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2023年6月14日

おススメの1本 2023年06月14日 (水)

ロイター・デジタルニュースリポート2023 概要(Executive Summary)の日本語版を発行#491

メディア研究部(海外メディア)税所玲子

 イギリスのオックスフォード大学のロイタージャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)が、毎年、発行する「デジタルニュースリポート」。
2023年の報告書が6月14日に発表されました

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デジタル化が、人々のニュースに関する考え方や接し方にどのような影響を与えているのか、調査・分析をしているこのプロジェクトに、NHK放送文化研究所は2022年から参加しています。今回は、世界でのリリースと同時にその内容を日本語で読んでいただこうと、Executive Summary(概要)を準備しました。

今回のヘッドラインは、若者層を中心に、ソーシャルメディアを通じてニュースに触れる人がさらに増え、物価高騰の中で購読者数が伸び悩む既存のメディア組織は、さらに苦戦を強いられている、という点です。


オンラインでニュースに触れる主な方法とその割合(2018~2023) ― 全ての国と地域
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 調査をしている46の国と地域の平均をみると、ニュースを報道機関のホームページやアプリで見る人と、ソーシャルメディアを利用して見る人の割合は、2021年以降、逆転していますが、今回はそれが加速したばかりか、TikTokやYouTubeなど動画系のプラットフォームの勢いが増しているということです。

過去1週間にソーシャルネットワークをニュースのために使用した人の割合(2014~2023) ― 一部の国の平均
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 一方、前回のリポートで話題になった「ニュース回避」の傾向も続いていて、ウクライナでの戦争や物価高などの暗いニュースを避けることなどが浮き彫りになっています。今回は、ニュースそのものを避けるのか、特定のニュースを避けるのか、など具体的にどのようにしてニュースを避けるのかにも焦点をあてています。

頻繁にまたは時々ニュースを避けようとしている人の割合(2017~2023年) ― 全ての国と地域
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その他、今回のリポートでは
●メディア批判、●アルゴリズムの影響、●誤情報・偽情報、●ニュースについての議論への参加、●ポッドキャストの動向、●公共サービス放送のほか、毎年継続調査している「ニュースへの信頼」や「関心」などがカバーされています。

余談ですが、翻訳作業では、デジタル化の中で生まれた新しい用語の使い方にも頭を悩ませました。例えば原文で出てくるpublisherという言葉。従来の「出版」だけでなく、放送やオンライン、ゲームなど広くコンテンツを発信する主体を意味していますが、日本語に置き換えるにはどうしたらよいのか。また、ニュースを「見る・読む」だけでなく、「消費する」(consume) が多く用いられています。なるべく日本語で読みやすいように、文脈によって書き分けるなどしてみましたが、果たしてそれが正解だったのか。これからも必要に応じて改善を続けていきたいと思います。

Executive Summaryの日本語版は、こちら
本編のリポート(英語)は下記からご覧になれます。
https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/digital-news-report/2023

また、日本の動向と分析は、去年と同様に夏以降、NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」にシリーズで掲載する予定ですので、あわせてご覧いただけると幸いです。


ⅰ) 調査対象国は:地域ごとに原則としてアルファベット順に
(ヨーロッパ)イギリス,オーストリア,ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ(北米・中南米)アメリカ、アルゼンチン、 ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー (アジア太平洋)オーストラリア、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国  台湾、タイ (アフリカ大陸)ケニア、ナイジェリア、南アフリカ
調査対象は、合計93895人、調査は2023年1月下旬から2月上旬にかけて実施。

ⅱ) 調査のパートナー団体は、NHKのほか、
Google News Initiative、BBC News、イギリスOfcom、アイルランドBroadcasting Authority of Ireland (現Coimisiún na Meán)、オランダDutch Media Authority(CvdM)、フィンランドMedia Industry Research Foundation、ノルウェーFritt Ord Foundation、韓国言論振興財団(Press Foundation of Korea)、イギリスEdelman、ロイター通信のほか、学術支援団体のドイツLeibniz Institute for Media Research/Hans Bredow Institute、スペイン・ナバーラ大学(University of Navarra)、オーストラリア・キャンベラ大学(University of Canberra)、カナダCentre d’études sur les médias、デンマーク・ロスキレ大学(Roskilde University)

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【税所 玲子】
1994年入局、新潟局、国際部、ロンドン支局、国際放送局などを経て2020年7月から放送文化研究所。

ヨーロッパを中心にメディアやジャーナリズムの調査に従事。