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調査あれこれ 2024年03月12日 (火)

パーティー券裏金問題 進まぬ真相究明 ~無力感漂う岸田自民党~【研究員の視点】#530

NHK放送文化研究所 研究主幹 島田敏男

 2月29日と3月1日の両日、衆議院の政治倫理審査会が何とか開催にこぎつけました。しかし説明に立った岸田総理大臣と安倍派・二階派の事務総長経験者5人からは核心に迫る発言はありませんでした。

 そもそも5人は政治倫理審査会の開催や公開にも及び腰で、新年度予算案の衆議院通過を急ぐ岸田総理が、野党側に追い立てられて自らオープンの場で説明に立つと表明して引っ張り出したようなものでした。形だけという批判が出たのも当然です。

 政治とカネの問題での進展がないまま、新年度予算案の審議が参議院で続く3月8日(金)から10日(日)にかけてNHKの月例電話世論調査が行われました。

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☆衆議院の政治倫理審査会で、安倍派・二階派の事務総長だった5人が説明を行いました。あなたは説明責任が果たされたと思いますか。果たされていないと思いますか。

 果たされた 7%
 果たされていない 83%

これを詳しく見ると、果たされていないは与党支持者で8割、野党支持者で9割強、無党派で9割弱に上っています。真相究明に向けて自民党執行部が積極的に動いていない点、そして党内からも自浄努力を求める活発な動きが出ていない点に国民が強く憤っているように感じます。

 無力感漂う自民党へのまなざしの厳しさは、政党支持率の低下に端的に表れています。

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☆最近の政党支持率(%)

  11月   12月   1月   2月   3月
 自民党 37.7
29.5
30.9 30.5
28.6
 無党派(支持なし) 38.5 43.3 45.0 44.0 42.4


自民党の政党支持率が20%台に落ち込んだのは、2012年の政権復帰後、岸田内閣の最近の2回だけです。自民党が減った分が野党に回ったかというとそれはわずかで、全体に占める無党派の割合が増えて4か月連続で40%台 を占めています。自民党支持者の中から無党派に流出する、いわゆる様子見の人たちが少なくないことをうかがわせます。

 無力感漂う自民党が問題克服に一気に乗り出せない状況は、岸田内閣の支持率低迷にもつながっています。

☆あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

 支持する 25%(対前月±0ポイント)
 支持しない 57%(対前月-1ポイント)

東京地検特捜部が捜査に着手した去年の11月以降、岸田内閣の支持率は20%台に下落し、低い水準での横ばいが続いたままです。逆に不支持率は岸田内閣発足後、最も高い水準のままです。

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 岸田総理は一連の事態打開のために2枚のカードを切りました。1枚は岸田派の解散宣言。これがきっかけになって麻生派、茂木派以外の各派閥は解散へと向かいました。自民党所属国会議員370人余りのうち、70%以上が「無派閥」を名乗るという状況になっています。

 もう1枚のカードが、先の衆議院の政治倫理審査会に自ら出席し、テレビ中継も行われた公開での説明に臨んだことです。本人とすれば指導力を発揮したという自負があるのでしょうが、国民の受け止めはそれほど甘くありませんでした。

☆岸田総理は現職の総理大臣として初めて衆議院の政治倫理審査会に出席しました。この対応を評価しますか。評価しませんか。

 評価する 45%
 評価しない 47%

政権維持のために決意表明を連発したものの、発言の内容は真相究明には全く不十分で、問題に関係した議員の処分についても具体的な内容には触れなかったため評価は分かれました。

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 派閥の政治資金集めのために所属議員がパーティー券を売りさばき、ノルマを超えた分は議員の政治団体の収入になるというこの問題。政治資金規正法のルールを無視し報告書に記載しなかったことで、外から見えない裏金となり国民の怒りを買ったのは当然です。

 折しも2月16日には確定申告が始まっていて、一般の納税者は収入を自己申告して所得税を払い、漏れがあれば追徴金を払うことになります。「政治活動に使う資金は課税されない」という法律の仕組みも含めて疑問を抱く納税者が出るのも無理はありません。

 そういう中で政権の継続をあきらめず、新年度予算の年度内成立に執念を燃やす岸田総理には、どういう希望的な観測があるのでしょう。総理周辺によると念頭にあるのは「デフレ脱却宣言への道筋」だと言います。先の日経平均株価の34年ぶりの最高値更新などを足掛かりに、春闘での大幅賃上げを実現して国民にアピールするという楽観的な展望のようです。ただ、国民は景気回復のリアリティーを感じていません。

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☆日経平均株価はバブル期の1989年12月につけた史上最高値を更新しました。あなたは景気がよくなっている実感がありますか。ありませんか。

 ある  10%
 ない  83%

与党支持者、野党支持者、無党派の別にかかわらず、8割から9割が「実感がない」と答えています。株価の高騰は大口投資家のもうけになるだけ。賃上げがあっても物価の上昇で消えてしまう。これが庶民の実感です。

 今の通常国会の会期末は6月23日です。その前の4月28日には衆議院の3つの小選挙区で補欠選挙が行われます。その後の衆議院の解散・総選挙の可能性を占う上でも大きな意味を持ちます。

 そして岸田総理の自民党総裁としての3年間の任期は今年9月まで。岸田氏は続投を目指そうとするでしょうが、それに対して自民党の内外からどういう動きが出てくるのかは不透明です。

 いずれにしても政治とカネの問題を乗り越えなければ岸田自民党に対する国民の信頼は回復しません。「信無くば立たず」=民衆の信頼が無ければ政治はなりたたないという古くからの言葉は、まさに今の日本の状況に当てはまりそうです。

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島田敏男
1981年NHKに入局。政治部記者として中曽根総理番を手始めに政治取材に入り、法務省、外務省、防衛省、与野党などを担当する。
小渕内閣当時に首相官邸キャップを務め、政治部デスクを経て解説委員。
2006年より12年間にわたって「日曜討論」キャスターを担当。
2020年7月から放送文化研究所・研究主幹に。長年の政治取材をベースにした記事を執筆。