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2017年10月 8日

第53回 秋の京都へ 狩野派に出会いに行く旅

「目指せ!天下一の絵師集団~狩野元信の戦略~」の放送に合わせ、出かけよう日美旅では、京都で狩野派の作品が見られる場所を旅します。
※文中に登場する寺院・展示施設の内部はいずれも通常は撮影不可です。この度は特別に許可をいただき撮影しています。

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左京区一乗寺にある「曼殊院門跡」にて。狩野永徳の「虎の図」。

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室町、桃山、江戸。400年もの間、日本の絵画のひのき舞台に狩野派は君臨し続けてきました。将軍や皇室などそのときどきの高位な人々に求められ時代の空間を彩ってきました。
狩野派のスタイルと制作体制の礎をつくった元信、信長や秀吉に厚遇されて桃山時代を華やかに彩った永徳、徳川家からの信任を得て多くの仕事を残した探幽など。美術館・博物館以外に、狩野派の絵画を見ることのできる寺院や城などがあります。木々も赤黄に色づいていくこれからの季節。お庭見物も兼ねて、狩野派に出会いに行きましょう。

妙心寺塔頭 退蔵院

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妙心寺の境内の中にある塔頭寺院「退蔵院」。春の紅しだれ桜の美しさでも知られるお寺。 

向かったのはJR山陰本線の花園駅。ここに全国に3500近くもの寺院を持つ臨済宗妙心寺派の大本山があります。狩野元信は妙心寺とゆかりが深く、塔頭寺院のひとつ「霊雲院」には49面に及ぶ障壁画を残しています。それらの障壁画は現在京都国立博物館寄託されており、お寺で見ることはできないのですが、同じく妙心寺の塔頭「退蔵院」では元信が作庭したと伝えられるお庭を見ることができます。

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退蔵院にある「元信の庭」。枯山水の庭は石を立てて使うことが多いが、この庭では石を寝かせて配置されており、部屋から見ると左右に広がりのある絵画のように感じられる。

絵画でなくてお庭? と思われる方もいるかもしれません。が、山門をくぐり方丈に入り、その正面奥の、外に通じる障子を開け放った先の庭に臨んだときには独特の感覚に襲われます。「あたかも『立体的なふすま絵』が登場したかのようです。座敷に座って眺める人の目の高さまで計算してつくられたのでしょう」とお寺の方は話してくれました。こちらのお庭、霊雲院の障壁画を手がけている期間に作庭したのではないかとのことです。

また、方丈内のふすま絵は狩野光信の高弟・狩野了慶の作です。復元模写でなくオリジナルが設置されています。経年によってあせてはいますが、了慶の画風や筆致は十分に堪能できます。師・光信に通じる、派手でないが実直で細やかな絵です。

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方丈の中央のふすまに描かれた狩野了慶のふすま絵。

通常、方丈は一般の拝観者は立入禁止で、ふすま絵はお堂の外からしか見ることができません。また元信の庭も、建物の外から眺める形となります。ただ、10名以上で、あらかじめ日時を伝えて申し込めば、お寺の方立ち会いのもと入室させていただき、お庭とふすま絵を室内から見ることが可能だそうです。もちろん、大変貴重な文化財ですので、マナーを守って拝観してください。

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杉戸の絵ももともとは狩野了慶が手がけたものだが、劣化が激しいことから現在は復元模写になっている。 

また、元信の庭とは別に昭和期につくられたお庭「余香苑」があります。こちらは四季折々に変化する自然の美しさが魅力で、このお庭を目当てに訪れる人も多いとか。有名なのは春先、満開になる巨大な紅しだれ桜ですが、5月は藤とつつじ、6月はさつき、あじさい、夏はハスの花、秋は紅葉……と、毎月何かしらの楽しみがあります。

なお退蔵院は如拙の「瓢鮎図(ひょうねんず)」を所蔵しているお寺としても知られています。オリジナルは京都国立博物館に寄託されていますが、レプリカを見ることができます。

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「ひょうたんでナマズをおさえとることができるか」という禅の公案を表した「瓢鮎図」。美術の教科書などでもおなじみの作品、レプリカが展示されている。

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庭園「余香苑」。手前の池は、ひょうたんの形をしていて、以前はナマズがいたらしいとか?

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「余香苑」は昭和の造園家・中根金作氏の手によるもの。

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庭園内の茶室で抹茶とお菓子をいただく。

曼殊院門跡(まんしゅいんもんぜき)

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曼殊院。狩野永徳作と伝えられる虎の絵。大胆で迫力のある永徳の画風を堪能できる。 

次に左京区一乗寺にある古刹「曼殊院門跡」へ。門跡と呼ばれているのは皇室の方々が住職を務めてこられたお寺だからです。17世紀、八条宮良尚法親王が入寺され現在の場所に移築されましたが、この方は桂離宮の基礎を造営した八条宮智仁親王の第二子。なお兄の智忠親王は桂離宮の書院や庭園などを整備した方です。曼殊院は桂離宮と空間的な共通点が多く、「小さな桂離宮」との異名を持つほどです。兄弟の間で、感化しあった部分があったのかもしれません。

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400年以上を経て傷みもあるものの、今もその絵柄を楽しめる。

このお寺に狩野永徳作と伝えられる虎のふすま絵があります。桃山時代に活躍した狩野派の 代表的な絵師ですが、織田信長や豊臣秀吉から依頼されたふすま絵などは焼けてしまったものが多く、現存する作品は貴重。しかも虎は当時まだ日本で見られなかったであろう動物だけに、その描き方の面白さに見入ってしまいます。

しかしここでひとつの疑問が湧いてきます。永徳が生きた時代は1543〜1590年。48歳という若さで亡くなっているのですが、こちらのお寺が現在の場所に移ったのは1656年。お寺の方が教えてくれました。「曼殊院の建物は、それ以前は京都御所内にありましたので、その当時に描かれたのをこちらへ運んだのだと考えられます」。

竹虎図は重要文化財に指定されており、虎の間には入ることができませんが、部屋の脇から観賞することができます。
実はこの虎の間は、皇族の方々が来山される折にだけ開かれる勅使門をくぐり建物の大玄関を上がって堂内に入るときの、第一の間なのです。虎というテーマは、天皇家や将軍など位の高い方と結びついて描かれてきた画題。この場所にあることに納得です。

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虎の間の隣は「竹の間」。襖に竹の模様が木版画であしらわれている。16世紀のものだが何ともモダン。

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国宝に指定されている黄不動図も曼殊院の所蔵。こちらはレプリカ。本物は京都国立博物館に寄託されている。

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大書院の横のお庭。良尚法親王が自ら指示して造られたと伝えられる。 

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ほとんどあせて見えなくなってしてしまっているが、大書院のふすま絵は狩野探幽。

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小書院。菊花を散らした欄間や部屋左奥の「曼殊院棚」は数寄屋造の名作。 

曼殊院は桂離宮や本願寺飛雲閣と並び数寄屋造の代表的な遺構であり、大書院や小書院は棚や欄間を見てもその見事さにため息が出ます。そして、これらの部屋のふすま絵は、退色が激しくほとんど絵柄がわからなくなっていますが、狩野探幽の作と伝えられています。八条宮良尚法親王は、狩野探幽・尚信兄弟に絵を習っていたとのことです。

元離宮二条城 展示・収蔵館

最後に訪れたのは「二条城」。京における徳川家の居城として江戸時代に築かれた城で、かつては本丸御殿、行幸御殿、二の丸御殿などがありその全部が狩野派の障壁画で彩られたと言われています。現在は二の丸御殿が残るのみですが、二の丸御殿だけでも、内部に描かれた狩野派の障壁画は重要文化財の指定を受けているもので1016面もあります! 狩野探幽を中心に、江戸時代の狩野派の代表的な仕事がここに残っています。

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二条城、二の丸御殿。

もっとも現在重要文化財指定を受けている障壁画のオリジナルは二の丸御殿内にはなく、作品保護のため取り外して敷地内の「展示・収蔵館」に移されています。正確に言うと、平成4年から徐々に取り外してきましたが、その数の多さから25年経った今なお完了していないということです。「勅使の間」の一部分のふすま絵だけまだオリジナルが入っていて、2〜3年以内に展示・収蔵館に移される予定とのこと。

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2005年に開館した展示・収蔵館。こちらで狩野派による二の丸御殿ふすま絵のオリジナルが見られる。 

取り外したふすま絵の修理作業も継続して行われていますが、担当学芸員さんいわく、まだ20年以上掛かるのではとのこと。二の丸御殿ではオリジナルのふすま絵が取り外された後に復元模写の作品がはめこまれるようになっていますが、昭和47年にスタートした模写作業もまだ7割くらい。ふすま絵の保存・修理・復元作業は壮大なプロジェクトです。 

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11月12日まで大広間「一の間」「二の間」の障壁画が展示中。

展示収蔵館では年4回展示替えがあり、その都度異なるふすま絵が見られます。訪れた際には一の間・二の間のふすま絵が当時の配置そのままに展示されていました。一の間・二の間は諸大名が将軍と拝謁する時の部屋です。統治者としての威厳を知らしめる空間が求められたわけですが、狩野探幽は濃密かつ重厚な画風で威厳ある空間に表現しています。曼殊院で見た、永徳の豪放な画風とはまた違う、悠然と落ち着いた絵画です。    

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実際の松よりも大きい。そのスケール感も威厳を表す効果を上げている。 

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鳥などはほぼ原寸大で描かれている。あたかもそこにいるかのような錯覚を覚える。

こうして見ていくと、同じ狩野派と言っても、絵師によって、時代によって、異なった特徴あるのがわかります。また巡っていくと、いろんな時代をタイムトリップしているような気にもなります。京都で狩野派を楽しむ秋の旅、あなたもぜひどうぞ。 

展覧会情報

◎東京・六本木/サントリー美術館では「六本木開館10周年記念展 天下を治めた絵師 狩野元信」 が開催中です。(〜11月5日)

◎京都 元離宮二条城 展示・収蔵館では「大政奉還150周年記念展示第2弾:歴史の舞台 ~〈大広間〉一の間・二の間の障壁画 ~」が開催中です。(〜11月12日)

インフォメーション 

◎妙心寺 退蔵院
京都市右京区花園妙心寺町35 拝観:午前9時~午後5時
JR山陰(嵯峨野)線(亀岡・福知山方面行き)「花園駅」下車、徒歩約7分。

◎曼殊院門跡
京都市左京区一乗寺竹ノ内町42 拝観:午前9時~午後5時
市営バス JR京都駅より5番/地下鉄北大路駅より北8番/その他31番系統で/地下鉄国際会館駅より5・31番系統で「一乗寺清水町」下車、東へ徒歩20分。

◎元離宮二条城
京都市中京区二条通堀川西入二条城町541
JR京都駅から地下鉄烏丸線「烏丸御池駅」から地下鉄東西線に乗り換え「二条城前駅」下車。
二条城の入城受付は午後4時まで。展示・収蔵館の入場受付は午前9時~午後4時30分。