2017年06月30日 (金)なぜ 育児CMに批判


※2017年月5月15日にNHK News Up に掲載されました。

「その時間が、いつか宝物になる」

この言葉で終わる、育児に奮闘する女性を描くインターネット上の動画のコマーシャル。
この動画に“母親が苦労することを称賛する雰囲気が怖い” “過去の育児を思い出して見ていて苦しくなる”といった厳しい意見が寄せられ話題となっています。

動画で描かれているのはいまよくある育児の姿ですが、なぜ厳しい意見が集まるのか、追ってみました。
(報道局・清有美子記者 藤目琴実記者)

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<話題の動画>
話題になっているのは、おむつなどを手がける大手日用品メーカー、「ユニ・チャーム」が、去年12月に動画共有サイトなどに投稿した動画のコマーシャル。

商品を直接PRするコマーシャルではなく、企業のブランドイメージを打ち出すためのブランディング広告と呼ばれるコマーシャルです。
先月、「はじめての育児に奮闘するママへの応援歌」としてツイッターで改めて紹介したところ、インターネット上でじわじわと拡散され、
話題になりました。

ikuji170515.3.jpg2分程度の動画に登場するのは赤ちゃんとお母さん。

お母さんは赤ちゃんが産まれたばかりの時は満面の笑顔でした。しかし夜泣きのために疲れた体にむちを打つようにしてあやしたり、寝ていた赤ちゃんが急に泣き出したため、お風呂から出てぬれた体のままタオルだけを巻いてかけつけたり。
初めての育児に奮闘しますがだんだんと疲れた顔になっていきます。

最後は、小さな手が母親のひとさし指をそっと握り、ここでお母さんに笑顔が戻ります。”泣いて、笑って、一歩ずつ、君と一緒に生きていく”という歌が流れ、「その時間が、いつか宝物になる」というテロップが出て動画は終わります。


<ひとり育児に意見>

ikuji170515.5.jpgユーチューブ上で62万回以上視聴されたこの動画に、ツイッターやフェイスブックなどでさまざまな意見が交わされています。

話題になったのは、お母さんだけしか出てこない“ひとりでの育児”。「つらい気持ちを思いだした」「つらくて見ていられない」、「ひとりでの育児を賛美するようにしか見えない」といった批判が相次いで寄せられたのです。

一方、「私ひとりが頑張っているわけではないとわかった」「頑張っている母親の姿に共感した」という好意的な意見、育児の現実を表現しているのではないかといった意見もあり、同じ動画を見ても、受けとり方に大きな違いがあるのが今回のコマーシャルでした。


<動画制作の狙いは>

ikuji170515.1.jpgユニ・チャームはなぜこうした動画を作ったのでしょうか。
これまで赤ちゃんが関わるおむつなどのコマーシャルは“楽しい育児”をイメージするものがたくさんありました。

しかしユニ・チャームの広報に聞くと出産前に思い描く“理想の育児”と“現実の大変さ”。そのギャップに悩む母親が多いことに着目し今回は制作に子育て中のママやパパ、妊娠中の方々も加わって意見を交わし、“リアルな日常”を描くことにしたそうです。

子育ては楽しいことばかりではなく、
大変なこともあることを知ってもらえるよう心がけたそうです。

「現実にはまだ多くの女性が1人で育児に向き合い奮闘しています。“子育て中の人をみんなでサポートできる社会にしたい”育児をするお母さんを応援するつもりで制作しました」と話していました。


<批判はなぜ?>
制作の意図とは逆になぜ批判が集まるのか。

企業のインターネット炎上対策を専門に行う会社・エルテスの担当者に聞きました。コンサルタントの宮宗唯さんは、「コマーシャルを通じて特定の価値観やライフスタイルが描かれることで、それを押しつけられていると感じ、反発する人が出るのではないか。

ライフスタイルも多様化が進み、価値観も『人それぞれ』という考え方が広がっている。そうした中で“育児”や“働き方”などいま立場によってさまざまな考え方があるものは、特に敏感に人々が反応する」と
分析しています。

また子育てに詳しい専門家にも
今回のコマーシャルへの意見を聞いてみました。

恵泉女学園大学の学長の大日向雅美さんは「『その時間が、いつか宝物になる』というメッセージがよくなかったかもしれません。大変さが“宝物”にならなかった人もいますから。お母さんを応援するのであれば『もっと家族が育児に参加して』というメッセージを出すほうがよかった」と話していました。


<狙いも批判も思いは・・>
今回の動画コマーシャルを取材をしてみると、
制作者も、動画を批判する人も“お母さんだけに育児をさせないで”という同じ思いがありました。

それがすれ違うような形になってしまったのです。

数十秒で商品のPRをするこれまでのテレビのコマーシャルと違い、時間に制約がなく主に企業のイメージを打ち出すインターネット上のブランディング広告特有の難しさがありました。

今回の事態について大日向雅美さんは、次のように話していました。

「賛否両論あると思いますが、育児の在り方や課題が話題になり、関心が高まることは育児の環境が少しでもよくなるための第一歩だと思います。私は動画の第二弾も期待しています」。

投稿者:清有美子 | 投稿時間:16時24分

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