2017年04月07日 (金)日本人の身長 伸び止まったって本当?


※2017年4月4日にNHK News Up に掲載されました。

日本人の身長はすでにピークを過ぎた…、そんな説があるのをご存じでしょうか。最新のデータでもその説が裏付けられるような数字が出てきています。「そうなの?もっと背が高くなりたいのに!」。
そんな声に応えようと取材を始めてみました。

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<最近の若者 背は高くない?>
“最近の若者は背が高い”“平均身長は伸び続けている”
私(記者30代)もそう思っていました。
ところが…国が行っている子どもの発育状態の調査結果を調べてみると、逆の数字を示していました。

最初の調査は昭和23年度。17歳の平均身長は、男子が160・6センチ。女子が152・1センチでした。日本人の平均身長はそこからおよそ50年間右肩上がりに伸び続けます。平成6年度に男子は170・9センチ、女子は158・1センチに到達。男子は10センチ以上、女子も6センチも高くなりました。

しかし…この後は実は、この平均身長を超えた年は一度もありません。先月発表された最新の(平成28年度)の調査では男子は170・7センチ、女子は157・8センチ。ここ10年ほどは男女ともにピーク時より2ミリから3ミリ低い年度が多くなっているんです。


<なぜ伸び続けない?>
なぜ、戦後から続いてきた平均身長の伸びが止まったのか。子どもの発育に詳しい国立成育医療研究センターの医師の堀川玲子さんに聞いてみました。

堀川さんは栄養面での要因が大きいと指摘しています。
「戦後、それまで不足していた栄養、特にタンパク質の摂取量が増えたのが背が伸びた大きな要因と考えています。栄養状態が十分に改善したため、日本人の身長のピークに到達し背の伸びが止まっていると思われます」。

また今は子どもの睡眠時間、それに運動や外遊びの機会は減る傾向にあり、背を伸ばすのに好ましくない状況にあると警鐘を鳴らす専門家もいました。この数字だけから見ると、子どもに背が抜かれることで子どもの成長を実感する…という時代ではなくなるのかもしれません。


<そこで!>
sincho170404.2.jpgこうした中、身長を最大限伸ばせるようにしようというソフトがあることがわりました。その名は「スラリちゃん、Height!」。スポーツ庁による女性アスリート育成事業の1つとして、順天堂大学などの研究チームが背の高いアスリートを育成しようと開発しました。

このソフト、女子なら10歳ごろ、男子なら12歳ごろから始まる身長が大きく伸びる時期・いわば“成長スパート期”をつかもうというものです。この“成長スパート期”、おとずれる時期に個人差があり、いつ来るのかわかりません。
しかもこれを過ぎると大きく成長する時期は二度と来ないのです。

ソフトは1か月ごとに身長と体重を入力していくと、それまでより大きく身長が伸び始めた時期を見極め、“成長スパート開始!”と知らせてくれたり、“体重減少!バランスのよい食事を”などと注意を促してくれます。

成長スパート時期に入った時に栄養や睡眠、運動などに特に気をつけることで、個人個人が持っている身長を伸ばす力を最大限引き出そうという狙いなのです。
順天堂大学スポーツ健康科学部の鯉川なつえ先任准教授は、「身長が伸びる時期をつかめれば、本人や家族の努力で目標よりも高い身長を獲得できるかもしれない。身長が伸びる時期は特に適切な栄養を取り、健康な体をつくってほしい」と話しています。


<成長スパート期、どう過ごせば?>
子どもの成長は、遺伝などの内的な要因が大きいとはいえ、大切なのは「栄養」「睡眠」そして「運動」。それぞれ背を伸ばすために何に気をつければいいのか、専門家に取材しました。

sincho170404.3.jpgまず「栄養」
大切なのは必要なカロリーをふだんの食事でしっかりとること。肥満状態ではないのにダイエットをしてしまっては、身長を十分に伸ばせないかもしれないということです。そしてタンパク質の摂取。背を伸ばすのはカルシウムと考えている人もいますが実はカルシウムは骨を強くするもの。実際に背を伸ばすことに関わっているのはタンパク質です。肉、魚、大豆などタンパク質を含んだ食品をとることが大切です。

sincho170404.4.jpgそして「睡眠」
大切なのは睡眠時間と深さです。成長ホルモンは眠りについてから最初の3時間の深い眠りの間に分泌の大きなピークが来て、そのあとおよそ3時間おきにまた分泌のピークが来ます。分泌のピークを3回は得られるよう、小学生までは8時間は、忙しくなる中学生でも7時間は睡眠をとってほしいそうです。

sincho170404.5.jpg最後に「運動」
注意してほしいのは”過度”な運動です。”適度”な運動は成長ホルモンの分泌を促し、骨も強くします。しかし背が伸び悩んでいると病院に診察に来る子どもの中には、激しい運動で成長に必要なエネルギーまで消費してしまっているケースがあるそうです。


<「私の時代は…」見直す指導者>
sincho170404.6.jpgスポーツの現場では、すでにこのソフトが活用されていました。厳しい体重管理のイメージがある新体操。神奈川県横須賀市で新体操クラブの指導している阿部八重子さんも、現役時代は体重を減らすよう毎日厳しく指導されました。合宿中、一日の食事が牛乳1本で、体重が増えるからと水分も控え、練習中に倒れる選手もいたといいます。

sincho170404.7.jpgしかし、今、新体操で日本代表クラスの選手は身長160センチ以上が多く、170センチを超える選手もいます。阿部さんは選手が十分に身長を伸ばせるようにとソフトを指導に取り入れ、毎月、身長や体重を測定しています。そして成長スパート期やこれから成長する子どもには食事をしっかりとるよう声をかけ、練習量も配慮しています。阿部さんは、「指導者として技術の指導だけでなく体もきちんと成長させなければと思っています」と話していました。


<大人が環境整えて>
右肩上がりが当たり前だったものが当たり前でなくなってきた時代。ひょっとしたら身長もそうなのかもしれません。しかも成長スパート期に当たる小学校の終わりから中学生ごろは、勉強で睡眠時間が少なくなったり、部活の厳しい練習に追われたりと、背を伸ばすためには望ましくないことがありがちです。

ただ成長スパート期を逃すと、大きく成長できる時期はもう二度と来ません。ラストチャンスです。将来に向けて子どもがしっかり成長できる環境、それを保護者がまた運動の指導者が整えてあげることが大切だと感じました。

▼「スラリちゃん、Height!」は女子用で順天堂大学女性スポーツ研究センターのホームページから
http://www.juntendo.ac.jp/athletes/surari/surari_download.html
▼男子も使えるソフト、「ヘルスメイト」は国立病院機構西別府病院のホームページからダウンロードし、誰でも使用することができます。
http://www.nbnh.jp/download/

投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:11時15分

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