりと確認すること、そしてどんな対応を希望するのか、本人の意思も尊重することでした。

「本人は相手と会わないように、担当する会社を変えることだけを望んでいるのかもしれません。逆に自分が開拓してきた担当企業は変えたくなく、相手側と慎重な交渉をしてほしいと考えているかもしれません。そうした考えを尊重したうえで、その後も話を聞き続けていくことが大事です」

「話を聞いて行く中で『やはり何としても抗議をしたい』となれば、企業としてしっかりと抗議していく。勇気を出して訴えた人を守りながら対応していく姿勢と、当事者との信頼関係が大事なんです」


<社長は、かっこよかった>
今回、企業の姿勢に厳しい意見が圧倒的に多数でした。でもネット上の声をよーく見ていると、本当に時々ですが、おっと思う体験が載っていました。

その一つ。「昔、後輩が超大手取引先の担当者からハラスメントを受けた。その報告を聞いた当時の社長は『俺が行って取引やめると言う』と、即答した。あの時『社員がなにより大切』と、言い切った、社長はかっこよかった」

もう一つ。「昔、営業時代にクライアント先の男性からセクハラ発言に遭い、会社の上司に相談した。契約のため我慢するべきか迷った。その上司が『そんなクライアントうちは要らないから』と、上から抗議して守ってくれた。すごく安心した」

こうした声に目がとまるのは、まだこうしたことが社会に少ないと思うからで、こういう世の中になってほしいという願望があるからかもしれません。社員を大切にする会社が悪い会社のわけは絶対なくて、クライアントを切ったことで利益が落ちることはあるかもしれない、けれど、大切にされるなら社員はそこで働き続けたいと思い、みんながそう思うならば、会社の成長につながるのではないかとも思うのです。
ハラスメントへの対応は、会社が何を大切にしているのか、それが問われる事態のように感じました。

いつか将来、今回かっこいいと思った社長や上司の話が、「今の時代、それは当たり前過ぎる」と思えるような方向に向かっていかなければ、いやその前に、まず自分がそうならなければと、戒めにも思う取材でした。

投稿者:高橋大地 | 投稿時間:15時20分

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