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メディアの動き 2023年03月27日 (月)

#467 平成の放送制度改革を振り返る

 メディア研究部(メディア史研究)村上聖一

  平成(1989年~2019年)の約30年間、インターネットが普及し、放送と通信の融合が進展していく中で、放送制度にも大きな見直しが迫られました。この間、制度改革をめぐってどのような議論が行われ、どのような結論に至ったかについては、『放送研究と調査』で2回にわたってまとめましたので、以下より、ぜひお読みいただければと思います。ここでは、簡単にその内容をご紹介します。

▶ 『放送研究と調査』2023年1月号
  平成の放送制度改革を振り返る(1)放送・通信融合と法体系見直し

▶ 『放送研究と調査』2023年2月号
  平成の放送制度改革を振り返る(2)番組規律をめぐる議論

  従来の制度で問題になったのは、放送と通信が融合する中で、テレビや電話といった業態別の縦割りの法体系では、新たなサービスの創出に支障があるのではないか、という点でした。これについては、2000年代に入り、官邸主導の政策形成が進む中、総務省や放送事業者に加えて、IT戦略本部といった新たなアクター(行為主体)が政策形成に参入しました。そして、以下の図にあるように、縦割りの法体系からレイヤー型(横割り型)の法体系に転換し、規制の緩和を図るべきといった改革案が浮上しました。

2001年の法体系見直しのアイデア
kiseikaikaku.jpg(IT戦略本部IT関連規制改革専門調査会資料)

  これに対して、以下の図は、2010年に実現した放送・通信関連法の再編後の法体系です。この図を見ると、新たなアイデアが採用され、レイヤー型の法体系に移行したと言うことはできるでしょう。一方で、先のアイデアが提示されてから実際の法改正に至るまでに、10年近くの期間がかかったこともわかります。また、図からは読み取れませんが、改正内容を詳しく見ますと、放送での完全なハード・ソフト分離といった改革は見送られ、規制の見直しを含め、法改正は、既存の放送事業者の経営に大きな影響を及ぼさないものとなりました

2010年の放送・通信関連法の再編
soumusho.png(平成27年版情報通信白書)

  改革の中身が変化していった背景には、制度を抜本的に見直すアイデアは新たなアクターによって打ち出されたものの、それが具体化される段階で、所管官庁(総務省)や放送事業者といった従来の政策共同体が大きな影響力を持ったという点があります。そして、そうした政策共同体を中心に検討が進む中で、改正内容が次第に漸進的なものになっていった面があります。

  さらに、平成期の制度改革をめぐって指摘できる問題はこれだけではありません。放送制度の見直しでは、法体系の再編に加えて、メディアが多様化する中でのコンテンツ規律(番組規律)の見直しも重要な課題になりますが、制度の見直しにあたっては、その2つが切り分けられ、異なるアクターによって別々に議論されたということも指摘することができます。そして、コンテンツ規律をめぐる議論は、放送・通信融合への対応というよりも、番組をめぐる個別の問題が発端になって起きることが多く見られました

  例えば、1997年放送法改正でなされた番組審議機関の機能強化では、それに先立って起きた番組をめぐるさまざまな不祥事が存在していました。また、2010年の法体系の再編の際には、通販番組を含め、放送番組の種別の公表を義務づける規制強化がなされましたが、これもその直前の通販番組に対する批判がきっかけでした。

  しかし、放送制度の目的が、究極的には、「放送による表現の自由の確保」や「健全な民主主義の発達」(放送法1条)にあることを考えれば、法体系の見直しにしても、番組規律の見直しにしても、そうした目的を踏まえた上で、双方をどのように組み合わせれば政策目標の達成につながるのか、といった観点からの議論がより求められていたのではないかと指摘することができます。

  放送制度は、令和に入ってからも見直しが続いています。そこでは、近年の情報空間の変容を踏まえた上で、放送政策の目標を改めて確認し、制度のあり方を体系的・総合的に検討していくことが求められていると思います。