2020年03月31日 (火)誰でもサンタさんに
※2019年12月20日にNHK News Up に掲載されました。
もうすぐ、クリスマス。ですが、一足早くサンタさんになった人がたくさんいるようです。見知らぬ人に心から喜ばれるプレゼントを贈ることができました。キーワードは「ミスマッチをなくす」でした。
ネットワーク報道部記者 加藤陽平・ 和田麻子
“サンタクロース大作戦”!
千葉市内には、親の育児放棄などが理由で支援が必要な子どもが生活する児童養護施設や乳児院などの施設が5つあり、あわせておよそ200人の子どもたちが暮らしています。
千葉市は、この子どもたちを支援したいと「サンタクロース大作戦」を企画しました。
市はこれまでも、基金を使って定期的に冷蔵庫やテレビなどの生活用品の寄付は行っていましたが、予算には限界があり、子どもの遊び道具までは手が回っていませんでした。
そこで活用したのが、インターネット通販サイトのアマゾンの「ほしい物リスト」という仕組みです。
「ほしい物」をプレゼント
千葉市の「ほしい物リスト」※現在は受け付け終了
アマゾンのサイト上から設定できる「ほしい物リスト」。
利用者ごとに購入を検討している商品を記録することができる機能ですが、誰でも見られる設定にすることで、そのリストにある商品を第三者が購入し、プレゼントすることができます。
ミスマッチをなくす
千葉市がこの仕組みを選んだのは、施設が本当にほしいものを伝えることができるため、贈る側にとってもミスマッチのないプレゼントができると考えたからです。
市は各施設にほしい物を決めてもらい、リストを作成。
5つの施設で合わせて110ほどの商品を掲載しました。
▽「壊れやすくて何台あっても足りない」と三輪車、
▽「コミュニケーションの機会を増やしたい」とボードゲーム、
▽「興味をさらに深めたい」と恐竜の図鑑。
中には、災害時の備えとして、使い捨てができるほ乳瓶や液体ミルクなども。
あっという間に “完買”
市の担当者は「すべて買ってもらえるのはクリスマスが過ぎたころになるのでは」と、見込んでいたということですが、12月13日午前に掲載したところ、わずか2日後の15日午後にはすべての商品が購入され、届けられることになりました。
担当者は「あまりにすぐ買ってもらえて驚いた。サンタさんになりませんかという呼びかけに、多くの方が応えていただき感謝します」と話しています。
サンタさんも大満足
実際に、施設のために商品を購入したという千葉市の女性に話を聞くことができました。
音が出るボールのおもちゃとほ乳瓶を贈っていて、「必要な人に必要なものが届く仕組み」が決め手だったと言います。
贈った女性
「つらい環境に置かれた子どももいるかもしれないけれど、おもちゃを手にとって楽しんでほしい。自分の子どもは手を離れたので、実は久しぶりのクリスマスプレゼントでした」
さらなる「感激」も
施設の一つ、千葉市花見川区の乳児院「エンジェルホーム」は、丈夫な素材でできた絵本や、寝転がって遊べるおもちゃなど、50個以上のプレゼントを受け取りました。
施設の職員は「正直、すべて集まると思わなかったのですが、たくさんのプレゼントをいただき、びっくりしていますし、とても感謝しています」と話します。
さらに、施設の人たちを喜ばせたのはサンタさんたちが同封してくれた短いメッセージでした。
添えられたメッセージ
「いいクリスマスを過ごしてください」
「子どもたちの健やかな成長を願います」
読んだ職員は「メッセージの中には私たちをいたわってくれるものもあり、これでまた仕事を頑張っていけると思いました」と話していました。
被災地にも “必要な物” を “必要なだけ”
送る側の気持ちと受け取る側のニーズをあわせてミスマッチを防ごうという取り組みは、災害現場でも始まっています。
支援物資に着目したのが、コンビニや飲料メーカーなど58の企業とNPOが集まっておととし設立された組織「SEMA」です。
「SEMA」はふだんから、加盟する企業やNPOが提供できる支援物資などをリストにして集約。
大きな災害が起きるとNPOが被災地に入り、何が必要か自治体からヒアリングします。
西日本豪雨の支援活動 去年7月
その結果を基に、企業がリストアップする支援物資の中から該当するものを集め、必要なものを過不足なく被災地に届ける仕組みです。
取り組みを始めた去年7月の西日本豪雨では、合わせて22社が水や衣類などを提供し、岡山県倉敷市など20か所以上の避難所などに届けました。
変化するニーズ カギは「毎日聞き取り」
また時間の経過とともに変化する被災者のニーズにも応えることができたと言います。
西日本豪雨では、当初は水や食料、肌着といった物資の要望が多かったのが、徐々に、蚊の大量発生を抑える薬やスポーツ飲料などに変わりました。
現地で救援活動にあたるNPOの担当者が、被災者に毎日聞き取って必要な物資の提供を企業に呼びかけ、そのつど、現地に届けることで多くの被災者に感謝されたということです。
事務局を務めるヤフーの安田健志さんは「熊本地震で、自治体が全国から送られた大量の支援物資の対応に追われたのを目の当たりにしたのが取り組みを始める大きなきかっけになりました。被災者のニーズの把握や調達、それに輸送を企業やNPOが担うことで、自治体側の負担を減らすことにもなり、いち早い復興につなげられるのではないかと考えています」と話しています。
広がる「どちらもうれしい」
本当に欲しいものや必要なものを受けとった時、そしてそれを届けることができたとき、もらった人も届けた人も喜びが大きくなる。
さまざまな形で実現する仕組みが広がっています。
投稿者:加藤陽平 | 投稿時間:12時59分