2020年06月25日 (木)無断キャンセル ~あなたを待っていたのに~


※2020年1月23日にNHK News Up に掲載されました。

「スマホで手軽に予約!」そんなことばを頻繁に目にするほど、ネット予約は私たちの生活に広がっています。でも、手軽さの裏で「無断キャンセル」も深刻化。ついには警察に逮捕される事件まで起きました。無断キャンセルをめぐるさまざまな動き、取材してみました。

ネットワーク報道部記者 野田綾・國仲真一郎

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無断キャンセルで逮捕者

ホテルや旅館で無断キャンセルを繰り返したとして、22日、親子2人が警察に逮捕されました。

mudann.200123.2.jpg被害にあったホテルの予約画面

警察は宿泊予約サイトで得られる特典の「Tポイント」に目をつけて、無断キャンセルを2200回以上行い、およそ190万円分のTポイントを不正に得ていたとみて捜査しています。

この事件、ネット上でも波紋を呼んでいます。

mudann.200123.3.jpgそして、こんな指摘も。

mudann.200123.4.jpg正月の温泉地、250万円の損害も

この正月に相次いだ無断キャンセルによって多額の損害を被った温泉地があります。

「栃木県旅館ホテル生活衛生同業組合」によりますと、被害に遭ったのは、那須塩原市と日光市、那須町のいずれも温泉地にある少なくとも合わせて7つの旅館やホテルです。

mudann.200123.5.jpg被害にあった旅館

いずれもことし1月2日もしくは3日から1泊の日程で、露天風呂付きの高額な部屋に10人が宿泊するという内容で予約されましたが客は来ず、被害額は合わせておよそ250万円にのぼるということです。

これらの予約は去年8月から11月の間に同じ名前と住所を名乗る人物からいずれも電話で行われましたが、無断キャンセルのあと、その番号は通じなくなっているということです。

無断キャンセル、なぜ起きる?
こうした事態をどう受け止めているのか、那須塩原市観光局の木下昭彦局長に聞きました。「ほとんどがいいお客様ですよ」と前置きしたうえで、こう続けました。

mudann.200123.6.jpg那須塩原市観光局 木下昭彦局長
「最近は今回のように故意じゃないかというケースも見られるようになってきました。限られた部屋数しかない中で無断キャンセルで部屋がむだになってしまうことは旅館にとって大きなロスです。仕入れた1泊分の食材といった現実的なコストだけでなく、キャンセルされた部屋分のビジネスチャンスをフイにしてしまうこと、何より『せっかく準備したのに…』と心が折れてしまう損失が大きいように感じます」

無断キャンセルをした客に「キャンセル料」を電話や郵送で請求しても、支払いに応じないケースが2割から3割程度あり、木下さんによると、そういった場合は泣き寝入りせざるを得ないそうです。

そんな無断キャンセル、どうして起きてしまうのでしょうか?木下さんが挙げた理由は「ネット予約の発達」と、「ビジネスモデルが新しい仕組みに追いついていないこと」でした。

リスクを負うのは宿泊施設

木下局長
「いまでは予約の多くがネットでの予約サイトを経由したものになっています。お客様にとっては予約が簡単にできる反面、それが商取引だという認識が薄くなっている。その結果キャンセルも“気軽に”できてしまうのではないかという気がします」

「そうやって予約などのシステムが発達している一方、特に古くからある小さな旅館はいまも昭和さながらの“現金商売”なんです。事前にカード払いなどでデポジット(保証金)を入れてもらおうにも、そもそもそういう習慣がなかったし、新しいシステムを取り入れる投資をする体力がありません」

無断キャンセルそのものは小規模ながらも以前からあり、『事故』として扱われていたと話す木下さん。ただ、かつて旅行代理店を通した予約が主流だった時代には集金やキャンセル料の請求といった役割は間に入った代理店が担い、旅館やホテルが無断キャンセルで負うリスクは小さかったのだそうです。

しかしネットの予約サイトは施設と宿泊者が直接、契約を結ぶという形式が多く、リスクは基本的にすべて宿泊施設が負うことになるというのです。

あくまでも人と人どうしの信頼が商売のベースだとしたうえで、木下さんは、宿泊施設の側がさらなる自衛策を考えなければいけないと考えています。

木下局長
「特にピーク時を中心に予約時に預かり金をいただく、あるいは事前に宿泊確認の連絡をするなど、信頼をシステムで裏付ける必要が出てきていると感じます」

しかし今後、外国のサイトを経由した予約が増えた場合、あるいは悪意を持った“いたずら”が増えた場合など、悩みは尽きないと苦しい胸の内を明かしてくれました。

宿泊予約サイトの対策は?

では、宿泊予約サイトは「無断キャンセル」に対しどんな対策をしているのでしょうか?聞いてみました。

mudann.200123.7.jpg「一休」
「宿泊プランの設定やキャンセルポリシーなどは、宿泊施設の責任で行っていただいています。弊社としては、施設側への啓発を通して、予約サイトとしてともに無断キャンセルを減らしていきたい」

「じゃらん」
「無断キャンセルについて、宿泊施設に補償を行うサービスを去年から始めました。宿泊施設がキャンセル料を回収できない場合に、損害額の一定割合を保険会社が保険金として支払っています」
「予約者に対しては同じ日に複数の宿泊予約をした場合にメールで確認の連絡をしているほか、無断キャンセルを複数回繰り返した場合には新規の予約ができなくなる措置をとることもあります」(※運営する「リクルートライフスタイル」)

「楽天トラベル」
「予約が入った段階で過去に無断キャンセルがないか調べています。大半が『うっかり忘れていた』というケースだと認識していますが、繰り返しなど悪質性が高い場合には、注意や警告、会員資格の喪失などに至ると規約でも定めています」
「関連会社で無断キャンセルについてもカバーできる保険商品を開発して、宿泊施設向けに販売もしています」

「無断キャンセルは重大な問題ですし、悪意があるものについては犯罪にもなると認識しています。対策をとらないといけないと考えています」

飲食店のネット予約は

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「ホットペッパーグルメ」を運営する会社では、一定回数の無断キャンセルを行った利用者に対し、次の予約ができないようにするなどの制限をかけているということです。

このほか、同じ時間帯に複数の予約を入れている場合は事前にキャンセルの手続きをとるようメールで連絡しているほか、“うっかり忘れ”を防ぐため、予約の3日前に確認メールを送っているということです。

「ぐるなび」の広報担当者は、「具体的な対策はないのが現状です」と話します。

サイトの利用者は、予約を入れる際、名前や電話番号、それにメールアドレスを記入するため、店側がキャンセルした人を探し出すこともできますが、請求しても支払いを拒まれるケースもあるそうです。

ドタキャンバスターズ

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無断キャンセルで生じた損失を法的手段で解決しようと、大阪では弁護士が立ち上がりました。その名も「ドタキャンバスターズ」。無断キャンセルやドタキャンで生じた損失を、店に代わって回収します。

ホームページから店側が依頼すると、弁護士がキャンセルした客に連絡を取り、交渉にあたります。去年8月に本格的にサービスを開始してからこれまでに受けた依頼は300件を超えました。弁護士の阪田裕史さんに話を聞きました。

阪田さんはこれまでの経験を通して、特に若い世代のキャンセルが多く、それによって店側に迷惑をかけているという意識が薄いと感じることも多々あるといいます。

mudann.200123.10.jpg阪田裕史弁護士
「依頼されるとキャンセルした客に電話とメールで連絡を入れますが、内容について謝罪するのは2割程度。ほとんどの人は罪悪感を感じている様子がありません。『予約5分前にキャンセルの電話したけどつながらなかったのだから私は悪くない』などと苦しい言い訳をする人も多くいます」

そういう場合は、どう交渉するのでしょうか。

阪田弁護士
「たとえばラーメンを注文してすぐに仕事の電話が入って、店を出なくてはいけなくなった。その場合、代金は支払って出ますよね。店の予約も同じで、店側は料理の準備をしているので、支払いの義務は発生するのです。こういう話をしても、なかなか納得してもらえないことが多くあります」

mudann.200123.11.jpgそのうえで、無断キャンセルの問題は、キャンセルに関するルールを明確に示していない店側の対応にも問題があると指摘しています。

阪田弁護士
「ルールを明文化していないために、『言った、言わない』の議論になることも多くあります。また、キャンセルの連絡をアルバイトの従業員があいまいに受けてしまうなど、不慣れな対応が問題を引き起こしてしまうことも」

では、被害を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。

阪田弁護士
「必要なことは2つ。『約束を守ろう』そして『約束を明らかにしよう』。お互いに、どういう約束が発生するかきちんと認識しておくことが大事です」

便利だからこそ

相手と顔を合わさず、会話も交わさず、好きな時間に店やホテルをおさえられる「ネット予約」。「だからこそ、使うんだよ」という人も多いのかもしれません。

でも、それは気軽な口約束ではなく、「契約を交わす」こと。そして、もし、予定が変わってしまったら、できるだけ早く、「行けません」と丁寧に伝えれば互いに気持ちよく過ごせるのではないでしょうか。

皆さんはどう感じますか?

投稿者:野田 綾 | 投稿時間:13時24分

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