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2016年5月 8日 / 旅の紹介 第5回 京都へ 「禅の美」を訪ねる旅

京都国立博物館では、展覧会『禅―心をかたちに―』が5月22日まで開催中。番組ではこの展覧会に触れつつ、雪舟や白隠などの禅宗美術の魅力について語りました。

というわけで今回は禅の美をテーマに、雪舟、夢窓疎石、白隠、明兆らの面影を追って京都を旅します。

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夢窓疎石が作庭した庭の中でも最高傑作と言われる天龍寺の「曹源池庭園」。大方丈から眺める。

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天龍寺

まず始めに向かったのは嵐山。
番組にも登場、井浦 新さんが座禅に挑戦した嵯峨嵐山の禅寺「天龍寺」です。

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(左)天龍寺の庫裡(くり)。嵐山の大自然が背後に。(右)曹源池庭園は我が国最初に特別名勝指定を受けた史跡。

崩御した後醍醐天皇の菩提を弔う寺として、足利 尊氏が1339年に創建したのがこの天龍寺。南北朝〜室町時代にかけて臨済宗の黄金期を築いた名僧・夢窓疎石が開山した寺です。

夢窓疎石は南禅寺や円覚寺の住職を歴任した禅師でしたが同時に卓越した庭園デザイナーでもあり、禅宗様庭園を各地に施した人物としても知られています。西芳寺(京都市西京区)・瑞泉寺(神奈川県鎌倉市)など、優れた庭園をいくつも手がけています。
天龍寺の曹源池庭園はその中でも傑作と言われ、世界文化遺産にも登録されています。

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(左)先代の住職・平田精耕氏による「達磨図」。(右)曽我蕭白筆「雲龍図」(ボストン美術館蔵)を高精細デジタル技術で複製した屏風が昨年天龍寺に寄贈された。特別公開中(5月22日まで)。 

まさに息をのむ美しさで、一目で心を奪われてしまう庭。

ただ、夢窓疎石自身がこの曹源池庭園について述べた詩の一節には、「曲岸回塘休著眼 夜闌有月落波心(池の優美な曲線や堤の景色の美しさにばかりとらわれるな。夜も更け、暗闇の中、そうしたものが見えなくなった中で浮かぶ月にこそ得るものがある)」とあります。表面にのみ振り回されることなく真実を見よ、ということでしょうか。

なおこの寺の名は天龍寺ですが、臨済宗において「龍」は仏教の教えを守る存在。このことから臨済宗のお寺の法堂の天井には必ず龍が描かれています。

庭園の設計も龍のイメージと関連があります。大方丈(天龍寺最大の建物)から見える曹源池奥の山際に「龍門瀑(りゅうもんばく)」という、滝に見立てた大きな石組があります。その近くには鯉を表す岩があり、鯉が滝を昇って龍になろうとする様子を表現していると言われています。

芬陀院

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(左)「芬陀院」。入り口に「雪舟寺」の札も掛かる。(右)雪舟作と言われる枯山水の庭「鶴亀の庭」。

次に京都の南東、東福寺界隈にやってきました。

雪舟ゆかりのお寺として知られている「芬陀院(ふんだいん)」。「東福寺」の塔頭(たっちゅう。本山の境内にある小寺のこと)です。

雪舟は岡山の生まれですが、10歳の頃より禅の修行と絵を学びに京都の相国寺に移り、さらにその後東福寺でも絵を学び、30代半ばまで京都に居たと伝えられています。

ただ、その間の足跡をたどる手がかりとなる京都時代の雪舟の作品はほとんど残っていません。東福寺にも雪舟作と伝えられる「東福寺伽藍図」が1点あるのみ。そんな中にあって芬陀院では、雪舟が京都時代につくったとされる枯山水の庭園を見ることができます。

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(左)見事な屏風絵が室内を飾っている(※雪舟の作品ではありません)。(右)茶室の円窓から庭を眺めたところ。

現在のご住職にお聞きしたところでは、岡山県総社市(そうじゃし)にある「宝福(ほうふく)寺」と芬陀院が親しい関係にあったために、雪舟が東福寺に来山した折、第二の家のようにして通っていたとのことです。

“幼くして寺に入った小僧が禅の修行そっちのけで絵ばかり描いていたために罰として柱にくくり付けられた。そのとき床に落ちた涙を足の指を使って描いた鼠が、動き出すほどに本物そっくりで・・・”、このお話は有名なので多くの人が知っていると思いますが、その子どもこそ幼少時代の雪舟、お寺が宝福寺です。

山口県や北九州にも雪舟作と言われる庭がありますが、芬陀院の庭はそれらよりも早い時期につくられています。正確には、過去の火災などで荒廃したため昭和の作庭家・重森三玲氏が1939年に実測のうえ、復元したものです。 
「鶴亀の庭」と呼ばれ、本堂から向かって右に見える石組が「亀島」。左にあるのが「鶴島」。亀は首をニョキッと伸ばし、鶴は羽をたたみ首を低くもたげているさまが表されています。 

訪れたときは人も少なく、独り占めで時を忘れました。ご住職のお母様がいらっしゃるときには庭を眺めながらお抹茶とお菓子をいただくこともできます。

東福寺

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5月22日まで期間限定公開中の東福寺の「法堂」(左)と「禅堂」(右)。なお、東福寺では、毎週日曜座禅会が開かれており、禅堂で誰でも座禅ができる。

東福寺には吉山明兆(きっさんみんちょう)の作品が多く収蔵されています。その中でも有名なのが、『禅―心をかたちに―』にも出品されている、禅宗水墨画の名品「達磨・蝦蟇鉄拐図」でしょう。

ちなみに、毎年3月14・15・16日に行われる涅槃会(ねはんえ)のときには縦約12メートル横約6メートルもある、明兆の作品「大涅槃図」が法堂に飾られ、見ることができます。京都三大涅槃図のひとつと言われています。

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(左)東福寺の方丈を囲む「八相の庭」のうち、「南庭」。作庭家・重森三玲の作。(右)東福寺の開祖「円爾弁円」禅師を描いた「吉山明兆」の軸(写し)が取材時には展示されていた(現在は展示は終了)。

なお、この「大涅槃図」にまつわるエピソード。

この絵の出来に気を良くした将軍・足利義持が「褒美を出すから何が良いか」と明兆に尋ねたところ、帰ってきた答えは「東福寺にある桜の木をすべて切って欲しい」。修行の妨げになるからというのがその理由だったそうです。

結果、敷地内の桜はすべて切られ、さらには以後、東福寺では桜を植えないことになりました。東福寺に桜がなく、紅葉の名所として強く印象付けられることになった背景にはそんな史実があるのです。 

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東福寺の名所のひとつ・通天橋。ここから見下ろす紅葉の美しさは有名。

〈東福寺 特別拝観の情報〉 

東福寺では巨匠・堂本印象が天井画「蒼龍図」を描いた法堂、参禅の場としては現存最古最大の禅堂(重要文化財)を特別公開中。

5月22日(日)まで 10時~16時 ※5月9日~5月22日は12時~16時 

特別拝観のお問い合わせ 京都市観光協会  TEL 075-213-1717

法輪寺

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(左)敷地の片隅にひっそり佇む白幽子の墓。(右)通称「達磨寺」。敷地内には達磨堂があり、大小さまざまなだるまが、心願成就のために奉納されている。

次は上京区。円町に近い白隠ゆかりのお寺、臨済宗妙心寺派の法輪寺へ。
(※嵐山にも法輪寺がありますが、そちらは真言宗のお寺です)

一歩足を踏み入れるとそこには、だるま、だるま、だるま・・・。達磨大師と言えば中国禅宗の開祖ですが、一般的に知られるのは七転び八起きのだるまさんです。

2代前の住職、後藤伊山氏が戦後の荒廃した状況の中、日本を復興するという願をかけて起き上がりだるまを据えたお堂を立てたとか。以来、達磨寺として人々が参る寺になっています。現在も達磨堂には数えきれないだるまが奉納されています。

一方で伊山和尚は、いち早く白隠禅師に注目した研究者でもありました。32巻からなる『白隠和尚全集』を1934年に刊行したほど。

白隠には過度の修行から禅病(ノイローゼのようなもの?)に掛かったときに「白幽子」なる人物のもとを訪れて「内観の法」という秘法を授かったおかげで活力を取り戻し、全国に禅を広めるようになったという逸話があります(白隠の著作『夜船閑話』に登場)。法輪寺にはその白幽子の墓があります。

もともとは京都市左京区の神楽岡東墓地にあったが、盗難に合って行方知れずになっていたところを伊山和尚が見つけ出し、引き取って境内に安置したということです。

白幽子巌居之蹟

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(左)左京区北白川にある日本バプテスト病院の脇から登山道に入る。(右)細い沢を辿って登ること30分弱。結構大変。

ちなみに『夜船閑話』では白幽子は比叡山の山麓の岩窟に住んでおり、そこを白隠が訪ねたことになっています。

現在の法輪寺のご住職から聞いたところ、白幽子と白隠が対面したその場所が史跡として今でも保存されていると。

ということで、行ってみました。左京区の北白川にある日本バプテスト病院の脇から「北白川史跡と自然の道」という登山道に入れるのですが、そこから大山祇神社を通り過ぎ、さらに谷川の沢沿いに細い山道を瓜生山方面にずっと進んでいくと30分弱で「白幽子巌居之蹟」という碑に到着します。なかなか足元が厳しく、山登り用の靴を履いていかれることをおすすめします。また途中で道がふたつに分かれるので間違わないように。他のハイカーなどに尋ねると良いでしょう。

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ついに白幽子寓居跡と言われる場所を発見! 目印である「白幽子巌居之蹟」の碑は明治大正の文人画家・富岡鉄斎が建てたものと言われている。

本当にここで白隠が人生の転機となる出会いを果たしたのでしょうか。白幽子は一説では数百年生きたとも言われており、仙人的な描かれ方をしている人物。神秘的なお話です。ただ、山道を行き、ここへ辿り着くまでの道のりは大変でしたが、自分と向き合う貴重な時間だったとも言え、「禅」をテーマにしたこの旅の終着点としてはおすすめです。ここは「京都一周トレイル」のルートの一部でもあるので、単純に山歩きとしても楽しいです。ただ、くれぐれも体調や天候にはご注意を!

住所/交通

● 天龍寺 京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68/嵐電(京福電車)「嵐山駅」下車すぐ もしくは JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車徒歩13分 もしくは阪急電車「嵐山」駅下車徒歩15分

● 芬陀院 京都府京都市東山区本町15-803/JR奈良線・京阪本線「東福寺駅」下車徒歩10分

● 東福寺 京都府京都市東山区本町15-778/JR奈良線・京阪本線「東福寺駅」下車徒歩10分

● 法輪寺 京都府京都市上京区下立売通天神道西入行衛町457/JR山陰本線「円町駅」徒歩5分

●白幽子巌居之蹟 日本バプテスト病院(京都府京都市左京区北白川山ノ元町47)脇から「北白川史跡と自然の道」に入る。 /京都市営バス204 「北白川別当町」バス停から徒歩8分で登山道入り口

展覧会情報

◎「禅 −心をかたちに−」展
臨済宗・黄檗宗の寺院に伝わる肖像・墨蹟・仏像・絵画・工芸など名宝を一堂に集めた展覧会

2016年4月12日(火)〜5月22日(日) 京都国立博物館 平成知新館
2016年10月18日(火)〜11月27日(日) 東京国立博物館 平成館

◎大白隠展
白隠禅師の墨蹟書画200点余をかつてないスケールで紹介

2016年4月16日(土)~6月26日(日)
2会場で同時開催
東北歴史博物館 宮城県多賀城市高崎1-22-1
瑞巌寺宝物館 宮城県宮城郡松島町松島字町内91