2020年02月25日 (火)妻には "勝ちたくない"?


※2019年11月22日にNHK News Up に掲載されました。

ある日のこと。
仕事を終えて帰宅し、缶ビールを飲みながら、ボーッとテレビを見る夫。しばらくして、隣にいた妻のひと言。
「私の話聞いてるの?」「えっ、聞いてるよ」
「じゃあ、なんて言ったか、言ってみて」「……」
こんな場面、心当たりがある人もいるのでは。
11月22日は「いい夫婦の日」。近くて遠い?わかり合えているようでわかっていない?じゃあ、夫婦をテーマに取材してみようじゃないですか。

ネットワーク報道部記者 郡義之・野田綾・斉藤直哉
首都圏放送センター記者 小倉真依

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「いい夫婦の日」って?

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そもそも、11月22日の「いい夫婦の日」を提唱したのは、財団法人の余暇開発センター、現在の日本生産性本部で、時期は昭和63年だったそうです。
長時間労働が社会的な問題となり、政府が休暇の取得やゆとりあるライフスタイルを提案したことがきっかけということですが、いまや、この日に合わせて婚姻届を出したり、夫婦で余暇を楽しむイベントが行われたりと、すっかりおなじみになった感があります。

夫50%・妻50%?

とはいっても「いい夫婦」ってなかなか簡単じゃないですよね?
夫婦間の火種っていろいろありますが、日常的に問題となるのは、例えば家事の分担です。

「共働きなのに私(妻)の方がやっている」なんて声も良く聞かれますが、実際、既婚者のみなさんはどう感じているのでしょうか。

毎年、共働き夫婦の家事分担について調査しているマーケティングリサーチ会社『マクロミル』が、ことし10月に行った最新の調査がこちら。
※回答:全国20歳~49歳の既婚の男女1000人(男性547人、女性453人)

tuma.191122.3.jpg共働き夫婦の家事分担の比率について、
「理想」は「夫50%・妻50%」という回答が全体の43.3%。
これに対し、
「現実」が「夫50%・妻50%」になっていると回答したのは、わずか13%となっています。

現実の負担比率は「夫10%・妻90%」という回答が最も多く、妻への家事負担の偏りは、夫婦とも共通の認識のようです。

“名もなき家事”も

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「夫だって家事してるぞ」という声も聞こえてきそうですが、夫婦間にはそもそも「家事」について、認識のギャップがあるとも言われます。

一般的な家事のイメージは「掃除」「洗濯」「料理」など。
でも、それだけじゃない。
無数の “名もなき家事” があるというのです。

例えば、
「トイレットペーパーがなくなった時に買いに行く」
「靴を磨く」
「町内やマンションの会合に出席する」
「飲みっぱなしのグラスを片づける」
「調味料を補充・交換する」などなど
確かに、こうした日々欠かせない細かなことを、誰がやってるかと聞かれると、ことばに詰まる男性が多いかもしれません。

“非勝三原則”って何だ?

じゃあ、「いい夫婦」のためには、とにかく夫が家事をやるしかないのか?もっと根本的な「姿勢」とか「極意」みたいなものは…。
思案しながら取材を続けていると、なにやら見慣れないことばが目に飛び込んできました。

「非勝(ひかつ)三原則」??
調べてみると、「全国亭主関白協会」という団体が提唱しているのだとか。亭主関白といえば、夫の言う事に妻が従う構図。

tuma.191122.5.jpg「これは、昔かたぎの集団では?」と思いつつ、取材を申し込んでみると、「もともと関白は天皇を補佐する役目。夫は関白となって常に支えるというのが、正しい解釈ですよ」と、会長の天野周一さんが説明してくれました。

天野さんによると、非勝三原則とは。
夫婦げんかに「勝たない、勝てない、勝ちたくない」。
真意を聞くと「だんなさんは夫婦げんかに勝っちゃいけません!」と意外なひと言が…。

天野さんは、もともと妻に「飯、風呂、寝る」という接し方で暮らしていましたが、ある日、離婚を切り出されたのをきっかけに考え方を改め、20年ほど前に、仲間と協会を立ち上げたといいます。

tuma.191122.6.jpg天野周一さん

天野さん
「妻には日々、楽しい気分で過ごしてもらいたいんです。だから、自分が上手に尻に敷かれることが円満にいくのではないかと思いました」
「万が一けんかに勝っても、次の機会には、妻から、5倍、10倍でやり返されます。夫とすれば、“名誉の撤退”が大事なんです」

そんな天野さんの考えに共鳴し、当初10人ほどだった協会の会員も今では2万5000人にまで増えたんだそうです。

愛のテミル原則

さらに、こんなことばも見つけました。

tuma.191122.7.jpg1.やってみる 妻が喜ぶ家事ひとつ
2.出してみる 気づいた時の感謝の言葉
3.聞いてみる 世間ばなしと今日の出来事
4.捨ててみる ミエ、テレ、タテマエ、セケンテー
5.なってみる 恋した頃の触れ合う気持ち

提唱しているのは「日本愛妻家協会」。

「持続可能な夫婦関係は、どうも世界の平和と地球環境の保全につながっているらしい」として、世の男性たちに妻を大事にする文化を広めようと活動しているんだそうです。

tuma.191122.8.jpg久保宗之さん

事務局メンバーで群馬県・嬬恋村職員の久保宗之さんに話を聞きました。

久保さん
「原則といっても、最近の若い人には普通のことかもしれません。ただ、かつて日本の男性は『外で働いて稼げばいい』ということが普通とされた時代があったのは確かなので、あらためて原則として掲げることで何かが始まればいい」

tuma.191122.9.jpg日本愛妻家協会では1月31日を語呂合わせで「愛妻の日」と定めています。

毎年この日は仕事を早く切り上げて帰宅し、妻に感謝する運動、題して「男の帰宅大作戦」を呼びかけていて、毎年、参加者も増えているということです。

久保さん
「一番身近な存在である夫や妻との間がぎすぎすすると明るい世の中にならないと思います。少しずつでも夫や妻を大事にする文化が広がっていけば世界が少しだけ平和になると思って活動を続けていきます」

夫だってがんばってる
そう、夫の側だってがんばろうとしている人はいますよね。

実際、家事について、ネット上で夫の声を探してみると…。

「朝からゴミ出し、トイレ掃除、床の掃除機がけ、洗い物、洗濯まで終わり~」
「共働きで、保育園の送り迎えは半々。炊事、洗濯も役割分担している」
「家事は得意分野で分担するのが一番効率的。妻は料理が得意、私は掃除や家計管理が得意。無理に手伝うよりも任せた方が円滑に進みます」

夫婦は「ワンチーム」

「勝とうとしない」
「妻に感謝を」
「家事もがんばる」

こうして見ると“昔に比べれば” いい夫婦が多くなっても、よさそうです。なのに相変わらず、妻から「夫は全然手伝ってくれない!」なんて不満が聞かれるのはどうしてなのでしょうか。

tuma.191122.10.jpg大塚くにこさん

夫婦間のさまざまな相談に30年以上対応してきた、NPO法人「結婚生活カウンセリング協会」の大塚くにこ理事長に話を聞きました。
カウンセリングで、多くの夫や妻から話を聞いてきた大塚さんは「共働き、男女平等、育児参加が当たり前になりつつある中で、妻の夫に対する要求も高まりつつある」と感じているといいます。

大塚さん
「女性は『夫が十分に手伝ってくれない』と訴える。一方で、夫は『必要以上に家事や育児に協力を求められ、疲れてしまった』と訴えます。かつてに比べて、夫に家庭内での役割分担をお願いしやすくなっているというのは感じています」

ある程度協力を得られても満足できない、または一定の割合で分担しているつもりでも満足してもらえないと感じる理由。
大塚さんは、夫婦間でそれぞれが「個人の価値観」を押しつけていることが原因ではないかとみています。

大塚さん
「私はこうだ、俺はこうだと、個人の価値観を相手に押しつけるようでは夫婦としてのチームプレイができない。大切なことは話し合い、互いがどう感じているかを知ることです。そのうえで、相手に思いやりを持って、共同生活においてどのようにしていくことが最善なのか考えることが大事なのではないでしょうか」

身にしみた…
冒頭で、妻の話を聞いていなかった夫。
実は、取材班の1人です。

全国亭主関白協会の天野周一会長の、こんなことばが印象に残っています。

「奥さんは、だんなさんの所有物だと思ってませんか?」
「もともと夫婦は赤の他人どうし。常に感謝の気持ちを持って過ごすことが円満の秘けつだと思います」

「感謝の気持ち」
てれずに、笑顔で、目を見て、「ありがとう」と言うことが大事なのですね。
結婚してから、妻の存在自体が当たり前のようになってしまった今の生活。

「日々の家事も率先してやろう。あ、もちろんうわのそらで話は聞きませんよ」

取材で聞いた先輩たちの話が胸にしみた11月22日。
1年に1度、わが身をふり返る1日も必要だと感じました。

投稿者:郡義之 | 投稿時間:12時19分

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