文研ブログ

メディアの動き 2024年03月18日 (月)

【メディアの動き】『セクシー田中さん』 原作者急死,日本テレビによる調査始まる

 日本テレビ(以下,日テレ)の2023 年10月期のドラマ,『セクシー田中さん』の原作者で人気漫画家の芦原妃名子(本名・松本律子)さんが1月に急死したことを受け,日テレは2月23日,経緯を検証するための調査を始めた。

 芦原さんは1月26日,自身のSNSやブログで,ドラマの脚本をめぐり制作側と見解の違いが生じていたことを明らかにしていた。しかし,その2日後に経緯に関する投稿を削除したあと,行方がわからなくなっていた。

 芦原さんがSNSなどに公開した内容には,「ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』」など,執筆中だった原作に影響を及ぼさないよう条件を出していたこと,また,漫画の発行元で日テレ側との交渉にあたっていた小学館にも相談していたこと,の記述があった。

 芦原さんの急死がメディアで報じられると,漫画家や原作ファンを中心に,出版社や制作側に経緯の説明や見解を求める声が相次いだ。しかし,日テレは急死が報じられた日,ホームページ上に「最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし,放送しております」などとコメントしたものの,詳しい経緯や調査の可能性に言及せず,SNS 上では批判の声があがった。

 その後,2月26日の定例会見で日テレの石澤顕社長は,外部の弁護士2人を加えた社内特別調査チームによる調査を始めたとし,調査結果を公表するとした。調査開始まで時間を要したことについては,「個人攻撃など,いろいろな形で情報が飛び交っていたため,発信そのものを少し落ち着くまで控えていた」と説明した。

 また日テレは,4月期に予定していた小学館の漫画が原作のドラマの放送を見送ることも発表した。

 一方,小学館は2月8日にホームページ上などで調査を進めているとコメントしたほか,『セクシー田中さん』の編集にあたっていた「第一コミック局編集者一同」が別途,声明を発表。今後の映像化については原作者を守ることを第一に,映像制作側と編集部の交渉において是正できる部分はないかを提案していく,とした。

 声明では「著作者人格権」についても触れている。これは,著作者の利益を守る「著作財産権」とともに著作者が持つ権利の1つである。譲渡や相続ができない権利で,「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」が含まれる。このうち「同一性保持権」は著作者の意に反して内容を勝手に改変されないための権利で,編集者一同は声明において,“著者の心を守るための権利”と表現した。

 国内ではこれまでも原作者と映像制作側のトラブルが繰り返されており,日本漫画家協会は今回の件を受けて,改めて会員に対して,契約等の悩みがある場合は協会に相談するよう呼びかけた。しかし,海外でみられるような,トラブルを防ぐために原作者との間に立って映像化の際の交渉や契約をする代理人制度は,国内ではまだ一般的ではない。合意形成の仕組みをどう見直していくのか,今後の課題は大きい。

 日テレは芦原さんの死を「大変重く受け止めている」としている。原作に新たな息を吹き込んだ作品が生まれるという二次創作の可能性が拡大する中,無の状態から原作を生み出した原作者の権利は,軽んじられてはいけない。制作にあたる放送局をはじめとするメディア側には,原作者の立場を守ったうえで,丁寧なコミュニケーションが求められる。