2018年03月15日 (木)ウインク男にニンニク少女 ネットも沸いたピョンチャン
※2018年2月22日にNHK News Up に掲載されました。
オリンピックとソーシャルメディアは、今や切っても切れない関係にあります。スマホを持った観客、時には選手も、会場から、家から情報発信。そのつぶやきはメダリスト以外の選手にも注目が集まるきっかけを作ります。ネットの声が集まり大会運営が見直されることすらあります。大会も終盤、ピョンチャンオリンピックをネットから振り返ります。
ネットワーク報道部記者 佐伯敏
<大会の顔?ハンガリーのウインク男>
メダリストたちの活躍がテレビで伝えられる一方、それ以外の個性豊かな選手たちを見つけ、人気に火をつけるのがソーシャルメディア。
今回のピョンチャンオリンピックで、その1人となったのがスケート・ショートトラックのハンガリー代表のシャオリン サンドル・リュー選手です。
10日に行われた男子1500メートル決勝で選手紹介の際、ウインクしたリュー選手はその様子がすぐに話題となり、以降、「ハンガリーのウインク男」と韓国のネットで呼ばれるようになりました。
<パスポートを奪ってしまいたい!>
リュー選手のインスタグラムのアカウントには現在、7万人のフォロワーがいますが、コメント欄を見ると、そのほとんどがハングル。
「(リュー選手の)ウィンクで心臓が爆発しそう」
「パスポートを奪ってしまいたい」
韓国の女性の熱烈な声が寄せられています。
リュー選手もインスタグラムのライブ配信機能を使うなどして韓国のファンと積極的に交流し、今や大会を象徴する選手のひとりとなりました。
本人(右)のインスタグラムより
<関心爆発のカーリング>
15日のカーリング女子で日本が韓国との接戦を制した夜には、日本代表のスキップ藤澤五月選手が、韓国の検索ワードランキングで急上昇しました。
ネットには藤澤選手が韓国の清純派女優に似ているとして「日本のパク・ボヨンだ」といった書き込みが相次ぎ、その様子はネットメディアで「関心爆発」と報じられました。
<ニンニク少女にスパイスガールズ>
もともと韓国ではカーリングへの関心が低かったそうなのですが、このあと韓国チームも活躍して一躍、人気に。
日本で「そだねー」や「おやつタイム」が浸透したのと同様、競技中にマイクが拾う「ヨンミー」という声が注目を集めました。多くの人はこれをカーリング独特の掛け声だと思っていたようですが、実は選手の名前だった、というオチです。
また、女子カーリングチームは、選手のほとんどがニンニクの産地の出身であることからアメリカのメディアが「ニンニク少女」と紹介し、韓国のネットでもその呼び方が広まりました。
しかし韓国の民放MBCが21日、「もっとかわいらしい愛称を」とインスタグラムで新たな愛称を募集し始めると「スパイスガールズ」や「ヨンミーズ」など1日足らずで5000件を超える応募が寄せられるなど人気の高さを伺わせています。
<きっかけはロンドン大会“ソーシャリンピック”>
オリンピックとソーシャルメディアが切っても切れない関係になったのは、ロンドンオリンピックからだとされています。
その前の北京大会と比べスマートフォンやタブレット端末が普及、ソーシャルメディアの利用者も急激に増えました。大勢の人がさまざまな方法で競技を見て、その感想を即座に発信できる環境がロンドンオリンピックで整ったのです。
その影響力の大きさから「ソーシャリンピック」という言葉も生まれました。
<ネットの声 大会運営にも影響>
ますます強まるネットのオリンピックへの影響。
今回の大会では、ネット上の声に押されて大会組織委員会が対応に追われる場面も見られました。
きっかけは開会前の大会ボランティアの声でした。
「ボランティアに支給される靴が足りなくなり、必要に応じて自腹で防寒靴を用意するよう言われた」
「寒い中、会場に行くためのシャトルバスが来ない」
こうした声がインスタグラムやフェイスブックなどに相次いで投稿され、拡散したのです。
開会直前には、一部のボランティアが開会式のリハーサルのボイコットを主張するまでの事態となり、組織委員長が対策をとると約束。
ムン大統領もボランティア向けにメッセージを出すなど対応に追われました。
これまで見えにくかった大会運営の陰の部分がネットを通じて明らかになり、改善が図られました。
<選手個人が攻撃対象に>
一方で、後味の悪さを残したのが、選手個人のアカウントへの攻撃です。
13日、ショートトラック女子500メートル決勝で、金メダルを期待された韓国のチェ・ミンジョン選手とカナダのキム・ブタン選手が接触。チェ選手は2位でゴールして銀メダルを手にするはずが判定の結果失格となりカナダの選手が銅メダルを獲得しました。
中央がチェ選手 右がブタン選手
直後から、ブタン選手のインスタグラムのアカウントには韓国のネットユーザーと見られるコメントが殺到しました。
「何で押すんだ、この野郎」 「恥を知れ」
さらにひどい表現や明らかな脅迫も書き込まれました。
誤解のないように書きますが、こうした書き込みは韓国のネットユーザーのなかでもごく一部で、こうした行為を批判するコメントも数多くありました。しかし、ブタン選手がアカウントを非公開にするには十分すぎる攻撃でした。
カナダの公共放送CBCによると、事態を重く見たカナダオリンピック委員会は「私たちのチームメンバーの健康と安全は最優先事項であり、われわれのセキュリティ担当や警察などと連携して対応している」と声明を発表。
IOC=国際オリンピック委員会も定例の記者会見で「すべての人に、選手と選手のパフォーマンスを尊重し、彼らの偉業や、オリンピック精神を支持するよう願う」と述べました。
<コメントに引き裂かれたくない>
その後、ブタン選手は接触したチェ選手と選手村の食堂で出会い、ハグし合ったことをカナダのテレビ局に語っています。
「(ハグしたことは)自分にとって大きな助けになりました。あのようなコメントが、スケート選手どうしを引き裂くなんていやだったのです」
再開されたブタン選手のツイッターのアカウントのカバー写真は現在、2人が手でハートを作っている様子になっています。当事者である2人にわだかまりがないことを発信したのも、またソーシャルメディアでした。
ブタン選手のツイッターより
<成熟したソーシャリンピックに>
選手の活躍や心情をリアルタイムで分かち合い、時には直接交流できるソーシャルメディア。
逆にトレンドワードから今、話題になっている選手や競技を知る、新しい楽しみ方をしている人も多いのではないでしょうか。
ソーシャルメディアは明らかに私たちとオリンピックの距離を縮めました。
ただ、選手個人への攻撃のような負の側面を100%なくすことができないのもまた現実です。ソーシャルメディアの長所と短所をよく理解してオリンピックを楽しむこと。
2020年の東京はソーシャリンピックが成熟した大会になったと言われたいものです。
投稿者:佐伯 敏 | 投稿時間:17時15分