2015年10月19日 (月)組み体操 相次ぐ事故で縮小の動き


全国の学校で組み体操の最中に起きた事故が、年間8500件以上にのぼるなか、組み体操の実施を見直す動きが広がっています。

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愛知県尾張旭市は、9月初め、教員を対象に、組み体操の指導法の研修会を開きました。尾張旭市の小学校では、去年まで最も高いところはピラミッドは7段、タワーは4段の技が披露されていました。しかし、全国的に事故が相次いでいることから、この秋の運動会では、多くの学校がピラミッドとタワーを3段以下にすることを決めたということです。こうした対応について、尾張旭市教育委員会の姫岩弘治管理指導主事は、「組み体操によって一生涯障害が残るくらいの事故があったと聞いています。去年と同じような組み体操の指導体制ではあってはならない。より一層子どもが安全で安心な組み体操になるように改めて確認したうえで実施する必要があると思います」と話しています。

kumitaisou20151019_1.jpg事故を防ごうと、教育委員会が、組み体操の高さに上限を設けたところもあります。その1つ、大阪市では、最も高いところでは9段のピラミッドが行われていました。9段のピラミッドでは、高さはおよそ5メートルから6メートル。一番下の子どもには最大で3人分の重さがかかります。そこで大阪市は、9月、ピラミッドは5段以下、タワーは3段以下に制限することを決め、各学校に通知しました。また滋賀県彦根市は、難易度の高い技については、具体的な安全対策を計画書で示すよう、各学校に求めました。

【組み体操をやめる学校も】

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組み体操そのものをやめる学校も出てきました。その1つ、京都府京田辺市立田辺小学校は、去年まで、5、6年生が3段と4段のタワーを披露し、運動会の最大の見せ場となっていました。しかし、今年校長になった藤原真さんは、子どもたちの体力差が大きいことなどから、組み体操をやり続けることに危機感を持っていました。藤原さんは、組み体操を行う際、どのように安全を配慮すべきか、何度も教職員と話し合ったと言います。しかし万全な対策は見つからず、「高さ制限にしてもそうですし、人数制限にしてもそうですし、いろいろ安全配慮を考えても難しいし、それだったらやめたほうがいいのではないか」と考え、組み体操をやめる決断をしました。

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組み体操に取り組むことは、子どもたちの目標にもなっていたことから、1学期の終わりに5、6年生全員を集め、藤原さん自らが「1人でもケガをしたら成功とは言えず、安全が何より大事だ。別の種目で新しい伝統を作ろう」と子どもたちに説明したということです。保護者にも、子どもの安全を最優先に組み体操をやめることを文書で説明し、理解を求めました。

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そして9月末に開かれた運動会。
組み体操に変わる演目として高学年が披露したのは、全員で息を合わせて踊る「ソーラン節」です。組み体操を期待していた保護者からは「毎年親が感動するシーンだったので、メイン、目玉がなくなった感じがする」「子どもたちがみんなで協力して大きい物を作る、格好いい姿が見たかった」などと失望の声が相次ぐ一方で、「けがの心配がないので、安心して見られた」という声も聞かれました。
そして踊り終えた子どもたちは。
「完璧に踊れたので良かったです」「去年までは組み体操をやっていて、ソーラン節と聞いて悲しい部分もあったけど、自分たちから新しい歴史を作っていけると思うと、とても嬉しかったです」などと、みんな充実感にあふれていました。

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藤原さんは、「学校というのは、本来安全なところで、親御さんが学校に子どもを預けてくれるというのは、学校を信頼して預けていただくわけで、学校の教育活動、指導の中で、子どもがケガをするというのは耐えられないし、避けなければならない。その点でいうと、いい運動会だったと思う」と話しています。
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【専門家 『巨大な組み体操はもうやめた方がいい』】
組み体操の事故の多くは練習中に起きています。規
模の大きいピラミッドやタワーから落ちる子どもを受け止めるためには、練習中から多くの教員を配置する必要がありますが、それには限界があり、配置できたとしても、うまく受け止められる保証はありません。また大阪・八尾市の10段ピラミッドの崩壊からもわかるように、教員を周りにたくさん配置しても、崩れたときには何の助けにもなりません。
組み体操の事故に詳しい、名古屋大学の内田良准教授は、事故が相次ぎ、リスクが明らかになった今、学校や教育委員会は、組み体操の内容を見直すべきだと訴えています。内田准教授は、「『去年の運動会も巨大な組み体操をやりました。観客も拍手していたし感動していた。今年もやります』。これはもう許されないと思います。これだけ負の側面が見えてきて、リスクマネジメントとして学校はちゃんと対応していかなければならない事態だと思います」と話しています。

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【保護者も組み体操のリスクに目を向けて】
この秋も巨大組み体操を実施した学校に話を聞くと、高学年になって規模の大きいピラミッドなどに取り組むことが子どもたちの憧れになっていることや、地域、保護者からの期待があることを継続する理由にあげていました。
しかし、子どもたちの多くは、組み体操で一生後遺症が残るほどのリスクがあることを知りません。田辺小学校の校長藤原さんのように、たとえ子どもたちが挑戦したいと言っても、その危険性を丁寧に説明して危険を回避させるのが教師の役割ではないでしょうか。
そして私たち保護者も、巨大組み体操を見て感動するだけでなく、そのリスクにも目を向け、本当に子どもたちにやらせていいのか、組み体操の実施と安全対策について、学校とともに考える必要があると思います。

投稿者:松岡康子 | 投稿時間:14時26分

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