文研ブログ

メディアの動き 2024年01月18日 (木)

【メディアの動き】英BBC,「将来の財源モデル」検討へ 新理事長指名のシャー氏,厳しい船出

 イギリス政府は12月7日,2024年4月からの公共放送BBCの受信許可料を,10.5ポンド引き上げて年額169.5ポンド(約3万1,100円)にすると発表した。政府は2022年に,向こう2年間は受信許可料を据え置き,2024年度から27年度までは消費者物価指数に連動する形で値上げをするとの方針を示していた。しかし,今回の値上げ幅を決めるにあたり,物価高による国民生活への影響に配慮し,当初予定していた消費者物価指数の12か月の平均値の9%ではなく,9月時点の指数6.7%を採用した。

 これによりBBCは年に約9,000万ポンド(約165億円)の財源不足が生じる見通しとなった。2027年までに4億ポンド(約736億円)の削減策を進めているBBCは同日,声明を出し,受信許可料の値上げ幅が想定より低く抑えられたことに失望の意を示した。今後,さらなる削減の検討が必要になるとの考えを示した。

 また政府は同日,メディアの環境が大きく変わる中で,現行の受信許可料には課題があるとして,BBCの将来の財源モデルについて検討作業を始める方針を示した。近く放送業界や経済界の専門家からなる独立委員会を設置し,▶現行の受信許可料の持続可能性,▶商業サービス増加の是非,▶商業収入を増加させる方策,▶受信許可料に代わる新しいモデル,などについて検討する。政府は2024年の秋までに報告をとりまとめることを求める考えで,2027年12月に期限が切れる現行の特許状の更新に向けての議論に生かしていきたいとしている。

 BBCの財源制度については,現在,議会で審議が行われているメディア法の立案に向けて政府が示した『白書』の中でも,議論の必要性に触れている。また議会の上下両院の委員会でも議論が行われ,例えば上院の通信・デジタル委員会は,▶受信許可料を,所得税などに連動して累進化する,▶広告収入で運営する,▶世帯で一律徴収する,▶税金や政府の補助金にする,▶公的資金とサブスクリプションや商業収入を組み合わせたハイブリッド型にする,など具体的なモデルを提示し,それぞれの長所と短所を検討している。

 BBCも財源制度の議論は避けられないとの姿勢を示している。同局は声明で,「BBCが将来にわたり,イギリスの価値を世界に発信し,不偏不党のニュースや国民の暮らしを伝える番組を作り続けるためにも,財源の議論は重要だ」としたうえで,「変更がある場合には,その影響を国民が十分に理解することが重要だ」との認識を示し,幅広い議論を求めた。

 こうした中,政府は,空席となっているBBCの理事長に,同局の元ジャーナリストで非執行理事を務めたサミール・シャー(Samir Shah)氏を推薦すると発表した。財源モデルの議論や次期特許状の交渉は,新理事長の主要な任務となる。しかし,12月13日に議会下院の文化・メディア・スポーツ委員会が開いた聴聞会では,現職の非執行理事が番組の編集方針に介入したと報じられたことや,首相官邸との距離の近さなど,BBCの独立性について激しい応酬があった。聴聞会のあと,委員会は「シャー氏の理事長への就任を認めるが,BBCに関する極めて重要な課題についてみずからの考えを十分に説明せず,組織が必要としている強い指導力をうかがうことはできなかった」と批判的な見解を付記し,就任3か月後に再び委員会の聴聞に応じるよう求めた。