文研ブログ

調査あれこれ 2023年05月24日 (水)

マスク着用 「個人の判断」になってから2か月 その後、どうなった?【研究員の視点】#482

世論調査部(社会調査) 中川和明

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新型コロナウイルスの法律上の位置づけが変更され、社会のさまざまな分野で、コロナの感染拡大前の日常に戻そうという動きが広がっています。
コロナ禍で欠かすことのできないものだった「マスクの着用」についても見直しが行われ、政府は、ことし3月、これまでの方針を変更し、マスクの着用は「個人の判断に委ねる」ことになりました。 

電車に乗っていても、かつては、ほとんどの人がマスクを着けていたのに、今は、外している人がだいぶみられるようになったなと感じている人も多いのではないでしょうか。
また、みなさんご自身も、場所や場面に応じて、マスクを着けたり、外したりするようになったという人も多いのではないかと思います。 

では、どのくらいの人がマスクを着けていて、あるいは外しているのか。まずは、NHKの最新の世論調査の結果からみてみましょう。
NHKが4月と5月に行った固定電話と携帯電話を対象にした世論調査の結果です(図①)。
マスクの着用がことし3月から個人の判断に委ねられるようになった中、マスクの着用をどうしているかを尋ねたところ、5月の調査では、「以前と同じくらい着けている」が55%で、4月の調査より減少した一方、「外すことが増えた」は33%で、4月よりも増えました。
マスクを外すようになったという人が増えていて、世の中の流れに沿った結果と言えるかと思いますが、それでも半数以上の人は「以前と同じくらい着けている」と答えていて、依然、マスクを着けていると答えた人が多くを占めています。

図①  マスクの着用どうしているか?

sheet1_nakagawafix.pngNHK「政治意識月例調査」(2023年4月、5月)

 NHK以外にも、さまざまな報道機関や企業などがマスクの着用に関する調査を行い、その結果も公表されています。
それらの調査をみても、調査時期や質問の仕方などの違いもあって、多少の数値の違いはありますが、おおむね、マスクの着用が個人の判断に委ねられるようになった後も、多くの人は、マスクの着用を続けているといった結果が報告されています。 

マスクの着用をめぐる意識について、最新のデータではありませんが、NHK放送文化研究所(以下、文研)が2022年11月1日から12月6日にかけて行った「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」の結果をもとに少し考えてみたいと思います。
すでに3月16日に紹介した本サイト(文研ブログ)の中でも取り上げたものですが、改めてその調査結果をみてみます。

 「感染拡大が収束して、屋内や人混みでマスクの着用が求められなくなったとしたら、どうしますか」と尋ねたところ、最も多かったのは、「基本的には外すが、感染拡大前よりは着ける機会を多くする」の47%で、次いで「できるだけ着けたままにする」が27%、「感染拡大が起きる前のように外す」が23%でした(図②)。

図②  着用が求められなくなったときマスクをどうするか?

sheet2_nakagawa.png文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」
(2022年11月1日~12月6日実施)

 調査時点と今の感染状況や、質問の前提とした政府のマスク推奨の基準が異なりますので、そのまま現在にあてはまるものではありませんが、去年の11月から12月の時点で、多くの人がマスクの着用が求められなくなったとしても、何らかの形でマスクを着けると答えていました。現時点の調査結果ではないとはいえ、多くの人が程度の差はあれ、マスクを着用すると答えていて、現在の状況にも通ずるように思います。

また、この調査では、マスクを着ける、つまり「感染拡大前よりは着ける機会を多くする」と「できるだけ着けたままにする」と答えた人に、その理由を尋ねたところ、「感染対策など衛生上の理由から」が90%、「素顔をさらしたくないなど見た目の理由から」が7%、「その他」が3%となっていて、この結果については、すでに本ブログでも紹介しています。

  本稿では、さらに他のデータなどもみながら、もう少し考えを進めてみたいと思います。
まず、大半の人が挙げた「感染対策など衛生上の理由」というのも、大きな要因のひとつだと思います。
先日、テレビのニュースで、マスクの着用を続けていることについて、「まだ感染するのではないかと不安がある」と答えている人がいました。そうした思いを持っている人も多いと思います。
 実際、文研が行った去年の調査でも、新型コロナの感染拡大を「不安だ」と答えた人、あるいは自分が感染する危険を「身近に感じている」と答えた人では、そう思わないと答えた人より、「感染拡大前よりは着ける機会を多くする」や「できるだけ着けたままにする」と回答した人が多くみられました。
反対に、感染拡大を「不安ではない」、自分が感染する危険を「身近に感じていない」と答えた人では、「不安だ」などと答えた人より、「感染拡大が起きる前のように外す」と答えた人の割合が高く、4割ほどを占めました(図③)。

  図③ 着用が求められなくなったときマスクをどうするか?
 (「コロナの感染拡大に対する不安」「自分が感染する危険」の回答別)

sheet3_nakagawa.png文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

 次に、日本人は、まわりの人に流されやすい。あるいは、まわりの人の目を気にすると言われることがあります。
こうした面も影響しているのではないか。そこで、次の結果をみてみたいと思います。
自分がマスクを着用するかどうかについて、他人の目が「気になる」と答えた人、またはマスクを着用していない人が「気になる」と答えた人では、「気にならない」と答えた人より「感染拡大前よりは着ける機会を多くする」と回答した人が多くなっています。
一方、自分がマスクを着用するかどうかについて、他人の目が「気にならない」、またはマスクを着用していない人が「気にならない」と答えた人では、「気になる」と答えた人よりも「感染拡大前のように外す」と答えた人の割合が高くなっていて、特に、マスクを着用していない人が「気にならない」と答えた人では、半数ほどの人が「感染拡大前のように外す」と答えています(図④)。

 図④ 着用が求められなくなったときマスクをどうするか?
(「マスク着用で他人の目が気になるか」「マスクしていない人が気になるか」の回答別)

sheet4_mask.png文研 「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査 (第3回)」

  この結果から、マスクの着用を続けているのは、「感染するのではないか」という不安だけでなく、マスクを着けている人が多いから、自分も着けた方がいいか。あるいは、マスクをしていない人を見ると、自分も気になるので、マスクを着けた方がいいかなどと思っている人が多いと考えることができます。

実際、筆者のまわりでも、オフィスでパソコンに向かって仕事をしている時は、マスクを外しているのに、誰かと打ち合わせをする、あるいは、報告や相談をする時には、マスクを着けるということが実際にあるからです。これは、上司や同僚から感染する危険があるというより、「自分がマスクをしていないと、まわりの人は気になるだろうな」などと考え、エチケットあるいはマナーとして、マスクを着けるという判断をしている人が多いのではないかと推察されます。 

 さらに、以前、紹介したように、数は多くありませんが、「素顔をさらしたくないなど見た目の理由から」と答えた人もいて、「今日は、ちょっと顔がはれぼったいな」「なんかちょっと顔が疲れているな」などといった理由でマスクを着ける人もいるのではないでしょうか。

 これに加えて、この3年間、ずっとマスクを着けていたので、マスクをするのが当たり前になっていて、何の抵抗もなく、ある意味、習慣として、マスクを着けてしまうという人もいると思います。

これらの心理を表したものとして、次のデータを紹介したいと思います。
就職や転職などに関する調査や研究を行っている「Job総研」が2023年4月5日から7日にかけて、登録されている調査対象者のうち、20代から50代の仕事をしている人、775人から回答を得たインターネット調査の結果です。注)。
マスクの着用が個人の判断に委ねられた後も、マスクを着用するかどうか尋ねたところ、「状況に関係なく無条件で着用」が4割、「状況に応じて着用の有無を使い分ける」が5割、「状況に関係なく非着用」が1割ほどとなっています。
このうち、非着用以外、つまり個人の判断に委ねられた後でもマスクを着用すると答えた人に、複数回答で、その理由を答えてもらったところ、「習慣化している」、「コロナの感染対策」、「コロナ以外の感染対策」、「まだ着用している人が多いから」、「職場から着用が推奨されている」といった項目が4割程度で上位を占め、そのほかの「マナーとしてしている」が3割、「マスクをしている方が楽」が2割などとなっていて、これといった理由が飛び抜けていることはなく、マスク着ける理由は分散しているようにみえます。

 つまり、マスクを着けるか、外すかの判断は、ひとつの理由に限らず、さまざまな要因がからみあって、ある場面では、マスクを着用している人がいるから、自分もマスクを着けた方がいいと判断し、ある場面では、面倒だし、マスクを着けなくてもいいかと判断しているのではないでしょうか。
そして、その判断基準は、人によって、何に重きを置くのか。それぞれの理由に、どの程度重きを置くのかも変わってくるのではないかと思います。こうしたことが重なり合って、それぞれの人がマスクを着けたり、外したりしているのではないでしょうか。 

では、今後はどうなるのか。
マスクの着用が個人の判断に委ねられるようになってから2か月がたち、さらに新型コロナの法律上の位置づけが変更された後も、マスクを着けている人が多い現状をみますと、コロナの感染拡大前のように、多くの人がマスクを着けていないという状態に戻るには、しばらく時間がかかるように思います。

その一方で、これから日本は夏を迎え、蒸し暑い時期が訪れます。
外でマスクを着けていると、暑さが増して、汗だくになってしまうという人も多いのではないかと思います。
そうすると、外では外すが、混雑している電車に乗る時は、マスクを着ける。
あるいは、誰とも話をしない時は外しているが、お客様や、上司や同僚など、人と話す時はマスクを着けるといった判断をする人が多くなるのではないかと思います。

そして、マスクを外す人がさらに増えてくれば、自分も外してもいいかなと思う人は多くなると思います。
でも、まだ感染が気になるから、あるいはマスクをしていた方が楽だからといった理由で着ける人もいて、割合を変えながらも、マスクを着けている人と着けていない人が混在した状況がしばらく続くのではないかと思っています。

これからマスクの着用はどうなっていくのか。
私もそうですが、みなさんも、社会の観察者になったつもりでみていくと、興味深いのではないでしょうか。 

文研が2022年11月から12月にかけて行った「新型コロナウイルスに関する世論調査」に関する結果は、「コロナ禍3年 社会にもたらした影響-NHK」で公開しています。ぜひご覧になってみてください。
また、「放送研究と調査 2023年5月号」でも、3年にわたるコロナ禍によって、人々の意識や暮らしがどう変わったかなどについて詳しく紹介しますので、ぜひご覧ください。


※注)Job総研「マスク個人判断後の意識調査」(インターネット調査) https://job-q.me/articles/15030