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メディアの動き 2024年02月15日 (木)

【メディアの動き】ドイツ 州政府の諮問委員会,公共放送の包括的改革を提言

 ドイツの放送政策を所管する16州政府が2023年3月に設置した「公共放送の将来のあり方に関する諮問委員会」は,1月18日,報告書を提出した。諮問委員会は,「ドイツの公共放送は負のスパイラルに陥っており,創造性が停滞している」との認識を示し,「よりデジタルに,より効率的に,よりよい任務達成のために」として,公共放送の組織,ガバナンス,任務,財源に関する包括的な改革提言を行った。

 第1の提言は,ARD(ドイツ公共放送連盟)の組織改革である。ARDは,各州の公共放送が相互協力のために1950年に結成した法人格のない連合体であるが,近年は,サービスや業務に重複が多く,意思決定にも時間がかかるなどの非効率性が指摘されていた。この点について諮問委員会は,ARDの統括組織を法人として新たに設立することを提言した。統括組織は,加盟局の業務分担や財源分配をトップダウンで決定するとともに,ARDの全国向けサービスを担当し,各加盟局は州域向けサービスに特化する。これにより,迅速な意思決定や,組織とサービスの効率化とスリム化につながることが期待される。一部の政治家からは,ARD加盟局の合併や,公共テレビZDFと公共ラジオのドイチュラントラジオの統合を求める声もあるが,諮問委員会は,地域と報道の多元性を重視し,合併は誤った戦略だとした。

 第2の提言はガバナンス改革である。諮問委員会は,ARD統括組織,ZDF,ドイチュラントラジオのそれぞれに,従来の監督機関に代えて,より権限分担を明確にした「メディア評議会」と「管理評議会」を設置することを提言した。「メディア評議会」は社会の各界・各層の代表者から多元的に構成され,任務の達成状況について監督する。より大きな意味を持つのが「管理評議会」で,メディア評議会が選任した少数の専門家から構成され,経営戦略の最高責任を負い,予算案を決定し,執行部の業務を監督する。執行部については,これまでは会長1人が広範な権限を持っていたが,会長を含めた複数の執行役からなる合議体に転換し,より現代的な意思決定にすることが提言された。

 第3に,公共放送の任務については,公益と民主主義に資するという点を,法律でさらに明確に規定すべきとした。

 第4に,財源制度については,現行の全世帯徴収型の「放送負担金」制度を維持すべきとしながら,その額を改定する手続きについて,新たな方式を提案した。現在は,独立委員会のKEF(公共放送財源審査委員会)が公共放送の必要額を事前に審査し,4年ごとに額を改定している。これに代え,公共放送全体の予算を物価指数に連動させて自動的に決めたうえで,各公共放送機関の任務達成への意欲を高めるため,定期的に任務達成度を評価し,不十分とされた場合には配分額を減らす方法が提案された。

 第5に,諮問委員会は,番組配信の技術プラットフォームの開発を効率よく行うために,ARD,ZDF,ドイチュラントラジオによる共同子会社の設立を提言した。

 諮問委員会の提言には法的拘束力はない。16州政府は1月25・26日の会合で諮問委員会の提言について協議し,「大部分は州政府の方針と重なる」としたが,一部の州からはARD統括組織や新財源方式に反対の声も出た。州政府側は今後も協議を続け,秋までに法改正を実現したいとしている。