2021年08月27日 (金)コロナとみかん、もぎ手2万人を確保せよ


※2020年8月14日にNHK News Up に掲載されました。

おいしい“みかん”を食べられるのは、汗水をたらし、手間ひまをかけて果実を育てる農家の人たちがいるからこそ。ただそれだけでは食べられません。育った果実を収穫する人がいないと、食卓には届かないのです。新型コロナウイルスの影響で、延べ2万人のもぎ手の確保に必死なかんきつ王国の話です。

松山放送局記者 田代翔子
ネットワーク報道部記者 大石理恵・目見田健

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かんきつ王国の悩み

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かんきつ王国とは愛媛県。「伊予かん」「紅まどんな」「甘平」「せとか」「はれひめ」「不知火」これは愛媛県で栽培されているかんきつ類の名前で、その数は、40余りに上ります。

かんきつ類全体の収穫量は国の統計で確認できる昭和49年以降、直近の平成29年の統計まで44年連続で日本一です。

さまざまな品種のうち愛媛県で最も収穫量が多いのが、手で簡単にむけて甘みの強い“温州みかん”。スーパーなどでよく見かけるあのみかんです。しかし、新型コロナウイルス対策で愛媛の温州みかんを収穫する人の確保が悩ましくなっているのです。

北海道から沖縄まで、延べ2万人で支える

温州みかんについて少し詳しく説明すると収穫の最盛期は毎年11月から12月ごろです。旬のこの時期を過ぎると味が落ちてしまうため、収穫は短期決戦となります。

koronatomikann20200814.3.jpg畑は水はけがよく太陽がまんべんなくあたる急傾斜地にあることが多いため、収穫を機械化できず人の手に頼らざるをえません。限られた期間に人の手で、収穫していかないといけないのです。

このため地元の農家の人たちでは足りず、全国からアルバイトの人たちが愛媛のかんきつ農家に集結し、おいしいみかんを届けるために収穫にあたっていました。その数は北海道から沖縄県まで、ひとシーズンに延べ2万人にのぼると言われています。

コロナで一変

koronatomikann20200814.4.jpgアルバイト用の宿泊施設

年間4万トンの温州みかんを地域で生産する西宇和農業協同組合によると、収穫のアルバイトの人たちは農家にホームステイしたり共同宿泊施設に寝泊まりしたりしながら作業にあたってきました。中には40日から50日もの間、収穫を担う人もいて、毎年、同じ農家で作業する“リピーター”もいるといいます。

県外からの多くの人の力に支えられてきた愛媛の温州みかん。しかし新型コロナウイルスが状況を一変させたのです。

県内の掘り起こし

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それは感染の広がりへの懸念から収穫に来る側も受け入れる側も県をまたぐ人の移動に慎重になっていること。農協では検討を重ねた結果、収穫にあたる人を、県外から例年どおりに受け入れるのは難しいと考えました。

代わって掘り起こしにかかっているのが地元、愛媛県内の人材です。

“11月や12月が閑散期となる別の作物の農家”
“ほかの産業で働く人”

そうした人たちに協力を呼びかけたり、兼業が難しい公務員にはボランティアとして週末だけでも来てもらえないか、呼びかけたりしています。

とにかく来てほしい

さらに受け入れたあとも、宿泊が必要な場合は、感染防止のため大部屋を禁止としました。「原則、1人部屋」とし、受け入れる側がホテルやマンションの空き室を用意します。中には自宅を改装して個室を用意する農家もあるそうです。

西宇和農業協同組合 農業振興部 菊池文雄部長
「秋にコロナの感染がどうなっているか全く読めないのでみな焦っています。週5日とは言わない、週末だけでもいい、半日でもいい、とにかく来てもらいたいという思いです」

県も「みかんアルバイター確保」として、8月の補正予算に9300万円余りを計上。アルバイトの人たちの宿泊費用を補助したり、人が集まる選果場の感染防止対策を支援したりすることになっています。

県外からの場合は

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「県外の人がいないとやっていけない」そうした声もあります。愛媛県八幡浜市で50年近く温州みかんを栽培している矢野橿夫さんです。

80歳の矢野さんは体力的な負担も増す中で、1ヘクタールある農地のみかんの収穫は、矢野さんの家族だけでは到底無理です。このため、およそ20年前から毎年、農協経由で県外からのアルバイトを雇ってきました。

しかし、新型コロナウイルスの影響でことしは農協が県外からの募集を行わないことからこれまでアルバイトに来てもらっていた九州と関東の人に個人的に連絡を取って収穫をしてもらうことにしました。

koronatomikann20200814.7.jpg地元の西宇和農業協同組合に取材したところ、県外の人を雇うことは禁止してはいません。しかし、その場合は愛媛県に来たら、まず宿泊施設で待機してPCR検査を受けてもらおうとしています。陰性が確認されて初めて、施設を出て作業にあたってもらうことを考えているそうです。宿泊の費用は農家が負担するものの自治体からの助成も検討されているといいます。

あと数か月

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もぎ手を確保できないと丹精込めて作ったみかんも届けられない。数か月後に迫った収穫シーズンを前に農家も農協も必死です。

県内のアルバイトを畑に送迎するための専用バスを運行する動きもあり、農協などは今後、新型コロナウイルスの影響を受けている観光業の人たちや地元の学生などにも声をかけていく考えです。

めぐりめぐって果実の収穫にも影響を及ぼす新型コロナウイルス。限られた収穫期を乗り切っていくためにかんきつ王国の奮闘は続きます。

投稿者:大石理恵 | 投稿時間:14時06分

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