文研ブログ

メディアの動き 2023年06月21日 (水)

【メディアの動き】オーストラリア公共放送の看板番組司会者, 人種差別問題めぐりメディア批判し降板

 多文化主義を掲げるオーストラリアで,公共放送ABCの看板討論番組の司会を務める先住民の著名ジャーナリスト,スタン・グラント氏が5月19日,長く人種差別にさらされ,メディアは融和ではなく対立しか見ないと指摘し,5月22日で番組を当面降板すると表明した。

 グラント氏は,5月6日のイギリスのチャールズ国王戴冠式を中継した特番の一部の討論番組にゲストとして出演した。

 イギリス国王を元首とするオーストラリアの立憲君主制に関する議論で,グラント氏は先住民の立場から,国王の名のもとで,先住民が土地や権利を奪われ,今も差別に苦しむ問題を指摘した。

 その後,保守層や一部のメディアから,ABCの戴冠式の報道への批判の矢面に立たされた。

 グラント氏によると,彼の発言は歪曲され,憎悪の対象になり,オーストラリアを中傷したと糾弾されていたとしている。

 グラント氏は19日,ABCのサイトのコラムで,そうした歪曲や偽りにABC が反論しなかったのは組織的な問題だと批判した。

 そして,番組降板について,人種差別が原因ではなく,メディアが健全な議論のために機能せず,それに自分は与(くみ)したくないためだと述べている。

 ABC会長は5月21日,グラント氏に謝罪し,一部商業メディアのABCの報道への批判は憎悪に満ちているとし,職員・スタッフへの人種差別的な発言への対応を強めると述べた。

 メディアや娯楽,アート業界関係者の労働組合MEAAは5月23日の声明で,先住民や有色人種の業界従事者がヘイト発言にさらされていると指摘し,業界全体に対応を求めた。